恋する唇💋 ~短編集~

秋野 林檎 

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怯える唇

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「…何言ってるの…?」

いつもと違う…その震える声に色気を感じる。

館内禁煙で、ようやく吸える屋上で俺はタバコを出すと、口に咥えながら…

「だから、言ってるじゃないか…あいつと別れて、俺にしろと。」と言った。

眼鏡の奥の大きな眼が、瞬きもせずに俺を見た。

いつもなら…

そう、いつもなら…

お前は…こんなふざけた事を言う俺を笑い飛ばすはずだろう。
だが…今は…ただ、呆然と俺を見るだけだ。

望みはある…と思ってもいいんだよなぁ。

「…からかっているの?それともバカにしてる?…友達だと思っていたのに…」

「あいにく、俺はお前の事を一度たりとも友達だなんて思ったことはない。」

タバコに火をつけながら…横目で見たあいつの顔は、泣く寸前のように見えた。

「…いつも相談にのってくれる振りをして、笑っていたの…ひどいよ。」
そう言って、あいつは下を向き…

「…俺にしろ…って…どういう…意味よ…」

後半は…言葉がうまく出ないあいつに…俺は心の中で少し笑った。意識しろ、もっと俺を意識しろよ。俺を男として見なかったお前に、腹が立っているんだ。

何年も、待たされたんだ。
何年も、その体に触れる事を我慢させられたんだ。
もっと…俺を意識して…もっと…俺を見ろよ。

入社して3年。
初めて会った時から、好きだった。
だのに…このバカは…入社早々、チャラい営業の男にコロリと騙され…挙句の果てに俺の事を親友だと言い出す始末。ようやくチャラい営業の男と別れたと思ったら、すぐに飲み屋の男にのぼせやがって…どんだけ、恋愛体質なんだ!

だが…もう終わりだ。

あの飲み屋の男とは別れさせる。あの男は…妻子持ちなんだぞ。
お前が幸せならと…何度か目を瞑ったが、お前に不倫をさせるくらいなら、俺が奪ってやる。
お前のすべてを奪ってやる。

まだ…火をつけたばかりのタバコを灰皿に押し付け

「…もう、いい加減…俺に落ちろよ。」

あいつの眼鏡に手を伸ばし外すと、俺のスーツの胸のポケットに入れ
黒く大きな瞳に、俺が映るくらい顔を寄せ…

「逃げんなよ…」

怯えたように震える唇に、ゆっくりと重ねていった。

逃がさない…。

ゆっくりと重ねた唇から外すと…
「じっくりと…俺と言う男を教えてやる。」

震える唇に舌を這わせ…
「俺が…どんなにお前に惚れてるか…教えてやる。」





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