執着から始まる

一色ほのか

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 何も考えていない訳ではないし、過度にお人好しでもない。
 危機意識はあるし、危険な状況が分からない訳でもない。
 なのに一度懐に入れた相手に対するこの考えの甘さは一体何なんだろう?
 
「手元に居ないのは心配だな……」
 
 客室のベッドで呑気に眠っている彼女を思いながら独り言ちる。
 さっきの今でこれだ。泊まらせたのは俺だが。不安過ぎる。
 世の中は人の良い顔をして寄ってくる者ばかりだから、これから先出会う人間は疑ってかかるよう言っておかないと不味いかもしれない。
 婚約期間を置くと決めた以上、頭の悪い連中が仕掛けてくるのはほぼ確定。数を減らす工作は当然するが。
 家族と透哉に話を通して、婚約の事実を広めて、付け入る隙はないと知らしめないと。手を出してきた馬鹿がどうなるか見せつけてやるのも有りか。その場合は彼女に被害が出る前に終わらせなければ。
 家族も俺の相手に頭を痛めていたし、条件の合う相手だから文句は言わないだろう。なんなら多分、もう知っているだろうし。
 だからこっちはいいんだよな。
 問題は彼女の方だ。どこからどう動いたものか。
 とりあえずここに引っ越してもらおう。今のところはセキュリティがいいとは決して言えないし、やっぱり手の届くところに居てほしい。守りやすいし。
 
 …………俺に本気の女なんて、いないはずだ。いたらもっと早く動いていただろう。
 なんだかんだと言いつつ俺の価値なんて繋ぎ・・程度だ。
 そもそも本命・・の透哉はまだ独身。そして俺に相手ができたことで本格的に透哉の婚約者について動き出す可能性も高い。
 全部そっちに行ってくれれば楽でいいんだけどな。
 むしろせっついておくか?
 まあその前に家族か……根掘り葉掘り聞かれるだろうな……。特に母さんと姉さん。
 
 …………また勝手に話が動いていることを怒るだろうか?
 でも彼女自身の安全のためでもある。急いだ方がいいのは間違いない。ここは我慢してもらおう。
 何もないとは、決して言えないから。
 
 
 ****
 
 
 時間も遅いので泊まっていってください。と押し切られる形で泊まらせてもらったその翌日。日曜日。
 
「とりあえずここに引っ越しましょうか」
「なんて???」
 
 起きてくるなりこれだ。
 断らせるつもりなさそうなのがまた。
 
「急が過ぎるんだけど……?」
「ですね。あれから色々考えたんですけど、今の会社を辞めるつもりは」
「ない」
「だったらここからの方が近いですよ?」

 それは確かにそうだけど。
 今の部屋より、ここの方が会社に近いのは確かだ。
 電車に乗ってる時間も短くなるし……でも、絶対理由それだけじゃないよね?
 そう訝しげに見ていると、
 
「まあ、分かりますよね。正直に言うとここに居てくれた方が何かあった時守りやすいので」
「ええぇ……」
 
 何かあった時。守る。
 つまりほぼ確定で何か起きるってこと?

 いや、以前聞いた話からするとそうなんだろう。簡単に手を引いてくれるなら、大輝さんも苦労していない。
 あの、ここで2人で飲んだ日の様子を思い出す。
 訪ねた時点でもう飲んでいた様子で、翌朝の飲み過ぎてリビングで寝落ちしてしまったのも予想外っぽい反応だったし。
 そういうのに苦労していたのは事実なんだろう。
 
「そういうことなら、分かったけど。いつ引っ越すの?」
「今からで」
「今?!!」
 
 なんかまた無茶なこと言ってる!?
 




 …………最終的に。

 流石にそれは急すぎるし荷物運ぶのも大変だしって止めたけど、行動が早ければ早いほどこっちの本気度が理解できるだろう、という大輝さんの言い分と、勢いで動かないとぐずぐず悩むだろう自分の性格を考えて。本当にその後すぐ、引っ越し作業をすることになった。
 夜じゃないけど夜逃げみたいな勢いだった……。
 
 あとで家族や薫君達に引っ越したことを知らせないといけないなぁ。
 でも、それってセットで大輝さんのことも知らせないといけないんだよね。
 正直どう切り出したものかと。
 私達にとってはゲームを含め3年だけど、周りからすると半年足らず。更に大輝さんの立場。
 …………いっそゲームの事話した方が早い?うちの家族ってみんなゲーム大好きだし。オフ会とかやるタイプだし。そういう恋愛もまあるよねってスタンスでいる。
 だから一番大変なのは、薫君かも。
 薫君は私達の現実での出会いを知っているし、面倒、って言ってたから。
 
「どうかしました?眉間に皺寄ってますけど」
「う?んー……、身内にどう説明しようかなって」
 
 片付けも終わって悩んでいたら、隣までやってきた大輝さんにそう聞かれた。
 答えたら、あー、って感じな顔をする。
 強引、そして急だったのは分かっているのだろう。
 
「反対されたら、どうしましょうか」
「反対は……私が本気なら多分しないと思う。えと……、ずっと一人の私のこと、心配してたから」
 
 家族は勿論、昂臥さんのことを知っている。そして私達は結婚するものだと思っていた。
 彼の事故のあと、そのことに触れるのは家族の中では禁句になっていたのだ。
 
「でもどう話すかは決めておかないと流石に駄目だよ。詳しいことは言えないし」
「ええ。俺が言うのはなんですが全面的にあれですし」
「本当にね。だからさ、元々ゲームで知り合いだったのは、話しちゃおうと思ってる」
「…………大丈夫なんですかそれ」
「皆ゲームやるし、オフ会とか、そういうのに理解はあるから。全部は言えなくても言えるとこは言った方がいいよ。変に嘘吐くと碌なことにならない」
「まあ……、はい」

 というわけでこのあとは身内にどう話すか、って話になった。
 大輝さんの方は下手をするともう知られている可能性があるから――――ってそれどこまで知られてるの???
 現実での初対面から家を出入りしてたことと私の素性くらいは高確率で知ってる?
 へ、へぇ……。



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