【完結済】やり直した嫌われ者は、帝様に囲われる

紫鶴

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前の話9

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え、と、俺は自分の家の前で立ち尽くした。



玄関先には俺の服や少ない荷物が捨てられていた。それを拾い集めているとばしゃっと頭から水を被る。



「ようやく自分の立場を理解したか!!さっさと消えろ!!お前はもうこの家のものじゃない!!」

「……分かりました」



ついぞ、父と呼ぶことのなかったその男がそう言い放つので俺は静かに頭を下げて、自分のものを手に静々と去っていく。

春先なのでまだ少し寒いが、我慢できないわけではない。



今日はどこに寝ればいいのか、とふらふらと歩いていたら無意識に都の端の方まで着ていた。



きゃっきゃっと楽しそうな声をあげて遊ぶ子供の声が聞こえてきてはっと我に返る。自分の今の格好を思い出しすぐに去ろうとしたが、一人俺に気付いて声をあげた。



「あ!お兄ちゃんだー!!」

「まじ!?ほんとだ!!」

「兄ちゃん遊んで遊んで!!」



一人が声をあげるとすぐに俺の周りに子どもたちがやってくる。

まずい、この姿を見られたら……っ!



「あれ?兄ちゃん濡れてね?寒くねーの?」

「バカ寒いに決まってんだろ!俺とーちゃんから手拭い貰ってくる!!」

「私も!」

「髪に砂ついてるよー?取ってあげるからかがんで!!」

「あ、え、えっと、俺用事があって……」

「あらあらお役人さん。こんな格好で……」



子どもに囲まれて動けないでいたら女性の声がした。



「あ、こ、こんにちは清香さん」

「はいこんにちは。それよりもどうしたの。髪もこんなに……」

「転んだの?」

「お膝も血出てるよ!」

「え……」



下を見ると確かに破れて膝から血が出ている。



恥ずかしい。今まで気づかなかった。

しゃがみ込んでそれを隠すように布を引っ張ると、そっと俺の手を清香さんが包んでくれる。



「お役人さん疲れてるのね。一旦休みましょう?」

「え?あ、いえ、そういうわけじゃ……」

「だめだめ。それともこんなおばさんの家は嫌かしら?」

「清香さんはおばさんじゃありませんし、いやじゃないです!」



力強くそういうと彼女はにっこりと笑った。



「ならいいわね?ほら、てっちゃん、お役人さん案内してあげて?」

「はーい!兄ちゃん歩ける?大丈夫?」

「私支えてあげる!」

「俺も―!!」

「こらこら危ないからだめよー。それに皆にはお役人さんは私たちの家で休んでるって伝える重要な役割があるからね。出来るかな?」

「できる!」

「やるー!」



清香さんは子ども扱いがうまくてすぐに彼らは散り散りになって伝言をしに行く。俺としてはすぐに去るつもりだったのでそう伝えられるととても困る。



「さて、お役人さんは私を嘘つきにしないわよね?」

「あ、は、はい」

「ふふ、良かった」



それを見越しての伝言だったか。清香さんって凄いな……。夫は妖魔退治でなくなって、家族も弟と自分の子供しか残っていないというのにこんなに明るくて。



俺が毘沙門の役立たずって知れば、こうならないだろうな。卑怯者だから本当の事を言えずに霊峰院のものだとしか言っていない。名前も告げていないのでお役人さんやお兄ちゃんと呼ばれていた。

ここでは好意的に接してくれる人が多くて、少し気が……。



「に、兄ちゃん!?そんなにお膝痛い!?」

「あらあら、大丈夫よ、お役人さん。てっちゃん、お役人さんが泣いたこと言っちゃだめよ?」

「分かってる!俺薬貰ってくるから!」



彼らの家に入った途端ぼろぼろと涙が流れた。

情けない。

また泣いてしまったと無理やり目をこすると清香さんに止められる。



「そんなに擦ったらだめよ。今冷たい手拭い持ってくるからね」

「すみません、ありがとうございます」

「いいのよ。お役人さんには助けてもらってるもの」

「俺は別に当たり前のことをしただけで……」

「じゃあ私たちも当たり前にお役人さんを助けてるだけよ」

「清香さん……」



清香さんはふふっと笑って水に浸して絞った手拭いを俺に渡してくれる。俺はお礼を言って受け取り目元に置いた。



この人たちも俺には勿体ない人だ。



彼女たちに押し切られて俺はその日清香さんの家に泊まらせてもらうことにした。俺の手荷物を見て事情も何となく察したのだろう。



今晩だけと俺はその言葉に甘えることにした。



明日には、都の外に出て違うところに行こうと思いながら眠りについた。この都にいたらきっと色々思い出してしまうから一度離れてこの気持ちを整理しなければいけない。



そうだ。久遠も探さないと。

もしかしたら違う都にいるかもしれないし。

久遠に会ったらきっと、きっと大丈夫になるだろうから。



そう考えたら久遠にずっとずっと会いたくなった。



―――そして、その日結界が壊れた。
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