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4、奪還のベリル
292、古代と現代、ここまでで選ばれていない子
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遺跡の奥につづく扉を開くと、長い通路があった。
フィロシュネーが気になったのは、左右の壁に描かれた絵だ。
地面が盛り上がって山になる絵。これは、レクシオ山の成り立ちを描いたのだろう。
山の上に空からの流星が二つ落ちる絵。これは、山頂の窪んだ地形の原因だろうか?
二つのうち、ひとつが鳥になる絵は……。
「ナチュラさんはフェニックスになる前は流れ星だったとか……?」
そんな意味に読み取れる気がするが、真相はよくわからない。
疑問を持て余しながら進む道は、ゆるやかな下り坂だ。
遺跡探検隊のメンバーは、歩きながら夢の話で盛り上がっていた。
「故郷の村で母さんが俺のことを自慢してる夢を見たよ。帰ったら手紙を書こうかな」
「お前、そこは休みを取って里帰りだろう」
「妻と子どもの夢を見た……しかも妻は吟遊詩人と良い雰囲気になっていたぞ。見つめ合って手を握っていた」
「アッ」
「あー……」
吟遊詩人に妻を寝取られ疑惑の隊員に、同情的な視線が集まっていく。
「あなたも夢を見まして?」
フィロシュネーはコッソリとダーウッドに問いかけた。
「夢は見ました。アーサー様が……」
どことなく甘酸っぱい呟きだ。
「お兄様はお元気でした?」
「見知らぬ閉鎖的な場所で。その場所は、船と呼ばれていましたが」
「ふむふむ……ダイロスさんがおっしゃっていた『神々の舟』? お迎えを待っていましたの?」
「お元気そうに駆け回って槍を爆発させていました……」
「……そ、そう。……それ、大丈夫なのかしら」
夢が単なる夢ではないとすると、兄は元気なのだろう。
フィロシュネーは兄の槍投げと爆発を懐かしく思い出した。暴れているというのは心配だが、ダーウッドはほわほわとした嬉しそうな足取りだ。
(わたくしもお兄様をお迎えできるのが嬉しいけど、あなたもとっても嬉しくて、お会いするのが楽しみなのね)
フィロシュネーは微笑ましく思った。
「私はアルが麻縄を懐かしそうに撫でている夢を見ましたよ」
「ハ、ハルシオン様、……私も同じ夢を見ました」
「……ネネイも? 奇遇ですねえ」
ハルシオンは空国の預言者ネネイと微妙な距離感で会話している。
「ハルシオン様と同じ夢をみれて、光栄です」
「私も、同じ夢をみれて光栄です。ネネイ」
ハルシオンの後ろにつづく女騎士ミランダは揃いの騎士服のルーンフォークに「呪術伯のカピバラが着ぐるみで、背中にチャックがあるとはどういう意味ですか? 理解しがたいのですが」と困惑気味の声をかけている。
「俺にもよくわからないのですが、兄さんは着ぐるみカピバラだったのです」
「……変な夢をみてしまったのですね……」
『月に至る道』は、どんどん下に向かっている。
曲がり角を三度ほど曲がり、一行は足を止めた。
曲がり角の先には、立て札が一つと、扉が左右に二つ並んでいた。
立て札には『古代と現代、どちらかの扉を選んでください』と書いてあった。
左の扉は赤く、人間が三人描かれている。右の扉は空色で、人間とエルフと球体関節の人形が描いてある。
「シュネーさん、これは興味深いですね」
ハルシオンは面白そうに言った。
「立て札のメッセージを踏まえて扉の絵を見るに、左の扉はカントループの旧人類時代を表わしているのです。そして、右の扉は旧人類が滅びたあと……カントループがつくった人形と、新人類たちの時代……」
「ふむ?」
それでは、古代と現代を選ぶとはどういうことなのかしら?
