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2、協奏のキャストライト
136、二枚のカードとアーサーの失恋……裁判?
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窓辺から光が降り注ぐような、清々しい朝。
「姫様、婚約者候補の方々からメッセージカードと宝飾品が届いていますよ」
侍女のジーナが運んできたのは、二通のメッセージカードだった。
「同じデザインのカードですわね」
お揃いのカードだ。
見てみると、筆跡はサイラスとハルシオンのものだった。
一枚には、ハルシオンの文字。
『世界中の美しいものを集めて、あなたに贈りたい』
もう一枚が、サイラスの文字。
『あなたがいなければ、美しいもの全てが存在する意味を失ってしまいます』
「さては一緒に書いたのね?」
フィロシュネーは二人が一緒に並んでカードを書く姿を想像した。
「なんでも夜中にハルシオン殿下の方からノイエスタル準男爵のお部屋をお訪ねになられたのだとか」
「まあ、ずいぶんと仲が良いのね」
「殿方同士の友情というのは、麗しいものですよね」
「わかりますわ。婚約者候補同士が仲良しなのは、とっても素敵なことですわね!」
フィロシュネーがメッセージカードに和んでいると、兄アーサーは微妙な顔をした。
「婚約者候補は三人だったはずだがな」
その視線がシューエンを見た。
「ウッ」
シューエンが視線を逸らす。しかし、逸らした視線の先には実の父であるアインベルグ侯爵がいた。
「我が愚息シューエンよ、陛下から視線を逸らすな」
「はっ、はい。父上……」
「俺の騎士シューエンは、何をやっているのか。ひとりだけ遅れを取っているのではないか」
「て、手紙にも書きましたように、僕は無理に好きになっていただかなくても、もういいかなって」
「だいたいお前の手紙、よくわからなかったぞ。俺にわかるように書け」
「も、申し訳ございませんアーサー陛下」
フィロシュネーは助け舟を出そうか真剣に悩んだ。
なにせ、「遅れを取っている」というのはフィロシュネーとの仲を言っているのだ。当事者としては、とても反応に困る。
(わたくしもシューエンも、個人の感情ではなく公的な立場として婚姻をする身分ですものねえ……黙っておくのが無難かしら)
悩めるフィロシュネーに気付いてか、アーサーは「まあいい」と首を振って話題を変えてくれた。
「シュネー、兄さんは女王に挨拶をするが、お前はどうする? 迎賓館でゆっくりしていてもよいぞ」
「お兄様、わたくし、お供いたしますわ」
「そうか」
アーサーがわかりやすく機嫌を良くしたので、シューエンがこっそり胸をなでおろしている。
支度を済ませたフィロシュネーは、アーサーと一緒に紅城クリムゾンフォートを訪れた。
女王アリアンナ・ローズは、青国の兄妹王族を昼食の席に誘ってくれた。
「青王アーサー陛下。ならびにフィロシュネー殿下のおなりです!」
並んでカーペットの上を歩む兄妹を歓迎する女王アリアンナ・ローズの後ろには、小さな男の子がいる。
男の子は、女王との血の繋がりを感じさせる雰囲気で、薔薇のような赤い髪と深い紅色の瞳をしていた。
可愛らしい容姿だ。
長い髪をさらりと揺らし、アリアンナ・ローズが優雅に挨拶をした。
「お会いできて光栄です。我が国へのご滞在を心から歓迎いたします……」
フィロシュネーは「あら」と思った。ちょっと元気がなさそうだと思ったのだ。
そして、その思いの正しさを証明するかのように、女王の体がふらりとして倒れそうになる。
(えっ――)
「陛下!」
「おねえさま!」
そばにいた侍従が悲鳴をあげて、小さな男の子が泣き顔になる。
皆が女王を支えようと手を出して――誰よりもはやく駆け寄って支えたのは、アーサーだった。
「ローズ陛下? ご体調が優れぬのか?」
「大丈夫ですか?」
フィロシュネーもそばに寄った。
女王はよく見ると化粧で巧みに肌色を整えているが、血色が悪い。
(貧血かしら?)
