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2、協奏のキャストライト
86、見てなさい、今お兄様のように魔宝石を爆発させますからね
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ダーウッドが弁明している。
「姫殿下のお近くにオリヴィア・ペンブルック男爵令嬢がいるでしょう? あれはモンテローザ公爵派ではありませんか。ソラベルが味方とはいえ、あちらの派閥の方々の中には先の紛争で青国の預言者が自国の危機を預言しなかったことに目をつけている者もいましてな? あちらもこちらも私を疑うので、私もつらいのですよ」
会話にまぎれて、獣の唸り声やコツン、カツンと硬いものが落ちるような音が続いている。
(預言者が青国貴族に疑われている? そのお話は初耳ね。あやしまれて言い訳しているなら、事実ではないお話なのかしら?)
気になるのが、ウィンタースロット男爵令嬢だ。フィロシュネーの話をしている。
「ダーウッド、フィロシュネー姫殿下は、『真実を暴く奇跡の使い手』なのでしょう? 組織の存在に気付いてしまったらどうするの? というか、神鳥は結局まだいるの? もういないの?」
「神鳥がいるかどうかは知りませんが、王族の解呪能力はあるようです。そのまま石を姫殿下の近くに置いておけば、姫殿下が解呪して、青国でドラゴンが暴れ出す……という楽しい事件が起きるかもしれないではありませんか」
ダーウッドの言葉に、フィロシュネーは「うかつに呪いを解くとドラゴンがその場で暴れ出すかもしれないから気を付けるように」と忠告されたのを思い出した。
(今のはわかりやすいわ。言い訳をしているのね)
「とにかく、ネネイの石を落としたなんて言い訳は通じませんわ。あなたには死んでもらいます」
「はぁ、さんざん働かせてから、それ……」
ダーウッドが不満の声をあげるが、ウィンタースロット男爵令嬢は聞く耳を持たない様子だった。
「おほほほ! わたくし、フレイムドラゴンの調教に成功したの! みせてあげるわね!」
(あっ、殺されちゃう!? フ、フレイムドラゴン?)
獣の放ったような身の毛もよだつ咆哮が聞こえて、付近一帯の空気がびりびりする。怒りに満ちた咆哮は、本能的に身を竦めてしまう恐ろしさがあった。サイラスが緊張感を高めている。
羽ばたきの音がして、ずしん、と地面が大きく振動した。何か大きな生き物がいる。
草むらを踏みしめる音、木々を揺らす音、小さな悲鳴と、草木が割れる音――すさまじい音が連続する。
(戦っている……!?)
「姫。襲われている呪術師が密偵さんですね?」
サイラスが耳元に唇を寄せて囁く。目が合うと、安心させるように頭に手が置かれた。
「助けてまいります。ここでお待ちください」
返事をするより先に、サイラスが茂みから飛び出していく。
その背中を視線でおいかけて、フィロシュネーは目を瞠った。
(えっ!)
暴れていたのは、赤いドラゴンだった。炎を全身にまとって、獰猛に牙を剥いている。
(あれがフレイムドラゴンよね? お、おおきい!)
自分たち人間は捕食される側なのだ。
あの生き物からは、逃げた方がいいのだ。
咄嗟にそう思ってしまうくらいの大きさと迫力がある。
全身ゴツゴツしていて、炎をまとっていて、金属みたいに硬そうな赤黒い鱗がびっしり全身を覆っている。見るからに狂暴そうで、子ドラゴンとはぜんぜん別の生き物のよう。怖い!
「な、何者、ギャア!」
ウィンタースロット男爵令嬢が術を放とうとして、一瞬で距離を詰めたサイラスに気絶させられている。
「こっちだ!」
サイラスはウィンタースロット男爵令嬢を転がしてから、ドラゴンへと挑発するように声をあげて、青い鳥と共闘を始めた。ドラゴンの正面で、目を狙う様子で剣を突き上げ。
「ち、ち、ち」
加勢を利用する様子で、青い鳥が暴れるドラゴンの尻尾のまわりをぐるりと飛んで火の粉をハラリと振らせる。
火の粉が付着した瞬間、尻尾はぼうぼうと燃え上がった。
「グオオオオオオオオッ!!」
ドラゴンは耳をつんざく雄叫びをあげ、燃え盛る尻尾を豪快に振り回した。その雄叫びが、大音量!
