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【番外編】愛しあう二人のその後の話
第2話 陛下に愛されるということ
しおりを挟む応接間。
私はエヴァン殿下を講義に送り出してから、応接間で謁見対応をしていました。
本日六人目の謁見希望者が応接間に入ってきました。
「マリス様、この御方は侯爵家の御当主様です」
私専属の女官に紹介され、侯爵は恭しくお辞儀しました。
「はじめまして、マリス様にお会いできて恐悦至極。噂で聞き及んでいましたが、噂以上のお美しさに驚いています」
「ありがとうございます。どうぞ」
「失礼いたします」
侯爵は対面に座ると、私への賛美……この場合はお世辞でしょうか。それを大げさな身振り手振りで語ります。
そして私の前に並んだのは贈り物……この場合は貢ぎ物でしょうね。
色鮮やかな大粒のサファイアがあしらわれた腕輪や、他にも上等な絹織物が差し出されました。
「私からのささやかな贈り物です。マリス様にお似合いになればと思って選びましたが、いやはや、マリス様のお美しさの前ではサファイアでさえ霞んで見えてしまいます」
「それは、どうも、……ありがとうございます。その、見事なサファイアですね。このサファイアはどちらで?」
若干引きつつも話題の方向転換をします。
褒められると嬉しいもののはずですが、こういうのはちょっと無理というか、素直に喜べないというか……。
「このサファイアは当家が所有する鉱山で採掘されました。ひときわ強く美しく輝く原石でしたので、ぜひマリス様にと思った所存です。しかしながら、やはりマリス様の美しさの前ではサファイアの輝きですら陰ってしまい」
「いえいえいえ、そんなことありませんから。サファイアとても綺麗ですから」
「いえいえいえいえ、マリス様の前ではサファイアなど石ころも同然です」
「いえいえいえいえいえ、サファイアはサファイアですから。とても輝いてますから」
「いえいえいえいえいえいえ、マリス様の輝きは万物の頂点でございますから」
か、勝てません……。方向転換が難しすぎです。なにがなんでも私を賛美しようとする執念を感じます。
正直、困ってしまいます。でもね、この執念をぶつけられるのは私にとって初めてのことではありませんでした。
陛下の寵愛をいただいてからというもの、私のご機嫌伺いを希望する貴族が絶えません。それは私を陥れようとした同盟国王女シャーロットが陛下に粛清されてから激しさを増しました。
でもそれは私に心からの厚意を寄せているからというわけではありません。臣下の貴族たちにとって陛下は少し近寄りがたいところがあるようで、私を仲介にして陛下に好印象を持ってもらいたいだけなのです。
「陛下にも、どうぞ、どうぞ、どうぞよろしくお伝えください」
謁見の制限時間終了が近づいて結びの挨拶がされました。
この挨拶が本音ですね。切実さが違います。
こうしてご機嫌伺いの侯爵が立ち去ってほっとひと息つきました。
私専属の女官も気遣ってくれます。
「次の方をお通しする前に少し休憩されますか?」
「ありがとうございます。……あと何人くらいいるんですか?」
「午前中はあと五人。午後からの方々も控室で待機しています」
「…………わかりました。少し休憩で」
「畏まりました」
女官はお辞儀すると侍女に命じてお茶の準備をしてくれます。
でもその時、扉の外がにわかに騒がしくなりました。
そして応接間の扉がノックとともに開きます。
「マリス、邪魔するぞ」
「陛下!」
私は驚いて立ち上がりました。
お辞儀して出迎えると陛下が「楽にしてくれ」と私のところに来てくれます。
「どうされました? 政務中だったと思うのですが……」
「休憩だ。お前を誘いに来た」
「私を?」
「ああ、最近休む間もないと聞いている。植物園のサロンで息抜きでもと思ってな」
「それは嬉しいお誘いですが……」
嬉しいけれど少し困ってしまう。まだ控室には謁見希望の訪問者が待っているのです。
でも悩んでしまったのは私だけのようでした。
「マリス様、控室に待機している訪問者には謁見延期の旨を伝えておきます」
「どうぞ、お楽しみください」
「な、なるほど、そういう感じなんですね」
どうやら悩むまでもなかったようです。
たしかに皇帝が最優先されるのは当然のことでしたね。
「それでは行ってきます。あとはよろしくお願いします」
私は女官にあとのことをお願いすると陛下の元へ。
陛下は私の前に腕を差し出してくれました。手をかけろということです。
「行くぞ」
「はい、ありがとうございます」
私が手をかけると陛下がゆっくり歩きだして、隣に並んだ私もそれに合わせて歩きます。
陛下は満足そうな顔になってくれるけれど、……いけませんね。慣れないエスコートが少し照れくさいです。
「どうした?」
「いえ、なにも……」
目を伏せてはにかむ。
うつむいてしまったので陛下の顔は見えないけれど、彼が少し笑った気配がしました。
こうして私たちは城の廊下を歩き、回廊を通って植物園へ。
植物園には全面ガラス張りのサロンがあるのです。
サロン内は木漏れ日のような穏やかな日差しに包まれていました。
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