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2月を迎えたコタツ部コタツ課
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青木志貴(したか) 二十六歳 電気メーカー 株式会社NN 入社四年目。
コタツ部コタツ課に配属になって1か月、今日も穏やかな一日が終わりかけていた。
「宅配便でーす。」
「はーい。」
返事は皆するものの、誰も立ち上ろうとしない。
なぜならこの部の皆はコタツの魔力に取り憑かれ、身も心もこの小さな四角形の虜となっていた。
「お兄さん・・・こっちまで来て。」
最後には宅配のお兄さんに近くまで持ってこさせる始末だ。
これでいいのか!コタツ部コタツ課!部長山田 通称山さん!
「はい!ありがと。あ、これ優ちゃんにだ!優ちゃん毎年すごいね。バレンタイン近づくと山のようにチョコが届くね。」
「あ、俺、チョコは食わないっす。皆さんでどうぞ。」
「あ、ほんと?いいの。じゃあ、もらっちゃうよ。これ、いいヤツだよ。デパートにしか売ってない。駄菓子屋にはないほうのチョコだけどいいの?」
「いいっす。」
「ほんと?スーパーの進物コーナーでも買えないヤツだよ。いい?」
「いいっす!」
「じゃあ、いただきます。うまい!やっぱいいチョコはちがうなー。青木君もどう。」
「いただきます。俺、チョコ大好きなんすよ。」
「青木君は貰わないの?」
「俺、コタツ部コタツ課に転属になった日に彼女にフラれました。」
「なんて失礼な女なんだ。そんな女はこっちから願い下げだ!」
コタツ愛たっぷりの商品開発担当松家、通常まっちゃんが口をはさむ
これは適当ないいところで話が終わらないことを予感させる・・・
「まっちゃん・・・俺の彼女ですからね。その言い方はちょっとどうかな・・・」
「どうもこうもない。コタツを愛せない奴は日本人である資格すらない!」
「そ・・・・・・」
「よ!まっちゃん。コタツ侍!」
「え・・・・」
こうなると始末が悪い。
青木は松家の暑苦しいコタツへの愛情も山田のふわふわッとしたいい加減さも、いまだに受け入れられないでいた。
「そういえば、優さんって男の人だったんですか?」
「今頃何言ってるの。青木君。優ちゃんは男の子だよ。一緒にトイレ行ったことないの?」
「ないですよ。なんでトイレなんて一緒に行くんですか・・・でも優さんって可愛いし、髪長いし、いつもいいにおいするし。」
「青木君・・・優ちゃんの匂い嗅ぎまくってるほうがヤバイよ。ひょっとして優ちゃん狙ってる?」
「まくってません!狙ってもないです!」
「どうする?優ちゃん、狙われてるけど。」
「すいません青木さん。俺、社内では恋人作らない主義なんで。」
「まじめに答えないでください・・・」
「優ちゃんはモテルるから大変だよ。いつもバレンタインが近づくと軽トラに一杯くらいはチョコが届くんだよ。」
「山さん。大げさすぎます。」
「そうだったかな・・・じゃあ、乳母車一杯くらいかな?」
「今時、乳母車なんて言葉知らないんじゃないですか?」
「あ・・・じゃあ、ベビーカーだ。ベビーカー一杯くらい。あ、一人用だとちょっと少ないから、双子ちゃん用のベビーカー一杯くらいかな・・・それを山盛りにした感じかな・・・山盛りって言っても難しいよね。
ベビーカーって荷物乗せると滑ってオッこっちゃうし・・・・」
「部長・・・その話、まだ続きますか。」
「あれ、青木君、ひょっとして怒ってる?」
「怒っていません!いいんです。チョコの数の話は!それより優さんの・・・」
