狐の嫁入り〜推しキャラの嫁が来たので、全力でくっつけようと思う〜

紫鶴

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52、前世安倍晴明と安倍晴明の生まれ変わりと噂されている男の大きな違い

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いない。
何処にもいない。
けれど、死んでいるとは思えなかった。
死んでいるならば、もっとここは酷いことになっている。
ぼんやりと、その時のことを思い出して身震いをした。

脅威だったのは、あの集合体ではなく、彼を慕う妖である。即死とは言わずとも、ほぼ死んでいる状態で家も人も等しく壊れていく様を見ていた。
体が動かない。血が流れているのが分かっていて、腕がただれているのを見ていながら、「助けてください!!」そうすがりつく人々が多かった。
この状況の俺に戦えと?
俺達は何もできない!お前は私たちを守るのが義務だ。そう語っていた者たちは何もしない俺を苛立たし気に殴りつけて逃げて、悲鳴を上げた。

どうでもいい。もうどうでもよかった。だって何にも感じない。誰がどこで、どう死のうが関係ない。
そっと腕の中の鏡を撫でてひきつった笑い声をあげた。
俺は化け物にでもなってしまったのだろうか。
でもだって、こんな人の為に彼が死んだなんて思いたくなかった。

「こんにちは」

声がした。柔らかい声だけど、こんな状況で挨拶をする奴がいい人なわけがない。
反応をするのも億劫で黙っていると、すっと手が伸びた。それは俺が抱えている鏡を掴む。

「触るな!!」
「おや、まだ生きていたんですね」

顔をあげて叫ぶ。彼の顔を見た。9本の尻尾に恐ろしいほどきれいな顔。長い髪に狐の耳があった。

「返してください」
「い、いやだ!!」

にっこりと笑顔で俺の肩を蹴った。バランスを崩して地面に倒れこむ俺を見向きもせずに鏡を奪い取る。

待って!やめて、返して!!

「■■!!」

思わず、封印されて鏡の中にいる彼の名前を呼んでしまった。
さっと顔を青ざめる俺に狐はあくどい笑みを浮かべた。

「■■ですか。そうですか」
「あ……ああ……」
「ありがとう。親切な方、これで彼は私のものです」
「待って!いやだ、返して!!」
「さようなら」

鮮明に覚えている前世の出来事に頭が痛くなる。ぼんやりと、ただ過ごしていた何の脅威もない生活が全くといっていい程思い出せない。

あっちで友達がいた気がする。家族もいただろう多分。でも思い出せない。前世の記憶ばかりが引きづられて、それを悲しいとも怖いとも思わない。

元々、薄情なんだろう。俺は。

「大丈夫か」
「はい。すみません、こんな事しかできずに」

俺が死んだけれど安倍家は続いていた。親戚は沢山いたから誰かが安倍家と名乗ったのだろう。

その純粋な子孫である双熾さんがお茶出しをしている俺にそう言ってきた。ここずっと、いなくなった琥珀を探しているのを知っている。さりげなく聞いたが、琥珀を妖だと分かっていて探しているという。

何故かと聞いたら兄が欲しがっているからだと。

申し訳ないが、俺はあの人が苦手だ。琥珀の生い立ちからして過保護になるのは分かるが、あれは度が過ぎている。きっともっと年が離れていたら、気に食わない子供を片っ端から殺していただろう。そして、何食わぬ顔でそんな事があったんですかっと悲しい顔をするはずだ。彼は、あの村では本性を現すことなく優しい好青年で売っていた。そして、あちらの世界みたいな操作がされないのだから簡単に罪から逃れられる。

罪悪感なんて感じないだろう。当然の執行だと胸を張って彼は行う。

はっきり言って悪質だ。

目の前に立つと言い知れぬ恐怖が背筋を走って、怯えてしまう。
それに、子孫が絶えないようにある程度子供が成長してから大人を殺している。

それが自分の母であっても父であっても同じことだ。彼にとっては作業だ。長く長く、ずっと殺し続けるための。
俺の表情から彼を恐ろしいと思っているのが分かったのか双熾さんは苦笑をしていた。

「あの頃は無関心が嬉しかったから」

双熾さんは俺の生まれ変わりだと過度な期待をされたらしい。代々、子供が成長すると死ぬと言われて守ってほしいと言われたという。それが彼には重荷で、自分たちを守る道具にしか見られなかったことが悲しかったという。その上、兄は信じられないほど優秀ではあったが、何度も自殺未遂を行い、妄言を吐くので自然に負担は重くなっていた。

