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第二章:未知との遭遇
6:繰り返し見る夢のお話
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時任教授の助手をするという貴重な一週間。はっきり言ってわたしの能力ではただの社会見学だけど、次郎君とも親しくなれて、一郎さんや瞳子さんともお知り合いになれて、とてもラッキーだった。
昔からクジ運は良かったけど、今回の件は本当に自分の運の良さを褒めたたえたい。
でも、どうせなら心理学科の人に機会を与えるべきだったのかもしれないな。全学部、全学科から無選別に選抜するのはなぜだろう。大学側の意向はよくわからない。
今日はついに助手生活の最終日。すっかり要塞に住む日常にも慣れてしまった。一週間ずっとそうだったように、本日も要塞内の一郎さんの部屋で、瞳子さんとお昼ご飯をとっている。テーブルの上には瞳子さん手作りのから揚げと里芋の煮っころがし、サラダにお味噌汁。炊きたてのご飯。瞳子さんはとってもお料理が上手だった。どうやら普段から一郎さんの身の回りの世話も焼いているようだ。
助手というよりは、婚約者という肩書の方が勝っている気がする。瞳子さんにお似合いの二人と言うと全力で否定するけど、いつ一郎さんのお嫁さんになっても大丈夫。
「ねぇ、あやめちゃんって、次郎君のことをどう思っているの?」
最終日だからだろうか。ここぞとばかりに瞳子さんの目が輝いている。
「どうって、憧れの先輩です」
嘘じゃない。事実としてそういう女生徒も多い。
「次郎君はたしかにイケメンだけど、何か憧れるきっかけでもあったの?」
「あー、それは。……実はそっくりなんですよね」
瞳子さんになら話してみても良いかもしれない。夢に出てくる人物にそっくりだなんて、恥ずかしくて誰にも言えなかったけど。
わたしには心に鮮明に刻み込まれている情景がある。
繰り返し見る、次郎君のそっくりさんが登場する夢。
「そっくりって誰に?」
「夢にでてくる人に」
「え!?」
口元に運びかけていた唐揚げを取り落としそうな勢いで、瞳子さんが身じろいだ。そんなに驚かなくても。
「それは、どんな夢?」
瞳子さんは唐揚げを頬張ることを諦めて、さっきよりもさらに瞳を輝かせている。
「いや、そんなロマンチックな話じゃないですよ?」
「いいから、聞かせて聞かせて!」
「いつからだったか、繰り返し見るようになった夢なんですけど。でも、あまり良い内容じゃないんです。私はいつも中学生くらいで、工事現場を歩いていると頭上に鉄骨が落ちてくるんです。その時にかばってくれる人がいて、それが次郎君とそっくりなんです」
「えー!? とっても運命的じゃない? あやめちゃんを助けてくれる王子様とそっくりなんて!」
「でも、その次郎君のそっくりさんは、わたしの身代わりになって片腕が潰れてしまうんです。わたしはそれを見て泣きじゃくるだけの、そういう夢です。夢なのに、思い出すと本当に申し訳のない気持ちでいっぱいになって。少し後味が悪いというか、寝覚めが悪いんですよね」
「ーーたしかに、その結末はしんどいわね。しかも繰り返し見るなんて不思議」
「はい。はじめて次郎君を見た時は驚きましたけど、でも腕を失っていなくて、ホッとしちゃったことを覚えてます。良かったって。次郎君は全然関係ないのに」
「腕を失ったのは、夢の中の恩人だものね」
「はい。そういう影響もあって、自然と憧れの対象になったというか……」
なんだろう。自分の気持ちを披露するのは、やっぱり恥ずかしい。すこし頬に火照りを感じていると、瞳子さんが顔を近づけてきた。
「憧れているだけ?」
「え?」
「次郎君と付き合いたいとか、ないの?」
昔からクジ運は良かったけど、今回の件は本当に自分の運の良さを褒めたたえたい。
でも、どうせなら心理学科の人に機会を与えるべきだったのかもしれないな。全学部、全学科から無選別に選抜するのはなぜだろう。大学側の意向はよくわからない。
今日はついに助手生活の最終日。すっかり要塞に住む日常にも慣れてしまった。一週間ずっとそうだったように、本日も要塞内の一郎さんの部屋で、瞳子さんとお昼ご飯をとっている。テーブルの上には瞳子さん手作りのから揚げと里芋の煮っころがし、サラダにお味噌汁。炊きたてのご飯。瞳子さんはとってもお料理が上手だった。どうやら普段から一郎さんの身の回りの世話も焼いているようだ。
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最終日だからだろうか。ここぞとばかりに瞳子さんの目が輝いている。
「どうって、憧れの先輩です」
嘘じゃない。事実としてそういう女生徒も多い。
「次郎君はたしかにイケメンだけど、何か憧れるきっかけでもあったの?」
「あー、それは。……実はそっくりなんですよね」
瞳子さんになら話してみても良いかもしれない。夢に出てくる人物にそっくりだなんて、恥ずかしくて誰にも言えなかったけど。
わたしには心に鮮明に刻み込まれている情景がある。
繰り返し見る、次郎君のそっくりさんが登場する夢。
「そっくりって誰に?」
「夢にでてくる人に」
「え!?」
口元に運びかけていた唐揚げを取り落としそうな勢いで、瞳子さんが身じろいだ。そんなに驚かなくても。
「それは、どんな夢?」
瞳子さんは唐揚げを頬張ることを諦めて、さっきよりもさらに瞳を輝かせている。
「いや、そんなロマンチックな話じゃないですよ?」
「いいから、聞かせて聞かせて!」
「いつからだったか、繰り返し見るようになった夢なんですけど。でも、あまり良い内容じゃないんです。私はいつも中学生くらいで、工事現場を歩いていると頭上に鉄骨が落ちてくるんです。その時にかばってくれる人がいて、それが次郎君とそっくりなんです」
「えー!? とっても運命的じゃない? あやめちゃんを助けてくれる王子様とそっくりなんて!」
「でも、その次郎君のそっくりさんは、わたしの身代わりになって片腕が潰れてしまうんです。わたしはそれを見て泣きじゃくるだけの、そういう夢です。夢なのに、思い出すと本当に申し訳のない気持ちでいっぱいになって。少し後味が悪いというか、寝覚めが悪いんですよね」
「ーーたしかに、その結末はしんどいわね。しかも繰り返し見るなんて不思議」
「はい。はじめて次郎君を見た時は驚きましたけど、でも腕を失っていなくて、ホッとしちゃったことを覚えてます。良かったって。次郎君は全然関係ないのに」
「腕を失ったのは、夢の中の恩人だものね」
「はい。そういう影響もあって、自然と憧れの対象になったというか……」
なんだろう。自分の気持ちを披露するのは、やっぱり恥ずかしい。すこし頬に火照りを感じていると、瞳子さんが顔を近づけてきた。
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「え?」
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