「優ちゃんがどうしてここにいるか?ってこと?優ちゃんはすごーく優秀なんだ。すごい大学出てるんだよ、君よりもすごい大学・・・えーっと・・・どこだったっけ、忘れちゃったけど、確か、聞いてびっくりしたのは覚えてる。でも、髪を切るとか切らないとかで前にいた課の課長と喧嘩してここへ来たの。すごいんだよ!優ちゃんは。」
山田の説明で。全くすごさが理解できない青木だった。
「確かにカッコイイですけど、それだけでいっぱいチョコってもらえるものなんですか?」
「青木君!それは甘いよ。甘いよ、チョコだけに・・・なんちゃって!」
平成生まれにこの「なんちゃって」はかなりきつい。
どのタイミング笑えばいいのか、しかも何が面白いのか理解不能の呪文だった。
「優ちゃんはバンドを組んでいるんだ。えーっと・・・カピパラ・・・だっけ。」
「ヘビメタっす。」
「そうそう、僕もまっちゃんと1回だけ見に行ったんだよ。さっぱりわからなかった。
でもすごさは伝わったよ。音がすごいんだ!耳がもげそうだった。すごかったよー」
すごさはやっぱり伝わらなかった・・・
「・・・ヘビメタのファンの女子からもらうんですか・・・へえ・・・すごいな・・・・」
「ばっかじゃないかも。」
「え?ファンじゃないかも・・・ってことですか?」
「女子じゃないかも、ってことです。」
「あー・・・」
「でも、まあ、チョコに違いはないよ。
すごいよね、ヘビメタって。ヘヴィメタルって言うんだよ。
だから優ちゃんの持ってるフギアは金属のものが多いんだよね。
これ踏んづけると痛いんだ!」
「山さん。フギアではなく、フィギア。です。」
「あ・・・そうだった。ごめん・ごめん。」
ある程度の年齢を超えると、いきなり小さいカタカナに弱くなる。
けどフィギアのばあい、言わないほうが言いずらい。
なのに平気で言い切るこの人はすごいかも・・・とは思わない。
「山さん。新しい商品思いついちゃいました。」
突如、松家は立ち上がったが、すぐさまコタツに入り直した。
「え、何、言って、言って。」
「コタツの真ん中にチョコレートフォンデュをつけるってどうでしょう。」
「いいね!面白いよ。すごい、すごい!」
「バレンタインにはチョコレートと抱き合わせで大々的にアピール!彼氏と一緒にチョコフォンデュ。
コタツでコクろう!とか!クリスマスにはチーズフォンデュとしても使えます。飽きたらおでんの鍋としても、熱燗をつけるのにもおすすめです。」
「いいね!それ!」
「ダメですよ。なぜそこでクリスマスを出したのですか?
だいたい、女の子が恥ずかしそうに帰り道にチョコを差し出すから楽しいんでしょ。
男の家にコタツ担いでやってくる女なんて怖いでしょ。」
「なぜだ!君はコタツを何だと心得ている。
まあ、75×75は二人で入るには少々小さいかもしれないが、愛をはぐくむのにちょうどいいサイズじゃないか。
そもそも、チョコだって、クリスマスだって、ハロウィンだって恵方巻だって企業が利益のために仕掛けたことだろう。うちがコタツを仕掛けて何が悪い。」
「悪いなんて言ってませんよ・・・想像してくださいよ。2月14日にリボンをかけたコタツを担いで歩く女子たちを・・・かわいいですか?」
「だから私はあのカバン式のどこでもコタツを開発しようとしていたんだ。」
「またぶり返しますか・・・あれに鍋付けたら、さらに大きくなりますよ。」
「だったらスーツケース型にしてコロコロすれば・・・」
「まっちゃん。もういいじゃないか。チョコが熔けちゃうよ。せっかくのいいチョコなんだから、喧嘩せずにおいしくいただこうよ。」
