【本編完結】チート軍医は愛を吐く~最序盤で殺される悪役になりましたが、「人の好い」幼なじみのために頑張ります!~

紫鶴

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チート軍医は、悲観する

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 結局、レヴンはしっかりと睡眠を取った。いつもであれば、夜の見張りに駆り出されているはずなのだが、恐らくヴィオレットが手を回したのだろう。そんな気遣い要らないのに、とレヴンはそう思いながら軽く伸びをする。
 とはいえ、自分も団長が来たら起こせという言づてをしていたので様子を見に来なかったのであれば仕方ない、かもしれない。そこまで考えていやそんなことあり得るのか?と彼は疑問を持つ。そして別の考えが浮かび上がった。


(俺みたいなのに時間を割いている暇がないって事……?)


 流石にレヴンの事情を知っている団長、グレイが来ないのはおかしいと思いレヴンはそう思案する。
 確か、小説の内容通りであれば今回の遠征で主人公が勇者の剣を手にする。それは決定事項だろう。その際に、この村を襲う魔物達がはじめて徒党を組んで騎士達を襲う。これは魔王復活の伏線で、いち早く厄介な武器を壊そうともくろんだが失敗したという奴だ。
 だからこそ、苦戦が強いられてレヴンとヘルトが相対することになるのだが……。


「状況が良くないのかも……」


 レヴンはそう考えてすぐさまベッドから飛び出して剣を腰に差す。これでも今のレヴンを守る相棒だ。とはいえ、前世を思い出した今のレヴンにとっては相棒と言うよりも命綱に近い。しっかりと腰紐を通して落ちないようにしながら天幕からでるとそこにはグレイと話をしているヴィオレットがいた。
 レヴンがこちらから声をかける前に、グレイが気づき視線を寄越す。天幕を背にしていたヴィオレットはそのグレイの視線に気づいてすぐに振り返り、レヴンを見ると顔をしかめた。


「出るな!!」
「え……?」
「お前は安静だ!!」
「い、いや、元気だけど……?」
「――っ!!」


 レヴンはヴィオレットの剣幕に少しばかり驚きながらも、自分は先ほどまで寝ていて体調が良いと言うことを伝えた。するときっとヴィオレットが目をつり上げて睨んできた。レヴンは、ますますそんなに怒っているのか分からずに目を瞬かせる。すると、そんな二人の間にグレイが割って入った。


「レヴン、元気なんだね?」
「はい団長」
「嘘だ! この患者はまだ容態が安定していない!」


 レヴンの返答に被せるようにしてヴィオレットがそう返す。それからレヴンを背にしてグレイと対面するが、そんなヴィオレットをグレイは酷く冷めた目で見ていた。


「軍医殿。本人が元気というならばこれ以上休ませるわけにはいきません。こちらは一刻の猶予もない。戦えない貴方は、あまり口を挟まないでいただきたいのですが?」
「戦場で、不確定要素を持ち込めばどうなるか分からない訳がないだろ。もしも、もしも……っ!!」
「あ、あの、戦況がそんなに良くないんですか……?」


 グレイとヴィオレットが言い合いをはじめそうな雰囲気にレヴンがあえて空気を読まずにそう発言した。今まで呑気に寝ていたレヴンだったので今どんな状況なのか分からないというのもある。


(あれー? 原作だとグレイはヴィオレットに同情して割と好意的だった気がするけどー?)


 確か、色々とヘルトの手助けをしたり、レヴンが生きていた頃はそれとなく助け船を出してくれたりと世話焼きのイメージがあった。だから、一部では世話焼きおかんなんて言われているくらいだ。ヴィオレットも手がかかる反抗期の子供ぐらいで微笑ましい疑似親子関係のようなものだと読者はそんな認識をしていたのだ。
 
 それが、今はこの一触即発のムードにレヴンは苦笑いを浮かべるしかない。


「良くないね。先発隊の情報によると連携がとれている魔物が出現してるみたい。だから、指令を下している魔物がいるって仮定してあぶり出そうとしてるところ」
「じゃあ、囮になります」


 レヴンは、グレイの話を聞きながら原作通りの作戦だと一人で頷きそう返す。
 原作でも、司令官をおびき寄せるために囮役の隊と司令官を叩く隊と分けられていた。そして、レヴンは囮の方の隊にいたのだ。
 この時点で、司令官がどこら辺にいるかは予想がついておりここで重要なのは囮の隊がどれだけ魔物を消せるかそれが肝になってくる。焦って司令官が出てくれば叩けばよし、退却するようであればこれ以上の被害が出ないという点でよしとする。この村に来た騎士達はそこまで多くないので、命があってその上、情報を持ち帰る事が出来れば御の字なのだ。
 とはいえ、そんな事が許されるのはグレイが指揮を執っているからだろう。他のものだったら執拗に追い込んで殲滅を命じるかもしれない。力と権力があり、何より人命を一番に思っているグレイが居るから出来る作戦だ。
 だからこそ、グレイを慕うものがこの騎士団には多く一応レヴンもその考えに賛同しているので原作の内容を知っていなくても囮を買って出るつもりだ。


