お子さ魔王は引き籠れない!

まんどう

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ギルドにて

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「ようやく帰ってきたのぉ!」

「ああ、本当にな」

 お子さ魔王が思わず歓喜の叫びを上げると、しみじみと言った感じでサイラスが追随する。

「……のお? 半分は誰のせいじゃろうか?」

「……」

 がっしとサイラスの頭を捉えて肩の上の自分の方を向けさせて、逸らさせないように力を込めるお子さ魔王。サイラスは抗えない! 意外に力が強いぞ、このお子様は! しかしサイラスの方も諦め悪く、何とか視線を逸らし続けて抵抗している!

「ぬぎぐ……! ……ま、ええわい。ええもんも見られたことじゃし。……儂の尊い犠牲によって、の」

「わ、悪かったよ。あんたがまたここに来ることがあれば、足でも何でもするから勘弁してくれ」

 力を抜いた自称魔王が、自虐的で暗い笑みを浮かべて斜め下の方を見る様に、流石に罪悪感に耐えられなくなったのか、サイラスは機嫌を取ろうと謝るのだった。

「ふんっ、そんなの当然じゃわい」

 ふくれっ面でぺちぺちとサイラスの頭を叩く、お子さ魔王。そんなある意味微笑ましい雰囲気も、ギルドの中に入った所で霧散してしまう。それ位、ギルドの中には張り詰められた空気であったのだ。

「何じゃい? この雰囲気は」

「……? さぁ、何だろうな? まるで災害級の厄介事が飛び込んできたかのような物々しさだな」

「……へっ?」

 災害級という単語を聞いて自称魔王の挙動がおかしくなるが、周りの様子を気にしているサイラスは気付かずに話し掛ける。

「うん? 知らないか? 災害級の事象やモンスターが現れた際は、ギルド全体で当たることになるから、何となく物騒な雰囲気になるんだ」

「ほ、ほー……」

 内心ダラダラと汗をかく、自称魔王。どんなに害のない魔王であっても、大抵は災害級にカテゴライズされる。つまり、お子さ魔王はこの事態が自分のせいではないかと心配しているのである。

「しかし何が……」

「ザンクエニア!」

「ふわっ!? な、何じゃ!」

 ギルドの奥より飛び出してきたゴリゴリなマッチョの男性が、自称魔王を見つけ……られずに、とりあえずと言った感じで大声で名を呼び、辺りをキョロキョロと見渡していた。どうやら誰かが、ザンクエニアが帰ってきたと報告したからのようだ。

「あ、副長」

「む? おお、サイラスか。ということは……ぬぅ!? お前が! ……ザンクエニア……か?」

「そ、そうじゃ! なんじゃい! いきなり!」

 大きな声で呼ばれたもんだから、内心心臓バクバクなのを全然隠しきれていないザンクエニアことお子さ魔王は、とりあえず強がってみせる。しかし副長は、確信が持てないような素振りで、何度もジロジロと自称魔王を観察する。

「……報告通りの容姿、か。……むぅ。ギルド長の言う通りという事か?」

「お主! 儂の名を! 呼んでおいて! 無視するとはどういうことじゃ!?」

 お子さ魔王を放ったらかしで何やら思案する副長とやらに、流石のお子様も腹を立てて抗議するが、

「(ギロリンヌッ!)」

「(うひっ!?)」

 思いっきり睨まれて、思わずサイラスの頭にしがみついたのだった。

「……ギルド長がお呼びだ。お前だけ来い」

「ななな、なんでじゃ!? こ奴は儂の足じゃ! 行くならこ奴、みょおぉっ!?」

「代わりに俺が運んでやる」

 ぺいっとばかりに、しがみついていたはずのサイラスから引き剥がされると、ゴリマッチョの方に担がれて暴れるお子さ魔王。何処からどう見ても、事案発生の図である。

「……待たんか! 儂は荷物じゃな……サイラース!」

「すまん! 何でも力になると言ったが、ギルドは敵に回せないんだー!」

「この薄情者がーっ!」

 頼みの綱はお主しかおらんとばかりにサイラスの名を呼ぶも、サイラスは組織の和を尊んじたのである。お子さ魔王の心中や如何に!