しかし、彼は安倍晴明の生まれ変わりだと言われている双熾さんには?と一言。いつの間に安倍晴明になってたのお前とまともに会話をして双熾さんは耐え切れず違うと叫んだらしい。

「そう。興味ないけど」

本当に彼は双熾さんが誰であろうとどうでもいい態度だったという。何も期待しない、彼の態度は双熾さんにとってはありがたかったという。

その彼のお陰でそんな状態になっているというのは、言わないのが良いだろう。彼にとっては、家族はあの人たちだけだとも。

「ここまで見つからないのは多分、誰かに囲われている可能性が高いと思う」
「そう……ですか……」

双熾さんが今までの調査記録を改めてそう言った。ここまで見つからないのはもしかしたらそういう可能性もあると考えてはいた。しかし、実際そう言われると嫌な気分になる。でもそれは俺の身勝手な気持ちだ。
殺して、あわよくば一緒に死んでしまおうと思っていたのは俺の身勝手な考えだ。

彼は、今日は休みだが箱と刀を携えて最近増えている妖を殺しに行っている。双熾さんもその影響で見回りのが増え、休憩時間の合間を縫って来たのでそろそろ戻らないといけないだろう。
こんな正体不明の俺を家においておくなんて寛大だ。彼は別として。

そう言った彼を見送って俺は歯噛みする。
転生したからか、全く普通の人間になった自分にできることは多くない。でも何か、何かできることは無いだろうか。例えば、最近多発している妖についての調査、とか。

無謀で結構。死んだら自己責任で間違いなく。
幽霊や妖は夕暮れや深夜が多いと物語では語られているがそんなことは無い。昼間だろと、早朝だろうと、いるものはいる。

そう、まさしく、今、俺の目の前にその妖がいる。
成人男性の首を掴み、片腕だけで持ち上げている男はばたばたと足を動かして抵抗していた彼が落ちたのを確認してから肩に乗っける。そして、地面を蹴って屋根に上り目が合った。
逃げなければいけないと分かっているのに足がすくんで動けない。

そうだ。元々、俺はこうなのだ。弱虫で意気地なし。
獰猛な黒い瞳に睨まれて、彼は首を傾げた。

「よう」
「ひ……っ」

眼前に彼の顔が広がって尻もちをついた。腰を折って座り込んだ俺の顔をのぞき込んでにっこりと愛想よく笑顔を見せる。

「なんでこっちにいるんだお前」
「か、かわ、に……」
「ああ、あの狐か。運が良かったなお前」

そう言ってわしわしと頭を撫でられる。頭蓋骨をそのまま潰されてしまうのだろうかとひやひやしながら黙っていると、乱暴に紙を掴まれた。

「で?有名になった感想はどうだ?良いよなぁ~?琥珀のお陰で何のとりえもない弱いお前が後世まで語り継がれる高潔で賢い陰陽師になった気分はぁ?」
「……っ!!」

ごくっと緊張で生唾を飲み込む。
ああ、この男はあの中のどれかだ。誰だか知らないけれど、俺を殺そうとしていた妖である。
何も言えずに震えている俺にちっと舌打ちをすると、地面にたたきつけられた。

「本当。人間ってずるいよな」
「……」
「まあ、俺もだけど」

そう言った男はそれから何かを考えこんであっと手を叩いた。

「お前さ、琥珀のこと好きなんだよな」
「え……っ!?」

突然そんな事を言われて思わずかっと顔を赤くする。

わ、分かりやすい!!分かりやすすぎる俺の反応!!そんな自分が嫌になりつつも本当のことなのでどうしようもない。

「で、今琥珀がどこにいるか知ってるか?」
「……え?」
「狐のところだ」
「狐……?」
「金色の毛並みの狐だよ。そいつが、琥珀を独占してるってわけだ」

狐、金色の毛並み。

まさか、あの時鏡を持って行った妖か?

「そ、それは本当なんですか……?」
「ああ勿論」
「な、なんで!あの狐は御館様なんでしょう!?簡単にこっちに来れるなんて!!」
「さあな」
「さあなって!!」

また取られるなんて嫌だ!!折角また会えたのに!!
それにあの狐が鏡を取り上げなければ……っ!!

