二の舞なんてごめんですわ!

一色ほのか

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第1章 幼少期(7歳)

20 遺された物の行方

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「証拠がないのであれば罪に問えない。そうでしょう?あの日あの子は本家の当主夫人が亡くなられ気が動転していた。ここでは雨宿りをしていただけですよ」

 手の平を反すように早口で言う老紳士。

 先生の名誉を、守りたいのね。
 でもそれはあまりにも悪手よ。レイオス殿下に対して堂々と罪の隠匿なんて。
 そうしたい気持ちは分からないでもない。
 きっとこの方にとってマーサ先生は本当にとても大切な姪だったのでしょう。
 だけど。

「貴方は間違っている」

 彼のしようとしていることは、マーサ先生への侮辱だわ。
 先生の決死の思いを無意味にしてしまうだけ。




「名乗り遅れて申し訳ありません。私はアリルシェーラ・シュベーフェル。マーサ先生の、生徒ですわ」

 老紳士の目を真っすぐに見据え、名乗る。

 彼をこれ以上巻き込まないためにはきっと名乗るべきではない。けれど先程の発言で彼は気付いていないからとはいえ王族に反意を示してしまった。
 もう、巻き込むしかない。

「マーサ先生の名誉を守りたい貴方の気持ちは理解できます。ですが事は既に貴方ではどうにもできない事態にまで発展して、貴方がその態度を貫き通すというのならば貴方は罪に問われてしまいます」
「は……、え、は?」

 狼狽えた様子で私、殿下、従者と見回す老紳士。
 この面子でそんなことを言われても意味が分からないわよね。
 成人も迎えていない子供三人だものね。

「私とマーサ先生は、決して親しい仲ではありませんでした。勉強以外では交流と言える交流もありませんでしたの。ですから、例えマーサ先生を送り込んだ何者かがマーサ先生に罪を叫んだとしても、私がそれを否定できます。マーサ先生は私に勉強を教えてくださっただけです、と」

 まあ実際のところは分からないのだけども。
 家庭教師であるマーサ先生が関わるのはほぼ私だけのはず。
 でも私の行動範囲はとても狭かったのよ。ほぼ軟禁だもの。
 行動範囲外で何かしていたら、私には分からない。
 だからこそ逆に不自然な接触があったら分かりやすいかしら?

「……。家庭教師って一人だっけ?」
「はい。マーサ先生一人だけです」
「そう……どうだった?いい先生だった?」
「とても優秀で素晴らしい先生でしたわ。私の知識の基本は全てマーサ先生が与えてくれたと思っています」

 事実ね。
 これははっきりと言える。幼少期の教育はその後に大きく響くもの。
 マーサ先生の教育があったからこそ、今の私が存在する。

「シュベーフェル家の令嬢は……今年7歳だと」
「ええ、4日前に7歳になりましたわ」
「そう、ですか。そうなのですね。…………あの子は。マーサは貴方にとって、よい教師でしたか?」
「もちろんですわ」
「……………………よく、分かりました。調査を妨げようとした謝罪を……、どうか、お調べください」

 諦めたように、老紳士が言う。
 なんだか随分あっさりね?
 説得と言えるような説得をしたつもりはないんだけれど。

「うん、ありがとう。アーシャ、先に調べていて。ちょっと話をしてくるから」
「はい。……よろしいのですか?」
「もう名乗っただろう?彼は巻き込むとするよ」

 そう、レイオス殿下は老紳士を連れて部屋を出て行った。
 咎めようとしているわけではなさそうだけれど……。
 あの老紳士は、状況的に巻き込むしかなかったわ。私の行動が間違っていたとは思わない。
 思わないけれど……。


「気になるとは思いますが、部屋を調べましょう」
「えっ。あ、はい……」

 残っていたのね、彼。
 殿下の従者なのに、行かなくてよかったのかしら?

「あの、殿下と行かれなくてよかったのですか?」
「残るよう指示されましたので。シュベーフェル嬢を一人残すわけにもいきません」
「そうですか。ええと、」
「私はテッド・アエラスと申します。アエラス家現当主の三男です。シュベーフェル嬢は殿下の婚約者ですので、今後はテッド、とお呼びください」
「あ、はい。分かりました」

 アエラス家の三男……やっぱり覚えがないわ。
 傍を離れることができるってことは従者ではなく側近なのよね?
 だけど前の時、レイオス殿下の側近にアエラス家出身の者はいなかったはずよ。
 12歳の時点で側近だった者がその後側近を外れるなんて相当のことがないと考えられない。アエラス家の醜聞は聞いた記憶がないし……それ以外となると、10年後までに彼は亡くなってしまう、とかかしら。

