悪辣王の二人の娘 ~真実を知った聖女は悪を討つ~

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます

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4、奪還のベリル

289、月に至る道、上下階段。わたくし、名推理! …わたくしは、間違えることもありますの

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 青国と空国の登山隊が遺跡の中へと入っていく。

 フェニックスのナチュラは彼らを見送り、「いつ帰ってくるかな?」とワクワクとした呟きをこぼした。

 風がそよりと吹いて、フェニックスの赤い毛を撫でる。
 翼にまとった炎がゆらゆらと揺れて、鳥の目はふと、神域の外を気にした。

「数が少ないと思っていたけれど、隊を分けたのですね。どうしてでしょう」

 鳥の頭が疑問にかたむく。
 神域の外では、呪術や魔法を使っての戦闘が派手に行われているらしい。
 
 * * *
 
 遺跡の中は、外から見ると暗かった。
 登山隊あらため遺跡探検隊となった一行は、明かりをともして穴の中へと順番に入っていった。
 
 けれど一歩足を踏み入れた瞬間、両側の壁に光の花がふわりと咲く。
 最初の一歩で左右に二輪。次の一歩でまた二輪。
 歩くたびに近くで光の花が咲く。通り過ぎたあとも明るいままの親切設計だ。

「おもてなし精神を感じますねえ」

 ハルシオンが楽しそうに言って、目の上で片手を傘のようにかざして道の先に目をこらしている。
 道の幅は広くなったり狭くなったりと不安定だ。
 
「立て札がありますね」
 
 空国の預言者ネネイが手を振り、前方の暗闇を払うように呪術の明かりを飛ばしている。同時に青国の預言者ダーウッドが杖を振り、小さな火の玉を明かりとして飛ばしている。
 
(あ、あなた、対抗しているわね)
 フィロシュネーは自国の預言者の対抗心を察しつつ、道の先へと足を進めた。
 
 立て札には、文字が書いてあった。

「これは古代の言葉ですね」
 と、ハルシオンが読もうとする。フィロシュネーにっこりとした。
 
「わたくし、読めますわ。読みましょう」
「素晴らしいですね、シュネーさん。では、一段落ずつ読むのはいかがです?」

 頷き合って、二人は交互に文字を読んだ。

「月に至る道」
 
「人生は選択の連続だ。なにが正解かは、誰も知らない。正義は人の数だけある。迷っても時間は過ぎていく。選び続ける君は、選んだ結果、道を戻ることもできるときがあるし、できないときもある」
 
「選び続ける君を誰かが見ているかもしれないし、誰も見ていないかもしれない。選ばれない君を誰かが選ぶかもしれないし、誰からも選ばれないかもしれない」

 これはなんでしょう、と騎士や魔法使い、呪術師たちが考察会を始める。 
 フィロシュネーは時間が気になった。

「歩きながら考えるのでは、だめかしら? 立ち止まっている時間がもったいないと思うの」

 月隠の夜は一年に二度。
 今夜を逃したら、半年後まで待たなければならない――

(ナチュラさん。おもてなしは嬉しいのですけど、わたくしたちの時間は限られているの……)

 フィロシュネーはこっそりと焦燥と不安を抱えつつ、ハルシオンと視線を交わして先に進んだ。

 通路を進むと、階段があった。
 上にのぼる階段と、下におりる階段だ。
 上にのぼる階段は水晶のように透明な素材でできていて、下におりる階段は赤い素材でできていた。

「これは、試練でしょう。正しき道を選べと神鳥様から試されているに違いありません」

 遺跡探検隊のメンバーの中からそんな声が湧いて、またしても考察会が始まりかける。

「ふうむ。シュネーさん、どう思われます? 私は……」
「上に行ってみたらいかがでしょうか?」

 フィロシュネーは反射の速度で上にのぼる階段を選んだ。

「だって、『月に至る道』と書いてあったのですもの。ナチュラさんは幻影で、上にのぼっていく高い塔を見せましたわ。それって、上にいきなさいってことなのでは?」

「さすが青王陛下!」
「さすが聖女様!」
「ふふん……♪」
 
(わたくし、名推理!) 
 と、ドヤ顔になって階段をのぼったフィロシュネーは……階段をのぼりきった瞬間、外にいた。どういう仕組みなのかはわからないが、入り口に戻っていたのだ。

「ふぇっ?」

 いっしょに階段をのぼった遺跡探検隊のメンバーたちも、みんなみんな、外にいる。

「あっ?」
「ここは、外!?」
 
 遺跡の入り口の穴からぞろぞろと出てきて驚いている遺跡探検隊を見て、外で待っていたナチュラはゲラゲラと笑った。

「あっはっはっは! は、はやかったですね! 残念、今の選択は、はずれです。しかし、もう一度挑戦できますから安心してください。わしは優しいでしょう?」

 どうやら上にのぼる階段は、はずれだったらしい。

「はずれだと」
「青王陛下が間違ったご選択を……」
「聖女様が……」

 遺跡探検隊のみんながぼそぼそとささやくのが聞こえて、フィロシュネーは真っ赤になって扇をひろげ、顔を隠した。

「んー、いえいえ。今のは私が間違ったのですよ。そうでしょう? ん?」

 ハルシオンは伸びやかな声で周囲に圧力をかけ、どうやらフォローしてくれている。
 
(ありがとうございます、ハルシオン様。でもそれって無理があると思いますの~~っ!)

 フィロシュネーはどう反応するべきか迷った末に「今のは、わたくしが間違いましたの」と正直に言った。

「わ、わたくしは、間違えることもありますの。ですから、皆さまのお知恵が必要なのですわ。た、頼りにしていますわ」

 可憐な美貌の女王が頬を赤らめて殊勝に言うと、遺跡探検隊のメンバーたちは「おおっ」と謎の歓声をあげ、やる気を何倍にも向上させたのだった。
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