「いえ、私はもう結構!チョコには少し嫌な思い出があって・・・」
「え、どんな、どんな、聞かせてよ。」
「やまさん、聞いたら悪いですよ。嫌な思い出って言っているのに・・・」
「子供の頃に・・・・」
「言うんだ・・・」
「子供の頃に、叔父が海外へ行くと必ず白雪姫のラベルのチョコをお土産に買ってくるのですが、そのチョコが激マズで・・・・激アマで口の中がなんていうかぐっちゃぐちゃのがったがたで、べろべろの激ベッタベタになるんですよ。」
激アマまでは何とか理解できたが、それ以降の話は聞くだけ無駄にも感じてしまった。しかも、擬音だけの力技で理解させようとする松家にも、理解不能だった。
「なんかわかる。伝わるよ。まっちゃん。そういう時はこれを食べな。おいしいよ。おいしいものを食べると人ってだいたいのことは許せるんだよ。ものすごく怒ってても、まあいっかって思えるんだって。」
「へーそうなんですね。」
「うん。僕はそう思うんだ。」
「あれ・・・なんか偉い人の話とか学者の話かと思ったら、山さん的にはってことですか?」
「え?ダメなの?僕も案外偉い人なんだけど。この会社のこの部では!」
そこでそれ言うか・・・と思う青木だった。
松家も仕方なく、苦手なチョコをバクバクと3個ほど口に入れた。
なんやかんや、一見なれ合いのように見せかけて上下関係は崩せない、サラリーマンの縮図は存在していた。
「ちーっス。宅急便でーす。」
「あ・お兄さん・・・こっちまで来て。」
相変わらず誰も立ち上がらない。コタツに入るとなかなか出るのに勇気がいる。
「相良優次郎様にお荷物です。」
「優さんって、相良さんって言うんですね。」
「え、それも今知ったの。」
「教えてくれてないじゃないですか・・・・」
「あ、そうだった?また優ちゃんにチョコだ。すごいね。あけていい?」
「いいっす。俺、チョコ食わないんで。」
「じゃあ、開けちゃうよ。いい。ピリッといっちゃうよ。本当にいい?
いいやつだよ。デパートでしか買えない。」
めんどくせえな、どうせ開けるんだろ。早く開けろよ。って言いたいけど言えない部下たち三人。
そして
「どうせあけるんだろ、早く開けろよ・・・って言いたいんでしょ。」
と、妙にこんなところだけカンの良いところを見せて、ピリつかせる上司・・・
「ナーんちゃって。そんなこと思ってないよね。僕達、仲良しだもんねー。コンプ・・・何とかで怒られちゃうからねー。じゃあ、開けるよ。ピリピリピリ・・・あ。これもいいやつだ。いただきまーす。
やっぱりチョコはいいね。幸せの味だ・・・ヘロッとするよ・・・・」
コタツに両手の肘まで入れてほんわかと緩やかに日々過ごしているように見えるコタツ部コタツ課。
その実、まるで水鳥が水面下で足をばたつかせているように、布団の下では男たちの戦いが繰り広げられている。
株式会社NN コタツ部コタツ課、青木志貴だんだんとこの課の雰囲気にのまれ、
(このままで俺、大丈夫かな・・・バレンタインのお題にずれてないのかなぁ)・・・と、自問自答の日々は続くのであった。
コタツ部コタツ課に配属になって1か月、今日も穏やかな一日が終わりかけていた。
「宅配便でーす。」
「はーい。」
返事は皆するものの、誰も立ち上ろうとしない。
なぜならこの部の皆はコタツの魔力に取り憑かれ、身も心もこの小さな四角形の虜となっていた。
「お兄さん・・・こっちまで来て。」
最後には宅配のお兄さんに近くまで持ってこさせる始末だ。
これでいいのか!コタツ部コタツ課!部長山田 通称山さん!
