11 / 32
忘れたくない唇(3/5)
しおりを挟む
15mほど…離れた場所に、早川がいるのに俺は近づけなくて、時折…聞こえてくる彼女の声が…
あの日…聞いた声…俺を呼ぶ『中谷君…』と呼ぶ声と重なり、俺は手に持ったグラスに映った自分の情けない顔に苦笑した。
*****
俺は…いつもただ見ているだけだった。
高校受験の時に、参考書を見つめ『はぁ~』と情けない声をあげる、斜め前の席の彼女が、可笑しくて、そして…気になった俺。
合格発表のとき、彼女の番号を初めに確かめ、慌てて自分の番号を探した俺。
だが…声をかける前に、彼女は違う奴に攫われてしまったんだった。
どうしようもなかった。早川には付き合っている人がいるんだ。『好きだ』と告白したって、返ってくる答えはわかっている。
なら…もう、いいじゃないか…
じゃんけんが弱くて、いつも損をするお人よしを見ているだけで…
時々クラスメートのひとりとして、会話をするだけで…同じ時間を共有できる事で…
それで、満足しろと自分に言い聞かせていた。
ほんとに俺はバカだ。
彼女の上に覆いかぶさるようにして、ガラスの雨から彼女を遠ざけた時…俺の腕の中で…感じたぬくもりを、震える唇を…間近に見て、ようやくわかった。
好きな女を、ただ見ているだけで満足だなんて、ありえないんだと。
この唇を…ただ見るだけだなんて、出来るはずはない。
泣きそうだった、好きだと言うのはこんなにも切ないのかと…そしてそれをわかってくれない早川に…胸が痛くて…
『…好きだって…言った男に、簡単に触れちゃ…いけない。』
と言って早川の冷たい唇を指先で触れた、我慢しているんだ。わかってくれよと言いながら…
だが、もう限界だった…俺は初めて…早川の名前を口にした…『莉子』
『いや』と言った彼女の声が甘く聞こえ、俺は誘われるように…彼女に触れる寸前。
人の声を感じ…俺は現実へと引き戻された。
恥ずかしかった。そして惨めだった。
俺は、早川の声に被さる様に『怪我がなくて良かった。』と言って、彼女に何も言わせず、俺は逃げた。逃げるしかなかった。
あの日を境に、心の中にあった…燻った熱い思いを、今までどうやって誤魔化してきたのか、思い出せないほど俺は…戸惑い…荒れて…
俺は……
俺を好きだと言う後輩を抱きしめてしまった…最低だ。
もう…早川を見る事ができなかった…。
ただ彼女を見るだけの幸せな時は、彼女の視線から逃げる時へと変わって行き…この苦しみから逃げたいという思いで、付き合った後輩とは…1年も続かなかった。
*****
「きゃぁ!!~」
「マジ!!」
突然あがった歓声に、俺は…視線を移すと、
「そ、そんなぁ…」と萎れた声で、右手をチョキにした手のままで…項垂る早川の姿があった。
「うそっ…私なの?来年の創立100周年記念事業創のクラスの代表は…えっ~そんな!」
と泣きそうな声をあげ、なんども右手のチョキを見て…
「パーを出そうとしたのに…なんでチョキを出しちゃったんだろう。」と、右手のチョキに訴え、みんなから笑われていた。
そして俺も…口元が綻んだ
じゃんけん、相変わらず弱いんだ。
なんで右手に、文句を言ってんだよ。早川は…やっぱり…可笑しな奴…
お人よしで、じゃんけんに弱くて…いつも損ばかりしている。
ぜんぜん変わらないなぁ…早川は…と、俺は早川の困ったように笑う顔が、懐かしくて、そして恋しくて、声を出さずに、唇だけ動かして呼んだ。
(莉子)…と
聞こえるはずはないのに、早川が…ハッとした様に、俺を見た。
視線の先が…早川と繋がった。
彼女も俺を見ている。
月日の流れは…俺に何度か恋をさせ、俺の中では早川はもうすでに好きだった女になっていたはずだった。でも…同窓会の案内状に書かれていた、幹事の名前に…俺は欠席から、出席へと書き直してしまうほど、まだ俺の中の思いは、10年経っても、まだ小さな種火をつけていた。
早川…。
君に…会いたいと思っていたんだ。だから…今日はここに来たんだ。
今も…俺は君から目が離せない。
俺は…
俺は、君が好きだ。
高校2年の秋は、まだ俺の中では終わっていない。…と言うように
俺は視線の先で、瞳を揺らす早川を見つめた。
あの日…聞いた声…俺を呼ぶ『中谷君…』と呼ぶ声と重なり、俺は手に持ったグラスに映った自分の情けない顔に苦笑した。
*****
俺は…いつもただ見ているだけだった。
高校受験の時に、参考書を見つめ『はぁ~』と情けない声をあげる、斜め前の席の彼女が、可笑しくて、そして…気になった俺。
合格発表のとき、彼女の番号を初めに確かめ、慌てて自分の番号を探した俺。
だが…声をかける前に、彼女は違う奴に攫われてしまったんだった。
どうしようもなかった。早川には付き合っている人がいるんだ。『好きだ』と告白したって、返ってくる答えはわかっている。
なら…もう、いいじゃないか…
じゃんけんが弱くて、いつも損をするお人よしを見ているだけで…
時々クラスメートのひとりとして、会話をするだけで…同じ時間を共有できる事で…
それで、満足しろと自分に言い聞かせていた。
ほんとに俺はバカだ。
彼女の上に覆いかぶさるようにして、ガラスの雨から彼女を遠ざけた時…俺の腕の中で…感じたぬくもりを、震える唇を…間近に見て、ようやくわかった。
好きな女を、ただ見ているだけで満足だなんて、ありえないんだと。
この唇を…ただ見るだけだなんて、出来るはずはない。
泣きそうだった、好きだと言うのはこんなにも切ないのかと…そしてそれをわかってくれない早川に…胸が痛くて…
『…好きだって…言った男に、簡単に触れちゃ…いけない。』
と言って早川の冷たい唇を指先で触れた、我慢しているんだ。わかってくれよと言いながら…
だが、もう限界だった…俺は初めて…早川の名前を口にした…『莉子』
『いや』と言った彼女の声が甘く聞こえ、俺は誘われるように…彼女に触れる寸前。
人の声を感じ…俺は現実へと引き戻された。
恥ずかしかった。そして惨めだった。
俺は、早川の声に被さる様に『怪我がなくて良かった。』と言って、彼女に何も言わせず、俺は逃げた。逃げるしかなかった。
あの日を境に、心の中にあった…燻った熱い思いを、今までどうやって誤魔化してきたのか、思い出せないほど俺は…戸惑い…荒れて…
俺は……
俺を好きだと言う後輩を抱きしめてしまった…最低だ。
もう…早川を見る事ができなかった…。
ただ彼女を見るだけの幸せな時は、彼女の視線から逃げる時へと変わって行き…この苦しみから逃げたいという思いで、付き合った後輩とは…1年も続かなかった。
*****
「きゃぁ!!~」
「マジ!!」
突然あがった歓声に、俺は…視線を移すと、
「そ、そんなぁ…」と萎れた声で、右手をチョキにした手のままで…項垂る早川の姿があった。
「うそっ…私なの?来年の創立100周年記念事業創のクラスの代表は…えっ~そんな!」
と泣きそうな声をあげ、なんども右手のチョキを見て…
「パーを出そうとしたのに…なんでチョキを出しちゃったんだろう。」と、右手のチョキに訴え、みんなから笑われていた。
そして俺も…口元が綻んだ
じゃんけん、相変わらず弱いんだ。
なんで右手に、文句を言ってんだよ。早川は…やっぱり…可笑しな奴…
お人よしで、じゃんけんに弱くて…いつも損ばかりしている。
ぜんぜん変わらないなぁ…早川は…と、俺は早川の困ったように笑う顔が、懐かしくて、そして恋しくて、声を出さずに、唇だけ動かして呼んだ。
(莉子)…と
聞こえるはずはないのに、早川が…ハッとした様に、俺を見た。
視線の先が…早川と繋がった。
彼女も俺を見ている。
月日の流れは…俺に何度か恋をさせ、俺の中では早川はもうすでに好きだった女になっていたはずだった。でも…同窓会の案内状に書かれていた、幹事の名前に…俺は欠席から、出席へと書き直してしまうほど、まだ俺の中の思いは、10年経っても、まだ小さな種火をつけていた。
早川…。
君に…会いたいと思っていたんだ。だから…今日はここに来たんだ。
今も…俺は君から目が離せない。
俺は…
俺は、君が好きだ。
高校2年の秋は、まだ俺の中では終わっていない。…と言うように
俺は視線の先で、瞳を揺らす早川を見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】身代わりとなります
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。
レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。
そんなレイチェルに婚約者ができた。
侯爵令息のダニエルだ。
彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。
はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。
彼のレイチェルへの想いが同情であっても。
彼がレイチェルではない人を愛していても。
そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。
そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・
*過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんがご了承ください。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ズルいズルいっていつも言うけれど、意味を知っていて?
ユウキ
恋愛
今夜は、一組の婚約者の発表が行われるために夜会が開催された。
贅を凝らしているが、上品な誂え、淑やかで慎ましい令嬢と、見目麗しい子息の披露目に、次代の安寧と、羨望の眼差しを向ける。
発表も無事終わり、和やかに進行する夜会の最中、甲高い大声が響いた。
「なんでー!ズルいズルイですわぁぁぁ!お姉様ばっかりずるいですわぁぁぁぁぁ!!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる