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第0章 始まりの戦い
第十六話 出会い
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「っつ。」
気絶していたアルバートは声にもならない声を上げながら目を開ける。
しかし眼前には光はなく、今どこにいるかすら分からなかった。
「そうか、墜落して……。」
間抜けなことに味方の艦砲に当たった。
「とりあえず周りの状況確認か。」
機体を起動させようとするが、反応が全く無かった。
「これで水の中だったら最悪だな。」
非常用のカメラを繋ぎ周囲を確認すると幸いにも水面より上であることは確認できたのでコクピットハッチを開ける。すると機体は沖合から少し離れたところに鎮座していた。
「うわ。最悪とは言い難いが、このままいたらコックピットも水没するな。」
周囲にあった岩に映えている苔の高さからそう判断をする。
「風も強いな。救援が来るまでは時間がかかりそうか。あの島に避難するか。」
大きくため息を吐くと避難用ボートとサバイバルキットをすぐに準備した。そしてボートに乗り込むとオールで漕ぐ。
周囲には機体の破片などが漂っており、船体にぶつかり揺れるが漕ぎ進む。
ついでに先ほどまで戦っていた白い機体、イルクオーレが鎮座していた。コックピットハッチには傷がついており、潮位が上がれば浸水するのは目に見えていた。
「このままでは満ち潮で溺れ死ぬか。どうしたものかなぁ。」
そう呟くがやることは既に決まっていた。
イルクオーレにボートを紐で固定し、コックピットハッチに飛び移る。ハッチを開けるのに苦労するかと思っていたが艦砲でコックピット周りのフレームが歪んでいたのでハッチはすんなりと空いた。
「子どもか。」
中に入っているとぐったりとしているパイロットを見てそうつぶやく。魔術師の人権が帝国よりも低い連邦のため、少年兵がいるのは割と当たり前のことであった。
(まぁ軍人なら助けないというのが正しいのだろうが子どもを放置して殺すのもなぁ……。)
アルバートはそう言い訳を心の中でしながらまずユリアの体をゆする。しかし反応が無いので生きているかだけ確認する。
(息はあるか。)
救出するためにサバイバルキットからハサミを取り出し、イルクオーレのシートベルトを切る。ついでにイルクオーレ内部にあったサバイバルキットも引っ張り出してユリアを連れて島に上陸した。
*
「機体の補給状況は?」
母艦であるコンゴウの格納庫でブライムはそう整備士に尋ねる。
「こちらは四時間くらいかかります。」
だがその答えはブライムの予想より時間がかかるものだった。
「予備機は無いのか?」
「ありますが、どのみちこの天候ではきついかと。」
ブライムは苛立たし気にゼウスを見上げる。
ブライムの隣でエミリアも自分のゼウスを見上げながら補給を終わるのを待っていた。
*
「ここは?」
ユリアが目を覚ますと目の前には焚火の明かりがまず目に入り、次に帝国のパイロットスーツが視界に入った。
そのまますぐに飛び起きホルスターから銃を抜こうとするがそれよりも先にアルバートは銃口を向けた。
「急に銃を向けようとするな。油断も隙も無い。」
ため息をつきながらアルバートは銃口のみを向け続ける。だが内心では幼年学校のときに映画に影響されて早打ちの練習をしといてよかったと思う。
「捕虜になる気はない。殺せ。」
ユリアがそういうとアルバートはもう一度、今度は大きくため息をつく。
「捕虜にする気はない。あぁ、言っておくけど尋問とかもするつもりもない。」
そんな下らんことをしてもなににもならないとばかりに彼は向けていた銃口を下げる。
「なら何故助けた。」
不機嫌そうに言いながら座りなおすユリアにアルバートはレーションを投げて渡すと答えを考える。
「そうだな。子どもをあんなところで見殺しにするのはどうかと思ったことくらいか。」
「私が子どもだと……!」
明らかに怒っている感じのユリアにアルバートは思わず肩をビクッと震わせる。しかも怒りはだんだんと殺気に変わっていた。
そしてその殺気はとても分厚いものだったのでアルバートが怖がるのも無理は無かった。
