最強武器【地烈ダガー】もうあとがなかった少年は戦列の最後尾でそれを手にする

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第2話 赤山右門

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 父親は冒険者だった。
 ランクはD。下から二番目だ。
 冒険者ランクに関わるギルドポイントは在籍しているだけでも加点があるため、父ほど長く冒険者をやってランクDは逆に珍しい。
 父が愛用するのは一本の短剣だった。
 父はこれを武器として使うよりも山などで小道具として使っていたことの方が多かったような気がした。

 父は以前は都会のギルドに所属していたが、仕事の難度が高く、資格を維持するために仕方なくこの田舎の冬牙村に移ってきたと言っていた。
 そこで母と出会い、その少年が生まれた。

 少年は名を赤山右門あかやまうもんと言った。
 年は十五歳だ。

 父は数年前に都会からの要請に応え、ある魔物討伐に出かけた。しかしそれきり戻らない。
 最近になって、ようやくその都会から知らせが届いたのだが、それは現地で死亡が確認されたというものだった。

 母はそれを聞いて寝込んでしまい、元々体も丈夫ではなかったため、そのまま弱って死んでしまった。


 冬牙村には小さいながらもギルドがある。
 生きていくためには仕方ない――、少年はそういって冒険者登録をした。

 最初の仕事は荷物運びだった。近くの村まで荷物を運ぶ。
 それから木を切ったり、薪を割ったり、何もないときは赤ん坊の面倒をみたりと、何とかそれで生活は凌いでいけた。

 しかし、ある日――。
 報酬、ギルドポイント共に今までの十倍以上、そんな任務がリストに載った。

 ――魔物退治。

 それは少年にとって初めてのことで、村でも滅多にない仕事だと皆が言った。
 その日は村の若い冒険者が全て集められた。
 都会からの使いが魔物を連れてくるからそれを退治してほしい。
 というような、とてもおかしな内容の依頼だった。

 連れてくる――?

 一同は騒然とした。

 どういうことだろう。

 やがて日が暮れかけた頃、村の入り口に背の高い大男が奇妙な箱を抱えてやってきた。

 大男は村にたどり着くなりその箱を地面に落とし、その場で倒れた。
 体中に刺し傷や打撲の跡があった。

 しかし、村の冒険者たちにはそれを問題視する余裕はなかった。

 グオン――……

 地面に落ちた箱の中から、おぞましい波動が流れ出してきた。

「うぐっ」

 その場にいた全員がそれに当てられ、手に持っていた武器をそれぞれが構え始めた。

 スキル【第一撹乱ワンドール】。
 幻覚作用を持つ、悪魔のスキルだった。

「う、うわあああああっ」

 突然、棍棒を持っていた若い男が隣の少し後ろで控えていた少女に殴りかかった。

「くっ」

 ガンッ

 それをそばにいた年配の男が竹槍で防いだ。
 槍が折れる。
 この村では誰もがたまに狩りをするくらいで大した武器は持っていない。
 どうやら、幻覚によってそれぞれが周囲を魔物だと錯覚してしまったようだ。

