お子さ魔王は引き籠れない!

まんどう

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終わり良ければ……良ければ?

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「で、あの宮廷魔術師長のことだが……」

「要らん、阿呆に興味ない」

「そうか……」

 脂ギッシュの末路について、ぺりりんが口を開きかけるも、お子さ魔王は話を強制終了させた。何時もは自分がそっけない態度を取っているくせに、自分がそれをされると微妙にしょげるぺりりんなのである。一方のお子さ魔王はというと、なにやらもじもじしながら、妙な作り笑顔で姫ににじり寄るのであった。

「で、じゃ。のう、姫さんや? 儂、事件、片付けたよな?」

「うん。魔王は父様の恩人」

「じゃったら、の? あれを、の?」

「?」

 お子さ魔王、ご褒美頂戴とばかりに両の手のひらを差し出しギブミーポーズ! このいやしんぼさんめ!

「ほれ! 本当は分かっておるんじゃろ!? 至宝を儂に! さぁ、早く!」

「駄目」

「………………えええ!? ここへ来てそれ!? 何でじゃー! 儂、役に立ったじゃろうが!?」

 しかし姫からの返答は、まさかの「ノー」。これにはお子さ魔王、全身で不満を表すのだが……

「でもあれはセプタキメラのコアと交換」

「………………なんじゃってー!?」

 セプタキメラのコアを要求する姫に、お子さ魔王渾身の驚愕ポーズ! しかし一縷の望みを託し、ぎぎぎとぺりりんに顔を向けて視線を送る! ……が、

「諦めろ魔王。この国では契約が全てだ。故に、お前が姫と取り交わした約束がコアとの交換である以上、姫は絶対に折れたりしない」

「な、なんと……ぐすん、儂、なきそうじゃ」

 あれだけ国王に傾倒していたぺりりんなら、その国王を救った自分の味方になってくれるかも!? と思ったお子さ魔王だったが、そのぺりりんからもまさかの「ノー」が帰ってきた。しかも、びた一文まからんというその理由付きである。変えがたい事実を突きつけられたお子さ魔王、涙目である。

「既に涙目……」

「泣き、そう、じゃ! だから! まだ! 泣いてないわい!」

「何だその理屈は。……理屈の通らない辺り、見た目だけじゃなく中身もお子様そのものじゃないか」

「やっかましいわ!」

 わちゃわちゃ手足を振り回すその様子はもう、癇癪起こしたお子様の姿以外の何物でもなかった。ぺりりんがこれをどうあやそうかと頭を悩ませていた所に、姫がお子さ魔王に何かを投げてよこす。

「ほいっ魔王」

「なんじゃ……っ!? って危ないのう!? いきなりものを投げて寄越すんじゃな……ぁんじゃとぉ!? こっ、こここ、これわっ!?」

 投げて寄越してきたことに思わず抗議するお子さ魔王であったが、その品を見て顔色を変えた。どうやら手に入りにくい、珍品の部類であったようだ。手渡された……というか投げ渡された以上、恐らくはくれるものではあったのだろうが、価値を知るお子さ魔王は確認しないわけにはいかなかったらしい。

「の、の、のう? これ、は、儂に、くれるん、かの?」

「(コクリ)」

「おおっほー!? お主、良い奴じゃな! 先だって偽物掴まされたと分かった時には思わず涙したもんじゃが、こうして真品が手に入ったのであれば、あの悲しみもちゃらじゃのー!!」

 どうやらそれは、姫がお子さ魔王の小屋の家探しをした時に見つけた偽物と同じものだったらしい。お子さ魔王は金に困っていないが、それでもお高いもの多くは数が少ない珍品で、それ故に自ら出向かなければならない確率が高い。投げ渡された物はその類いの物であった。しかし、騙されたということはチャラにして良いものなのだろうか……。

「おいおい、正気か? あれ、幾らすると思ってるんだ……」

「父様の命とあんなもの・・・・・を天秤にかけられる?」

「無理だな。セプタキメラのコアでさえ霞む。って……ああ、だからこそのあんなもの・・・・・扱いなのか」

「うん、そう」

 その珍品はぺりりんの見立てでも相当高価な代物らしかった。しかし、天秤にかける対象が王だったと分かると、あんなもの・・・・・扱いも納得できたのである。

「セプタキメラのコアも待ってる」

「ふぉっ……? なんと!? あの契約も生きておるのか!? ……そっちは流石に運次第じゃが、見つけたら持ってくるでの! 誰にもやったりせぬようにな??」

「分かった。約束」

 手に入らないと思っていたハイエンシェントドラゴンの鱗も、契約は生きていると聞かされて小躍りするお子さ魔王。何でしょうね、その踊りは。まるっきりお子様ですよ。とういうか元々1、2ヶ月でどうにかするという話ではなかったですかね? ブラフ?

「よっし! ……よっしよっしよっし! この国来てよかったわい!」

「ん、そう言ってくれると嬉しい。又来て」

「そうじゃな。欲しいものがあったら来ることにするでの。特に交渉事は任せたいんじゃよな」

「任された」

 こうしてお子さ魔王、レグインに続いて別口で珍品取引の窓口を得るのであった。小さな国がレグインに睨まれれば厄介なことになるだろうが、商いを生業として成り立つ商国である。国王次第で国が荒れる内情があるとは言え、本来はレグインも無視できないレベルの国であるのだ。それを知るお子さ魔王は、内心レグインに対してほくそ笑みながら、姫達に向かい満足気な様子で別れを告げるのであった。

「うむうむ。ではまたの!」

「ばいばい」

 姫が手を振ると、お子さ魔王の姿は滲んでかき消えてしまった。何ともあっさりとした別れである。

「……何だ。あっさりと帰って行ったな」

「ん、そんなもの。あれは人の営みに興味がない。昔の文献にもそうあった」

「そうなのか? ……そうか、そんなものまであったのか。だからお前は……」

 突拍子もない行動と思われていた姫の魔王探訪の旅には、少なからず根拠があったことに驚くぺりりん。

「父様がいれば安心。またみんな、昔のように頑張れる……」

「そうか……そうだな」

 何だか良い話で終わりそうである。……が、そうは問屋が卸さない!

「良い話で終わろうとしてるところ申し訳ありませんが、姫にお話がございます。ペリストン、お前もだ」

「うっ……」

「仕方ありません。覚悟はできております」

 騎士団長の有無を言わさぬ圧力に、姫は逃げ切れなかった! 一方のぺりりんは覚悟完了だった!

「つきましては姫の無断の出奔についてですな」

「むう、人聞きの悪い。書き置きはした」

「『少し出てくる』が、ですかな? それで二週間ばかり姿を消したと? ……対外的には逃亡と捉えられてもおかしくない行為ですぞ! そしてペリストン、お前の本職がたとえ文官であろうとも、指揮官として出向いたならばその責務は全うしてもらわねば困るな。そもそも二人は……」

 騎士団長の説教はこれからだ! なお置いてけぼりにされた騎士隊長も何時の間にか舞い戻っており、お説教の場にしれっと同席していたりする。あれかな? 良い気味だとか思ってんだろうか?


 ――その頃

「……ええ、はい、そうなります。くだんの人物は知恵こそ貸してはいたものの、特に何かをしてはおりません。はい。……わかりました。……では」

「どうでした?」

「ええ、例の人物に関しては、今も昔も変わりなく、とのことでした。今後も対応が変わることはないでしょう」

 大魔法協会の女性職員が、お子さ魔王について本部に連絡を入れていた。お子さ魔王の現状確認も、彼女達の仕事であったようだ。

「……あれで魔王なんですよね? いえ、実際身震いするような凄い魔力を内包してましたけど! 隠してるようでしたが怖かったです! ……っていうか、何で自称なんです? 紛れもなく魔王なんですよね?」

「彼の者は眷属を持ちません。故に、魔王と分類して良いのか分からない。故に自称・・

 魔王は眷属を持つものであるので、眷属を持たないお子さ魔王は魔王失格と言えるのかもしれない。

「へぇ……そうなんですねぇ。魔王でかつ魔法使いのオリジン……」

「止めなさい。魔王はともかく、オリジンであることは秘匿事項です」

「!? も、申し訳ありません!」

 先輩からの殺気を含んだ底冷えする視線に、若い女性職員は直立不動となって謝罪する。

「……気をつけて下さいね。全ての種にはその始まりとなったオリジンが存在するものです。魔導師に置いてでさえ。彼の魔王はその一人。……愚か者が彼の魔王を本気にさせたりしないよう、我等は動くのみです」

「心得ました。……あの~? 仮にあの魔王が本気になっちゃったりしたら、どうなってました?」

「大魔法協会と彼の魔王との全面戦争でした」

 先輩職員は顔色変えずにサラリと言って返すも、後輩職員は青褪めて身震いする。

「うっひぃ、そうならずに済んで良かったです。ちなみにあの方の危険度は……分かってたりなんかしちゃったりします?」

「彼の魔王の危険度は、崩国級・中ですよ」

 中規模な国くらいなら滅びる被害をもたらす存在と聞いて、後輩職員の顔から色が消える。そもそも、オリジンと呼ばれる存在は大体が崩国級に分類されるので、実際の実力がどの程度のものか判別しているものは少ない。しかし、彼の魔王はわざわざ崩国級・中に分類されているので、大魔法協会では魔王の実力を正確に判断できているのだろう。

「ひぐっ!? ……かかかて、勝てるんですか!?」

「それは勿論我々が……いえ、協会トップに君臨する、10人委員会の方々が勝ちます。彼の方々もまた……」

「へっ? ……あー! ……なるほど、そうなのですね。安心しました」

 先輩職員がみなまで言わなかったものの、大魔法協会のトップ達もオリジンであるというニュアンスを感じ取った後輩職員は胸をなでおろす。

「そもそも、彼の魔王は人間嫌いではあっても、非常に温厚な……というか、血を見るのも嫌いな臆病な性格です。むやみに力を振るうことはないでしょう」

「へぇ~そうなんですね! 分かりました」

 安心要素をダメ押しする先輩に、後輩職員はようやく何時もの調子を取り戻しつつあった。

「……で、これ・・はどうしますか?」

「封印を施して国へ戻した所で、どの道処刑される運命です。処理もこちらでして良いとのことでしたから、動力として使わせて頂きましょう」

 これとは、魔力を封じられた挙げ句に思考力を奪われた、脂ギッシュ魔術師長ザムガンである。良かったね! もう一回名前出てきたよ! にしても動力……それが何を指すのかは分からないが、人間を捕まえて動力などと言う辺り、ろくな意味ではないことは確かだ。

「……でもこいつ、随分と魔力の質が悪いですよね」

「確かに。エゼルタニアは人材不足なのでしょうか? そうは思えなかったのですが……」

「縁故採用の可能性もあるかもです」

 言いたい放題の二人であったが、聞くものが聞いたなら若い職員の指摘に「ん~……正解!」と言っただろう。

「そうですね。そこら辺は我々の預かり知る所ではありませんので無為な憶測は止めておきましょう。これも使えないなら使えないなりに何かには役立つでしょうから」

「はい、分かりました」

 そして二人は転移魔法の仕込まれた魔道具を起動し本部へと転移していった。……と、そこに風景から滲み出てくるように姿を表す人物が一人、お子さ魔王である。

「……っかぁ~~~。相も変わらずぶっそうな組織じゃのー。じゃが……」

 お子さ魔王、自身がマークされていることなど先刻承知であった。ただ何となぁく、向こうでは自分の扱いがどうなっているのか最近の状況が知りたくて、こっそり様子を窺っていたのだ。……が、

「だぁれが臆病か!?」

 勝手な人物評に、ぽすぽす地団駄ふみふみぷんすこおこるお子さ魔王なのであった。この魔王、ビビリにしてヘタレな上に泣き虫であるが……それは臆病とは違うのだろうか。
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