3 / 32
行儀の良い唇(後編)
しおりを挟む
息をする事さえも許してくれないキスに…
私は戸惑っていた。
時折…彼はこうやって、私のすべてを奪うようにキスをし…体を…心を求めてくる。
何を欲しているの?
私の心も体も…もうすべて奪っているのに、いったい何を…
彼の手は、私の胸へと…
それは愛撫とは思えないほどの力で…強く…まるでその奥にある心臓を抉り取るようだった。
でも指が…彼の人差し指が、胸の先端を掠め…ゾクリとした快感が…体を走った。
だが…それは意図して触れたものではなかったみたいだった。
また彼の手は強く胸へと、力だけを込めていたから…
あぁ…そうか、求めているんじゃない。求められているんじゃない。
私を抱いて、すべてを誤魔化し、隠そうとしている…。
…嫌。こんなの嫌だよ…
「嫌!!」
押しのけた彼の体は…よろめき、そして顔は悲しく歪んでいた。
*****
「嫌!!」
そう叫ぶ結衣に…力が抜けたように体がふらついた。
嫌…なんだ。俺が嫌なんだ。
「…そんなに…」
「…な、なに…」
「そんなに!俺が嫌なのか!お行儀の悪いガキだから嫌なのか!」
「なにを…言ってるの…」
「あぁ…俺は結衣と一緒にいた男より、ガキだよ…。年下の頼りない、自分の力で立って、社会を生きているわけじゃない。今もって…親のすねかじりだよ。でも…男なんだよ。年下のガキでも、結衣に惚れている男なんだよ!」
俺の顔をただ…じっと見つめる結衣に、俺は下を向き笑った。そう…自分を嘲笑った。子供がダダをこねているようにしか、見えないよなぁ。情けない。
「う、うそ…だって、あの女性は?あの料理が上手な女性が好きなんでしょう?
あなたの好きな…理久の好きな…オムライスが得意だって…言っていたあの女性が…」
「なんだよ…それ…。あのケバイ女なんてしらないよ。勝手に言い寄ってきただけだ。それに…俺…オムライスが好きなわけじゃない。」
「な…なに…それ?だって、いつも私に作ってというじゃない。」
「結衣が…スマホを片手に料理を作る姿が好きなんだよ。俺のために作ってくれる姿が…好きなんだ。もう…勘弁して…。最後にこんなガキぽっい姿を見せて、終わらせないでくれよ。」
「理久…どういう意味?終わらせようとしているのは…理久でしょう?」
「どうして俺が?…こんなに結衣が好きなのに…。結衣こそ…結婚するのあの男と?店で一緒だった男と…。聞こえていたよ。結婚と言う言葉が…その言葉だけが耳に残るほどね。」
「男…?えっ?…あの店で…男って?あっ!…あれは…兄さんよ。」
「兄貴…?!」
「…兄さんが、田舎から出て来てたの。結婚しろとまでは言わないから、もう…いい加減、彼…氏でも…連れて来いって、言われていたのよ。」
「結衣…」
「一度も好きな人を家族に紹介した事なかったから…心配していたみたい…。」
そう言うと結衣は、眼を擦った。眼が…涙を堪えた眼が…真っ赤だった。結衣はまた右手の甲で涙を拭ったが、でも黒く大きな瞳から、大粒の涙が、また繋がって零れ落ち、結衣は諦めたかのように、両手を握り締めて
「あ、あのね!初めてなのよ。こんな怖いのに、でも側にいたいと思う恋なんて初めてなの。だからどうしていいのかわからなくて、ただ理久の邪魔にならないようにといつも思っていたの。」
結衣はそう言って、微かに笑みを浮かべ
「理久には、未来が広がっている、大学を出て、社会に出れば、たくさんの人と出会い、その中には素敵な女性もきっといる。そう思う度に、理久の邪魔にならないようにしなくてはと…理久が離れていく時には、笑ってさよなら言わなくちゃと思っていたの。でも…できない。こんなに好きなんだもの…離れたくない。でもあなたの未来に私も連れて行ってとは…言えない。だって私、年上だもん。8つも上なんだもん。」