 ………
 ……
 …


(ううう、何で儂がこんな目に)

 ゴリマッチョから逃げ出そうとするも、がっちりホールドを決められた挙げ句、暴れる度に締め上げられるものだから、危うく色々なものを撒き散らすところだったお子さ魔王。途中で諦め、ぐったりしたまま運ばれていく様子は、狩られた獲物のようだったという。道中、他の職員とすれ違う度に、ぎょっとした表情を浮かべた職員達。お子さ魔王のドナドナされる仔牛の如き瞳に、思わず手を差し伸べそうになるものの、その度に副長の睨みつけてくる剣幕に悲鳴を上げて固まり、結局見送られるだけであったのも堪える要因であった。

(救世主ならぬ救儂主きゅうわっしゅはおらんのか……)

 残念ながらそんな言葉は存在しない。勿論のことながら、最後まで救いの手が差し伸べられることもなかった。
 ゴリマッチョと共にギルドの応接室につくと、割と紳士的にソファには座らせてもらえるのだった。……途中の締め付けにより、ぐったりとして身動ぎ一つできないとはいえ! である。そのままぐでーっとした状態で、ゴリマッチョに監視され続け、息の詰まるような時間(ほんの十数分)が過ぎると、ようやくギルド長が応接室にやってくるのだった。……よく待たされる魔王である。

「やぁ、待たせたね。ザンクエニア殿」

「……はぁ、人を呼びつけておいて待たせよってからに。……にしても、今も変わらず優男が長を努めておるのか」

「僕だってギルド長になるための努力はしてきているんだよ。それに割ときついんだよ? 相手は選べない・・・・・・・からね」

「らしいのぉ。じゃが、たまには大当たりもあるんじゃろう?」

「それはね。……ま、どんな凄い子だって、最初は可愛いもんだよ」

「うわぁ……こ奴、真性じゃったかぁ。……じゃあこのイカツイのは、特殊な嗜好の持ち主用ってとこかの?」

「そうなるね」

「………………」

 ギルド長にはとある理由・・・・・から、大抵は優男が据えられていた。勿論結果を出してきた人物しかなれないため、中身は相当な実力の持ち主であり、かつ強くなり続ける努力も惜しまぬ愚直さが求められている。尚、この応接室での話は、ギルドの裏まで知るものにしか分からぬ会話であった。

「で、儂を拉致った理由を聞かせてもらおうか?」

「理由? ……は、特には無いね?」

「………………は? っはぁああ!? 何じゃそりゃ!」

 まさかの理由無しに、お子さ魔王、大絶叫である。

「僕が君に興味があったから、かな? 強いて挙げれば、だけどね」

「(パクパク)」

 目の前の優男が語るに、自称魔王が拉致られて酷い目に遭ったのは、何の意味もないのだという。挙げ句、お子さ魔王は長い間ゴリマッチョの監視の下、息の詰まる思いをしながらも、意味なく待たされたのだと。であれば、あの力づくで抑え込まれた苦痛は何だったのか。あんまりな言い分と現実にお子さ魔王、言葉も出ない。……若干涙目である。

「ごめんね?」

「ふっざけんなー! こんなとこ! もう嫌じゃ! 儂は帰る! とっとと帰る! 邪魔するでないぞ!?」

「どうぞどうぞ。……また・・ねー」

「ぃやっかましい! 又があって堪るか!」

 お子さ魔王はぷりぷり怒りながら、腹いせで力任せに扉を閉めるも、ゴリマッチョが音もなく受け止めて静かに扉を閉ざした。その様子にむっきーと地団駄を踏むが、それ以上は特に何をするでなく、ぷりぷりしながらホールへと向かうのだった。魔王が遠ざかる様子を窺っていた副長は、ギルド長に確認を取る。

「帰して良かったのですか?」

「うーん? ま、協力が必要になるとしても今すぐって話じゃないし。それに本来、彼の魔王様に関わりのないことだからねぇ。手伝ってもらえるか、ともなれば話は微妙だよ」

 ギルドの抱えてる問題だろうか、手伝ってもらいたい何かがあったようだ。それはきっととびきりの厄介事に違いないだろう。特に引きこもりたいお子さ魔王にとっては!

「……魔王。初めはあの見た目で災害級の驚異だということを意識の外へと追いやってしまいましたが、触れてみて分かりました。とんでもない魔力量ですな。思わず手加減無しで締め上げてしまいましたが……」

「えぇ……? 流石にそれは可哀相かな……。話では人嫌いではあるけど、気の良い人物らしいから。実際、こちらの横暴にも、可愛らしく怒るだけで済ましてくれてるだろ? それに魔王と言っても、普段は自身の山に訪ねてくる相手にしか魔王を名乗らないらしいし……。あの子が魔王なのは一部の実力者だけが知る、公然の秘密ってヤツだね。でもそっかぁ。そんな事しちゃったのなら、是非にでも今度謝らなきゃねぇ。
 あと彼の魔王様の実力の方だけど……僕でも魔力の底を測りきれなかったよ」

「……ギルド長がですか!? ……恐ろしいですな。宮廷魔術師共の査定すらこなされる貴方でも探れないとは」

 二人の会話から、あの自称魔王をただ呼んで返しただけではなかったらしい。実力まで測っていたのは、何の理由があったのか……。

「先代の副長が居てくれたら多少は話は弾んだかも知れないけど、絶対会いたくないって言われちゃったからねぇ?」

「先代程の猛者でも恐れる存在、ということなのでしょうか?」

「う~ん? どうだろ。あの人のことだから、案外どうでも良いような詰まらない理由かも知れないけどね」

「……」

 話の中の副長は、ギルドのトップたる二人も頼りにする程の豪傑らしい。が、何故かちんちくりんの自称魔王には会いたくないと駄々をこねているようだ。まぁそんな事は、お子さ魔王の知ったことではないだろう。
 そのお子さ魔王はというと、ホールに戻ってむっつりとした表情をサイラスに向けていた。

「お、あんた無事だったのか」

「うっさいわい! この裏切り者が!」

 サイラスが軽い感じで声を掛けるも、態度が気に入らなかったのか、むっつりから一転、怒り爆発とばかり怒鳴りつけるお子さ魔王。強面がお子様に叱られる図は何とも言えないものがある。

「そ、そう言うなよ。組織の一員としては上にはそう逆らえるもんじゃねえって」

「ふん! ……もし奴に連れて行かれた儂が、何か危険な目に遭っていたなら、どうするんじゃ!?」

 鬱憤の溜まっていたお子さ魔王は、こればかりは聞かずにおれんとばかり、サイラスに意地の悪い質問を投げかける。……が、

「そりゃあ助けるさ」

「それがギルドの上の連中が相手であってもか?」

「勿論。当然だろ?」

(ふっ……即答しよった。そうじゃな、こ奴はそういう奴じゃ)

 この答えにようやく溜飲を下げたお子さ魔王は、小さく笑ってみせたのである。そんな雰囲気を感じ取った、できる大人なサイラスはここで軽口を叩いてみせる。

「……っつか、あんたが無理な相手を俺がどうこうできるとは思えんのだが?」

「まぁのぉ……お主は弱いからの」

「否定は……できないな」

「ちぃと位は強がって見せんかい」

 そしてしばらく二人で笑い合うのであった。

「よし、裏切り者は十分弄ったことじゃし、儂は帰るとするわい。おーい、キノコ娘ー」

「キノコ娘って……」

「名前聞いておらんし」

「またか……」

 やれやれと頭をかくサイラスの後ろから、キノコ娘ことマイコニド娘が近寄ってきた。……あれ? 同じか? それはともかく、求められたと思ったのか、自己紹介を始めるマイコニド娘。

「私はリフィと申しますぅ」

「そうか、リフィか。ではリフィ、行くかの。それじゃあまたの、裏切り者」

「おいおい、最後までそれか……」

「では失礼致しますねぇ」

 サイラスのぼやきに後ろ手に振ってみせるだけで、振り返りもしないお子さ魔王。一方マイコニド娘のリフィは丁寧にお辞儀をしてから魔王の後を追い、サイラスは二人の後ろ姿を見送った。街で出会い、短くも濃い時間を過ごした二人の別れは、あっさりしたものであった。
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