執着から始まる

一色ほのか

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 目が覚めたら、見知らぬ部屋だった。
 
「………………?! っ、いたぁ……っ」
 
 慌てて跳ね起きると同時に、酷い頭痛と吐き気によりベッドに逆戻り。
 これは……完全に二日酔い。それも酷い時の。ぐわんぐわんする。
 
 ええと、ええと。
 
 瀬能さんに話を聞いて、お詫びだってまた食事をご馳走になって。
 瀬能さんは飲んでたけど私は飲んでなくて……いや、少しは飲んだわ、アルコール度数低いやつ。
 それで、あー……、それ水じゃないですよ!って言われたの覚えてるな~……。

 うん。
 間違いなく、瀬能さんが飲んでた日本酒飲んだな。それでそのまま落ちちゃったんだろう。
 私、日本酒と相性悪いんだよね……一杯で落ちるくらいに。
 普段なら匂いとかで気付くんだけど、多少なりと酔ってたから油断しちゃった感じか。

 どうしよう、間違いなく物凄く迷惑かけちゃった感じがする。
 二度三度関わったくらいの相手が酔って意識無くして、って完全に対処に困るやつ。
 
「うぅ……っ」
 
 気持ち悪い。でも、我慢しなくちゃ。
 吐いたりしたらまた迷惑かけちゃう。
 
 …………にしても、ここ、ホテルとかではなさそう、だけど……もしかしなくても、かなぁ……?

 落ち着いてきて、深呼吸をしてから、身体チェック。
 服に変な乱れはない。下半身に違和感もない、と思う。
 それに安堵して、改めて部屋を見回す。
 あ、サイドチェストの上にバッグあった。
 中からスマホを取り出して時間を確認。…………午後9時過ぎ、かぁ。
 完っ全にやらかした。
 ど、どうしよう。本当に。色々と気まずすぎる。
 
 困っておろおろしていると、コンコン、とドアがノックされた。
 
「あの、起きていますか?」
 
 瀬能さんだ。
 少し困ったような声。
 
「…………ハイ」
「現状、中からしか開け閉めできない状態なんですが……出られそうです?」
「は、い。出られます……」
 
 色んな意味で痛む頭に耐えながら、ベッドから立ち上がる。

 ドアに向かう途中、部屋の鍵と思われる鍵がドアの近くの床に落ちていて、多分鍵を閉めた後にドアの下の隙間から中に入れたんだろうなぁって。中からしか、ってこれのことよね。
 状況が状況だから、色々考えてくれた、のかな?

 鍵を拾ってからドアを開くと、着替えたんだろう、ラフな服装の瀬能さんと目が合った。
 物凄く困ったような顔をしている。
 き、気まずい。
 
「えっと。その、体調は大丈夫……じゃ、なさそうですね。顔色が悪いですよ」
「す、すみません……、その、日本酒、駄目で、あの、本当にすみませんっ!」
「い、いえ!コップについだまま放置していた僕も悪いので!えっと、あの、帰り、どうしますか?有栖川さんさえ良ければ、お泊めしますが」
「えっ?それは、」
「帰るなら、こちらの払いでタクシーを呼びますが。そんな状態で一人で帰すのは不安です」
「え、え、あの、タクシー代は」
「元を言えば全て僕の所為ですからそこは譲りません」
 
 きっぱりと言われてしまった。
 ここが私の部屋からどれくらいの距離にあるかは分からないけれど、迷惑をかけた上にタクシー代まで払ってもらうのは流石に……。だからってほぼ他人に等しい人の部屋に泊めてもらうのはどうかと思う、のだけど。
 どうしよ、駄目だって思う、けど、頭痛くて、考えが上手くまとまらない。
 
「迷うなら泊まってください。ね?ひとまずこっちへ。二日酔いの薬ありますから」
「ぅ、え、はい……?」
 
 手を引かれて、リビングらしき部屋に連れていかれる。 
 広いなぁ……。私の部屋の倍はありそう。
 
「そこ、ソファに座っててください。水と薬を持ってきますから」
「あ、はい……」
 
 瀬能さんが離れていく。
 それをぼんやりと見送って、ソファに凭れかかる。
 
 しばらくして戻ってきた瀬能さんから水の入ったコップを受け取って、渡された見覚えのあるパッケージの二日酔いの薬を飲み下す。
 飲んですぐ効く薬じゃないし、気持ち悪いのはすぐには消えない。
 けど、薬を飲んだ、という事実に少し安堵する。
 
「コップもらいますね。休んでいてください」
「っあ……、すみません……」
 
 手から空のコップを持っていかれて、慌てて返事を返す。
 思考が鈍いしゆらゆらする。酔いが大分残ってるんだ。
 これ、もう、泊めてもらうのが確定なら、部屋に篭って寝てしまった方がいいやつ、では。
 正直、油断したらこのまま寝ちゃいそうなくらい、やばい感じが、

「有栖川さん?眠いですか?」
「ん……、ぁ、せの、さ、」
 
 肩を揺すられて、目を開けたらすぐ傍に瀬能さんがいた。
 どうやら意識が飛んでいたようだ。
 
「駄目そうですね……、さっきの部屋まで部屋に運びますよ?」
「ま、って、じぶんで、あるきます、から……、あ、」
 
 そう言ったものの、なかなか動き出せない私を、瀬能さんが横抱きに抱き上げる。
 私、結構重いのに。
 そしてそのまま、瀬能さんは歩き出した。

 もう本当に迷惑をかけっぱなしだ。
 色々と面倒くさそうだからあんまり関わりたくないなって思ってたのに、なんでこうなっちゃったんだろう。返せるものなんて何もないのに。
 これ以上迷惑とか面倒とか掛けたくないのに。

 頭ではそう考えても、落ちていってしまう瞼に抗うことはできなかった。


 ギシッと軋む音と、横たえられた感覚。

 
「――――さん。――――?」

 
 遠くで瀬能さんの声がする。
 でも、それに言葉を返すことはできない。
 眠くて、瞼を開けられそうになくて――――……。
 


 
 ****
 


 
「有栖川さん。有栖川さん?」
 
 抱きかかえていた身体をベッドに横たえさせ、名を呼んで肩を揺すってみる。
 う、だのん、だの小さなくぐもった声は上げても、目覚める気配は一向にない。
 何か盛ったわけでもないのに酒の一杯でこれとは……。
 
「………………はぁー……。考えが甘いし流されやすいと言ったはず・・・・・なんだけどなぁ?」
 
 ベッドに腰を下ろし、眠っている彼女の顔を覗き込む。
 どことなく既視感を覚える、誰か・・を思い出させる顔立ち。
 流石にそんなことはないだろうと思いながらも調べてみれば、点と点はあっさりと繋がった。

 そう、彼女――有栖川天音は俺がLOFゲームでレイプして関係を強要している女と同一人物だ。

 とんだ偶然があったものだ。
 助けられたことも、生活圏がそれなりに近かったことも、ここに至るまで縁が切れなかったことも。
 俺自身は何も手を加えていないのに、随分と俺に都合よく進んだな。
 現状に関しては彼女の無防備さが原因だが。
 いくら酒に酔っているからとはいえ2、3回会っただけの男の部屋に連れ込まれて、よくもまあここまで無防備を晒せるな。
 さっきも、よく知りもしない男のテリトリーで出された物を躊躇せず口にするのはアウトだろ。今回は何もしてないが少しは疑え。本当に危機意識が薄すぎる。
 
 だから、こんな目に遭うことになるんだ。



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