次元境界管理人 〜いつか夢の果てで会いましょう〜

長月京子

文字の大きさ
5 / 59
第一章:見てはいけないものを見てしまった

5:発想の転換

しおりを挟む
 混乱するわたしをよそに、時任教授ーー一郎さんは気を失ったままのお姫様を抱き上げる。

 ドレスのボリュームに誤魔化されていたけど、どう見ても大学生には見えない。演劇部員説はまちがえていたみたいだけど、どういう素性の少女なんだろう。どこかの国の本物の王女様なのかな。極秘来日ってやつでしょうか。
 
でも、どうしてこんな大学にいらっしゃるのかな。
 一郎さんは著名な心の専門家でもある。そういう事と関わりがあるのだろうか。

「俺と瞳子はこのお姫様を何とかしてくるので、とりあえず次郎はあやめちゃんに謝っておけよ」

「だから、不可抗力だって」

「俺ならもっとうまくやる」

「嘘つけよ! 瞳子さんのことを棚にあげて」

「そうよ、私は一郎のせいで最悪よ!」

「おまえはまだその話を蒸し返すのか?」

「一生言い続けるわよ。政略結婚なんて!」

「政略じゃない! 俺は愛してる!」

「まったく心に響かないわね!」

 再び犬も食わないなんとかだろうか。一郎さんと瞳子さんが揉めながらお姫様を抱えて違う部屋へと行ってしまった。
 わたしは時任先輩と二人きりになった。

「あの、先輩」

「先輩はなしで!」

「え?」

「しばらく一緒にいることになるから、早坂が気を遣わない方向でいきたい」

 いやいや、いきなりそんなことを言われても。

「不可効力とはいえ、俺がおまえを巻き込んだのは事実だから。先輩後輩とかなく気楽に接してほしい」

「いや、先輩。わたしには全く事情が呑み込めないんですけど?」

「ーーそうだな。納得できるように説明するのは難しいけど、あのお姫様は訳ありで、目撃してしまったのが運が悪かっ
たってだけの話。監視って言っても、早坂は目撃しただけだから、一週間くらいで済むと思う」

「一週間、ですか」

 時任教授の元で一週間だけ過ごす。理由はさっぱりわからないけど、悪い経験ではないような気がしてきた。むしろ、一時的なことだと考えると、お知り合いになる機会を与えられて幸運なことかもしれない。

「そう、一週間、何事もなく過ぎたら早坂は元通り自由だよ」

「じゃあ発想の転換をします」

「え?」

「事情はさておき、わたしなんかが時任兄弟や瞳子さんとお知り合いになれるラッキーな事件だって」

 先輩を目を丸くしてから、ふっと吹き出した。おかしそうに笑う。

「早坂のそういうとこ、好きかも」

「え?」

 他愛ない感想に過剰に反応してしまった。あ、だめ。顔が熱い。

「お互い気負わないで、気楽に過ごそう。ーー俺もあやめって呼んでいい?」

 屈託のない笑顔で、先輩が私の肩をぽんと叩いた。

 何もかもが反則すぎる。ぶっちゃけますと、わたしは男友達はいても彼氏などはできたこともない初心な女なのだ。イケメンに名前を呼ばれるだけで、胸がぐっとくる。

「よ、よろしくお願いします、時任先輩」

「だから、先輩っていうのやめて」

「あ、えっと、時任、くん?」

「なんか、余計に距離を感じるのは気のせいかな……」

「じゃあ、じろう、くん」

「あ、いい! それでよろしく、あやめ」

 イケメンに思い切り流されている気がするのは、わたしだけだろうか。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇  

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

処理中です...