お子さ魔王は引き籠れない!

まんどう

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感動の……再会?

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 しばらくして応接間に通されてきたのは……丸っこい、ころころふくふくとした幼女だった。お子さ魔王は「んん??」と首を傾げる。どうやら想像してたご令嬢の姿とは違っていたらしい。しかし肝心の当の二人も、何故か相手を認識できずにいた。え? ここに来て影武者? とか、変な方向に想像していると、ロドがおずおずと娘に話し掛けるのだった。

「……え? ま、りあ……なのか?」

「!? 父ちゃん!!」

 困惑しながらも、自身の子の名を口にすると、声を聞いたころころの幼女もようやく反応を返すと、ロドの下へと走り寄ってくるのだった。

「おいおい! 何だよお前ぇ……。こーんな丸っこくなっちまって……」

「ここのご飯、すっごく美味しいんだよ! ……父ちゃんこそ、こんなぺっちゃんこになっちゃって」

 どうやらお互いに栄養状態が良過ぎたり悪過ぎたりしたらしく、見た目が大きく変わっていたようだ。最終的に互いの発する声が決め手となって、ようやく互いを判断できたらしい。思わずお子さ魔王は、際限なく飲み食いさせた元凶であろう侯爵と執事にじっとりとした視線を送り、それを察した二人はふいっと顔を逸らすのだった。
 そんなどうでもいい外野の遣り取りの最中も、親子の大事で真面目な会話は進んでいく。

「なぁマリア? ……いや、マルグリッタ様」

「!?」

 いつも自分を呼んでる名とは違う別の、貴族の名を敬称を付けて呼びかける父。まるっこい幼女は、否応なしに感じる距離感で目に涙を溜める。

「もう聞いてんだろ? 俺らが本当の親子じゃないって」

「……ぐずっ(コクン)」

「だからお前はこれからは、ここのご当主様の孫娘、お嬢様として生きていくんだ」

「……ふっ、ううっ、っぶ」

 暗に、もう自分はお前の父ちゃんじゃ居られない、そう教え諭していくロド。そうやって全部を聞かされないにもかかわらず理解している辺り、ポロポロと涙をこぼすまるっこい幼女は賢いのだろう。……が、次の言葉が幼女の涙のその意味を変えた。

「でもな? これでお別れってわけじゃねえ。父ちゃんも、ここで働けるようになったんだぞ?」

「!? ……ぶぉんどうっ!?(ぐずっ)本当? ……ですか? お祖父様?」

「ああ、本当だとも。流石に人前では、これまでのような親子として過ごさせるわけにはいかないがね。しかし、社交界にデビューする迄の間位は、二人で過ごせる時間も作ると約束しよう」

「!? ありがとうお祖父様!! ありっ、うっ、ぶっ、ぶわああああんっ……」

 祖父の言葉を聞いたマルグリッタは、感情を抑え込めなくなって号泣し始める。ロドはそれを優しく抱き寄せると、まるっこい幼女は離して堪るかとばかりに力の限りしがみついて、父の胸に顔を埋めるのであった。苦い顔をしていた執事も、どこからどうみての親子でしかない二人の様子に、困ったような表情のまま顔を綻ばせる。この執事、凄く面倒臭い奴なのである。

「うむうむ、正に親子の姿であるな。……そう思わぬか?」

「全くですな」

「……ええ」

 まん丸になるまで食べさせた事でじっとりとした視線を浴びたことなど無かったかのように、好々爺然としてにっこりと同意する侯爵。執事の方は渋々ではあるが同意するが、その表情はゆるゆるに苦さを足したみょうちくりんな表情である。……まるで娘婿を嫌う男親のようである。おお、こっちのがしっくり来た!