フィロシュネーは首をかしげた。
(どちらがいいか、と選ぶなら、わたくしは現代を生きている『カントループがつくった人形』の子孫なのだから、右の扉がいいわ)
フィロシュネーがそう考えたとき、ハルシオンが先に意見を言った。
「私がカントループであれば古代を慕わしく思ったかもしれませんが……。んー、いや。カントループでも、自分がつくった人形の子孫が自然の生き物にまざって世界の一員として繁栄している現代を愛しく思う、かな」
ハルシオンの移り気な空の青の瞳が、まっすぐに扉を見つめた。
「私は現代を選びたいです。よろしいですか、シュネーさん?」
「わたくしも、現代がいいと思っていたところです」
二人がいっしょに扉を開くと、扉の先は広い部屋になっていた。
部屋はそのまま生活できそうな空間となっていて、椅子やテーブル、ソファが置かれている。テーブルの上には香水時計と料理があった。料理は、まるで作りたて。ジューシーなステーキは焼きたての雰囲気で、スープから湯気がのぼっている。
フィロシュネーは部屋の壁に扉があることに気付いた。
右側の壁にひとつ、赤い扉が。
左側の壁にひとつ、青い扉が。
真正面の壁にひとつ、空色の扉が。
「なんだ、この部屋は?」
「えっ。ご馳走がある」
「そういえば、時間は……」
遺跡探検隊はざわざわとした。
「ハルシオン様。テーブルの上にメッセージカードがありました」
空国の預言者ネネイが両手でメッセージカードをつまみ、読み上げる。
「休憩場所を用意したので、お食事でもどうぞ。次のお部屋に、お望みの扉があります。三つの扉のうち一つを選んであげてください。ここまでで選ばれていない子が選ばれると、わし好みですよ。……と、書いてあります」
フィロシュネーは香水時計を確認した。
「ナチュラさんがいたずら心で時計の時間を現実と変えている可能性もあるけれど……この時計の時間を信じるなら、今は夕方ですわね」
月が夜空にのぼりきったころ、月隠が始まる。
フィロシュネーはどきどきしながら扉を確認した。
「ここまでで選ばれていない子が選ばれると、わし好み……」
ふと、入り口付近の立て札の文言が思い出される。
――『選ばれない君を誰かが選ぶかもしれないし、誰からも選ばれないかもしれない』という文言だ。
「選択の連続……選び続けたわたくしたち……ここまでで選ばれていない子……、あっ、わかりましたわ」
ピインと思いついたアイディアに、フィロシュネーはナチュラが持たせてくれたお菓子を見た。
「このお菓子も、ヒントなのかしら。赤色と空色の果実ですの」
どういうことか、と他の遺跡探検隊メンバーたちが注目してくる。
「正解がもうわかったのですか、さすが青王陛下」
「さすが聖女様……」
(うっ。これでまた不正解したら、きまり悪いことこの上ないですわ~っ)
フィロシュネーはプレッシャーを感じつつ、「ここまでで選ばれていない子」についての考えを共有した。
フィロシュネーが気になったのは、左右の壁に描かれた絵だ。
地面が盛り上がって山になる絵。これは、レクシオ山の成り立ちを描いたのだろう。
山の上に空からの流星が二つ落ちる絵。これは、山頂の窪んだ地形の原因だろうか?
二つのうち、ひとつが鳥になる絵は……。
「ナチュラさんはフェニックスになる前は流れ星だったとか……?」
そんな意味に読み取れる気がするが、真相はよくわからない。
疑問を持て余しながら進む道は、ゆるやかな下り坂だ。
遺跡探検隊のメンバーは、歩きながら夢の話で盛り上がっていた。
「故郷の村で母さんが俺のことを自慢してる夢を見たよ。帰ったら手紙を書こうかな」
「お前、そこは休みを取って里帰りだろう」
「妻と子どもの夢を見た……しかも妻は吟遊詩人と良い雰囲気になっていたぞ。見つめ合って手を握っていた」
「アッ」
「あー……」
吟遊詩人に妻を寝取られ疑惑の隊員に、同情的な視線が集まっていく。
「あなたも夢を見まして?」
フィロシュネーはコッソリとダーウッドに問いかけた。
「夢は見ました。アーサー様が……」
どことなく甘酸っぱい呟きだ。
「お兄様はお元気でした?」
「見知らぬ閉鎖的な場所で。その場所は、船と呼ばれていましたが」
「ふむふむ……ダイロスさんがおっしゃっていた『神々の舟』? お迎えを待っていましたの?」
「お元気そうに駆け回って槍を爆発させていました……」
「……そ、そう。……それ、大丈夫なのかしら」
夢が単なる夢ではないとすると、兄は元気なのだろう。
フィロシュネーは兄の槍投げと爆発を懐かしく思い出した。暴れているというのは心配だが、ダーウッドはほわほわとした嬉しそうな足取りだ。