「そうだ。思い出した……。アルバート・デグレア、私は貴様より三、いや二歳年上だ!」
ユリアはそう言ってヘルメットを脱ぎ捨て結んでいた髪の毛をほどいた。
アルバートはユリアの整った上品な顔立ちに紅い瞳、きめ細かい白い肌、そして腰のあたりまで伸ばしたピンクのくせっけの無い髪を見て普段なら見とれているだろうなと思う。
「悪かった。体格だけで判断した。って待て、歳上?」
アルバートはユリアの身体をぶしつけにまじまじと見る。とてもではないが、十歳くらいの少女にしか見えなかった。
「失礼なやつだな。」
それに対して特に反応することなくアルバートは自分のレーションを探そうとサバイバルキットを漁る。
「それで、私の機体はどうなった。」
ユリアはふてぶてしくアルバートに懸念すべきことを聞く。
「それなら俺の機体と一緒に先程海に沈んだ。」
コックピットに海水が入っていたので、もう大破だろうなと思う。
「なら簡易キットは?」
「あぁ、それならお前のすぐ後ろに置いてあるぞ。」
その言葉に合わせてユリアが後ろを凄い勢いで振り向くと確かにあったのでほっとしながらもまたアルバートの方を向く。
「ところでなぜ俺のことを知っている?」
「同僚から聞いた。ダール少尉が面白いやつがいるって言ってお前の話をしていたと。」
「アインからか。」
「あぁ。面白いほど馬鹿なやつがいたと。」
「あいつは一体俺のことをなんだと思っているんだ。」
アルバートはそう不満そうにしながらも少し嬉しそうな顔をしていた。
「随分と嬉しそうなのね。」
「そりゃな。まぁあいつが俺のことをどう思っているが知らないが。」
「その割にはさっき殺そうとしていたわよね。」
「戦場だからな。それに俺も何度も殺されかけたし。」
アルバートはそういうと焚火で沸かしていたお湯を確認する。
「ハーブティ淹れたんだが、お前も飲むか?」
「えぇ。それじゃあいただこうかしら。」
普段ならば辺境伯の令嬢という立場からそういった飲み物は警戒していたユリアだったが、目の前のアルバートを見てそれは無いかという形で厚意を素直に受け取った。
「大分いい茶葉使っているのね。」
「あぁ。高級将校からもらったものだからな。」
正確にはエミリアからもらったものだが、それをいう必要もないかとアルバートもカップに口をつける。
「外の方は結構風が吹いているな。まぁそのおかげで水には困らないから助かるが。」
「そうね。」
ユリアも外の音を聞くとそうため息を吐く。
「それにしてもあんたの方は助けを呼ばなくていいのか?」
「それならサバイバルキットに発信機が付いているから問題ない。」
それを聞いたアルバートはこれはまずいんじゃという顔になる。
発信機が付いているということは下手すると自分が連邦に捕らえられるという可能性があるからだ。
「冗談よ。発信機は入っているけど折らなきゃ使えないわ。」
ユリアは自分の口調が優しいものになっているのに気付いたが気付かないふりをした。
「けど、もし今回みたいなことがあっても次からは敵のパイロットを助けるのはやめなさい。あなた下手したら死んでたわよ。」
だが次の瞬間にユリアは真顔で忠告をする。
これはユリアの本心だった。一方でなぜ自分がこんなことを言ったのか分からなくもあった。だがアインの友達だからと思うことにした。
「あぁ、分かっている。」
アルバート自身もそれは分かっていた。だから言われるまでもないといった感じでユリアを見る。
「まぁ、今回は例外だ。恐らく次はない。」
そう軍人らしい、死地を何度も乗り越えたからこそできる顔でそういう。
「そう、ならいいわ。次から私たちは敵同士。お互いに躊躇することは許されない。」
ユリアはそう言って立とうとする。
「待った。下手にこの洞窟から出ない方がいい。先程この周辺を確認したんだが、ここ動物出るぞ。」
アルバートがそういうとユリアは座りなおしアルバートが先程渡したレーションの蓋を何事もないかのように開けた。
*
「敵の前で良く寝ているな。」
洞窟の壁に寄りかかって寝ているアルバートからずり落ちた毛布を掛けなおす。
「いくら疲れているとは言っても、これは流石にダメそうな気もするが。」
