魔術師のロボット~最凶と呼ばれたパイロットによる世界変革記~

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第一章 再び始まった戦争

第十二話 信頼に足るか否か

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「そろそろ時間か。」

 自分の機体であるアレースのコクピットで作戦の開始時間まで待機していたエミリアは時計を確認するとそう呟いた。

『アークウィン大佐。親衛隊各機の出撃許可が下りました。作戦についても予定通りです。』
「了解。親衛隊各機、今回の作戦は予定通りに行う。各自ルートの確認を怠らないように。」

 エミリアは直前に立てた作戦が予定通りに進行していることにとりあえずの安堵を覚えながら機体のモニターに侵攻ルートを表示させる。そして機体をいつでも動かせる状態にしている間にカタパルトの発進ゲートについていた。

「エミリア・アークウィン、アレース、発進します。」

 いつも通りの言葉を出すと同時に電磁カタパルトによって機体に負荷がかかる。当然ではあるがそれは中にいる彼女にも、いくら魔法で加速力を制御しているとはいえそれなりの力が加わる。それが一年前ならまだしも今となってはその加速力にも慣れてしまっていた。

 あくまでいつも通りとエミリアは白い機体を青い空に浮かべると少しだけブースターを噴かせる。機体を低速で滑空させ他の親衛隊中隊の機体が出てくるのを待っていた。

『大佐。全機揃いました。』
「親衛隊各機、作戦行動を始めなさい。」

 エミリアはその言葉を吐くと同時にアレースのブースターを更に強く噴かせ巡航速度で移動させた。



「何をしているの、アイン。」
「バクディード攻略の様子を観察しています」

 アインの答えにアズリトもモニターに表示されている戦闘を見ていた。そして少し経ってからアズリトを二回見る。

「どうやってこの部屋に入ったんですか?」

 そう低い声を出してしまう。カギは閉めたはずだ、と思う。彼女はきょとんとした顔をしていた。

「普通に入れたけど?」

ノックもなしに入ってくるのかと思いながらもアインは部屋のカギを手元にあるボタンで閉める。

「どうしたの? 鍵なんて閉めて? そんなにこれ不味い映像なの?」
「でしょうね。独断で無人偵察機送り込みましたから。ドローンもこれが終わると爆発する仕組みになっていますし。」
「ユリアにでも言えばいいのに。」

アズリトは若干引きながらもアインにそうかつて彼らの同僚であった女性の名前を告げた告げた。それにアインは苦笑いを浮かべると違うんだけどなぁって顔で

「多分言えば認めたでしょうね。けどそれじゃ何か引っかかりそうで。」
「それで誰が気になるの?」

これ以上この話を続ける意味もないかとアズリトは唐突に違う質問をする。

「彼ですよ。」
「そんなのアルバート・デグレアに決まっているじゃないですか。」

アインはエミリアと共に戦っているグレーのアレースを見ている。

「もしあいつが記憶を失っていて、かつてみたいに戦えない今ならどうするのか、それを確認したいんです。」

その言葉はアルバートを値踏みする言葉であった。



 連合国の首都、バグディード上空をいくつもの色のレーザ砲が飛び交う。その色合いはまるでコンサートのもののようであったが、緊迫感が全く違っていた。

 二度に渡る侵攻作戦によって連合国はかなり疲弊していた。主力機であるエイノールは二千機のうち六割が撃墜、新型機であるギデオンも四十機ほどあったが、乗れるパイロットが五人程度しかいなかった。
 そこためエミリアたちは連合国の巨大要塞にある程度接近することは容易であった。

「三時の方向!」

 しかし連合国の巨大要塞にエミリア・アークウィンはかなりの苦戦を強いられていた。直掩であるキャスターはいなかったが要塞の迎撃兵器に進路を阻まれていた。

『隊長! 上!』

 アルバートの声にエミリアはすぐに攻撃を確認すると最小の運動で回避をする。彼女の考えた隊列は巨大要塞の前ではあまり意味を成していないというわけではなかった。実際その指示に関しては見事なもので親衛隊中隊ではいまだに撃墜された機体は無かった。だが要塞への突破口はいまだに開けてはいなかった。
 どうするべきかとエミリアは考える。

