悪役令嬢ですが、失恋仲間の当て馬王子と一緒に幸せになります!

朱音ゆうひ@『桜の嫁入り』発売中です

文字の大きさ
22 / 37

21、別に嫉妬なんてしていませんわ

しおりを挟む
「学園の怪談ってご存じ? 学園の花園にある『想いが成就する木』は?」
 我が家に遊びにいらしたアミティエ様は、いろんなことをお話してくださいました。

 厨房を貸し切り状態にして、異世界料理人のリックが監督する中、わたくしたちは二人でクッキー作りに挑戦しています。
 わたくしが卵をパカッと割ると、アミティエ様は拍手してくださり、ご自分は卵を潰して残念そうなお顔。
 
「ふふ、慣れたら簡単なのですわ!」
 
 キャッキャと笑い合うわたくしたちを、ソワソワとカーテイルお兄様が見にきています。
 
「レディ・アミティエ……我が家へようこそ」
 
 眼鏡をくいくいとしながら妙に格好つけたカーテイルお兄様は、手に赤い薔薇なんで持っていらっしゃるのですが。婚約者がいますよね、お兄様?
 
「お兄様?」
「ち、違う。違うぞ。ファンなだけだ」
「ファンとは」
「流行小説にもあっただろう。推しという文化。敬愛し、応援してるだけだ。剣術に秀でた聖女様、格好良いじゃないか」
 
 カーテイルお兄様いわく、殿方の中にも格好良い女性に憧れる方々は多いらしいのです。
 
「尻に敷いてほしい……ハッ」
「お兄様の婚約者様に報告しておきますわね」
「メモリア! 違うんだ、メモリア! クッキー食べてみたいとか思ってないからメモリア! でも食べてみたいんだメモリア!」
 
 二人で作ったクッキーを可愛らしくラッピングして、翌日学園のサロンで披露すると、二人の王子様は「流行小説のキャラクターになった気分だよ」と喜んでくださいました。

「皆様の分もありますわ。たくさん作りましたの」
「二人は仲良くなったんだねえ……あんまり仲良さそうだと、妬けてしまうな」

 ユスティス様が微笑ましそうにわたくしとアミティエ様を見つめて、さりげなーくアミティエ様の腰を引き寄せます。

「まあ、ユスティス様。嫉妬しないでくださいまし」
 
 楽しく声を返しながら、わたくしはアミティエ様がポッと赤くなって嬉しそうにしているのを好ましく見つめ。
 そーっとオヴリオ様を窺いました。

「うん。美味しいな」
 
 オヴリオ様はハート型のクッキーを集めて、「持ち帰りたい」と微笑むのですが。
 
「あ……当て馬活動の方は……」
「ん?」
「いえ、オヴリオ様が平気なら、良いですわ」
「ん……美味しいよ」 

 わたくし、ちょっとだけ心配しましたのよ。
 目の前でイチャイチャされて、傷付いていらっしゃらないか、とか。

「平気なのですわね」
 
 平気そう、どころか、クッキーに幸せそうになさっているオヴリオ様を見ると、わたくしの心はふわふわしてきました。
 安心と、喜びが混ざったみたいな、そんな浮ついた感情です――、

「よかったですわ」
「好きじゃないけど?」
「ええ、好きじゃありません、でしたね」
 
 
 賑やかな空間は居心地が良くて、すぐ隣に座るオヴリオ様が微妙な距離感で頷くのが、とても嬉しいのです。
 
 
「ボクの連載小説も、続きを後で配布します。お楽しみください!」
 
 トムソンが手書きの小説を手にニコニコして、構想を熱い口調で語ってくれます。
 
「にゃあ?」
「白ネコさんも、読んでくれる?」
「にゃあ」

 トムソンも、白ネコとすっかり仲良しです。

「ボクの小説はね、お父様が書いた小説の続きなんだよ。お父様が書いていいよって言ってくださったんだ。お父様の小説って、悪役令嬢が呪われてざまぁで終わったんだけど、お父様は、実在する魔女さん……魔法の得意だったご令嬢を、悪役令嬢として小説に書いたのをずっと後悔してるんだ」

 周囲の視線が、トムソンに集まります。
 ユスティス様とオヴリオ様が真剣な表情になっていて、わたくしはドキリとしました。

「……申し上げても、いいですか」
 
 トムソンがひたむきな目を向けると、王家のお二人はコクリと頷きを返しました。
 
「えっと、国王陛下が魔女をからかって、魔女が怒っちゃったってお父様は教えてくれたんです。お父様も国王陛下も謝ったけど、ずっと許してくれないみたいで、何処にいるのかもわからなくなっちゃったって」

 これは、3年前にあったというオヴリオ様が呪われた事件のことではないでしょうか?
 オヴリオ様が国王陛下を庇い、代わりに呪われてしまったという事件のことですよね?
  
「ボク、悪役令嬢の呪いが解けて救われる続編を書いて、魔女さんに読んでほしいんだ。魔女さんが良い気分になってくれたら嬉しいし、お父様の気持ちも、そうしたら楽になるんじゃないかなって」

 きゅっと拳を握り、一生懸命に語るトムソンに、白ネコがすりすりと頬を寄せました。
 
「にゃあ」
 白ネコが愛らしく鳴く声は、真剣な表情をして話を聞いていた全員をほんわりと和ませて。

「えっと、楽しい時間に重たいお話をしてごめんなさい……ボク、最後まで書くから、白ネコさんも楽しみにしていてね」

 トムソンがふわりと微笑むと、サロンの学生たちは「まだ読んでなかったから後で読んでみるよ」とか、「続き一緒に考えてもいい?」とか言って、トムソンを囲むのでした。
 
「俺はさ、思い出せたらいいと思うんだ」
 
 オヴリオ様がトムソンに呟く声が、賑やかな中で印象的にわたくしの心に響きます。
 
「エヴァンスの小説で呪われてざまぁってなった魔女って、大切な人に忘れられてしまうから」

 
 大切な人に忘れられてしまうから。
 思い出せたらいいと思うんだ。

 
 胸の奥で、鼓動がドキッと跳ねました。

「そういう展開にしてみようかな」
 
 トムソンがニコニコ笑いながらノートにメモを取っていて、白ネコがひょこりと膝に乗ってノートを覗いてふんふんと鼻をひくつかせています。
 ナイトくんまで、一緒になって膝に乗り、白ネコと縄張り争いみたいに押し合いへしあい始めるので、周囲は「トムソン、ネコにもてもて」と笑いました。

「呪いは、どうやったら解けるの?」
「うーん、まだそこは詰めてないんだ。童話とかによくある感じだと、王子様のキスかな?」
「ロマンがあっていいじゃない。私はそういうの好きよ」

 アミティエ様がノリノリです。

「そういえば、聖女様って呪いを解いたりできるんじゃ? 聖女様にキスしてもらおうぜ」
「それじゃ、百合になっちゃうよ」
「あはは」
 
 ――聖女様のキス。

 わたくしはなんとなくアミティエ様の唇を見てしまいました。
 ぷるんとしていて、肉感的で、華麗なお花みたいな形の良い唇。

 呪いを解くために、もしそれが有効だとして……。

 ふっとそんな想いが胸をよぎり、わたくしはふるふると首を振りました。

 ……アミティエ様がオヴリオ様にキスをする光景を想像すると、なんだかとっても面白くない感じがするのです。
 
「むむむ……」
 これは――この感情は――……、
「メモリア?」
「べ、別に嫉妬なんてしていませんわ」

 オヴリオ様にひょいっと顔を覗き込まれて慌てて言えば、周囲の皆様がすっごくニヤニヤするではありませんか。

「こ、これはいつも言っていることなんです。わたくし、好きじゃありませんの。本当に、いつもこれを言ってますの。それだけですの――――」

 その後は何を言ってもニヤニヤされるだけで、わたくしはとっても恥ずかしい気持ちでいっぱいになったのでした……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。  第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。 「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。 「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。  だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。 全43話+番外編です。

枯渇聖女は婚約破棄され結婚絶対無理ランキング1位の辺境伯に言い寄られる

はなまる
恋愛
 らすじ  フレイシアは10歳の頃母と一緒に魔物に遭遇。その時母はかなりの傷を負い亡くなりショックで喋れなくなtったがその時月の精霊の加護を受けて微力ながらも魔法が使えるようになった。  このニルス国では魔力を持っている人間はほとんどいなくて魔物討伐でけがを負った第二王子のジェリク殿下の怪我をほんの少し治せた事からジェリク殿下から聖女として王都に来るように誘われる。  フレイシアは戸惑いながらも淡い恋心を抱きジェリク殿下の申し出を受ける。  そして王都の聖教会で聖女として働くことになりジェリク殿下からも頼られ婚約者にもなってこの6年フレイシアはジェリク殿下の期待に応えようと必死だった。  だが、最近になってジェリクは治癒魔法が使えるカトリーナ公爵令嬢に気持ちを移してしまう。  その前からジェリク殿下の態度に不信感を抱いていたフレイシアは魔力をだんだん失くしていて、ついにジェリクから枯渇聖女と言われ婚約を破棄されおまけに群れ衣を着せられて王都から辺境に追放される事になった。  追放が決まり牢に入れられている間に月の精霊が現れフレイシアの魔力は回復し、翌日、辺境に向かう騎士3名と一緒に荷馬車に乗ってその途中で魔物に遭遇。フレイシアは想像を超える魔力を発揮する。  そんな力を持って辺境に‥    明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。少し間が開いてしまいましたがよろしくです。  まったくの空想の異世界のお話。誤字脱字などご不快な点は平にご容赦お願いします。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。他のサイトにも投稿しています。

転生したら、乙女ゲームの悪役令嬢だったので現実逃避を始めます

山見月あいまゆ
恋愛
私が前世を思い出したのは前世のことに興味を持った時だった 「えっ!前世って前の人生のことなの。私の前の人生はなんだろう?早く思い出したい」 そう思った時すべてを思い出した。 ここは乙女ゲームの世界 そして私は悪役令嬢セリーナ・グランチェスタ 私の人生の結末はハーッピーエンドなんて喜ばしいものじゃない バットエンド処刑されて終わりなのだ こんなことを思い出すなら前世を思い出したくなかった さっき言ったこととは真逆のことを思うのだった…

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

気がついたら婚約者アリの後輩魔導師(王子)と結婚していたんですが。

三谷朱花
恋愛
「おめでとう!」 朝、職場である王城に着くと、リサ・ムースは、魔導士仲間になぜか祝われた。 「何が?」 リサは祝われた理由に心当たりがなかった。 どうやら、リサは結婚したらしい。 ……婚約者がいたはずの、ディランと。

婚約破棄された令嬢は氷の公爵に拾われ、気づけば溺愛されていました~見下してきたあなた、後悔してももう遅いわ~

exdonuts
恋愛
婚約者である王太子に理不尽な罪をなすりつけられ、婚約破棄された公爵令嬢レティシア。 家族にも見放され、絶望の淵にいた彼女の手を取ったのは「氷の公爵」と呼ばれる冷徹な青年・アランだった。 愛を知らずに生きてきた彼の優しさが、傷ついたレティシアの心を少しずつ溶かしていく。 一方、過去の悪行が暴かれ始めた王太子とその取り巻きたち。 ざまぁが爽快、愛が深く、運命が巡る。 涙と笑顔の“溺愛ざまぁ”ロマンス。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...