「何はともあれ、一見落着したようだのぉ」

「ええ、ええ。本当に良かったですねぇ。……(一つ貸し、大きな貸し、ですからねぇ? ま・お・う、様?)」

 一仕事終えたとばかりに満足そうに呟く魔王の耳元で、へんた……いや、やり手の商人たるレグインが同意しつつ、そっと近寄って耳打ちする。

「ふぉっ……結局の所、儂一人だけがただただ損をしただけじゃったのぉ……」

 あちらの歓喜の涙に対し、こちらの心の中で流れるのは純粋な嘆きの涙である。いい感じに話を纏めた割に、自身は何とも哀れな結果になった自称魔王様なのであった。


 ………
 ……
 …


 泣き疲れて眠ってしまったマルグリッタを、今日は特別だと執事がロドを彼女の部屋まで案内している間、お子さ魔王は侯爵の昔話に付き合っていた。

「ふむ。……難しいものよの。話を聞くに、別に喧嘩別れでも何でもないではないか」

「そうなのだ。力を試したいなら好きにやれ、そう背中を押したつもりだったのだが……大成せぬ内は帰れぬと意固地になられてしまってな」

 どうやって侯爵が、我が子と今生の離れとなったかの話であった。簡潔にまとめると、武の才が見込めなかった嫡男であったが、侯爵はその事について否定的な事を言ったりはしなかった。むしろ武者修行に出たいと家を出る息子を、気の済むまで頑張ってこいと応援さえしていたらしい。しかし時が経つにつれ、憔悴していく息子にそろそろ帰ってこいと諭したのだが耳を貸さず、風の噂で行き倒れたと耳にして酷く後悔したそうだ。あの時、無理矢理にでも家に縛るべきであったと。

「そのように聞いておったので、まさか子供が居た等とは露知らず……」

「ふむ……母御の事もロドとやらに聞いておくのが良かろうな」

「ああ、そのつもりだ。……リオルドは武人としては大成できなかっただけなのだ。帰ってくれば如何様にでも職を見つけてきたというに……」

「案外、武人としての父を慕っておったのかものぉ。じゃから自分にその力が無い事が、余計に辛かったのやも知れぬ」

「……馬鹿者め。……いや、馬鹿は私か。ちゃんと話し合えば良かったのだろうな」

「そうじゃのぉ」

 侯爵は目を閉じ思案し続けていた。やがておもむろに目を開くと、居住まいを正して自称魔王に頭を下げる。

「……改めてザンクエニア殿。バルナジオの暴走をお教え頂き、真に感謝する。大恩ある相手を……いや、あの子の親を知らずの内に、孫から遠ざけるところであった。恩人にも孫にも……果ては今は亡き息子にまで恨まれるところであったよ」

「うむ、そうじゃの。ま、儂が絡んだのはたまたまの気紛れじゃ。気にせんでええ。儂の事は聞いておるんじゃろう?」

「王よりしかと」

「ならその話の通り、礼も何も要らぬ。ただ黙っておれば良い」

「しかし……」

「やめいやめい。ほんの気紛れじゃというておろう? ……おお! ちょうどよ……ではなく、どうしてもというなら今回のキーであったのはこの男共じゃから、こちらに便宜を図ってやると良い」

 お子さ魔王は礼を突っぱねるも、尚も食い下がろうとする侯爵に生贄を差し出すのであった。

「うえっ!? 何で俺!?」

「おやおや。丁度良いって言いかけましたね?」

「……気のせいじゃ」

 3人の様子に侯爵は少し驚きながらも、ザンクエニアに対してしっかりと了承の意を示す。

「……心得た。何かあれば力になると約束しよう」

「そうせえそうせえ」

「ええぇ……」

「……(に――っこり)」

(ひぃっっ!?)

 魔王より怖い男はごまかせなかった! 満面の笑みでお子さ魔王を覗き込むと、クチパクで

「(貸しは貸しです。びた一文まかりません)」

 と念押ししてくるのだった。

(うぅっ、ぬうううぅぅぅ!!)