 彼女の今指示している親衛隊中隊の隊員は総じてレベルが高く、動きにも癖は無かった。彼女としてもそれなら戦術は立てやすいとは思う。
 しかしエミリアの前の親衛隊隊長、ブライム・エイブラウのように傑出したパイロットはいなかった。彼女自身も歴代の親衛隊の隊長としてかなり優秀な部類ではあった。しかしそれは戦術面での意味合いが強くパイロットとしての操縦技術はブライムほどではなかった。そしてブライムと対等と言えるほどまでの操縦技術を身に着けていたアルバートも記憶をなくしたことでその腕はかなり低下していた。

 そのために戦術を立てたにも関わらず、皮肉にもそれを実現できるパイロットはいなかった。だから彼女は戦術で対応する。しかしその理想を邪魔するように巨大な兵器が牙をむいてくる。

「せめてもう少し敵に接近できれば。」

 比較的安全策を取り続けていた彼女も今回はそのマージンを捨てるしかない状況に追い込まれていた。

 撤退もルート自体は確保してはいたが上からの指示がない以上できるものではなかった。かといってこのまま巨大要塞からの攻撃を耐えきるほどの体力が親衛隊にも残ってはいなかった。
 その時親衛隊の一機が撃墜されたことの報告が入る。幸いにも脱出はできたので胸をなでおろす。だがそれでも状況は何一つよくなっていない。

 だがもう迷っている暇はないと彼女は自分に言い聞かせた。

「全機、ルート45で敵要塞内部に突撃を開始!」

 だからエミリアは一番可能性が高いルートを選択した。どのルートの成功確率もたいして変わらないことに気づきながらもそう指示を出さざるを得ない。

 それが分かっていたからこそエミリアは自分の機体を他の機体よりも前進させた。



「状況としては帝国がかなりの不利ですね。」

かつてから知り合っている人間が少ないアインとしては知り合いが気になるのも無理はないかとアズリトは思う。それが例え憎しみあっている仲だとしても。

「そうね。」

だから彼女はそう返すだけにした。
彼女としては帝国側が負けそうだと思っていたがそれは言わなかった。

「普通この状況なら勝てない、といった顔ですね。」

アインはアズリトの顔を見てそう笑いながら言う。アズリトは不満そうな顔をするもアインはその顔を見ずにモニターを見ていた。

「だが、もしあいつが生きているなら……。」

アインは少しだけ期待するような目をしていた。

それがアズリトには理解できないものだった。
なぜ憎しみあっている仲なのにそこまで敵が強いことを期待するのか、それだけが彼女には理解できなかった。

だからこの時アルバートの乗っているアレースがアインの期待とは違う動きをしたことに彼女は理解できなかった。

「この程度か。」

この状況でも戦況をひっくり返す、そんな相手でなければ倒す価値がない、それが彼の価値観だった。

それは決して誰にも理解されないものだった。

「もし俺があいつを撃つときが来たのなら、そのときは……。」



『まずいな。』

 連合国の主力キャスターエイノールの大部隊と敵対をしていたユリアはアルベルトの一言に緊張感を張り巡らす。

「どうした? シュタイナー少尉。」
『いえ、帝国軍の状況があまり良くなさそうなので。』

 それを聞いてユリアもレーダで確認をする。見ると帝国軍は予想に比べて押されていた。
 そのため詳細をより確認すると、巨大要塞へ取り付くことが出来ずに作戦可能な機体が減っていた。