フィロシュネーは医師に確認した。
「青国の王族は治癒魔法が得意ですの。こちらのお国では珍しい技術とききましたが、使用してもよろしいかしら?」
「ありがたい限りです、ぜひお試しください」
医師が奇跡に縋るように言うので、フィロシュネーはアーサーと一緒に手をかざして治癒の光を女王に捧げた。
二人分の治癒の光に包まれて、女王ははっきりと顔色が良くなっていく。
「ほう、これが噂の」
「これは素晴らしい……」
アルメイダ侯爵とカーリズ公爵が目を瞠っている。
「ありがとうございます……だいぶ気分が良くなりました」
ほわりと微笑むドレスの裾を、男の子がぎゅっと握る。
アリアンナ・ローズは優しい姉の顔をして、エリオットを撫でた。
「この子は孤児院で見付けられた先代紅王の落胤で、わらわの腹違いの弟なのです」
落胤とは、正妻以外の身分の低い女に生ませた子のことだ。
「ぼくねえ、おねえさまと家族になったの」
エリオットは姉を心配するように引っ付いている。可愛い。
「おねえさま、具合悪いのぉ……っ?」
「大丈夫ですよ、エリオット」
仲の良い姉弟の様子をフィロシュネーが好ましく思っていると、隣にいるアーサーはそわそわと口を挟んだ。
「女王陛下はお体の弱い方なのだな、どうぞご自愛あれ」
(あら? お兄様?)
フィロシュネーはアーサーが微妙に熱っぽい瞳で女王に釘付けになっているのを見て、ピンときた。
(あら……、まさか……女王陛下に惹かれておいでですの、お兄様?)
でも、この女王陛下は。
「たまたまです。昨夜、寵姫たちとはしゃぎすぎたのですわ」
アリアンナ・ローズはニコニコと優雅に微笑んだ。
「寵姫たち?」
「ええ。わたくしは女性愛者なのです。青国では珍しいでしょうか? 我が国では、珍しくないのですが」
「ああ……」
アーサーは目に見えて意気消沈した。
「そ……そうであったか……」
そこには、くすぶりかけた恋の火が燃え上がるより前にあっさりと消えた青年の悲しい気配があった。
* * *
昼食の席には、カーリズ公爵、左隣にアルメイダ侯爵が並んでいる。
コース料理は青国風で、女王の友好の意思を強く感じるご馳走だった。
幼いエリオットが、あどけない声を響かせる。
「カレル、このお肉についてるのはグリーンペッパーかなぁ?」
「エリオット殿下、それは南の海の海草を粉状にしてまぶしたのだそうです」
「わぁ……シモン、南の海に行ったことがある?」
「あいにく……」
(エリオット殿下はカーリズ公爵やアルメイダ侯爵に懐いていらっしゃるのね)
無垢な姿にフィロシュネーが癒されていると、パチリと目が合ったエリオットがニコッと笑ってくれる。可愛い。
「フィロシュネーでんかは、とってもきれいです!」
「まあ、ありがとうございます、エリオット殿下」
子供の賛辞は素直な声色で、可愛らしい。
「ぼくとけっこんしてくださぁい」
「あらあら」
「ははは、それはいい。将来が楽しみだな、シュネー」
兄アーサーもさすがに小さな子供相手だからか、微笑ましそうにしている。
「では、現在の婚約者候補たちとの話は全て白紙に……」
「お兄様!」
あぶない、あぶない。
油断すると婚約が遠のいてしまう――フィロシュネーが呆れているうちに、会話は少しずつ真面目になっていった。
女王を気遣うようにしながら、カーリズ公爵がアーサーに謝辞を捧げる。
「フレイムドラゴンから紅都を守ってくださったことには、最大の感謝を捧げたいと思います。ありがとうございました」
「現場でも申したが、友好国として当然のことをいたしたまで。紅都の無辜の民に被害が出なくてなによりだ」
「呪術師の件につきましては、こちらも当然軽く流すつもりはございません。裁判をいたしましょう」
「なに、裁判とな」
あら? 雲行きがおかしい? ……裁判?
カーリズ公爵は、友好的に微笑んだ。
「貴国の本物の預言者どのもお連れください。ああっ、そんなお顔をなさらず! 罪人扱いはいたしません。まずは参考として、呪術師のターゲットにされたご当人にお話をおうかがいしようと、そういうわけです」
それって、大丈夫なのかしら?
