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私はおみくじなど信じません。ましてやこんな失礼なおみくじ屋なんて!
しおりを挟む市で買い物を終えると帰路につきます。
川辺を歩いていると、心地よい風が吹き抜けて市女笠の衣を優しく揺らす。
私は衣の隙間から外を覗きました。
川辺には花畑が広がっていて、明るい日差しの下でキラキラと輝いているようでした。
「気持ちいい場所ですね」
短い期間とはいえ都に滞在していたことがあるので知らない景色ではありません。でも久しぶりに地上へ降りてきたからでしょうか、いつもより美しく見えます。
今度は紫紺と青藍も連れてきてあげましょう。誘ったら黒緋も一緒に来てくれるでしょうか。
…………。
…………ああ、やっぱりいけません。ちょっと調子に乗りました。
四凶を討伐して想いが通じあってからの黒緋はとても優しくしてくれるので、気を抜くと調子に乗ってしまいそうになるのです。
今の黒緋は私を愛してくれています。できればずっと私だけを愛してほしいのです。でもそれがわがままだということはよく分かっています。だから少しでも長く今の幸せが続くように願うのです。努めるのです。この怖いくらいの幸せが続きますようにと。
私は川辺を歩き、広い寺院の外壁にそって歩きます。
でも寺院の正門に差し掛かった時でした。なにやら騒がしい人だかりができています。
若い女性や市女笠を被った高貴な婦人が人垣をつくっているようでした。
不思議に思いつつも歩いていくと、すれ違う若い女性たちの会話が聞こえてきます。
「やった~、大吉だって。待ち人来たる、それって今夜夜這いがあるってことかしら」
「ええ、いいな~。私は小吉。今の人とは駄目なのかな」
女性たちが大吉だの小吉だの言っています。どうやらおみくじのようですね。
きっと寺院の前におみくじ屋さんの出店があるのでしょう。
私はそのまま前を通り過ぎようとしましたが、その時。
「そこの御前様、ちょっといいかな?」
ふと男に呼び止められました。
立ち止まると女性たちの人垣が割れて、そこにはおみくじ屋の若い男。
目が合うと男はニヤリと笑う。男は整った顔立ちながらも修験者の衣装を着崩しています。野性味がありながら研ぎ澄まされた刃のような雰囲気の男でした。
「えっと、私ですか?」
「そうそう。そちらの御前様。オレのおみくじはどうだい?」
「いえ、私は結構です。それでは」
私はあっさり答えると立ち去ることにします。
人々がおみくじや占術を重んじているのは知っていますが私は特に興味がありません。
「もったいなーい」
「せっかく花緑青様のおみくじなのに」
「よく当たるって評判なんだから」
「そうそう。こんなに見目も良くて、おみくじも当たるなんて。さすが花緑青様、ステキだわあ」
集まっている女性たちが口々に言いました。
どうやらおみくじ屋の男は花緑青という名のようです。
しかも野性味のある整った容貌は女性に人気のようですね。おみくじ以外の目的でここにきている女性もいるようです。
でも見目が良いのとおみくじが当たるかどうかは別問題。やはり興味は持てません。
「私は結構です。それでは帰って夕餉の支度をしたいので」
「そんなつれないこと言うなよ。これでも当たるって評判なんだ。――――っと、ああごめんごめん、勝手におみくじ引いちゃった」
「ちょっと、なにを勝手なことを」
私は花緑青をキッと睨みました。
不快です。勝手におみくじを引かれるなんてとっても不快です。こんなの嫌がらせじゃないですか。
しかも花緑青は楽しそうに続けます。
「どれどれ。おや、凶だ。しかも大凶だ」
「だ、大凶!?」
よりにもよって大凶……!
なんだか腹が立ってきましたよ。勝手におみくじを引いて大凶とはどういうことです。
「それはあなたが勝手に引いたおみくじでしょう! そんなのは無効です!」
「残念だがオレのおみくじは当たるんだ。どれどれ、恋愛は『誠意報われず。裏切りに警戒せよ』だと。あらら、可哀想に」
「っ、黙りなさい、失礼ですよ! そもそもあなたが引いたおみくじなんですから、そんなのは無効です!」
「心外だなあ。占いってのは力のある占い師がすることに意味があるんだ。本物の占い師が双六を振るから意味のある面が出て、本物の易師が筮竹を引くから未来を読み取ることができる。陰陽師だってそうだろう。力のある陰陽師の星読みや占術によって国の吉凶が占われている。占術は多岐とあるが、どの占いがより当たるかは問題じゃない。誰がするかが問題なんだ」
「あなたがおみくじを引いたことに意味があると?」
「理解が早くて助かるぜ」
花緑青が口角をあげてニコリと笑いました。
人好きのする笑顔ですが私にはただただ胡散臭いだけに見えます。
この男は自分を力のある占い師と言いたいようですが私は信じません。
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