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第一章:見てはいけないものを見てしまった
5:発想の転換
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混乱するわたしをよそに、時任教授ーー一郎さんは気を失ったままのお姫様を抱き上げる。
ドレスのボリュームに誤魔化されていたけど、どう見ても大学生には見えない。演劇部員説はまちがえていたみたいだけど、どういう素性の少女なんだろう。どこかの国の本物の王女様なのかな。極秘来日ってやつでしょうか。
でも、どうしてこんな大学にいらっしゃるのかな。
一郎さんは著名な心の専門家でもある。そういう事と関わりがあるのだろうか。
「俺と瞳子はこのお姫様を何とかしてくるので、とりあえず次郎はあやめちゃんに謝っておけよ」
「だから、不可抗力だって」
「俺ならもっとうまくやる」
「嘘つけよ! 瞳子さんのことを棚にあげて」
「そうよ、私は一郎のせいで最悪よ!」
「おまえはまだその話を蒸し返すのか?」
「一生言い続けるわよ。政略結婚なんて!」
「政略じゃない! 俺は愛してる!」
「まったく心に響かないわね!」
再び犬も食わないなんとかだろうか。一郎さんと瞳子さんが揉めながらお姫様を抱えて違う部屋へと行ってしまった。
わたしは時任先輩と二人きりになった。
「あの、先輩」
「先輩はなしで!」
「え?」
「しばらく一緒にいることになるから、早坂が気を遣わない方向でいきたい」
いやいや、いきなりそんなことを言われても。
「不可効力とはいえ、俺がおまえを巻き込んだのは事実だから。先輩後輩とかなく気楽に接してほしい」
「いや、先輩。わたしには全く事情が呑み込めないんですけど?」
「ーーそうだな。納得できるように説明するのは難しいけど、あのお姫様は訳ありで、目撃してしまったのが運が悪かっ
たってだけの話。監視って言っても、早坂は目撃しただけだから、一週間くらいで済むと思う」
「一週間、ですか」
時任教授の元で一週間だけ過ごす。理由はさっぱりわからないけど、悪い経験ではないような気がしてきた。むしろ、一時的なことだと考えると、お知り合いになる機会を与えられて幸運なことかもしれない。
「そう、一週間、何事もなく過ぎたら早坂は元通り自由だよ」
「じゃあ発想の転換をします」
「え?」
「事情はさておき、わたしなんかが時任兄弟や瞳子さんとお知り合いになれるラッキーな事件だって」
先輩を目を丸くしてから、ふっと吹き出した。おかしそうに笑う。
「早坂のそういうとこ、好きかも」
「え?」
他愛ない感想に過剰に反応してしまった。あ、だめ。顔が熱い。
「お互い気負わないで、気楽に過ごそう。ーー俺もあやめって呼んでいい?」
屈託のない笑顔で、先輩が私の肩をぽんと叩いた。
何もかもが反則すぎる。ぶっちゃけますと、わたしは男友達はいても彼氏などはできたこともない初心な女なのだ。イケメンに名前を呼ばれるだけで、胸がぐっとくる。
「よ、よろしくお願いします、時任先輩」
「だから、先輩っていうのやめて」
「あ、えっと、時任、くん?」
「なんか、余計に距離を感じるのは気のせいかな……」
「じゃあ、じろう、くん」
「あ、いい! それでよろしく、あやめ」
イケメンに思い切り流されている気がするのは、わたしだけだろうか。
ドレスのボリュームに誤魔化されていたけど、どう見ても大学生には見えない。演劇部員説はまちがえていたみたいだけど、どういう素性の少女なんだろう。どこかの国の本物の王女様なのかな。極秘来日ってやつでしょうか。
でも、どうしてこんな大学にいらっしゃるのかな。
一郎さんは著名な心の専門家でもある。そういう事と関わりがあるのだろうか。
「俺と瞳子はこのお姫様を何とかしてくるので、とりあえず次郎はあやめちゃんに謝っておけよ」
「だから、不可抗力だって」
「俺ならもっとうまくやる」
「嘘つけよ! 瞳子さんのことを棚にあげて」
「そうよ、私は一郎のせいで最悪よ!」
「おまえはまだその話を蒸し返すのか?」
「一生言い続けるわよ。政略結婚なんて!」
「政略じゃない! 俺は愛してる!」
「まったく心に響かないわね!」
再び犬も食わないなんとかだろうか。一郎さんと瞳子さんが揉めながらお姫様を抱えて違う部屋へと行ってしまった。
わたしは時任先輩と二人きりになった。
「あの、先輩」
「先輩はなしで!」
「え?」
「しばらく一緒にいることになるから、早坂が気を遣わない方向でいきたい」
いやいや、いきなりそんなことを言われても。
「不可効力とはいえ、俺がおまえを巻き込んだのは事実だから。先輩後輩とかなく気楽に接してほしい」
「いや、先輩。わたしには全く事情が呑み込めないんですけど?」
「ーーそうだな。納得できるように説明するのは難しいけど、あのお姫様は訳ありで、目撃してしまったのが運が悪かっ
たってだけの話。監視って言っても、早坂は目撃しただけだから、一週間くらいで済むと思う」
「一週間、ですか」
時任教授の元で一週間だけ過ごす。理由はさっぱりわからないけど、悪い経験ではないような気がしてきた。むしろ、一時的なことだと考えると、お知り合いになる機会を与えられて幸運なことかもしれない。
「そう、一週間、何事もなく過ぎたら早坂は元通り自由だよ」
「じゃあ発想の転換をします」
「え?」
「事情はさておき、わたしなんかが時任兄弟や瞳子さんとお知り合いになれるラッキーな事件だって」
先輩を目を丸くしてから、ふっと吹き出した。おかしそうに笑う。
「早坂のそういうとこ、好きかも」
「え?」
他愛ない感想に過剰に反応してしまった。あ、だめ。顔が熱い。
「お互い気負わないで、気楽に過ごそう。ーー俺もあやめって呼んでいい?」
屈託のない笑顔で、先輩が私の肩をぽんと叩いた。
何もかもが反則すぎる。ぶっちゃけますと、わたしは男友達はいても彼氏などはできたこともない初心な女なのだ。イケメンに名前を呼ばれるだけで、胸がぐっとくる。
「よ、よろしくお願いします、時任先輩」
「だから、先輩っていうのやめて」
「あ、えっと、時任、くん?」
「なんか、余計に距離を感じるのは気のせいかな……」
「じゃあ、じろう、くん」
「あ、いい! それでよろしく、あやめ」
イケメンに思い切り流されている気がするのは、わたしだけだろうか。
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