「このままじゃまた取られる……」
「そうだ。だから、協力しないか?」

しゃがみこんで俺と目線を合わせた彼は笑顔を見せる。

彼の提案はこうだ。
もう一度俺があの川に落ちて中のものを刺激する。そして、それを彼が誘導して狐にぶつける。
運よく死んだら僥倖、仮に生きていたとしても、無事では済まないはずだ。だから、弱っているところにとどめをさす。溢れたそれらは陰陽師に浄化させればいいと言っていた。

「川の中に何がいるのか分かるよな?」

分かる。
あの儀式に加担した者たち、その子孫。はたまた、落ちるべくして落ちた人間が死んでいった場所。

元々、妖は負の感情から生まれる。妖の都、人の都などと琥珀は説明していたが、人からすればあそこはただの地獄だ。周りの妖は化け物、何時でも自分を殺せる存在。琥珀に保護されていない人間の末路なんてあの川の中を見れば容易に想像がつく。妖にとっては人なんて玩具なのだ。負の感情から生まれた者たちに良心なんてものは存在しない。

そしてもともと負の感情が強い者たちが何も思わずに死ぬはずがない。

あの川が何かしら特殊なようで本来であればその負の感情によって妖が生まれるはずなのにその中に閉じ込めているのだ。だから、妖になろうと器を探して群がってくる。

妖が動物や虫系などなのはそういう理由だ。人の死体より動物の死体、そして虫の死骸の方が多いからだ。ただ、死体が妖にならないわけでもなく、獣の形にならない妖は死体から生まれているということである。

まあ、そんな話はどうでもいい。

つまり、あの川の中のものは死にきれずに器を探して彷徨っている状態だ。川に落ちた俺や琥珀が黒くなっただけで済んだのは運が良かった。あんな川から生まれる妖なんて目も当てられないほどひどいものになっていたはずだ。

「丁度お前は目をつけられてるみたいだし。誘導くらいできるだろう?」
「……」

その通りだ。今も、あの屋敷から出たら水回りに近づくとそれが這い出てくる気配を感じる。その度に震えあがって逃げていた。

誘導……。出来るだろうか。それに、そんな事をしたら道中被害に遭う人だっている。そんな事をしていいのだろうか。

ためらった。

当たり前だ。大体、この如何にも怪しい妖と協力したってどうせ最後には裏切られるのが関の山だ。知っている。そういうものだ。

でも、この妖と手を組まなければ琥珀が手に入らないのも分かっている。

ぐるぐるぐるぐる。

優柔不断な俺は悩んだ。悩んだけれど、琥珀を思い出した。
彼は、あんなことをされたというのに人の為にあっさりと命を捨ててくれた。そんな彼を裏切ることはできない。

首を振った。

やめよう。そんな事をしたって全く意味がないのだから。

「で、できません……」
「そうか。ま、どうでもいいけどな」

彼はそう言って、何かを投げつけた。
反射的に腕を前にして顔を隠すとぐいっと後ろから肩を掴まれてよろける。

「——————っ!!」
「え!?双熾さん!」

俺の前に出たのは双熾さんだった。彼が投げつけた何かが彼の刀にかかり黒ずんでいく。双熾さんは素早くそれを投げ捨てると、刀から黒い液体がにじみ出てきた。

「じゃあな。清明」

彼はそう言って背中から翼を出して上空に飛んだ。そこで漸く気が付いた。あれは烏天狗だ。確か、琥珀の傍にいた烏の子。

「隊長!!」
「追え!!」

他の人の声がして、足音がする。

双熾さんは俺を背に刀にまとわりついているものに懐から札を取り出してそれに貼り付けた。しかし、ばちっと音を立てて札が燃えて黒い液体が増殖していく。
ちっと舌打ちをした双熾さんが懐から杭を出して刀を囲うように地面に刺す。杭で結界を生成して中の刀を封じ込めようとしていた。

「……っ!!」

しかし、弾かれて中身が溢れだす。
あれはどうにもならない。

あの時と同じだ。

何かの瓶が降ってきて、庇った琥珀がそれを被ってすぐに侵食された。黒い液体を吐き出して、骨がきしむ音がして、体が溶けだした。頭を押さえて彼は早く殺せと言った。

震える体で刀の切っ先を琥珀に向けて刺して殺したけれど、今度は琥珀を器として妖になろうとしたから手近な鏡の中に封じ込めた。

鏡が水面のような役割をするから、偶然あの川と同じ効力を発揮しどうにか出来たことだ。
だから琥珀の死体に入っているそれごと鏡に封印した。

そういえば、あの鏡中身無くなっていたな。
どこに行ったのか、自然に浄化されたのか、もしかしたら食われたのかもしれない。定かではないが大事になっていないならば大丈夫だろう。