結衣も…俺と同じように悩んでいたんだ。
結衣は8つ上を…そして俺が8つ下を気にしていたように…
8つ上…どこがだよ。今鼻を啜って泣いている結衣は…8つ上なんかに見えないよ。
今なら、わかる。年なんか関係ない。俺は結衣だから…好きなんだ。上であろうが…下であろうが…関係ない。
「結衣のバカ…。俺の未来は俺が決めるんだよ。勝手に結衣が決めるなよ。」
「理久…」
俺は結衣に手を伸ばし…
「はっきりと見えない俺の未来に、ついて来てというのは…男として情けないけど…待っててくれる?来春、社会人になって自分の力で立つことができたら…俺と…結婚して」
結衣の手が俺の手に重なり、ぽろぽろと大粒の涙を零して、大きく頷いてくれた。
「俺って…ほんとガキだよね。勝手に想像して…結衣が離れていくんじゃないかと不安で…結衣を壊すところだった。」
結衣は頭を横に振り、俺の腕の中に入り込むと
「でも、理久が誤解してくれたから…」と言って、真っ赤な顔で…「け、けっこん…」と口にして、より顔を赤くした。
「うん、結婚しよう、結衣。」
結衣は…やっぱり…可愛いい。俺は、結衣を抱きしめ…
「俺…大人になる。結衣を守れる男になってゆく…その一歩目は…行儀を良くする。」
「えっ?!」
突然の俺の言葉に、結衣は俺の胸元から顔を上げた…
キョトンとしたその顔も…やっぱり…可愛いい。俺はクスリと笑い…
「行儀が悪いと言われた時…ガキだ。と言われたような気がしたんだ。」
「ご、ごめん、でも…」
俺は…結衣の唇に指を置いて、その先を止めて
「わかってるよ、結衣。でも…そう思えたんだ。だから大人への第一歩は、そうしたいんだ。」
結衣はなんて言っていいのか、わからないのだろう。大きな瞳が揺れていた…
「結衣さん…キスしていいですか?」
「はぁ?…」
その顔も可愛いい。
「いただきます。」
俺は行儀良くそう言って、結衣の唇にキスをした。
私は戸惑っていた。
時折…彼はこうやって、私のすべてを奪うようにキスをし…体を…心を求めてくる。
何を欲しているの?
私の心も体も…もうすべて奪っているのに、いったい何を…
彼の手は、私の胸へと…
それは愛撫とは思えないほどの力で…強く…まるでその奥にある心臓を抉り取るようだった。
でも指が…彼の人差し指が、胸の先端を掠め…ゾクリとした快感が…体を走った。
だが…それは意図して触れたものではなかったみたいだった。
また彼の手は強く胸へと、力だけを込めていたから…
あぁ…そうか、求めているんじゃない。求められているんじゃない。
私を抱いて、すべてを誤魔化し、隠そうとしている…。
…嫌。こんなの嫌だよ…
「嫌!!」
押しのけた彼の体は…よろめき、そして顔は悲しく歪んでいた。
*****
「嫌!!」
そう叫ぶ結衣に…力が抜けたように体がふらついた。
嫌…なんだ。俺が嫌なんだ。
「…そんなに…」
「…な、なに…」
「そんなに!俺が嫌なのか!お行儀の悪いガキだから嫌なのか!」
「なにを…言ってるの…」
「あぁ…俺は結衣と一緒にいた男より、ガキだよ…。年下の頼りない、自分の力で立って、社会を生きているわけじゃない。今もって…親のすねかじりだよ。でも…男なんだよ。年下のガキでも、結衣に惚れている男なんだよ!」
俺の顔をただ…じっと見つめる結衣に、俺は下を向き笑った。そう…自分を嘲笑った。子供がダダをこねているようにしか、見えないよなぁ。情けない。
「う、うそ…だって、あの女性は?あの料理が上手な女性が好きなんでしょう?