(わたくしもお兄様をお迎えできるのが嬉しいけど、あなたもとっても嬉しくて、お会いするのが楽しみなのね)
フィロシュネーは微笑ましく思った。
「私はアルが麻縄を懐かしそうに撫でている夢を見ましたよ」
「ハ、ハルシオン様、……私も同じ夢を見ました」
「……ネネイも? 奇遇ですねえ」
ハルシオンは空国の預言者ネネイと微妙な距離感で会話している。
「ハルシオン様と同じ夢をみれて、光栄です」
「私も、同じ夢をみれて光栄です。ネネイ」
ハルシオンの後ろにつづく女騎士ミランダは揃いの騎士服のルーンフォークに「呪術伯のカピバラが着ぐるみで、背中にチャックがあるとはどういう意味ですか? 理解しがたいのですが」と困惑気味の声をかけている。
「俺にもよくわからないのですが、兄さんは着ぐるみカピバラだったのです」
「……変な夢をみてしまったのですね……」
『月に至る道』は、どんどん下に向かっている。
曲がり角を三度ほど曲がり、一行は足を止めた。
曲がり角の先には、立て札が一つと、扉が左右に二つ並んでいた。
立て札には『古代と現代、どちらかの扉を選んでください』と書いてあった。
左の扉は赤く、人間が三人描かれている。右の扉は空色で、人間とエルフと球体関節の人形が描いてある。
「シュネーさん、これは興味深いですね」
ハルシオンは面白そうに言った。
「立て札のメッセージを踏まえて扉の絵を見るに、左の扉はカントループの旧人類時代を表わしているのです。そして、右の扉は旧人類が滅びたあと……カントループがつくった人形と、新人類たちの時代……」
「ふむ?」
それでは、古代と現代を選ぶとはどういうことなのかしら?
フィロシュネーは首をかしげた。
(どちらがいいか、と選ぶなら、わたくしは現代を生きている『カントループがつくった人形』の子孫なのだから、右の扉がいいわ)
フィロシュネーがそう考えたとき、ハルシオンが先に意見を言った。
「私がカントループであれば古代を慕わしく思ったかもしれませんが……。んー、いや。カントループでも、自分がつくった人形の子孫が自然の生き物にまざって世界の一員として繁栄している現代を愛しく思う、かな」
ハルシオンの移り気な空の青の瞳が、まっすぐに扉を見つめた。
「私は現代を選びたいです。よろしいですか、シュネーさん?」
「わたくしも、現代がいいと思っていたところです」
二人がいっしょに扉を開くと、扉の先は広い部屋になっていた。
部屋はそのまま生活できそうな空間となっていて、椅子やテーブル、ソファが置かれている。テーブルの上には香水時計と料理があった。料理は、まるで作りたて。ジューシーなステーキは焼きたての雰囲気で、スープから湯気がのぼっている。
フィロシュネーは部屋の壁に扉があることに気付いた。
右側の壁にひとつ、赤い扉が。
左側の壁にひとつ、青い扉が。
真正面の壁にひとつ、空色の扉が。
「なんだ、この部屋は?」
「えっ。ご馳走がある」
「そういえば、時間は……」
遺跡探検隊はざわざわとした。
「ハルシオン様。テーブルの上にメッセージカードがありました」
空国の預言者ネネイが両手でメッセージカードをつまみ、読み上げる。
「休憩場所を用意したので、お食事でもどうぞ。次のお部屋に、お望みの扉があります。三つの扉のうち一つを選んであげてください。ここまでで選ばれていない子が選ばれると、わし好みですよ。……と、書いてあります」
フィロシュネーは香水時計を確認した。
「ナチュラさんがいたずら心で時計の時間を現実と変えている可能性もあるけれど……この時計の時間を信じるなら、今は夕方ですわね」
月が夜空にのぼりきったころ、月隠が始まる。
フィロシュネーはどきどきしながら扉を確認した。
「ここまでで選ばれていない子が選ばれると、わし好み……」
ふと、入り口付近の立て札の文言が思い出される。
――『選ばれない君を誰かが選ぶかもしれないし、誰からも選ばれないかもしれない』という文言だ。
「選択の連続……選び続けたわたくしたち……ここまでで選ばれていない子……、あっ、わかりましたわ」
ピインと思いついたアイディアに、フィロシュネーはナチュラが持たせてくれたお菓子を見た。
「このお菓子も、ヒントなのかしら。赤色と空色の果実ですの」
どういうことか、と他の遺跡探検隊メンバーたちが注目してくる。
「正解がもうわかったのですか、さすが青王陛下」
「さすが聖女様……」
(うっ。これでまた不正解したら、きまり悪いことこの上ないですわ~っ)
フィロシュネーはプレッシャーを感じつつ、「ここまでで選ばれていない子」についての考えを共有した。
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