悪役令嬢ですが、失恋仲間の当て馬王子と一緒に幸せになります!

朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます

文字の大きさ
22 / 37

21、別に嫉妬なんてしていませんわ

しおりを挟む
「学園の怪談ってご存じ? 学園の花園にある『想いが成就する木』は?」
 我が家に遊びにいらしたアミティエ様は、いろんなことをお話してくださいました。

 厨房を貸し切り状態にして、異世界料理人のリックが監督する中、わたくしたちは二人でクッキー作りに挑戦しています。
 わたくしが卵をパカッと割ると、アミティエ様は拍手してくださり、ご自分は卵を潰して残念そうなお顔。
 
「ふふ、慣れたら簡単なのですわ!」
 
 キャッキャと笑い合うわたくしたちを、ソワソワとカーテイルお兄様が見にきています。
 
「レディ・アミティエ……我が家へようこそ」
 
 眼鏡をくいくいとしながら妙に格好つけたカーテイルお兄様は、手に赤い薔薇なんで持っていらっしゃるのですが。婚約者がいますよね、お兄様?
 
「お兄様?」
「ち、違う。違うぞ。ファンなだけだ」
「ファンとは」
「流行小説にもあっただろう。推しという文化。敬愛し、応援してるだけだ。剣術に秀でた聖女様、格好良いじゃないか」
 
 カーテイルお兄様いわく、殿方の中にも格好良い女性に憧れる方々は多いらしいのです。
 
「尻に敷いてほしい……ハッ」
「お兄様の婚約者様に報告しておきますわね」
「メモリア! 違うんだ、メモリア! クッキー食べてみたいとか思ってないからメモリア! でも食べてみたいんだメモリア!」
 
 二人で作ったクッキーを可愛らしくラッピングして、翌日学園のサロンで披露すると、二人の王子様は「流行小説のキャラクターになった気分だよ」と喜んでくださいました。

「皆様の分もありますわ。たくさん作りましたの」
「二人は仲良くなったんだねえ……あんまり仲良さそうだと、妬けてしまうな」

 ユスティス様が微笑ましそうにわたくしとアミティエ様を見つめて、さりげなーくアミティエ様の腰を引き寄せます。

「まあ、ユスティス様。嫉妬しないでくださいまし」
 
 楽しく声を返しながら、わたくしはアミティエ様がポッと赤くなって嬉しそうにしているのを好ましく見つめ。
 そーっとオヴリオ様を窺いました。

「うん。美味しいな」
 
 オヴリオ様はハート型のクッキーを集めて、「持ち帰りたい」と微笑むのですが。
 
「あ……当て馬活動の方は……」
「ん?」
「いえ、オヴリオ様が平気なら、良いですわ」
「ん……美味しいよ」 

 わたくし、ちょっとだけ心配しましたのよ。
 目の前でイチャイチャされて、傷付いていらっしゃらないか、とか。

「平気なのですわね」
 
 平気そう、どころか、クッキーに幸せそうになさっているオヴリオ様を見ると、わたくしの心はふわふわしてきました。
 安心と、喜びが混ざったみたいな、そんな浮ついた感情です――、

「よかったですわ」
「好きじゃないけど?」
「ええ、好きじゃありません、でしたね」
 
 
 賑やかな空間は居心地が良くて、すぐ隣に座るオヴリオ様が微妙な距離感で頷くのが、とても嬉しいのです。
 
 
「ボクの連載小説も、続きを後で配布します。お楽しみください!」
 
 トムソンが手書きの小説を手にニコニコして、構想を熱い口調で語ってくれます。
 
「にゃあ?」
「白ネコさんも、読んでくれる?」
「にゃあ」

 トムソンも、白ネコとすっかり仲良しです。

「ボクの小説はね、お父様が書いた小説の続きなんだよ。お父様が書いていいよって言ってくださったんだ。お父様の小説って、悪役令嬢が呪われてざまぁで終わったんだけど、お父様は、実在する魔女さん……魔法の得意だったご令嬢を、悪役令嬢として小説に書いたのをずっと後悔してるんだ」

 周囲の視線が、トムソンに集まります。
 ユスティス様とオヴリオ様が真剣な表情になっていて、わたくしはドキリとしました。

「……申し上げても、いいですか」
 
 トムソンがひたむきな目を向けると、王家のお二人はコクリと頷きを返しました。
 
「えっと、国王陛下が魔女をからかって、魔女が怒っちゃったってお父様は教えてくれたんです。お父様も国王陛下も謝ったけど、ずっと許してくれないみたいで、何処にいるのかもわからなくなっちゃったって」

 これは、3年前にあったというオヴリオ様が呪われた事件のことではないでしょうか?
 オヴリオ様が国王陛下を庇い、代わりに呪われてしまったという事件のことですよね?
  
「ボク、悪役令嬢の呪いが解けて救われる続編を書いて、魔女さんに読んでほしいんだ。魔女さんが良い気分になってくれたら嬉しいし、お父様の気持ちも、そうしたら楽になるんじゃないかなって」

 きゅっと拳を握り、一生懸命に語るトムソンに、白ネコがすりすりと頬を寄せました。
 
「にゃあ」
 白ネコが愛らしく鳴く声は、真剣な表情をして話を聞いていた全員をほんわりと和ませて。

「えっと、楽しい時間に重たいお話をしてごめんなさい……ボク、最後まで書くから、白ネコさんも楽しみにしていてね」

 トムソンがふわりと微笑むと、サロンの学生たちは「まだ読んでなかったから後で読んでみるよ」とか、「続き一緒に考えてもいい?」とか言って、トムソンを囲むのでした。
 
「俺はさ、思い出せたらいいと思うんだ」
 
 オヴリオ様がトムソンに呟く声が、賑やかな中で印象的にわたくしの心に響きます。
 
「エヴァンスの小説で呪われてざまぁってなった魔女って、大切な人に忘れられてしまうから」

 
 大切な人に忘れられてしまうから。
 思い出せたらいいと思うんだ。

 
 胸の奥で、鼓動がドキッと跳ねました。

「そういう展開にしてみようかな」
 
 トムソンがニコニコ笑いながらノートにメモを取っていて、白ネコがひょこりと膝に乗ってノートを覗いてふんふんと鼻をひくつかせています。
 ナイトくんまで、一緒になって膝に乗り、白ネコと縄張り争いみたいに押し合いへしあい始めるので、周囲は「トムソン、ネコにもてもて」と笑いました。

「呪いは、どうやったら解けるの?」
「うーん、まだそこは詰めてないんだ。童話とかによくある感じだと、王子様のキスかな?」
「ロマンがあっていいじゃない。私はそういうの好きよ」

 アミティエ様がノリノリです。

「そういえば、聖女様って呪いを解いたりできるんじゃ? 聖女様にキスしてもらおうぜ」
「それじゃ、百合になっちゃうよ」
「あはは」
 
 ――聖女様のキス。

 わたくしはなんとなくアミティエ様の唇を見てしまいました。
 ぷるんとしていて、肉感的で、華麗なお花みたいな形の良い唇。

 呪いを解くために、もしそれが有効だとして……。

 ふっとそんな想いが胸をよぎり、わたくしはふるふると首を振りました。

 ……アミティエ様がオヴリオ様にキスをする光景を想像すると、なんだかとっても面白くない感じがするのです。
 
「むむむ……」
 これは――この感情は――……、
「メモリア?」
「べ、別に嫉妬なんてしていませんわ」

 オヴリオ様にひょいっと顔を覗き込まれて慌てて言えば、周囲の皆様がすっごくニヤニヤするではありませんか。

「こ、これはいつも言っていることなんです。わたくし、好きじゃありませんの。本当に、いつもこれを言ってますの。それだけですの――――」

 その後は何を言ってもニヤニヤされるだけで、わたくしはとっても恥ずかしい気持ちでいっぱいになったのでした……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
面食いで愛人のいる侯爵に伯爵令嬢であり女流作家のアンリが身を守るため変装して嫁いだが、その後、王弟殿下と知り合って・・

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

【完結】愛され令嬢は、死に戻りに気付かない

かまり
恋愛
公爵令嬢エレナは、婚約者の王子と聖女に嵌められて処刑され、死に戻るが、 それを夢だと思い込んだエレナは考えなしに2度目を始めてしまう。 しかし、なぜかループ前とは違うことが起きるため、エレナはやはり夢だったと確信していたが、 結局2度目も王子と聖女に嵌められる最後を迎えてしまった。 3度目の死に戻りでエレナは聖女に勝てるのか? 聖女と婚約しようとした王子の目に、涙が見えた気がしたのはなぜなのか? そもそも、なぜ死に戻ることになったのか? そして、エレナを助けたいと思っているのは誰なのか… 色んな謎に包まれながらも、王子と幸せになるために諦めない、 そんなエレナの逆転勝利物語。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

処理中です...