(まあ、前のレヴンは見栄で囮になったんですけども……)


 レヴンは流石序盤で死んでる小物だと思い直す。今のレヴンがどこまで持つか分からないが少なくとも主人公とある程度打ち合いが出来たのだからそこそこ耐えられるだろうと考えているとぐいっと腕を引っ張られて体勢を崩しかける。


「お、わっ!?」
「レヴン! 何を言ってるんだお前は!!」


 レヴンの腕を掴んだのはヴィオレットだった。レヴンはヴィオレットのこと場にきょとんとしながら首を傾げる。


「え……? 何か変なこと言った……?」
「言った! お前またそんなこと言って! 今度こそ死んだらどうするんだ!!」
「その時は仕方ないよ。ヴィオレットは逃げてね」
「僕だけ逃げるわけないだろう!! 死ぬ時は一緒だ!」

(わー。罪悪感でそこまで言ってくれるなんてほんと責任感強いな)


 レヴンは、ヴィオレットの言葉に苦笑する。それから彼の肩をぽんぽん軽く叩いた。


「ヴィオレット。俺にそこまで罪悪感を持たなくて良いよ」
「は? 今そんな話をしてないだろ!」
「してるよ。ヴィオレットが優しいのは、あれのせいでしょ? 本人が気にしてないんだからそんなことまで言わなくて良いの。ということで、俺は準備に入ります団長」
「……あー、うん。よろしく」
「待てレヴン! 話は終わってない!!」
「終わった終わった」


 レヴンは、背後から聞こえるヴィオレットの声に適当に答えながら他の騎士達がいるところに混ざる。どうやらグレイ達と揉めていたのを軽く見ていたようで、レヴンが近づくや否やささーっと蜘蛛の子を散らすかのように居なくなる。そこまで避けなくても良いじゃないかとレヴンは心の中で思いながらも、ひとまず特に指示が無いので誰かの手伝いでもしようかと周りを見渡した。


(とはいっても、早々声をかけられるような人はいないんだけど……あ)


「ヘルト君」
「あ! 先輩どうも! 体調は大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。手伝うよ」


 レヴンは唯一声をかけられる人物、ヘルトがタイミング良く何かの仕事をしていたので声をかけた。軍備品を運んでいたようで、これならばレヴンも手伝うことが出来るとその箱に手を伸ばす。


「え、でも……」
「いーのいーの。大丈夫だから。で、これどこに運ぶの?」
「あ、こっちです! これも運ぶんで一緒に行きましょう!!」


 そんなレヴンにヘルトは少し遠慮がちであったが、すでに荷物を抱えたレヴンに下ろせとも言えずに慌てて他のものを抱えて歩き出す。
 レヴンはその様子を見ながら、ヘルトのことを考える。


(ヘルト君は、勇者の剣に選ばれた後も進んで雑用をやるという人格者だ。俺みたいな奴にも声をかけてくれるし、声かけやすいし、本当良い子だなぁ……)


 流石主人公だとレヴンはそう思いながら、ヘルトと一緒に軍備品を運び出す。


「そういえば、今回の作戦レヴン先輩はどちらに……?」
「囮の方だよ」
「え、大丈夫なんですか……?」
「うん。一応昔に農具で魔物を倒した経験があるし、大丈夫」


 それは厳密に言えばいまのレヴンが行ったものではない。しかし、ここで魔物退治をしたことがあるという出来事を話しておけば少しばかり減るとの心配事も減るだろうとレヴンは考えてそう言った。
 レヴンの話にヘルトは可愛らしく小首を傾げて、「農具ですか……?」と少しばかり信じられないような声を出す。当たり前だ。そんなもので魔物を倒したことがあると言う経験がある人間は少ないに決まっている。
 レヴンはそう思いながらも彼の言葉にしっかり頷いた。


「うんそう。ここの村、昔も魔物に襲われてその時に武器みたいなもの何もないからさ、そこら辺の鋤とか鍬で戦えないといけなくて……。まあ、兎に角経験はあるから平気だよ」
「そうなんですか。真の強者は武器を選ばないって聞きますけどまさしくそうなんですね!!」
「いや、それは違うよ?」


 ヘルトがあらぬ方向で誤解をはじめたのでレヴンは慌てて舵取りをするが、ヘルトは完全にレヴンを羨望の眼差しであった。失敗である。余計なこと言うんじゃなかったとレヴンはそう思いながら首をぶんぶん横に振り、どうにかこれ以上変な考えを持たないようにとすぐに話題を変える。


「そう言うヘルト君は、囮の方?」
「はい! 皆さんの足を引っ張らないように頑張ります!!」
「いやいや、ヘルト君みたいに腕の立つ子が居ると心強いよ。お互いに頑張ろうね」


 そうしてレヴンとヘルトは軍備品を運びながら楽しくおしゃべりをした。若干、レヴンに対する好意が思いも寄らぬ方向に向かい冷や汗をかく場面が多々あったが何事もなく終えた。

 そして、作戦開始の時刻となった。
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