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忘れたくない唇(2/5)
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長い時間ではなかったが、私と中谷君は…お互いを見ていたが、突然…中谷君は大きく息を吐くと
「...文転するのか?増田から…早川は自分と一緒に文転すると…聞いた。」
「えっ?」
中谷君の言葉に驚いた私の顔が…だんだんと歪んでゆくのが、自分でもわかった。
圭介…どうして?…私は文系に移らない、このまま理系で行くって言ったじゃない。
理系と文系のクラスは東と西に別れていて、同じ学校でもなかなか会う事はない。でも、会おうと思ったら、どこかで待ち合わせをすればいいことなのに…だが圭介は、『俺、文転するから…莉子もするだろう。』と決めつけてきた。
自分の将来だ、自分で決めてゆきたい。付き合うって、彼氏の言うことを黙って頷いて、付いてゆく事じゃないはず、お互いがお互いの道を歩む事を、嫌がる圭介に困っていたが、まさか…他の人に決まったように…言うなんて…
圭介の自分勝手な言動に…腹が立ち、唇を噛んだ私を中谷君は…
「違うのか?…」
「…違うわ。…」
「…そうっか…」
そう言って、下を向き…中谷君は笑いながら…
「カッコ悪い…」
「中谷君?」
中谷君は、私を見つめ…また「そっか…文転しないのか…」と言って…
「俺…なにやってんだか…」と苦笑すると…俯き
「【勝てない勝負に…手を出す勇気がない。】と言って、俺はいつも諦めていた。でも…彼氏がいる女に告白したって…虚しいだろう。だから…思いは伝わらなくてもいい、ただ早川の顔を見るだけでいいと思っていたんだ。でも増田から、早川が文転すると聞いた時…文系と理系は校舎が、西と東にわかれているから、ただのクラスメートの俺では、もう早川を見る事さえも出来なくなるんだと思ったら…俺、焦って、なにも考えずにここに来てしまった。」
そう言って…顔を上げ…
「好きなんだ。」
なんて言ったらいいのかわからなかった、でも私は中谷君から、視線を外す事が出来なくて、でもなにか言わなくてはと、口を開いたが…言葉が出てこなくて…
ただ…見ていた。ただ…彼を見ていた。
彼は…中谷君はにっこりと笑うと
「…返事を聞きたいわけじゃないから…いや、聞くのは辛いから…何も言わなくていい。このままずっと秘めておこうと思っていたんだ、だからいいんだ。」
中谷君はそう言って、校庭のほうへと視線を移し
「俺…早川に告白したら…きっと後悔すると思っていたけど、でも…今は後悔と言う気持ちは、不思議とないんだ。寧ろすっきりした。これで良かったんだ…と思える。告白した事で、俺は気持ちの整理はできそうだ。だけど…告白された早川はいい迷惑だったよな。ごめんな…早川。」
中谷君はそう言うと口を閉ざし、校庭に視線を向けたまま…動かなかった。
…時が止まっているように思えた、私は…息苦しさに胸に手を置き、中谷君を見た。
私を熱く見ていた眼が、今は瞬きもせず校庭へ視線を向け…
私を好きだと言った薄い唇は…固く結ばれていた。
苦しい…胸がどうして…こんなに…
私は中谷君から、目を逸らし俯くと、私の足元に…長く伸びた中谷君の影に向かって
(中谷君、なにか…言って…)と言って…唇を噛んだ。
時が止まったようにシーンとした教室…西日で赤くなった教室に…
運動部の掛け声がより大きく聞こえた時だった。
突然…中谷君が私へと視線を移すと、私の頭を抱え込み、床に転がるように倒れこんだ…瞬間、
ガラスの割れる音と…雨のようにガラスが振り注いできた。
「早川!!大丈夫か!」
「う…うん」と言って眼を開いた…ドキッ…と…心臓が大きな音をたてた…
中谷君の腕の中で…私のドキッはドキドキと早くなり…
私は中谷君の胸を両手で押しながら…
「だ、大丈夫…あ、あ、ありがとう。」
「あっ…!ご、ごめん」
慌てる中谷君の声に…動き出した時間に…私はホッとして、ようやく彼の顔を見た。
頬が…中谷君の頬が切れていた…。