もし彼が自分の部下だったら、こんなことをしたらしばくだろうが、そんなことを言う権利は無いかと考える。
それに疲れるのも無理はないかと思う。先程機体のある場所も案内されたが距離は数キロはあった。その距離を人一人運んだのだから疲労は大きいだろうと思う。
だからこそユリアには不思議だった。どうしてそんなことをしてまで敵パイロットを助けたのだろうと。
なんとなくユリアはアルバートの頭を撫でる。
(それにしても、デグレア。どこかで聞いたことがあるような。)
「……。」
当然のことであるがアルバートはその疑問に答えるなくリズム正しい寝息を立てていた。
だが先程アルバートが両親は死んでいるということを話していたのをユリアは聞いていた。
そして父親は軍人だったということからユリアは先程の疑問の答えを思い出した。
(そうか。お兄ちゃんが言ってたアレニス・デグレアの息子か。)
ユリアは十年前に死んだ自分の兄であるフィリップ・ベッソノワが言っていた言葉を思い出す。
(まさか息子と妹が戦う羽目になるなんて世間は狭いというけれど、本当にどこまで狭いんでしょうね。)
そう思いながら若干眠いなと思っていたらキャスターの音が遠方から聞こえた。既に明かりは自分たちの場所がわかることは無いというのは分かっていた。
だがどちらの軍かはまだ分からないため念のためアルバートを起こす。
「起きなさい。お迎えかもしれないわよ。」
「うるさいなぁ。」
なんかイラッと来たのでユリアはアルバートの頬を引っ張る。
「いっつ。」
アルバートもすぐに目を開ける。
そしてそのキャスターは島のあたりまで来るとライトを点ける。
「そっちのが先みたいだな。」
アルバートはキャスターから出ているランプの光から連邦の物だと判断する。
「えぇ。助けてくれて、ありがとう。」
ユリアが右手を差し出すのでアルバートも右手で握手に応じて一度手を握り合ったあと直ぐに二手に分かれユリアはそのライトの方に、アルバートは木陰に隠れるように移動した。
*
「すまないな、アズリト。」
ポルックスに回収されたユリアはアズリトにそう礼を言う。
「別にそれはいいけど。それにしても向こうから帝国のキャスターの反応あるけどどうする? やろうと思えば撃墜できるけど。」
「いや、疲れたから戻ってシャワー浴びたい。」
普段なら撃墜してしまえというユリアであったが珍しく反論するのでアズリトは少し驚くがそんなものかと思う。
「分かった。それで機体の方は?」
「それなら満ち潮で持っていかれないように爆破した。」
「そう。なら仕方ないわね。」
アズリトはそう言って機体を基地の方に向かわせた。
*
「悪いな、エミリア。それに隊長もありがとうございます。」
エミリアのゼウスに回収されたアルバートはそうエミリアと通信機越しにブライムに礼をいう。
『まぁ、状況が状況だから仕方ないだろう。それよりもあの敵の方はどうした?』
「そちらの方は分かりません。ただ敵のキャスターが一度あの島に上陸しているのでもしかしたら回収したのかもしれませんが。」
『そうか。』
ブライムはそう言って疲れているアルバートに気を使い通信を切った。
アルバートはそのままため息をつく。
「大分疲れた顔してるわね。」
「仕方ないだろう。いろいろサバイバルやらなければいけなかったんだし。」
「ところで本当に体に異常はないの? どこか痛いところとか。」
エミリアが心配そうにアルバートの顔を覗き込む。
「異常はないが体ならあちこち痛いぞ。」
「さっさとそれ言いなさいよ。」
エミリアはため息をつきながらもすぐに救急箱を取り出す。
「それでどこが痛いの?」
「首と腰。」
「腰は無理だけど首は今できそうね。」
エミリアはそう言って慣れた手つきでアルバートを抱き寄せる。そのときエミリアはアルバートのにおいと違うにおいを感じて一瞬手を止めるが直ぐに手を動かし湿布を張り付ける。
「まぁできるといってもこれくらいだけど。」
「湿布あるんだな……。」
「まぁ救護箱も医務室から借りてきたものだし。それよりも疲れたんでしょ? 少し寝たら?」
「そうさせてもらう。」
アルバートはそう言って目を閉じる。
そんなアルバートの頭を撫でながらエミリアは考える。
(流石に今は聞けないか、敵のパイロットを助けたのって?)