フィロシュネーの心配を他所に、裁判の日取りは数日後に決まるのだった。
「姫様、婚約者候補の方々からメッセージカードと宝飾品が届いていますよ」
侍女のジーナが運んできたのは、二通のメッセージカードだった。
「同じデザインのカードですわね」
お揃いのカードだ。
見てみると、筆跡はサイラスとハルシオンのものだった。
一枚には、ハルシオンの文字。
『世界中の美しいものを集めて、あなたに贈りたい』
もう一枚が、サイラスの文字。
『あなたがいなければ、美しいもの全てが存在する意味を失ってしまいます』
「さては一緒に書いたのね?」
フィロシュネーは二人が一緒に並んでカードを書く姿を想像した。
「なんでも夜中にハルシオン殿下の方からノイエスタル準男爵のお部屋をお訪ねになられたのだとか」
「まあ、ずいぶんと仲が良いのね」
「殿方同士の友情というのは、麗しいものですよね」
「わかりますわ。婚約者候補同士が仲良しなのは、とっても素敵なことですわね!」
フィロシュネーがメッセージカードに和んでいると、兄アーサーは微妙な顔をした。
「婚約者候補は三人だったはずだがな」
その視線がシューエンを見た。
「ウッ」
シューエンが視線を逸らす。しかし、逸らした視線の先には実の父であるアインベルグ侯爵がいた。
「我が愚息シューエンよ、陛下から視線を逸らすな」
「はっ、はい。父上……」
「俺の騎士シューエンは、何をやっているのか。ひとりだけ遅れを取っているのではないか」
「て、手紙にも書きましたように、僕は無理に好きになっていただかなくても、もういいかなって」
「だいたいお前の手紙、よくわからなかったぞ。俺にわかるように書け」
「も、申し訳ございませんアーサー陛下」
フィロシュネーは助け舟を出そうか真剣に悩んだ。
なにせ、「遅れを取っている」というのはフィロシュネーとの仲を言っているのだ。当事者としては、とても反応に困る。
(わたくしもシューエンも、個人の感情ではなく公的な立場として婚姻をする身分ですものねえ……黙っておくのが無難かしら)
悩めるフィロシュネーに気付いてか、アーサーは「まあいい」と首を振って話題を変えてくれた。
「シュネー、兄さんは女王に挨拶をするが、お前はどうする? 迎賓館でゆっくりしていてもよいぞ」
「お兄様、わたくし、お供いたしますわ」
「そうか」
アーサーがわかりやすく機嫌を良くしたので、シューエンがこっそり胸をなでおろしている。
支度を済ませたフィロシュネーは、アーサーと一緒に紅城クリムゾンフォートを訪れた。
女王アリアンナ・ローズは、青国の兄妹王族を昼食の席に誘ってくれた。
「青王アーサー陛下。ならびにフィロシュネー殿下のおなりです!」
並んでカーペットの上を歩む兄妹を歓迎する女王アリアンナ・ローズの後ろには、小さな男の子がいる。
男の子は、女王との血の繋がりを感じさせる雰囲気で、薔薇のような赤い髪と深い紅色の瞳をしていた。
可愛らしい容姿だ。
長い髪をさらりと揺らし、アリアンナ・ローズが優雅に挨拶をした。
「お会いできて光栄です。我が国へのご滞在を心から歓迎いたします……」
フィロシュネーは「あら」と思った。ちょっと元気がなさそうだと思ったのだ。
そして、その思いの正しさを証明するかのように、女王の体がふらりとして倒れそうになる。
(えっ――)
「陛下!」
「おねえさま!」
そばにいた侍従が悲鳴をあげて、小さな男の子が泣き顔になる。
皆が女王を支えようと手を出して――誰よりもはやく駆け寄って支えたのは、アーサーだった。
「ローズ陛下? ご体調が優れぬのか?」
「大丈夫ですか?」
フィロシュネーもそばに寄った。
女王はよく見ると化粧で巧みに肌色を整えているが、血色が悪い。
(貧血かしら?)
