異世界生活物語

110仮住まいを建てよう3

※凸、凹はデコ、ボコだったり形記号だったりと脳内変換しながらお読み下さい

　作り始めてすぐに質問が来た。疑問に思う事をすぐ聞いてくれるのは良い事だと思う。頑固親方の「技は見て盗んで覚えろ」が俺に出来るとは思えないので、いろいろ質問してくれるのは良い傾向だといえるだろう。

「これは凸凹の溝にして彫ったらいけないのか？」
「ダメと言う事ではないんですけど、凸を作るよりも凹を作った方が楽かなと言うのと、壁板とくっついた凸よりも噛ませの方が隙間が空かないかなって思うので、絶対ではないですから納屋の方はそれでやってみますか？」
「後は手間か？」
「そうですね。噛ませる板を作るのが楽か、それとも凸凹の付いた壁板を作るのが楽かも解ると思いますから」

　水分率は２０パーセントは切っており１０パーセント台なのだから、水分的な縮みはそれほど考慮しなくても良いのは助かる。
　しかしそれでも年月と重量が原因で起こる収縮は避けられないのだから、その辺りを無視する訳にも行かない面倒がついてまわり、そこで手を抜いちゃうと折角の建物が旧来通りの隙間建築になってしまうのだから疎かには出来ない。

「お～い、そろそろ交代しようや」
「なんでぇ、もう少しやらせろ」

　グレーンさんとリーガさんコンビは次ぎの順番を勝ち取れたみたいだ。「もう少しやらせろ」とか「てめぇだけ長くやるつもりか」とか言い合っているが、喧嘩にはならなさそうなので放置だ。
　リーガさんはグレーンさんの梃子のお兄さん。ウェインより２～３歳上かな？

「エド君は良くこんなこと思いつくね。僕なんかはまだまだだな」
「いえいえ。多分人より熱いのも寒いのも嫌いなだけですよ」
「」

　リーガさんとダスカーさんの弟子のホリーさんとひとしきり笑いながら交代の時間を迎えた。柱の加工と壁板の３割が出来た時には土台部分も完成を迎えていた。
　これでカラスでも鳴いていたら風情が出そうな夕焼けをバックに、一人完成まで何日掛かるかななどと考えを巡らせてしまうが、明日からは軟膏作りも入るので作業スピードが鈍る事も視野に入れ、でも人数いるから何とかなるかと上方修正し戸忙しい頭の中。建築現場の現場監督さんはいつもこんな遣り繰りをして言うのかと頭が下がる思いになってしまった。
　そう言えばお隣さんが家の建て返した時なんかは、７～１９時まで大工さんとんてんかんてんやってたもんな。



「今日のところはこれで終了です。明日は親方衆には壁を仕上げて貰います。梃子の皆さんには、僕の軟膏造りを手伝ってもらう事になりますのでウチの方に来て下さい」
　
　軟膏造りと言っても製造の外枠みたいなところで、やってもらうのは”まげわっぱ〟や”薬枡〟作りだったり運搬だけなのだが、慣れない人を抽出やハーブ混和などの中心部なんてローテーションに組み込むと効率が悪化するので、木工細工という少しでも慣れた作業をやってもらうのが一番良い。
　今では手の空いた人が作っているまげわっぱも、まだまだ数が足りないでいるし手空きの人がいるならば大量在庫しておきたい訳だ。
　これもローテーションで作る人と運ぶ人を分けて、外周部の仕事は一通り覚えてもらうつもりでいる。
　親方衆は家に専念してもらう。

　翌朝出社してきた梃子衆にまずやってもらうのは、手洗いだ。石鹸などと言うものは作っていないので水洗いだが、ガッツリ擦り洗いをしてもらい手から落ちる雫が濁らなくなるまで洗わせる。
　こちらの世界に措いての衛生感では、医薬部外品だろうが医薬品に連なる物を扱うには不衛生すぎるので、この事を教えるというよりかは、解らせるために指の間から爪の中まで徹底的に洗わせた。

「これは何か意味があるんだよな？」
「無い訳は無いだろ」
「勿論ありますよ。手には体の中で悪さをする物が一杯付いています。手を洗った時に水が汚くなったのがそれなんですが、僕くらいの子供や疲れている時なら皆さんでもお腹が痛くなったりします。傷から体に入ると体の具合が悪くなったりもします。これから皆さんが作る物は傷に塗る物なので、塗った人がそんな事で具合が悪くなったりしないように手を綺麗にしてもらいました」

　そんな「なんなんだこいつは」みたいな顔をするのはやめてもらいたい。この世界の人から見たら潔癖症にしか見えないかもしれないけど、正真正銘本物の潔癖症はもっと凄いからな。

「坊の旦那はいろんな事を知ってるんだな」
「手を擦り洗いするとその濁りが無くなるじゃないですか、そのが面白くてやっていたらおなかが痛くならなくなったので気付いたんですよ」

　元日本人と言わず済ます方便として考えた言い訳だ。手の洗えた皆を納屋の木工場に連れて行って”まげわっぱ〟と”薬枡〟現物を見せる。

「エドワード君この薄い入れ物を作れば良いのかい？」
「この箱は？」
「それとそれもですね。一通りはやれる様になって欲しいのであれこれやってもらう様になります。その入れ物は”まげわっぱ〟と”薬枡〟言うのですがどちらも軟膏を入れるための入れ物です」
「この薄いのは何だかすぐ壊れそうだけど？」
「頑丈か？と言われたら”いいえ〟なのですが、家の中に置いて置くものですしウチに軟膏の詰め替えのために持って来るくらいなので、そこまで丈夫でなくとも良い訳で壊れたり汚くなったら早めに交換して欲しいと言うのもあってそれを使っています」
「そうなのかい？」
「手と同じで汚くなった物に軟膏を入れて傷に塗ったら、やっぱり具合が悪くなると思いますからね。そちらの”薬枡〟は兵士さんたちが使う物なので頑丈に作ってあります」