 融通の聞かない男に内心地団駄を踏み鳴らすが……どうなるわけでもない。
 そしてしばらく経ち、侯爵との話もネタが尽きてくる。そこでそろそろ暇をと、ちんちくりんが腰を上げると、

「魔導師様ぁ!」

「走るんじゃない!」

「すんません! 大事な事なんです!」

 応接間のドアが勢い良く開かれ、露店の店主が転がり込んできた。

「おうおう、騒がしいのぉ」

「魔導師様! これ、貴方のポーチです! 本っ当に! 有難う御座いました!!」

「おう、我が下へと帰ってきたか。……む? キレイになっとるの?」

 哀れにも、露店の店主の八つ当たりで地面に叩きつけられたポーチであったが、土埃一つついていなかった。

「……すみません、叩きつけちまって」

「よいよい。ちゃんとキレイにしてくれたのじゃから許そうぞ」

 取り戻すことを若干諦めていたのでお子さ魔王は気分が良かった! そして男は懐から何やら取り出して、ちんちくりんに向かって差し出す。

「それと、これを……」

「ん? おお、これはあの本か。別に儂は必要としておらんのじゃが……良いじゃろう。金貨150枚じゃったか?」

「お代なんて頂けませんて!」

 とんでもないと突き返そうとする男だが、自称魔王はやんわりと諭すのだった。

「ええから取っとけ。娘には必要なくなったかもしれんし、今のお主にはこれから給金も出よう。が、何かあった時には、娘を守ってやれるのはお主しかおらんのじゃぞ?」

「!? ……ありっ、がとう」

 お子さ魔王の不意打ちに、男が涙をこぼしそうな顔になる。だがそれをしっし、と追い払うかのようにお子さ魔王は素気ない態度を取る。

「ほれほれ、行った行った。娘っ子の涙はともかく、男の涙なんぞ要らんわい」

「(コクリ)」

 泣き笑いのような表情を浮かべた男は、深く深くお辞儀をしてから……執事に引っ立てられていった。

「……あいつ大丈夫かな?」

「まぁ、貴族の家の使用人としては、マナーも何もあったもんじゃなかったからのー」

「しかし相変わらず酷いな、俺の雇い主は」

「そうじゃぞー、本当は酷いんじゃぞー儂はー」

 そんなお子さ魔王にサイラスは苦笑いを返すと、身を屈めておチビが肩に乗るのを待つ。

「よし、ではギルドへ戻るぞ!」

「了解だ、雇い主殿。侯爵様、行儀の悪い格好で申し訳ありませんが、このままで失礼します」

「うむ。その方の言い分では君にも世話になったようだ。いつでも頼ってきたまえ」

「……侯爵様程の方に頼らざるを得ない事態はゴメンですけど、覚えておきます」

 サイラスは顔を引きつらせながら部屋を後にする。その際、侯爵と魔王は目と目で何かを確認しあっていた。

「では、私もこれで失礼致しますねぇ」

「ああ、君にも世話になった」

「あの方のためですから。ええ、あの方の、ため、ですから」

(ぃやめて!? 何であいつ、わざわざ儂を全面に押し出すの!? マジで……マジであいつ苦手じゃあああ!?)

 サイラス髪の毛を鷲掴みにしつつ、心の中で悲鳴を上げるお子さ魔王なのであった。


 ……これは後にロドに聞いた、リオルドに関する話である。

 侯爵の息子リオルドは、ロドの幼馴染であり妹分だったエリーという女性とくっついたらしい。リオルドは面倒見の良い博識な男で、ロド達平民の暮らしを少なからず良くしてくれたのだとか。そのため、エリーと結婚した時や子供ができた時には、皆で祝うほどに仲は良かったらしい。しかし、エリーは産後の肥立ちが悪く体調を崩し、リオルドは食料や薬を買う金を求めて無理をし、ある日を境に戻らなくなった……というのが真相だったようだ。結局エリーも追うように帰らぬ人となり、その妹分のたっての願いでロドがマリアことマルグリッタを育てることとなった。独り身のロドだけでは荷が重い話ではあったが、リオルドに恩のあるものは多く、皆に支えられていたそうだ。
 この話を聞いた侯爵は何故頼ってくれなかったのかと、しばらく落ち込むこととなる。
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