そのままアルバートをコンゴウに到着するまでエミリアは寝かせた。
気絶していたアルバートは声にもならない声を上げながら目を開ける。
しかし眼前には光はなく、今どこにいるかすら分からなかった。
「そうか、墜落して……。」
間抜けなことに味方の艦砲に当たった。
「とりあえず周りの状況確認か。」
機体を起動させようとするが、反応が全く無かった。
「これで水の中だったら最悪だな。」
非常用のカメラを繋ぎ周囲を確認すると幸いにも水面より上であることは確認できたのでコクピットハッチを開ける。すると機体は沖合から少し離れたところに鎮座していた。
「うわ。最悪とは言い難いが、このままいたらコックピットも水没するな。」
周囲にあった岩に映えている苔の高さからそう判断をする。
「風も強いな。救援が来るまでは時間がかかりそうか。あの島に避難するか。」
大きくため息を吐くと避難用ボートとサバイバルキットをすぐに準備した。そしてボートに乗り込むとオールで漕ぐ。
周囲には機体の破片などが漂っており、船体にぶつかり揺れるが漕ぎ進む。
ついでに先ほどまで戦っていた白い機体、イルクオーレが鎮座していた。コックピットハッチには傷がついており、潮位が上がれば浸水するのは目に見えていた。
「このままでは満ち潮で溺れ死ぬか。どうしたものかなぁ。」
そう呟くがやることは既に決まっていた。
イルクオーレにボートを紐で固定し、コックピットハッチに飛び移る。ハッチを開けるのに苦労するかと思っていたが艦砲でコックピット周りのフレームが歪んでいたのでハッチはすんなりと空いた。
「子どもか。」
中に入っているとぐったりとしているパイロットを見てそうつぶやく。魔術師の人権が帝国よりも低い連邦のため、少年兵がいるのは割と当たり前のことであった。
(まぁ軍人なら助けないというのが正しいのだろうが子どもを放置して殺すのもなぁ……。)
アルバートはそう言い訳を心の中でしながらまずユリアの体をゆする。しかし反応が無いので生きているかだけ確認する。
(息はあるか。)
救出するためにサバイバルキットからハサミを取り出し、イルクオーレのシートベルトを切る。ついでにイルクオーレ内部にあったサバイバルキットも引っ張り出してユリアを連れて島に上陸した。
*
「機体の補給状況は?」
母艦であるコンゴウの格納庫でブライムはそう整備士に尋ねる。
「こちらは四時間くらいかかります。」
だがその答えはブライムの予想より時間がかかるものだった。
「予備機は無いのか?」
「ありますが、どのみちこの天候ではきついかと。」
ブライムは苛立たし気にゼウスを見上げる。
ブライムの隣でエミリアも自分のゼウスを見上げながら補給を終わるのを待っていた。
*
「ここは?」
ユリアが目を覚ますと目の前には焚火の明かりがまず目に入り、次に帝国のパイロットスーツが視界に入った。
そのまますぐに飛び起きホルスターから銃を抜こうとするがそれよりも先にアルバートは銃口を向けた。
「急に銃を向けようとするな。油断も隙も無い。」
ため息をつきながらアルバートは銃口のみを向け続ける。だが内心では幼年学校のときに映画に影響されて早打ちの練習をしといてよかったと思う。
「捕虜になる気はない。殺せ。」
ユリアがそういうとアルバートはもう一度、今度は大きくため息をつく。
「捕虜にする気はない。あぁ、言っておくけど尋問とかもするつもりもない。」
そんな下らんことをしてもなににもならないとばかりに彼は向けていた銃口を下げる。
「なら何故助けた。」
不機嫌そうに言いながら座りなおすユリアにアルバートはレーションを投げて渡すと答えを考える。
「そうだな。子どもをあんなところで見殺しにするのはどうかと思ったことくらいか。」
「私が子どもだと……!」
明らかに怒っている感じのユリアにアルバートは思わず肩をビクッと震わせる。しかも怒りはだんだんと殺気に変わっていた。
そしてその殺気はとても分厚いものだったのでアルバートが怖がるのも無理は無かった。
「そうだ。思い出した……。アルバート・デグレア、私は貴様より三、いや二歳年上だ!」
ユリアはそう言ってヘルメットを脱ぎ捨て結んでいた髪の毛をほどいた。