 10年後殿下が今と全く違う冷たい雰囲気を纏っていたのはそれが原因の一つかもしれない。
 一応、注意しておくべきね。恩が売れるかもしれない。
 情報伝達を司る風属性の大貴族、アエラス家との伝手は貴重だわ。


「どう?何か見つかった?」

 話が終わったらしく、戻ってきたレイオス殿下が聞いてくる。

「手が届く範囲で探していますが、まだ何も」
「こちらもそれらしいものは見つかっていません。部屋自体はそう広くはありませんが、これほど乱雑ですと……」

 そうなのよね。
 狭い中に沢山のものが置いてあるし細かいものも多いから、かなり探し辛いのよ。
 積まれた本の中にはかなり古そうなものもあって、触ったら崩れそうな物もあって怖いし。貴重なものだと不味いわ。

「ああ、うん。そうだね。ならやっぱり店主に探してもらうのが一番かな?」
「はい。しかし、あの日あの子が部屋で何をしていたかは分かりませんので、最悪全て目を通すことになりますので少々お時間をいただきたいのですが」
「ふむ。ならこちらから人手を出そう。できるだけ早く見つけるか、ないという確信が欲しい」
「……殿下はここには何もないとお考えですか?」
「可能性としては。その時例の本をここで作っただけなのかもしれない」

 手紙が入っていたあの本のことね。
 確かにあの本はここで作られたと考えていいでしょう。
 でもその場合、ヒントを読み間違えたということになる。その割には話が繋がりすぎているわ。
 4-1、第3巻。きっとこの場所のことで、本のことを指すはず。
 ヒントを読み間違えていないとしたら、先生の目的は何?

「あの、少々よろしいですか?」
「はい、なんでしょう」
「先生の残された第3巻という言葉は何を示していると思われますか?」

 この方も本に詳しいでしょうし、聞いた方がいいわ。
 先生とは、私以上に親しいでしょうし。

「それは、貴方が言い当てられた通りかと。建国王様の伝記、第3巻。マーサがずっとねだっていた……私が本を書くことをやめる原因となった、この世に存在しない本です。その存在を知っているのは、私とマーサだけなのですよ」

 そう言って老紳士は、使い古され傷だらけになった机の引き出しの中から、大量の紙束を取り出した。
 中には日焼けした紙も多く混じっている。きっと長い時間をかけて書き溜めたものなのでしょう。
 これほどの量、きっと相当苦労したはず。だから捨てることもできず、ずっと紙束のまま保管していたのね。
 だけど、どうして?

「第3巻は、建国王様が王となられる前のことを憶測を交えながら前日譚のように仕上げようとしていました。彼の方がどこから現れ、どういった道を歩み、王となったのか。あらゆる伝手、人脈を使い調べ続け……私は、知ってはならないことを知ってしまったのです」
「知っては、ならないこと?」
「ええ……お話しすることは、出来ません。そういう魔法をかけられておりますので」
「なんだって?それは余程の事でなければ使うことが禁じられている魔法だ。使用を王家に申告する必要がある類の。ここ数十年の使用はないはず」
「なんにでも、抜け道はあるものです。ですからどうか、お気を付けください」

 複雑そうな目で私達を見て、言う。

 特定の情報を話せないように制限する――――光属性の魔法。

 ここにもおかしな繋がりがあった。
 これは、偶然なの?

「話せないんだね?どんな形でも」
「はい」
「分かった。これは私がもらっていく。何かあったら王族に渡ったと答えるといい」
「分かりました……よろしくお願いします」

 レイオス殿下が、老紳士から紙束を受け取る。

 建国王様に関わる知ってはならないこととはなんなのかしら?
 魔法で口にすることを封じられるほどのこととは一体?

 イグニアス家は、危険かもしれないわね。分家とはいえ、知られれば罪に問われるだろう方法を使うなんて普通に考えておかしいわ。
 だけど……内々に処理するとなると、他家を関わらせたりはしないはずよね?
 イグニアス家に入ったシュベーフェル家の人間はそれなりにいるわ。でも例の魔法は一定以上の光属性の適性が必要だし、適性があったとしても当主筋しか教えられないから使えるはずがない。
 つまり……誰が関わったにしろ、だいぶ不味い問題、ということ、ね。



 そのあと。

 中断していた捜索を再開したのだけれど、なんというかみんな、身が入っていない様子だった。
 当然よね。イグニアス家の中に本当にそのレベルの光属性の持ち主が居て隠しているのならそれはそれで問題だし、シュベーフェル家の本家筋が協力していたとしたら反逆罪と言える。
 本当に、大問題よ。

 最終的に時間が遅くなるといけないからと捜索は中断して城へ戻ったのだけれど……レイオス殿下はずっと難しい顔をしていて、とてもではないけれど話せる様子ではなかった。

 先生が残したもの、ちゃんと見つかるのかしら……。
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