そんな風に思わず思考が飛びかけたが、そう、あの時と同じ状況に陥っている。

いやそれ以上に酷い状況だ。

ぐらぐらと地面にまで染み出したそれが地震を起こす。裏路地にいた俺たちは慌ててそこから走った。家屋が崩れるほどの激しい揺れによろけて地面に手をつきそうになる。しかし、双熾さんが俺を抱きかかえて屋根に飛び乗った。
この人本当に人なの?っていう身体能力を発揮するから安倍清明の血が繋がっているなんて信じられない。

そして、走っていたら揺れが収まった。双熾さんに下ろされて走ってきた道を振り返る。
そこには人も家も何もなくなっていた。更地だ。おかしい。俺の記憶が正しければここは色んな店が立ち並んでいる場所であったはずだ。

「そ……んな……」

あの時は周りの家が壊れる程度だった。琥珀に憑りついていたからか。運が良かったのだと実感せざるを得ない。
だから自分でも対処できたのだと。
黒いそれがまるで意思があるように集合して大きくなっていた。この一瞬で、山のような大きさに。

「なんだあれは!」

双熾がそう叫んだ。叫ばずにはいられない。俺だってそう思う。

あれはなんだ、と。

対処方法があるのだろうか。あの天狗、確か狐にぶつけると言っていたが本当にそんなことが出来るのか?陰陽師に浄化させる?こんな大きなものを?

元より、狐を殺すことしか考えていないようだ。流石妖。

死を待つのみだ。無理だ。あんなのどうしようもない。
ぺたんっとその場に座り込むと双熾さんははっとして俺の腕を掴んで立たせる。

「待て。もう少し離れた、そうだ、あそこまで行くんだ」
「どうしてですか?」
「少しでも安全な場所に行くんだ。ここはまた危なくなるかもしれないから」
「何言ってるんですか?安全な場所?もうありませんよそんなの!!全部あれに飲まれて終わりです!!」
「どうしてだ?まだ手はある」
「ないですよ!!」
「まだ何もしてないだろう。逃げただけだ」
「は……」

嘘でしょ?本気で言ってるの?

じっと彼を見ると彼は不思議そうに首を傾げた。相変わらずぴくりとも表情が動かない。

「俺たちはまだ何もしてない。手を尽くしてからそういうことは言うんだ。士気に関わる」

淡々とそういう彼に俺は聞く。

「怖くないんですか?」

彼は即座に首を振った。

「もとよりそういう家系だ」

おかしい。絶対おかしい。だって自殺しにいくようなものだ。そんなはずない。しかも小説とか漫画とかでありがちな言葉ではなく、家系だから?いやいや!俺の子孫よ!祖先の言うことは聞くんだ!!

「そんなのあり得ないから!命を投げ捨てるのは大事な人の為だけでいいんですよ!!」
「ああ、大事な兄の為に。兄さんもあそこにいるしな」

このブラコン!!あの怖いお兄さんに心酔しすぎじゃない!?どこが良いのあの究極に弟大好きな変人!!

……て、え?

彼の言葉にばっともう一度何もなくなった場所を見る。遠くの方で残っている屋根の上に何かがいる気がする。俺からすれば豆粒にしか見えない。

「だから行ってくる。ちゃんと安全な場所にいるんだぞ」

え、嘘、本当に行っちゃうの!?ええ!?

走り去る彼の背中を呆然と見て、あああっと頭をかきむしる。

「あんな立派な子が俺の生まれ変わりなんて恥ずかしすぎる!!心が痛い!!琥珀本当にごめん!!」

せめて何かできないかと思って唸ってはっとひらめいた。

鏡だ!鏡だけでも持って行こう!!ちょうど、人のいない家屋がそこら辺にあるし、適当な鏡を拝借して持って行って逃げよう。

誰それを絶対に救うとか考えたことないけれど、これでも恩をあだで返すような真似はしない。絶対に!

だって俺はただのちょっとラッキーで英雄になれた前世の記憶もってる人間だもの!
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