アルバートはユリアの整った上品な顔立ちに紅い瞳、きめ細かい白い肌、そして腰のあたりまで伸ばしたピンクのくせっけの無い髪を見て普段なら見とれているだろうなと思う。
「悪かった。体格だけで判断した。って待て、歳上?」
アルバートはユリアの身体をぶしつけにまじまじと見る。とてもではないが、十歳くらいの少女にしか見えなかった。
「失礼なやつだな。」
それに対して特に反応することなくアルバートは自分のレーションを探そうとサバイバルキットを漁る。
「それで、私の機体はどうなった。」
ユリアはふてぶてしくアルバートに懸念すべきことを聞く。
「それなら俺の機体と一緒に先程海に沈んだ。」
コックピットに海水が入っていたので、もう大破だろうなと思う。
「なら簡易キットは?」
「あぁ、それならお前のすぐ後ろに置いてあるぞ。」
その言葉に合わせてユリアが後ろを凄い勢いで振り向くと確かにあったのでほっとしながらもまたアルバートの方を向く。
「ところでなぜ俺のことを知っている?」
「同僚から聞いた。ダール少尉が面白いやつがいるって言ってお前の話をしていたと。」
「アインからか。」
「あぁ。面白いほど馬鹿なやつがいたと。」
「あいつは一体俺のことをなんだと思っているんだ。」
アルバートはそう不満そうにしながらも少し嬉しそうな顔をしていた。
「随分と嬉しそうなのね。」
「そりゃな。まぁあいつが俺のことをどう思っているが知らないが。」
「その割にはさっき殺そうとしていたわよね。」
「戦場だからな。それに俺も何度も殺されかけたし。」
アルバートはそういうと焚火で沸かしていたお湯を確認する。
「ハーブティ淹れたんだが、お前も飲むか?」
「えぇ。それじゃあいただこうかしら。」
普段ならば辺境伯の令嬢という立場からそういった飲み物は警戒していたユリアだったが、目の前のアルバートを見てそれは無いかという形で厚意を素直に受け取った。
「大分いい茶葉使っているのね。」
「あぁ。高級将校からもらったものだからな。」
正確にはエミリアからもらったものだが、それをいう必要もないかとアルバートもカップに口をつける。
「外の方は結構風が吹いているな。まぁそのおかげで水には困らないから助かるが。」
「そうね。」
ユリアも外の音を聞くとそうため息を吐く。
「それにしてもあんたの方は助けを呼ばなくていいのか?」
「それならサバイバルキットに発信機が付いているから問題ない。」
それを聞いたアルバートはこれはまずいんじゃという顔になる。
発信機が付いているということは下手すると自分が連邦に捕らえられるという可能性があるからだ。
「冗談よ。発信機は入っているけど折らなきゃ使えないわ。」
ユリアは自分の口調が優しいものになっているのに気付いたが気付かないふりをした。
「けど、もし今回みたいなことがあっても次からは敵のパイロットを助けるのはやめなさい。あなた下手したら死んでたわよ。」
だが次の瞬間にユリアは真顔で忠告をする。
これはユリアの本心だった。一方でなぜ自分がこんなことを言ったのか分からなくもあった。だがアインの友達だからと思うことにした。
「あぁ、分かっている。」
アルバート自身もそれは分かっていた。だから言われるまでもないといった感じでユリアを見る。
「まぁ、今回は例外だ。恐らく次はない。」
そう軍人らしい、死地を何度も乗り越えたからこそできる顔でそういう。
「そう、ならいいわ。次から私たちは敵同士。お互いに躊躇することは許されない。」
ユリアはそう言って立とうとする。
「待った。下手にこの洞窟から出ない方がいい。先程この周辺を確認したんだが、ここ動物出るぞ。」
アルバートがそういうとユリアは座りなおしアルバートが先程渡したレーションの蓋を何事もないかのように開けた。
*
「敵の前で良く寝ているな。」
洞窟の壁に寄りかかって寝ているアルバートからずり落ちた毛布を掛けなおす。
「いくら疲れているとは言っても、これは流石にダメそうな気もするが。」
もし彼が自分の部下だったら、こんなことをしたらしばくだろうが、そんなことを言う権利は無いかと考える。
それに疲れるのも無理はないかと思う。先程機体のある場所も案内されたが距離は数キロはあった。その距離を人一人運んだのだから疲労は大きいだろうと思う。
だからこそユリアには不思議だった。どうしてそんなことをしてまで敵パイロットを助けたのだろうと。
なんとなくユリアはアルバートの頭を撫でる。
(それにしても、デグレア。どこかで聞いたことがあるような。)
「……。」
当然のことであるがアルバートはその疑問に答えるなくリズム正しい寝息を立てていた。
だが先程アルバートが両親は死んでいるということを話していたのをユリアは聞いていた。
そして父親は軍人だったということからユリアは先程の疑問の答えを思い出した。
(そうか。お兄ちゃんが言ってたアレニス・デグレアの息子か。)
ユリアは十年前に死んだ自分の兄であるフィリップ・ベッソノワが言っていた言葉を思い出す。
(まさか息子と妹が戦う羽目になるなんて世間は狭いというけれど、本当にどこまで狭いんでしょうね。)
そう思いながら若干眠いなと思っていたらキャスターの音が遠方から聞こえた。既に明かりは自分たちの場所がわかることは無いというのは分かっていた。
だがどちらの軍かはまだ分からないため念のためアルバートを起こす。
「起きなさい。お迎えかもしれないわよ。」
「うるさいなぁ。」
なんかイラッと来たのでユリアはアルバートの頬を引っ張る。
「いっつ。」
アルバートもすぐに目を開ける。
そしてそのキャスターは島のあたりまで来るとライトを点ける。
「そっちのが先みたいだな。」
アルバートはキャスターから出ているランプの光から連邦の物だと判断する。
「えぇ。助けてくれて、ありがとう。」
ユリアが右手を差し出すのでアルバートも右手で握手に応じて一度手を握り合ったあと直ぐに二手に分かれユリアはそのライトの方に、アルバートは木陰に隠れるように移動した。
*
「すまないな、アズリト。」
ポルックスに回収されたユリアはアズリトにそう礼を言う。
「別にそれはいいけど。それにしても向こうから帝国のキャスターの反応あるけどどうする? やろうと思えば撃墜できるけど。」
「いや、疲れたから戻ってシャワー浴びたい。」
普段なら撃墜してしまえというユリアであったが珍しく反論するのでアズリトは少し驚くがそんなものかと思う。
「分かった。それで機体の方は?」
「それなら満ち潮で持っていかれないように爆破した。」
「そう。なら仕方ないわね。」
アズリトはそう言って機体を基地の方に向かわせた。
*
「悪いな、エミリア。それに隊長もありがとうございます。」
エミリアのゼウスに回収されたアルバートはそうエミリアと通信機越しにブライムに礼をいう。
『まぁ、状況が状況だから仕方ないだろう。それよりもあの敵の方はどうした?』
「そちらの方は分かりません。ただ敵のキャスターが一度あの島に上陸しているのでもしかしたら回収したのかもしれませんが。」
『そうか。』
ブライムはそう言って疲れているアルバートに気を使い通信を切った。
アルバートはそのままため息をつく。
「大分疲れた顔してるわね。」
「仕方ないだろう。いろいろサバイバルやらなければいけなかったんだし。」
「ところで本当に体に異常はないの? どこか痛いところとか。」
エミリアが心配そうにアルバートの顔を覗き込む。
「異常はないが体ならあちこち痛いぞ。」
「さっさとそれ言いなさいよ。」
エミリアはため息をつきながらもすぐに救急箱を取り出す。
「それでどこが痛いの?」
「首と腰。」
「腰は無理だけど首は今できそうね。」
エミリアはそう言って慣れた手つきでアルバートを抱き寄せる。そのときエミリアはアルバートのにおいと違うにおいを感じて一瞬手を止めるが直ぐに手を動かし湿布を張り付ける。
「まぁできるといってもこれくらいだけど。」
「湿布あるんだな……。」
「まぁ救護箱も医務室から借りてきたものだし。それよりも疲れたんでしょ? 少し寝たら?」
「そうさせてもらう。」
アルバートはそう言って目を閉じる。
そんなアルバートの頭を撫でながらエミリアは考える。
(流石に今は聞けないか、敵のパイロットを助けたのって?)
そのままアルバートをコンゴウに到着するまでエミリアは寝かせた。
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