恋する唇💋 ~短編集~

秋野 林檎 

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躊躇した唇(2/8)

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ほんの少し感じる気怠さと隣で眠る彼女の体温に浸りながら、ゆっくり目を開ければ部屋の中が薄暗かった。感覚的にはまだ昼を過ぎたばかりだと思ったが、遮光カーテンのせいだろうか?だが、昼間は聞こえないはずの隣の子供の声が聞こえた気がした。
まさか…夕方なのか?時間の感覚さえ麻痺してしまうほど、彼女を抱いていたのか?

このところの彼女の変化に、どうしていいのかわからず、彼女を快楽の海に落とすことだけが、俺と彼女を繋ぐ細い糸をつなぎ留める唯一のような気がして、何度も何度も彼女を求めていた。

隣で眠る彼女は何を考えているんだろう。
そっと彼女の目元を触れば、目元に残っていたのだろうか、スッーと涙が零れ落ち、その涙が俺を責めているように見えた。

彼女の心が見えない。どこで見失ってしまったんだろう。

不安が何度も彼女を求めさせる。熱い吐息も甘い肌の匂いも彼女だとわかるまで…。

でも、行為の後の虚しさは倍以上に返ってくる。でも…抱かずにはいられない。

このままだと俺達は…終わってしまう気がする。だが何も聞かず体だけを求めあう関係でも……きっと結末は同じだろう。


情けない俺自身に舌打ちをすると、この薄暗さが気持ちを重くするんだとテーブルランプに手を伸ばそうとしたら、その手を彼女の声が止めた。

「…灯りは…つけ…ないで。」

そう言うと、俺に顔を見せたくないか、それとも俺の見たくないのか、うつ伏せになって顔を隠した。

止められた手は行き場を失い宙を掴んだまま、俺は茫然と彼女の細く華奢な肩を見た。




「…じゃぁ、そろそろ行くね。」そう言って、彼女は俺に一瞥さえすることなく、ベットから起き上がった。

今日は俺の顔も見たくないのか。やはりこのままでも結末は同じなんだ。だったら…。
「もう、そんな時間か…。」

「うん…。」

だったら今日…話をしたい。
「駅まで送るよ。」


ダウンを羽織り、車の鍵を持った俺の後ろで、彼女が言った「また。」俺は一言「うん。」と言って、玄関へと歩き出した。




車に乗ってからも、どう話せばいいのか考えていたら、「わぁ~。」と小さな感嘆の声を聞こえた。そっと彼女を見れば、クリスマスイルミネーションに思わず声が出てしまったのだろう。

…あぁ、彼女だ。

本来の彼女がいる。

無邪気な笑顔の彼女がいる。

去年のクリスマス、俺の腕の中で(夢みたい。)と泣いていた彼女は、まだここにいる。


クリスマス……去年のクリスマスは最高だった。
入社式で見かけて以来、頭から彼女の姿が離れなくて、少しづつ俺を知ってもらい、時間をかけてようやく抱きしめることができた彼女。

「好きなんだ。君はどう思ってる?俺の事…。」…と恐る恐る言った時、俺は息が止まりそうだった。でも彼女の顔が徐々に赤く染まってゆくその姿に俺の口元がゆっくりと緩んでいった。

彼女が俺を意識してくれてる。

そう思ったら、止まらなかった。俺はそっと手を伸ばし、彼女の涙を拭うとその手で彼女の体を抱きしめた。

「付き合ってくれる?」と言ったら、涙をぽろぽろ零し声が出ないのか、彼女は何度も何度も俺の腕の中で頷く。その姿が愛おしくて、必ず彼女との未来を手に入れたいと思った。だから手に入れるためには、そのためには、仕事もできる男でありたかった。だから本社への移動が決まった時は嬉しかった。これでまた一歩、彼女のとの未来が近づいたと思ったからだった。

離れることに、不安がなかったわけじゃない。月の内、8日ある週末に、君のところへ行くことで俺達は大丈夫。俺はこんなに彼女を愛してるし、彼女も俺を…愛してくれてる…と信じていたから。


君とふたりで将来の話をする想像に俺は酔いしれていた。



なのに…1年経った今、俺と彼女は前へ進むどころか、後退してしまった。




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