 右門は陣容の一番後ろで一人、短剣を構え、辺りを見渡した。

 右から角が生えた獣、低空を這う翼獣、蛇の化け物や、何故か不釣り合いな人形の姿まである。
 一体どれが誰だかわからない。

 地面にはあの大男が倒れている。ただ一人の人間だ。おそらくもう死んでいるということなのだろう。

 その時、冒険者の若い女が一点に狙いをつけ、弓を引いた。
 的に定めたのは――人形だった。

 この術を破り、本体を討つ――。

 それが唯一の打開手段だと、誰もが考え始めていた。
 どう見ても人形しかない。それはあまりに異様で、サイズも違っていたからだ。
 しかし――。


 その次の瞬間、何かが蠢いた。
 それはこの世のものとは思えないほど、気味の悪い気配だった。


 スキル【第六業火シックスバーナー】。

 ゴオアッ

 ――場が炎獄と化した。
 その場の全員がスキルに焼かれた。

 悲鳴も聞こえない。

 次の瞬間、炎の中から黒い何かが這い出してきた。
 あの人形だ。

 狙いは、逃げる選択肢を取った、ただ一人。



 右門は村の中を背を向けて走っていた。
 あの場からただ一人だけ、炎から免れた。

 たくさんの人がすれ違う。
 野次馬、救援、ギルドの関係者――。

 ダメだ、次元が違いすぎる。
 一体何だあれは。

 後ろで叫び声や、助けを呼ぶ声が聞こえる。
 右門は慌ててそのまま森へ駆け込んだ。


 あの一瞬で感じたのは、異様な気配だった。
 獣も、蛇も鳥も、右門には生物としての躍動は感じられた。それは、人と何も変わりはないものだった。
 しかし、あの得体の知れない人形だけは、それが感じられなかった。
 あれが魔物なのか――?

 右門は魔物を見たことがない。
 話に聞いたことしかない。

 しかし、魔物は生物のはずだ。
 それだけで十分だ。あれを疑うには。


 後ろの方では、至るところで炎が上がり始めている。
 あの人形の攻撃だ。

 手を見ると毛が生えて見えた。黒い毛だ。
 どうやら自分も獣の姿になっているようだった。
 おそらくあれを倒さない限り、この術は解けないのだろう。

 もう無理だ――。

 右門は手に持っていた短剣を見つめた。

 悪夢のようだ。
 父が倒れ、母が亡くなって、村が焼かれている。
 どうしてこんな目にあうんだ。

 覚める方法は一つしかない。


 どうせ何もやることもない。無気力に生きてきた。
 自分には何の才能もない。
 この村で一生終わると思っていた。その通りになるだけだ。

 覚悟を決め、森を見上げるとそこはひっそりと静まり返っていた。まるでここだけ何かに守られているかのような気がした。
 村で起きていることが本当に夢のように思えた。しかし、それは現実で出れば地獄が待っている。だから、その前に――。

 するとそのとき、目の前に小さな祠が見えた。
 何かを祀っている祠のようだった。
 祠の前にお供え物をやった跡がある。

 そのお供え物のとなりに、木で掘ったこれまた小さな彫刻があるのを見つけた。

 何かの動物みたいだった。


 ここを血で汚すわけにはいかないか――。

 場所を変えようとして、立ち去ろうとした。
 ――そのとき。

 どこかから声が聞こえてきた。



“悪魔に九番をつかわせてはいけない”



 声は、どこか遠くから聞こえてくるようだった。
 しかし、それは鮮明に、はっきりと聞こえた。


“あの悪魔は最弱。今なら助けられる”


 何だ、誰だ――?

 姿は見えない。声だけが聞こえてくる。
 声はそのまま続けられた。

“悪魔は殺意を向けると五段跳ね上がる”

 悪魔――?

 一体、何のことだ。

 そのとき、手に持った短剣が光り始めた。

 どうやら声はここから聞こえてくるようだった。

“村には子供もたくさんいる”

 子供――。

 そうだ、家に避難しているはずだ。
 このままではみんな死ぬ。
 例え生き残っても親無しになってしまうだろう。

 子供たちの姿が浮かんだ――。

 村の子供たちはよく俺に懐いた。
 俺が虫を拾って草むらに放り投げるのを見て、あの子供たちも真似するようになった。
 中にはそれから一歩ずつ踏まないように足元を確認する子供までいた。そこまでしなくていい、と俺は言ってやった。

 炎は村の入り口からだんだん奥に入りつつある。

 俺は自分の手を見た。
 獣の手だ。


 ――……。

 俺は手に持った短剣をもう一度握り直し、それを首に当てて滑らせた。

 血が滴る。


 すると目の前がいつもの景色に戻った。
 同時に、光る短剣から力が溢れ出してきた。

 白狐【地烈《じれつ》】。

 ――一度だけ、魔物を殺したことがある。

 父さんの言っていた言葉だ。

 お前は、ずっとここで待っていたのか。


 振り向くと、暗くなった空に真っ赤な炎が上がっているのが見えた。
 俺はその中心に向けて、静かに殺気を充填させた。
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