『少尉、貴官は帝国の援護に向かえ。残りの作戦はこっちで行う。』

ソフィアがアルベルトにそう指示を出す。

『ですが、それでこちらの陣形が崩れてしまえば司令に危険が及びます。』

ユリアは白々しいと思う。そんな表面限りの心配など必要ないと思う。

「大丈夫だ。こちらの方に敵は主力を割いていない。寧ろこのままいけば片方が撃破されて包囲網を形成される方が不味い。」

ユリアもソフィアの指示に賛同するように言葉を付け加える。

『わかりました。』

彼は機体の進路を変えると帝国の方に向かう。

「わざと行かせたでしょう。」
『当然です。あの要塞、破壊できなければ我々も撤退ルートを失います。』

ユリアはこのとき自分の言葉に嫉妬心が隠れていることに気づかなかった。



 敵へ接近すればするほど激しくなる攻撃をエミリアは余裕の無い表情でかわしていた。本来であれば安全な距離から巨大兵器の火器類を破壊したかった。しかし予想はしていたものの、その想定を上回る防空網により苦戦していた。そのまめ刻一刻とエミリアたちは追い詰められていた。一機、また一機と味方機が戦闘不能になっていくのを見ながらもエミリアは必死になって巨大兵器にとりつこうとする。そうしなければこの敵は倒せないと。

 そんな勝率があまり高くない作戦でも親衛隊の機体がついてくるのは彼女のカリスマ力だった。

 そして今彼女にあるのはたった一つの想いだった。
 敗けるわけにはいかない。
 今ここで負けて撤退する羽目になったら自分たちの部隊が本格的に不味くなる。
 そうなったら再び彼を、アルバートを失うかもしれない。その恐怖に胃が痛くなる。
 丁度そのときになって敵に取り付けそうな場所を見つける。

「ここだ!」

 機体を急速度で近づけた時だった。
 コクピットでなり続けていたアラームが更にけたたましくなる。巨大兵器から撃たれた弾丸が直撃コースだったのでエミリアはすぐさまシールドで防ぐ。
 だが間髪入れず更に実弾が一発放たれ、更に高出力プラズマライフルがエミリアのアレースをロックオンした。

「しまっ……。」

 シールドで弾丸を受け止めたせいで生まれた硬直によって片方を回避してももう片方が回避できないそんな状況に追い込まれてしまう。

 アルバートのアレースもそれに気づきすぐに動こうとするも巨大兵器の他の砲塔で阻止されてしまう。

 間に合わない、そうアルバートが思った時である。

 一機、いや二機の機体がその間に割って入った。
 一機の機体が投げ込んだ機体は巨大兵器の弾丸に当たり粉砕する。同時にコーティングを施されたシールドがプラズマを弾くときに生じる独特な音が辺り一面に響いた。

 その音にエミリアが顔を上げる。

 それがウルが自分を守っているということに気づくのに一秒近くかかってしまう。しかしすぐに我を取り戻すとアレースをウルの後ろから移動させる。
 アルベルトの乗るウルもそれを確認すると被弾しないように注意しながら下に移動する。

「助かりました。」

 帝国、連邦共に通信の周波数は合わせているのでエミリアはすぐにそう礼を言う。

『これからあれをどうするんですか?』

 アルベルトは一言、エミリアに質問した。それに対し攻撃ルートを提示するか一瞬迷う。
 実際このルートについては機密情報の観点から連邦側にはおろか帝国内でも知っている人間はごく少数しかいないのだ。それでもエミリアと話しながらもアルベルトは巨大兵器に攻撃を行い、脆そうな場所を探す。

 そのままエミリア達が攻撃をしやすいように先行して要塞に接近する。当然巨大兵器もアルベルトに攻撃を集中させる。
 だがそれらを全てことごとくかわし、灰色の機体は要塞にかなり接近していた。
 それが時間稼ぎだと気づいたエミリアは彼を信じることにした。