あなたの好きな…理久の好きな…オムライスが得意だって…言っていたあの女性が…」
「なんだよ…それ…。あのケバイ女なんてしらないよ。勝手に言い寄ってきただけだ。それに…俺…オムライスが好きなわけじゃない。」
「な…なに…それ?だって、いつも私に作ってというじゃない。」
「結衣が…スマホを片手に料理を作る姿が好きなんだよ。俺のために作ってくれる姿が…好きなんだ。もう…勘弁して…。最後にこんなガキぽっい姿を見せて、終わらせないでくれよ。」
「理久…どういう意味?終わらせようとしているのは…理久でしょう?」
「どうして俺が?…こんなに結衣が好きなのに…。結衣こそ…結婚するのあの男と?店で一緒だった男と…。聞こえていたよ。結婚と言う言葉が…その言葉だけが耳に残るほどね。」
「男…?えっ?…あの店で…男って?あっ!…あれは…兄さんよ。」
「兄貴…?!」
「…兄さんが、田舎から出て来てたの。結婚しろとまでは言わないから、もう…いい加減、彼…氏でも…連れて来いって、言われていたのよ。」
「結衣…」
「一度も好きな人を家族に紹介した事なかったから…心配していたみたい…。」
そう言うと結衣は、眼を擦った。眼が…涙を堪えた眼が…真っ赤だった。結衣はまた右手の甲で涙を拭ったが、でも黒く大きな瞳から、大粒の涙が、また繋がって零れ落ち、結衣は諦めたかのように、両手を握り締めて
「あ、あのね!初めてなのよ。こんな怖いのに、でも側にいたいと思う恋なんて初めてなの。だからどうしていいのかわからなくて、ただ理久の邪魔にならないようにといつも思っていたの。」
結衣はそう言って、微かに笑みを浮かべ
「理久には、未来が広がっている、大学を出て、社会に出れば、たくさんの人と出会い、その中には素敵な女性もきっといる。そう思う度に、理久の邪魔にならないようにしなくてはと…理久が離れていく時には、笑ってさよなら言わなくちゃと思っていたの。でも…できない。こんなに好きなんだもの…離れたくない。でもあなたの未来に私も連れて行ってとは…言えない。だって私、年上だもん。8つも上なんだもん。」
結衣も…俺と同じように悩んでいたんだ。
結衣は8つ上を…そして俺が8つ下を気にしていたように…
8つ上…どこがだよ。今鼻を啜って泣いている結衣は…8つ上なんかに見えないよ。
今なら、わかる。年なんか関係ない。俺は結衣だから…好きなんだ。上であろうが…下であろうが…関係ない。
「結衣のバカ…。俺の未来は俺が決めるんだよ。勝手に結衣が決めるなよ。」
「理久…」
俺は結衣に手を伸ばし…
「はっきりと見えない俺の未来に、ついて来てというのは…男として情けないけど…待っててくれる?来春、社会人になって自分の力で立つことができたら…俺と…結婚して」
結衣の手が俺の手に重なり、ぽろぽろと大粒の涙を零して、大きく頷いてくれた。
「俺って…ほんとガキだよね。勝手に想像して…結衣が離れていくんじゃないかと不安で…結衣を壊すところだった。」
結衣は頭を横に振り、俺の腕の中に入り込むと
「でも、理久が誤解してくれたから…」と言って、真っ赤な顔で…「け、けっこん…」と口にして、より顔を赤くした。
「うん、結婚しよう、結衣。」
結衣は…やっぱり…可愛いい。俺は、結衣を抱きしめ…
「俺…大人になる。結衣を守れる男になってゆく…その一歩目は…行儀を良くする。」
「えっ?!」
突然の俺の言葉に、結衣は俺の胸元から顔を上げた…
キョトンとしたその顔も…やっぱり…可愛いい。俺はクスリと笑い…
「行儀が悪いと言われた時…ガキだ。と言われたような気がしたんだ。」
「ご、ごめん、でも…」
俺は…結衣の唇に指を置いて、その先を止めて
「わかってるよ、結衣。でも…そう思えたんだ。だから大人への第一歩は、そうしたいんだ。」
結衣はなんて言っていいのか、わからないのだろう。大きな瞳が揺れていた…
「結衣さん…キスしていいですか?」
「はぁ?…」
その顔も可愛いい。
「いただきます。」
俺は行儀良くそう言って、結衣の唇にキスをした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】身代わりとなります
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。
レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。
そんなレイチェルに婚約者ができた。
侯爵令息のダニエルだ。
彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。
はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。
彼のレイチェルへの想いが同情であっても。
彼がレイチェルではない人を愛していても。
そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。
そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・
*過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんがご了承ください。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ズルいズルいっていつも言うけれど、意味を知っていて?
ユウキ
恋愛
今夜は、一組の婚約者の発表が行われるために夜会が開催された。
贅を凝らしているが、上品な誂え、淑やかで慎ましい令嬢と、見目麗しい子息の披露目に、次代の安寧と、羨望の眼差しを向ける。
発表も無事終わり、和やかに進行する夜会の最中、甲高い大声が響いた。
「なんでー!ズルいズルイですわぁぁぁ!お姉様ばっかりずるいですわぁぁぁぁぁ!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる