転生したら貧乏男爵家でした。

18デモンストレーション

　トロイの風の皆は俺のソロ狩りを見てみたいという事で獲物を探す事になったが、流石に森でどこに獲物がいるかまでは解らないので全員で探索した。

「いたいた。大ネズミだ」
「ネズミの家族ですかね？５匹いるので小ネズミ４匹は間引いてしまいますね」

　ざっと５０メートル先にいるネズミ『真空刃』を使いパパッと小ネズミを始末すると、母ネズミであろう二～三回りは大きい個体が「ジュューーーー」と雄たけびを上げて襲い掛かってきた。メスなのだから雌たけびか？
　目の前で子供を殺されて怒らぬ訳は無いが、人間に害をなす魔獣に情けを掛ける訳には行かないので非情と言われようが構わない。
　デカイ割には足が速く俺が腰のものを抜き正眼に構える頃には１０メートルまで接近してきていた。
　正眼に構えたまま剣を乱さずに間合いに入るまでじっと待つ。この辺りは恐怖との根競べで下手に剣を振り回せば敵は正面から反れて襲ってくるのだから、正面からの攻撃より攻略難度は上がる事になり危険も増すと言うもので、逆に正面から一対一で迎え撃つのであれば相手の攻撃を受けながら隙を見極める事ができるというものだ。
　低姿勢からの噛み付きに腕振りと動物の本能に従った攻撃のほかに、魔獣ならではの尻尾を鞭のように使った攻撃が混ざるネズミの攻撃。
　と言っても攻撃してくる部位はどれも換金に影響を与えない部位なため、安心して攻撃を受ける事ができるので、いなし回避し(かわし)隙を覗う事ができる事も戦闘が終わったら彼らに話すとしよう。
　関係ないが神話に出るような竜族はそのうろこ一枚にも大金が動くので、どの部位を攻撃しても勿体無い事になるらしい。まぁ俺たちに関係は無いかな？
　ネズミの攻撃パターンを音に変えるとガブ・タンタン・ターン。ガブ・タンタン・ターンとなって、噛みつき腕腕の後に尻尾攻撃となる。

「・・今っ」
　
　噛みつきを繰り出した直後に切り上げながらいなして腕の攻撃が来ないようにして切り上げた勢いで切り下ろす。
　ズシャと首が刎ねられたネズミは同着で頭と胴が地面に突っ込む事となった。

「ステータス的には強くなっていても魔法頼りのせいか、剣術の腕はまだまだですね」

　そう一人語ちてしまうほどまだまだな気がした。が
「「すげー・・・」」
と声が上がるほどに１０級平均から見るとカーシスのスキルは高い。前に潰したゴロツキと比べても体格差があっても互角に打ち合えるほどなのだから。

「血だけ抜きたいので手を貸してください」
「い、今行く」

　駆け寄ってきたトロイのメンバーによって、５体のネズミは吊るされ血が抜かれる事になった。

「親ネズミは今日の夕食にでも食べてしまいましょう。小ネズミは明日換金ですからそのまま持って帰ります」
「これ見ると、何で俺たちの肉がダメなのか分るな・・・」
「あの時は不味かったものね」

　ズタボロにして血抜きもしないで持ち歩いたんだろう。内出血と血が回ってしまった肉は獣特有の臭みが強くて、とてもでは無いが食べる所に行き着くものではなかったと想像できる。
　そこに追い討ちを掛けるのが内蔵から出る臭みだ。衛生面で抜く事ができないのである程度は仕方が無いとしても、丸一日経過した傷だらけの内臓から出る臭いは殊更鼻空を刺激する臭いであったであろう事も想像しやすいものだ。
　少なくとも放血処理だけでも終わらせれば臭いは抑えられるのだが、猟師からその辺りを教わる事などまれなので一般的な知識ではないし、四肢や首などの影響の少ない部位に比べるとハラワタからの肉への臭い移りを防止するには狩人としての知識は重要なのだ。

　３０分程度で血は滴らなくなり放血処理が完了した獲物を野営を行う森の外縁部へと運搬する事になった。魔法が使えるので小ネズミの腹にはかち割り氷を詰めて冷却している。４体と１体分の素材で彼らトロイのメンバー全員分の収入をゆうに超える収益になる銀貨７枚銅板３枚、そこに野犬の銀貨多分１枚を加えると「儲け過ぎた」になるためだった。
　しかし日の稼ぎで銀貨一枚程度とは、武器の入手、宿泊場所など苦労しているのが分る。
　日本人の感覚であれば中学生で日給１万と言われれば「何と高額か！」となるだろうが、注釈で小さく武器防具に宿代を含むなどと書かれていれば、手取りが２～３千でしかない事はすぐに分るだろう。
　さらに言えば、その収入も無傷であった場合に限るのだ。攻撃を食らって防具にダメージがあれば修繕費が掛かるし、体まで到達するほどであれば回復薬や高度な魔法治療を受ける事にもなるので、一回のミスが僅かな稼ぎを吹き飛ばす事にもなる。
　下級冒険者のブラックな収入には驚かされるが、俺の指導程度で貧困層の解決に一役かれるのであれば、講座を開く程度に否はない。