(ひゃぁ、み、耳がおかしくなっちゃいそう! ね、ねえ。わたくしも何かするべき? こ、これ使うぅ?)
フィロシュネーは耳を塞いで、筒杖を見た。
(お兄様みたいに爆発させたら、気を引くくらいはできるんじゃないかしら? あっ、サイラスの剣が目に届いているわ。や、やった? あ、すごく怒って暴れてるぅ……!)
見ているのが怖い。でも、目を離せない。
恐ろしい視界で、サイラスが苛烈に踏み込んで剣を横に走らせている。銀色の刃が一直線に走って、硬いもの同士が衝突する音が激しく鳴り響いて、火花が散った。
ドラゴンは猛り狂い、両翼をバサバサと暴れさせた。勢いで起きた風で、そばにいた青い鳥が飛ばされて、フィロシュネーの近くの木の幹に叩きつけられて落ちる。
「ひっ」
それほどの風量。
ドラゴンの怒りの咆哮が、耳を塞いでいても聞こえる、心を揺さぶる。
それほどの声量!
「ダ、ダーウッド!」
フィロシュネーは全身を震わせながら慌てて青い鳥に手を伸ばした。救命の治癒魔法の光がかがやく中、サイラスが剣を躍らせてドラゴンの硬い身体に刻んだ傷を深めているのが視界の隅に見えて、はらはらする。
「ち、ちい」
鳥に似た声で鳴いてから、青い鳥が人語を話す。
「姫殿下! こんなところで何をなさっているのです……?」
ずしん、どどん、と地面が大きく揺れた。ドラゴンが倒れている。
「そ、それ、それねぇ! わたくしのセリフだと思うのよぉっ?」
わたくし、あなたを助けたのよ! 目で訴えると、ダーウッドは感謝の言葉を返してくれた。
「ありがとうございます」
鳥の頭がちょこんとお辞儀するようにさげられる。可愛い。
「ど、どういたしまして、よ。わたくし、修羅場には慣れましたから。よ、余裕よ。見てなさい、今お兄様のように魔宝石を爆発させますからね」
そしてわたくしはサイラスに「すごいですね姫、助かりましたよ」と言われて、ダーウッドからは「アーサー様よりも姫殿下のほうが青王にふさわしいですね」と言われちゃったりするのかしら! いやん、言われてみたい! 急いでシュネー、がんばって! 勇ましくて格好よいところを見せるのよ!
フィロシュネーはパニック気味に筒杖を構えようとして止められた。
「姫殿下、もう終わったようですぞ」
「ふぁっ?」
気付けば、戦いが終わっている。ドラゴンが靜かになっている。
「姫、今とても問題のある独り言がお口からこぼれていましたよ。お国の方々には聞かせられないような……」
サイラスが呆れた様子で言いながら戻ってくるので、フィロシュネーは心から安心した。
「姫殿下のお近くにオリヴィア・ペンブルック男爵令嬢がいるでしょう? あれはモンテローザ公爵派ではありませんか。ソラベルが味方とはいえ、あちらの派閥の方々の中には先の紛争で青国の預言者が自国の危機を預言しなかったことに目をつけている者もいましてな? あちらもこちらも私を疑うので、私もつらいのですよ」
会話にまぎれて、獣の唸り声やコツン、カツンと硬いものが落ちるような音が続いている。
(預言者が青国貴族に疑われている? そのお話は初耳ね。あやしまれて言い訳しているなら、事実ではないお話なのかしら?)
気になるのが、ウィンタースロット男爵令嬢だ。フィロシュネーの話をしている。
「ダーウッド、フィロシュネー姫殿下は、『真実を暴く奇跡の使い手』なのでしょう? 組織の存在に気付いてしまったらどうするの? というか、神鳥は結局まだいるの? もういないの?」
「神鳥がいるかどうかは知りませんが、王族の解呪能力はあるようです。そのまま石を姫殿下の近くに置いておけば、姫殿下が解呪して、青国でドラゴンが暴れ出す……という楽しい事件が起きるかもしれないではありませんか」
ダーウッドの言葉に、フィロシュネーは「うかつに呪いを解くとドラゴンがその場で暴れ出すかもしれないから気を付けるように」と忠告されたのを思い出した。
(今のはわかりやすいわ。言い訳をしているのね)
「とにかく、ネネイの石を落としたなんて言い訳は通じませんわ。あなたには死んでもらいます」
「はぁ、さんざん働かせてから、それ……」
ダーウッドが不満の声をあげるが、ウィンタースロット男爵令嬢は聞く耳を持たない様子だった。
「おほほほ! わたくし、フレイムドラゴンの調教に成功したの! みせてあげるわね!」
(あっ、殺されちゃう!? フ、フレイムドラゴン?)
