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2、3歳。ママを死なせない!

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 転生してから3年。

 仲良し家族に囲まれて、私はすくすくと育った。
 精霊さんも健在だ。
 最近は、「にゃー」という鳴き声でも何を伝えようとしてるのかわかるようになってきた。

 シャボンの香りが漂うヴァリディシア侯爵家の子ども部屋で、家族が勢ぞろいで過ごしている。
 パパとママはソファに座り、私とアルバートお兄様はふかふか絨毯の上で寝そべって、背中に精霊さんを載せあいっこしながら絵本を読んでいる。
 
「せーれいさんは、魔力をあげると魔法をつかってくれますって書いてるよ」
「みゃあー(使えるよ)」
「魔力あげまちゅ」
「ごろごろ(魔力おいしい)」
 
「ルルミィは文字がすらすらと読めてすごいなあ……って、こらこら。そんなに魔力をあげたら疲れて倒れちゃうよ」
  
 パパが止めに入る隣で、アルバートお兄様は「そういえば」と窓から見える時計塔を指さした。
 
「ルルミィ、ぼくは明日王子様と時計塔にいくんだよ。おみやげを買ってくるからね」
「……とけいとう?」

 時計塔という言葉をきいた瞬間、記憶が思い出される。

「あーーー! たいへん!」
「ど、どうしたんだいルルミィ!?」
 
 ママが命を落とす事件は原作設定では「エイデン王子の時計塔見学事件」と呼ばれていた。
 エイデン王子という現在6歳の第一王子が時計塔見学をしたのだが、そこを第二王子派、敵対派閥の暗殺者に狙われたのだ。
 
 その時、王子殿下の学友であるアルバートお兄様とママも現場にいて、ママはその身を挺して王子様をお守りし、命を落とす……というのが、原作ゲームの設定。

 ――ママが死んじゃう!

 この事実をどう伝えたらいいんだろう? 
 悩んでいると、精霊さんがふかふかの前足で「だいじょうぶだよ!」とアピールしてくる。
 
「せーれいさん?」
「うにゃーん♪」
 
 精霊さんは私の目の前でころんっと転がり、「撫でてよー」とお腹をみせた。
 
「あーい!」

 なでなで。うーん、ふかふか。 
 あっ、精霊さんがごろごろと喉を鳴らし、ピカーッと光った。
 
「なんだ!? なにかえる……!?」
 
 家族全員、大騒ぎ。
 なんと、精霊さんは魔法でみんなの頭の中に「時計塔に潜む暗殺者」や「暗殺者がエイデン王子を狙い、ママが王子を庇って斬られる」というイメージを見せてくれたらしい。

「こ、これは、精霊様の魔法か! なんて恐ろしい……」
「加護ですわ、あなた。精霊様の加護です!」
「こうしてはいられない。出かけてくる……! この情報は王室に共有し、急いで対策せねば!」
 
 パパは慌ただしく出かける準備をして、私の頬にちゅっとリップ音を立ててキスをした。
 
「でかした、ルルミィ! お前の力で、凶悪な事件が防げるぞ!」
 
 大人たちが対策を練ったあと、翌日の時計塔見学は実施された。
 ただし、暗殺者を罠に嵌める形で。
 結果として暗殺者は捕まり、被害はゼロ。ママが無事だったので、私はとても安心した。
 
「ルルミィ嬢のお手柄で、暗殺事件を防ぐことができた。敵対派閥を率いていた貴族が首謀者だとわかり、有罪が決まったよ」
 
 国王陛下は私とパパをお城に呼んで、謁見えっけんで「精霊の預言を伝えた聖女と、その父親」としてみんなの前で功績を褒め讃えてくれた。大人の貴族たちが注目してくる。ワッと拍手が湧く。
 こんなに大勢の人の前で褒められて拍手されたのは、初めてだ。ちょっと恥ずかしい。
 たくさんの視線から逃れるように、私はパパにぎゅーっとしがみついた。
 
「よしよし、ルルミィ。怖くないぞ」
 
 パパはニコニコして、私を撫でてくれた。
 と、そんな謁見の間に、慌てた様子の大人の声と、明るくてやんちゃな男の子の声が響く。

「アーッ、エイデン殿下ぁーっ、いけません!」  
「はっはー! アーモンドの妹はおまえかー! ちっちゃいな!」
  
 声の主は、オレンジに近いきらっきらの金髪と明るい青空の瞳をした男の子だ。

 男の子は、だだだーっと勢いよく走って来た。後ろに従者らしき大人が数人、ついてくる。
 身なりがいい。それに、エイデン殿下と呼ばれていた――ということは?
 
「おれさまが時計塔の探検隊長だ! ついてこい!」
「へっ、えいでんしゃま?」

 原作で闇墜ちしたヴァリディシア侯爵家が世界を脅かしたとき、国のため世界のために立ち上がって悪を滅ぼす主人公。それが「エイデン様」だ。

「いかにも! おれがエイデンであるっ!」
  
 ぐいっと私の腕を掴んで引っ張っていこうとするエイデン王子は6歳で、元気いっぱいだった。陽気なオーラがすごい。きらきらしてる。
 
「アーモンドの妹のルルルンだな! 大人の集まりは話が長くてつまらん! おれと遊べ! 拒否権はなーい!」

 兄妹揃って変な名前で覚えられてる!
 兄はアーモンドじゃないし、ルルルンは前世の世界で人気だったフェイスマスクの名前で、私の名前じゃありませんっ!

「こらっ、エイデン!」
 
 お日様みたいな笑顔で話しかけるエイデン王子は、すぐに私から引き剥がされた。
 でも、「おれは気にしないぜ!」な態度でこっちを見て、ビシッと指を指してくる。

「説教が長くてルルフンがフンフンしてるぞ! かわいそうに! アルバカバカもよくバカバカするんだ!」

 フンフンバカバカってなに? 
 ニコニコした無邪気な顔には悪意はなさそうだけど、王子の言語センスは独特だ。
 
「わ、わたちはルルミィで、お兄様はアルバートでち!」
「おー! そうそう、それだ! まあ名前なんて細かいことはいい! おれの探検隊に入れてやるっ、毎週集まって庭で探検ごっこだ!」
 
 その日、なぜか私はエイデン王子の探検ごっこ隊メンバーになった。
 探検隊は年齢が近い貴族の子どもたちで構成されていて、アルバートお兄様もメンバーだ。

「アルバート! 暗殺者を警戒だ!」
「はいっ、王子殿下」
「ルルミィはおれの嫁になれ!」
「!? 遠慮しましゅ」
「お前3歳なのに遠慮できるのか! すごいな!」

 精霊様は……。

「みゃあー!(探検たのしー!)」
 
 ……今後も、仲良くしてくれそうです!
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