「今データを送りました。そのルートで行きます。」
『分かりました。援護します。』

 アルベルトはそういうとウルのライフルで迎撃兵器を破壊していく。
 その戦い方は今まで貯めていた鬱憤を晴らすような戦い方であった。



「アルベルトは予想通り戦っているか。」

 ユリアは要塞の戦いをちらりと見る。アルベルトを増援として送ったことが功を奏したのか帝国軍の部隊は持ち直していた。
 これならあの要塞も攻略するのは時間の問題だなととりあえずは安心する。

『司令。敵の新型が出てきました。』

 ソフィアからの通信が来る。元々一筋縄ではいかないと思っていたため、そこに驚きは無かった。ただ粛々とやることを為すだけであった。

「やっぱりまだ温存していたか。迎撃は出来るな。」
『当然です。』
「それは頼もしい。では抑えるとしようか。」

ユリアは新型がアルベルトのところに行かないように抑えることを第一にした。



「これだけ敵に隙があれば突撃できるか。」

 迎撃兵器を破壊されまくっている連合国の巨大要塞はアルベルトを撃墜することに躍起となっていた。そのためエミリアたちに対する要塞の攻撃は、最初に比べると大分手ぬるいものとなっていた。

『あれほどまでにやるなんて。』

 アルバートが驚いたような声を上げる。だがそれには自分も頑張ればあれくらいはできるようになるかもしれない。そういった思いが含まれていることにエミリアは気づいていた。

「そうね。」

 だけどそれについて言及することは無かった。今は一刻も早くこの要塞を破壊すること。それが今身を削って戦っているアルベルトに対しての義務だった。

「各機、予定通りの行動をとりなさい。」

 エミリアはそう告げると要塞内部にアルバートのアレースとともに突入する。
 要塞内部は予想通りと言うべきか、キャスター一機が通り抜けるには十分すぎる幅があった。

「ノーマルの部隊か。」

 そして内部にはキャスターより二回りほど小さい、全長八メートルほどの非魔術師用の人型二足歩行兵器が姿を現した。当然、ノーマルたちはエミリアたちに対して持っている銃火器で激しい弾幕を作る。アレースはその弾を全部受けて尚、損傷どころかかすり傷すらできなかった。キャスターの周りに展開されている魔術フィールドがその攻撃を弾いていたからだった。

「キャスター相手には通常火器は通用しない。」

 ここでいう通常火器は戦闘機が搭載するミサイルや戦車の主砲、そしてノーマルが搭載している武器のことである。それらの武器はキャスターに対して全くの無力であった。

 エミリアはそんなノーマルたちに同情を覚えることなく容赦なく引き金を引く。傍から見ればこの時ばかりは一方的な虐殺であった。だがその前に自分たちがその状況であったのでこれは仕方のないことだとエミリアは自分を納得させていた。

『隊長。』
「えぇ。親衛隊各機は巨大兵器のコアを破壊後速やかに脱出しなさい。」

 エミリアはそういうと自分の役目を果たすべく動いた。



「行ったか。」

 アルベルトはエミリアたちの部隊が要塞内部に突入したのを確認すると戦域から離れようとする。しかしその行動を阻害するように一機の機体が接近しているという警告が鳴り響く。

 連合国の一機、帝国軍の三機の新型機脱出計画でリーダー格として振る舞っていたアドハムがのるイフリートが接近する。その速度は音速を優に超えており、衝撃波によって海面に荒波を立てながらウルに向かう。

「この機動力、データにあった新型よりも!」

 イフリートは直線的な動きでアルベルトのウルに攻撃を仕掛ける。力を込めた一撃は感情的なものであった。

『貴様だけはこの俺が殺す!』

 その攻撃を受け止めたら機体が大破すると直感したアルベルトは上から降ってきた斬撃を、胴体胸部に搭載されたブースターで機体を後方にずらしかわす。しかし、その余波によって機体のバランスが少し崩れる。

『貴様さえいなければ!』

そうアルベルトに告げる声は憎しみに満ち溢れていた。
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