獣の放ったような身の毛もよだつ咆哮が聞こえて、付近一帯の空気がびりびりする。怒りに満ちた咆哮は、本能的に身を竦めてしまう恐ろしさがあった。サイラスが緊張感を高めている。
羽ばたきの音がして、ずしん、と地面が大きく振動した。何か大きな生き物がいる。
草むらを踏みしめる音、木々を揺らす音、小さな悲鳴と、草木が割れる音――すさまじい音が連続する。
(戦っている……!?)
「姫。襲われている呪術師が密偵さんですね?」
サイラスが耳元に唇を寄せて囁く。目が合うと、安心させるように頭に手が置かれた。
「助けてまいります。ここでお待ちください」
返事をするより先に、サイラスが茂みから飛び出していく。
その背中を視線でおいかけて、フィロシュネーは目を瞠った。
(えっ!)
暴れていたのは、赤いドラゴンだった。炎を全身にまとって、獰猛に牙を剥いている。
(あれがフレイムドラゴンよね? お、おおきい!)
自分たち人間は捕食される側なのだ。
あの生き物からは、逃げた方がいいのだ。
咄嗟にそう思ってしまうくらいの大きさと迫力がある。
全身ゴツゴツしていて、炎をまとっていて、金属みたいに硬そうな赤黒い鱗がびっしり全身を覆っている。見るからに狂暴そうで、子ドラゴンとはぜんぜん別の生き物のよう。怖い!
「な、何者、ギャア!」
ウィンタースロット男爵令嬢が術を放とうとして、一瞬で距離を詰めたサイラスに気絶させられている。
「こっちだ!」
サイラスはウィンタースロット男爵令嬢を転がしてから、ドラゴンへと挑発するように声をあげて、青い鳥と共闘を始めた。ドラゴンの正面で、目を狙う様子で剣を突き上げ。
「ち、ち、ち」
加勢を利用する様子で、青い鳥が暴れるドラゴンの尻尾のまわりをぐるりと飛んで火の粉をハラリと振らせる。
火の粉が付着した瞬間、尻尾はぼうぼうと燃え上がった。
「グオオオオオオオオッ!!」
ドラゴンは耳をつんざく雄叫びをあげ、燃え盛る尻尾を豪快に振り回した。その雄叫びが、大音量!
(ひゃぁ、み、耳がおかしくなっちゃいそう! ね、ねえ。わたくしも何かするべき? こ、これ使うぅ?)
フィロシュネーは耳を塞いで、筒杖を見た。
(お兄様みたいに爆発させたら、気を引くくらいはできるんじゃないかしら? あっ、サイラスの剣が目に届いているわ。や、やった? あ、すごく怒って暴れてるぅ……!)
見ているのが怖い。でも、目を離せない。
恐ろしい視界で、サイラスが苛烈に踏み込んで剣を横に走らせている。銀色の刃が一直線に走って、硬いもの同士が衝突する音が激しく鳴り響いて、火花が散った。
ドラゴンは猛り狂い、両翼をバサバサと暴れさせた。勢いで起きた風で、そばにいた青い鳥が飛ばされて、フィロシュネーの近くの木の幹に叩きつけられて落ちる。
「ひっ」
それほどの風量。
ドラゴンの怒りの咆哮が、耳を塞いでいても聞こえる、心を揺さぶる。
それほどの声量!
「ダ、ダーウッド!」
フィロシュネーは全身を震わせながら慌てて青い鳥に手を伸ばした。救命の治癒魔法の光がかがやく中、サイラスが剣を躍らせてドラゴンの硬い身体に刻んだ傷を深めているのが視界の隅に見えて、はらはらする。
「ち、ちい」
鳥に似た声で鳴いてから、青い鳥が人語を話す。
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ずしん、どどん、と地面が大きく揺れた。ドラゴンが倒れている。
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フィロシュネーはパニック気味に筒杖を構えようとして止められた。
「姫殿下、もう終わったようですぞ」
「ふぁっ?」
気付けば、戦いが終わっている。ドラゴンが靜かになっている。
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