フィロシュネーは医師に確認した。
「青国の王族は治癒魔法が得意ですの。こちらのお国では珍しい技術とききましたが、使用してもよろしいかしら?」
「ありがたい限りです、ぜひお試しください」
医師が奇跡に縋るように言うので、フィロシュネーはアーサーと一緒に手をかざして治癒の光を女王に捧げた。
二人分の治癒の光に包まれて、女王ははっきりと顔色が良くなっていく。
「ほう、これが噂の」
「これは素晴らしい……」
アルメイダ侯爵とカーリズ公爵が目を瞠っている。
「ありがとうございます……だいぶ気分が良くなりました」
ほわりと微笑むドレスの裾を、男の子がぎゅっと握る。
アリアンナ・ローズは優しい姉の顔をして、エリオットを撫でた。
「この子は孤児院で見付けられた先代紅王の落胤で、わらわの腹違いの弟なのです」
落胤とは、正妻以外の身分の低い女に生ませた子のことだ。
「ぼくねえ、おねえさまと家族になったの」
エリオットは姉を心配するように引っ付いている。可愛い。
「おねえさま、具合悪いのぉ……っ?」
「大丈夫ですよ、エリオット」
仲の良い姉弟の様子をフィロシュネーが好ましく思っていると、隣にいるアーサーはそわそわと口を挟んだ。
「女王陛下はお体の弱い方なのだな、どうぞご自愛あれ」
(あら? お兄様?)
フィロシュネーはアーサーが微妙に熱っぽい瞳で女王に釘付けになっているのを見て、ピンときた。
(あら……、まさか……女王陛下に惹かれておいでですの、お兄様?)
でも、この女王陛下は。
「たまたまです。昨夜、寵姫たちとはしゃぎすぎたのですわ」
アリアンナ・ローズはニコニコと優雅に微笑んだ。
「寵姫たち?」
「ええ。わたくしは女性愛者なのです。青国では珍しいでしょうか? 我が国では、珍しくないのですが」
「ああ……」
アーサーは目に見えて意気消沈した。
「そ……そうであったか……」
そこには、くすぶりかけた恋の火が燃え上がるより前にあっさりと消えた青年の悲しい気配があった。
* * *
昼食の席には、カーリズ公爵、左隣にアルメイダ侯爵が並んでいる。
コース料理は青国風で、女王の友好の意思を強く感じるご馳走だった。
幼いエリオットが、あどけない声を響かせる。
「カレル、このお肉についてるのはグリーンペッパーかなぁ?」
「エリオット殿下、それは南の海の海草を粉状にしてまぶしたのだそうです」
「わぁ……シモン、南の海に行ったことがある?」
「あいにく……」
(エリオット殿下はカーリズ公爵やアルメイダ侯爵に懐いていらっしゃるのね)
無垢な姿にフィロシュネーが癒されていると、パチリと目が合ったエリオットがニコッと笑ってくれる。可愛い。
「フィロシュネーでんかは、とってもきれいです!」
「まあ、ありがとうございます、エリオット殿下」
子供の賛辞は素直な声色で、可愛らしい。
「ぼくとけっこんしてくださぁい」
「あらあら」
「ははは、それはいい。将来が楽しみだな、シュネー」
兄アーサーもさすがに小さな子供相手だからか、微笑ましそうにしている。
「では、現在の婚約者候補たちとの話は全て白紙に……」
「お兄様!」
あぶない、あぶない。
油断すると婚約が遠のいてしまう――フィロシュネーが呆れているうちに、会話は少しずつ真面目になっていった。
女王を気遣うようにしながら、カーリズ公爵がアーサーに謝辞を捧げる。
「フレイムドラゴンから紅都を守ってくださったことには、最大の感謝を捧げたいと思います。ありがとうございました」
「現場でも申したが、友好国として当然のことをいたしたまで。紅都の無辜の民に被害が出なくてなによりだ」
「呪術師の件につきましては、こちらも当然軽く流すつもりはございません。裁判をいたしましょう」
「なに、裁判とな」
あら? 雲行きがおかしい? ……裁判?
カーリズ公爵は、友好的に微笑んだ。
「貴国の本物の預言者どのもお連れください。ああっ、そんなお顔をなさらず! 罪人扱いはいたしません。まずは参考として、呪術師のターゲットにされたご当人にお話をおうかがいしようと、そういうわけです」
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