キスをする5秒前~kiss.kiss.kiss~

秋野 林檎 

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1章 葉月と樹

葉月・・ドキドキ。樹・・ムカムカ?

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「いいんですか?葉月さん。」

「う、うん。」

昼勤のシフトに入った丸山君は、私をチラリと見た。

「まったく…。吉田さん…きっと昨日遊びすぎて寝坊したんですよ。あの人…もう何度もやってますからね。店長も店長です、断ると言う言葉を知らない葉月さんに、朝勤なのに!もうあがりなのに!1時間延長してだなんて!よく言えますよ。」

いやいや…私だって断ると言う言葉、知っているし、使えるから…

「ほんと…そんなだから、夜勤も断れなくて…やることになってしまうんですよ。」

「えっ?!」

「シフト表に…入ってましたよ。金曜日葉月さん…夜勤に…」

「あわあわああ…!や、やるって言ってないよ!!」

心臓の鼓動が…ドキドキと激しく打ち出した、ど、どうしょう~

そんな私を丸山君は、哀れむように見ると、大きく溜め息をついた。
「保護者の…松下さんに…」

「保護者?…理香さんが…?」

「そこじゃないですよ!今頭に入れるところは…」
1コ下の大学生の丸山君は、また溜め息をつくと…

「松下さんに言って、店長のあの姑息なやり方を、抗議してもらったほうが良いですよ。」

私の頭の中で…
理香さんに『葉月!なんで、もっと早く言わなかった。』と仁王立ちする理香さんの姿と…
店長の…うっっ…。痛ましい姿が浮かび…

丸山君に頭を小刻みに振って、腕に縋った。
「む、無理!助けて!!丸山君!」

「葉月さん~!手を離してください!俺、松下さんに殴られます!!」

うっ!!私は歩く危険物なの?!
でも…丸山くんしか…頼る人が…

「葉月さん~!!」

*****

西口の近くまで来たときだった…

グゥ~

今日は、朝から食べていなかったことを…腹の虫が教えてくれた。
「昼食会に出なくて良いなら…どこかで食べて行くか…どうせ、まともな仕事をやらせてもらえないんだから…2~3時間いなくても支障がないだろう。」

そう口にしたら、溜め息が出そうで…情けなかった。

「27の男が…腹の虫を鳴かせ、溜め息を付く姿は…超絶カッコ悪…。」
呟くように出た言葉に、薄く笑い…

なにやってんだろうなぁ…俺。あんなに気負ってアメリカから帰って来たのに…あれから二週間あまり、仕事も…プライベートもうまく行かず、彷徨うように腹を空かせて、駅構内を歩いているとは……はぁ~取り合えずなんか軽く食べて…

あっ!!!!そうだった。
駅の構内にあるレストラン街って…今、改装中だったんだ。力が抜けそう…くそっ…コンビニでなんか買って、会社に戻るしかないなぁ…。まさか、腹の虫をぐうぐう言わせて、あの人達に会いに行くわけにはいかないし…また、情けない姿を見られるのは、さすがに…嫌だ。

俺はほんの数秒前に通り過ぎたコンビニへと踵を返した。


自動ドアが開いた途端、男女の揉める姿が…というより、いちゃつく姿が眼に入り、
俺は、本日何度目かの溜め息をつき、一旦店を出ようとしたが…
ふと…なにか気になって、振り返り…呆然とした。

小柄なカップル…
見様によっては、確かに微笑ましいと言っても良いカップルだ。
ストライプの同じ服装…
男は黒い髪を、ワックスで固め…どうやら硬派を気取っているようだが…

それはいい。

問題は…

あの…ふわふわで茶色い、お団子頭だ!!

店内で…あの子が男と…いちゃついている?!

ムッとした。

「葉月ちゃんはまだ…子供なんだぞ。」
と呟き、横にあった物を掴むと、レジの二人の下に

「会計…」と言って、差し出した。


葉月ちゃんは、大きな瞳をかたどる長い睫を、何度も瞬かせると…
「…久住さん?」と言って、満面の笑みで俺を見た、その表情に、俺は…少し気分を良くして、黒い髪をワックスで固めた男に眼を移すと…男は微妙な顔で俺を見て…

「…これ、購入されるんですか?」と言って、俺を哀れむような眼で見た。

こいつ…なんで哀れむように俺を見てんだ…いや、この場面なら…逆だろう?!葉月ちゃんの関心を取られたんだから、俺がお前を哀れんで見る場面だろう。
なんだか、納得いかない男の表情に、俺は眉を顰め

「あぁ…」と言って、差し出した商品を見て…固まった。



「葉月さんの知り合いって…なんか…残念な人、多いですよね。」
黒い髪をワックスで固めた男はそう言って、固まった俺の手元から商品を取ると、

ピッ!
「332円です。」と言いながら、丁寧に紙の袋に入れ、



俺に…生理用品を差し出した。






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