中谷君は、私に覆いかぶさるようにして、ガラスの雨を避けたせいで…頬を切ってしまったんだと思ったら、私の右手は中谷君の胸を押すことを止め、ゆっくりと中谷君の頬へと…ガラスで切れた頬へと伸びていった。
「痛くない?ごめんね。」
中谷君の驚いた顔が、泣きそうに歪むと、頬にあてられた手に、ゆっくりと自分の左手を重ね…
「…好きだって…言った男に、簡単に触れちゃ…いけない。」
掠れた声で私に言うと…右手で私の頬を触り…その手は私の唇へと行った。
少し…荒れた指先は、私の唇を求めて、何度も唇の上を動き…
私は…恐かった。
私自身が恐かった。
彼の指先を…
震える体が…心が…唇が…求めるように、熱くなっていったから…
うまくいっていないとはいえ、圭介と言う彼氏がいるのに、中谷君のことをよく知らないのに…
「…いや…」と言った、私を見つめて、
「…莉子…」と中谷君が…私の名前を呼んだ。
中谷君の顔が近づく…この瞬間を…どこかで待っている自分が…恐かった。
唇が触れようとする瞬間…中谷君は動きを止めた…。
・
・
・
『今のすごい音は、1組からだったろう!』
『やべ~!と野球部が叫んでいたから、ボールが飛び込んだじゃねぇ。』
と言う声が…聞こえ、中谷君は、「…ごめん…。」と言って、立ち上がった途端…
数人のクラスメートが飛び込んできた。
『だいじょうぶ?!早川さん?』
『中谷!お前、怪我してんじゃん!』
『莉子!!』
『お前ら、ガラスがいっぱい付いてるぜ!』
男子に取り囲まれた中谷君は
「あぁ…大丈夫。でも保健室に行ってくる。制服も…ガラスがついているしなぁ。」
『早川さんを助けたヒーローは、そう言って去って行くってか!』
「…ヒーローなんかじゃないさ。たまたま…そう、たまたま側にいたから、体が動いただけだ。女の子に怪我はさせられないだろう。」
『ほぉ~俺も言いてぇ~そんな台詞!』
「バカ。俺、保健室に行くからなぁ…」
ふざける男子らの声に、呆れたように笑う中谷君の姿を…そして、保健室に行こうとするその背中を私は見ていた。なにか言わなくてはと…
「…中谷君…」とその背中に声をかけた。
私の声に…彼は振り返り、にっこり笑うと
「怪我がなくて良かった。」と言って、私に何も言わせず、教室を出て行った。
中谷君は……
いつもの…落ち着いた中谷君だった。
「...文転するのか?増田から…早川は自分と一緒に文転すると…聞いた。」
「えっ?」
中谷君の言葉に驚いた私の顔が…だんだんと歪んでゆくのが、自分でもわかった。
圭介…どうして?…私は文系に移らない、このまま理系で行くって言ったじゃない。
理系と文系のクラスは東と西に別れていて、同じ学校でもなかなか会う事はない。でも、会おうと思ったら、どこかで待ち合わせをすればいいことなのに…だが圭介は、『俺、文転するから…莉子もするだろう。』と決めつけてきた。
自分の将来だ、自分で決めてゆきたい。付き合うって、彼氏の言うことを黙って頷いて、付いてゆく事じゃないはず、お互いがお互いの道を歩む事を、嫌がる圭介に困っていたが、まさか…他の人に決まったように…言うなんて…
圭介の自分勝手な言動に…腹が立ち、唇を噛んだ私を中谷君は…
「違うのか?…」
「…違うわ。…」
「…そうっか…」
そう言って、下を向き…中谷君は笑いながら…
「カッコ悪い…」
「中谷君?」
中谷君は、私を見つめ…また「そっか…文転しないのか…」と言って…
「俺…なにやってんだか…」と苦笑すると…俯き
「【勝てない勝負に…手を出す勇気がない。】と言って、俺はいつも諦めていた。でも…彼氏がいる女に告白したって…虚しいだろう。だから…思いは伝わらなくてもいい、ただ早川の顔を見るだけでいいと思っていたんだ。でも増田から、早川が文転すると聞いた時…文系と理系は校舎が、西と東にわかれているから、ただのクラスメートの俺では、もう早川を見る事さえも出来なくなるんだと思ったら…俺、焦って、なにも考えずにここに来てしまった。」
そう言って…顔を上げ…
「好きなんだ。」
なんて言ったらいいのかわからなかった、でも私は中谷君から、視線を外す事が出来なくて、でもなにか言わなくてはと、口を開いたが…言葉が出てこなくて…
ただ…見ていた。ただ…彼を見ていた。
彼は…中谷君はにっこりと笑うと
「…返事を聞きたいわけじゃないから…いや、聞くのは辛いから…何も言わなくていい。このままずっと秘めておこうと思っていたんだ、だからいいんだ。」
中谷君はそう言って、校庭のほうへと視線を移し
「俺…早川に告白したら…きっと後悔すると思っていたけど、でも…今は後悔と言う気持ちは、不思議とないんだ。寧ろすっきりした。これで良かったんだ…と思える。告白した事で、俺は気持ちの整理はできそうだ。だけど…告白された早川はいい迷惑だったよな。ごめんな…早川。」
中谷君はそう言うと口を閉ざし、校庭に視線を向けたまま…動かなかった。
…時が止まっているように思えた、私は…息苦しさに胸に手を置き、中谷君を見た。
私を熱く見ていた眼が、今は瞬きもせず校庭へ視線を向け…
私を好きだと言った薄い唇は…固く結ばれていた。
苦しい…胸がどうして…こんなに…
私は中谷君から、目を逸らし俯くと、私の足元に…長く伸びた中谷君の影に向かって
(中谷君、なにか…言って…)と言って…唇を噛んだ。
時が止まったようにシーンとした教室…西日で赤くなった教室に…
運動部の掛け声がより大きく聞こえた時だった。
突然…中谷君が私へと視線を移すと、私の頭を抱え込み、床に転がるように倒れこんだ…瞬間、
ガラスの割れる音と…雨のようにガラスが振り注いできた。
「早川!!大丈夫か!」
「う…うん」と言って眼を開いた…ドキッ…と…心臓が大きな音をたてた…
中谷君の腕の中で…私のドキッはドキドキと早くなり…
私は中谷君の胸を両手で押しながら…
「だ、大丈夫…あ、あ、ありがとう。」
「あっ…!ご、ごめん」
慌てる中谷君の声に…動き出した時間に…私はホッとして、ようやく彼の顔を見た。
頬が…中谷君の頬が切れていた…。
中谷君は、私に覆いかぶさるようにして、ガラスの雨を避けたせいで…頬を切ってしまったんだと思ったら、私の右手は中谷君の胸を押すことを止め、ゆっくりと中谷君の頬へと…ガラスで切れた頬へと伸びていった。
「痛くない?ごめんね。」
中谷君の驚いた顔が、泣きそうに歪むと、頬にあてられた手に、ゆっくりと自分の左手を重ね…
「…好きだって…言った男に、簡単に触れちゃ…いけない。」
掠れた声で私に言うと…右手で私の頬を触り…その手は私の唇へと行った。
少し…荒れた指先は、私の唇を求めて、何度も唇の上を動き…
私は…恐かった。
私自身が恐かった。
彼の指先を…
震える体が…心が…唇が…求めるように、熱くなっていったから…
うまくいっていないとはいえ、圭介と言う彼氏がいるのに、中谷君のことをよく知らないのに…
「…いや…」と言った、私を見つめて、
「…莉子…」と中谷君が…私の名前を呼んだ。
中谷君の顔が近づく…この瞬間を…どこかで待っている自分が…恐かった。
唇が触れようとする瞬間…中谷君は動きを止めた…。
・
・
・
『今のすごい音は、1組からだったろう!』
『やべ~!と野球部が叫んでいたから、ボールが飛び込んだじゃねぇ。』
と言う声が…聞こえ、中谷君は、「…ごめん…。」と言って、立ち上がった途端…
数人のクラスメートが飛び込んできた。
『だいじょうぶ?!早川さん?』
『中谷!お前、怪我してんじゃん!』
『莉子!!』
『お前ら、ガラスがいっぱい付いてるぜ!』
男子に取り囲まれた中谷君は
「あぁ…大丈夫。でも保健室に行ってくる。制服も…ガラスがついているしなぁ。」
『早川さんを助けたヒーローは、そう言って去って行くってか!』
「…ヒーローなんかじゃないさ。たまたま…そう、たまたま側にいたから、体が動いただけだ。女の子に怪我はさせられないだろう。」
『ほぉ~俺も言いてぇ~そんな台詞!』
「バカ。俺、保健室に行くからなぁ…」
ふざける男子らの声に、呆れたように笑う中谷君の姿を…そして、保健室に行こうとするその背中を私は見ていた。なにか言わなくてはと…
「…中谷君…」とその背中に声をかけた。
私の声に…彼は振り返り、にっこり笑うと
「怪我がなくて良かった。」と言って、私に何も言わせず、教室を出て行った。
中谷君は……
いつもの…落ち着いた中谷君だった。
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