「はい!ありがと。あ、これ優ちゃんにだ!優ちゃん毎年すごいね。バレンタイン近づくと山のようにチョコが届くね。」
「あ、俺、チョコは食わないっす。皆さんでどうぞ。」
「あ、ほんと?いいの。じゃあ、もらっちゃうよ。これ、いいヤツだよ。デパートにしか売ってない。駄菓子屋にはないほうのチョコだけどいいの?」
「いいっす。」
「ほんと?スーパーの進物コーナーでも買えないヤツだよ。いい?」
「いいっす!」
「じゃあ、いただきます。うまい!やっぱいいチョコはちがうなー。青木君もどう。」
「いただきます。俺、チョコ大好きなんすよ。」
「青木君は貰わないの?」
「俺、コタツ部コタツ課に転属になった日に彼女にフラれました。」
「なんて失礼な女なんだ。そんな女はこっちから願い下げだ!」
コタツ愛たっぷりの商品開発担当松家、通常まっちゃんが口をはさむ
これは適当ないいところで話が終わらないことを予感させる・・・
「まっちゃん・・・俺の彼女ですからね。その言い方はちょっとどうかな・・・」
「どうもこうもない。コタツを愛せない奴は日本人である資格すらない!」
「そ・・・・・・」
「よ!まっちゃん。コタツ侍!」
「え・・・・」
こうなると始末が悪い。
青木は松家の暑苦しいコタツへの愛情も山田のふわふわッとしたいい加減さも、いまだに受け入れられないでいた。
「そういえば、優さんって男の人だったんですか?」
「今頃何言ってるの。青木君。優ちゃんは男の子だよ。一緒にトイレ行ったことないの?」
「ないですよ。なんでトイレなんて一緒に行くんですか・・・でも優さんって可愛いし、髪長いし、いつもいいにおいするし。」
「青木君・・・優ちゃんの匂い嗅ぎまくってるほうがヤバイよ。ひょっとして優ちゃん狙ってる?」
「まくってません!狙ってもないです!」
「どうする?優ちゃん、狙われてるけど。」
「すいません青木さん。俺、社内では恋人作らない主義なんで。」
「まじめに答えないでください・・・」
「優ちゃんはモテルるから大変だよ。いつもバレンタインが近づくと軽トラに一杯くらいはチョコが届くんだよ。」
「山さん。大げさすぎます。」
「そうだったかな・・・じゃあ、乳母車一杯くらいかな?」
「今時、乳母車なんて言葉知らないんじゃないですか?」
「あ・・・じゃあ、ベビーカーだ。ベビーカー一杯くらい。あ、一人用だとちょっと少ないから、双子ちゃん用のベビーカー一杯くらいかな・・・それを山盛りにした感じかな・・・山盛りって言っても難しいよね。
ベビーカーって荷物乗せると滑ってオッこっちゃうし・・・・」
「部長・・・その話、まだ続きますか。」
「あれ、青木君、ひょっとして怒ってる?」
「怒っていません!いいんです。チョコの数の話は!それより優さんの・・・」
「優ちゃんがどうしてここにいるか?ってこと?優ちゃんはすごーく優秀なんだ。すごい大学出てるんだよ、君よりもすごい大学・・・えーっと・・・どこだったっけ、忘れちゃったけど、確か、聞いてびっくりしたのは覚えてる。でも、髪を切るとか切らないとかで前にいた課の課長と喧嘩してここへ来たの。すごいんだよ!優ちゃんは。」
山田の説明で。全くすごさが理解できない青木だった。
「確かにカッコイイですけど、それだけでいっぱいチョコってもらえるものなんですか?」
「青木君!それは甘いよ。甘いよ、チョコだけに・・・なんちゃって!」
平成生まれにこの「なんちゃって」はかなりきつい。
どのタイミング笑えばいいのか、しかも何が面白いのか理解不能の呪文だった。
「優ちゃんはバンドを組んでいるんだ。えーっと・・・カピパラ・・・だっけ。」
「ヘビメタっす。」
「そうそう、僕もまっちゃんと1回だけ見に行ったんだよ。さっぱりわからなかった。
でもすごさは伝わったよ。音がすごいんだ!耳がもげそうだった。すごかったよー」
すごさはやっぱり伝わらなかった・・・
「・・・ヘビメタのファンの女子からもらうんですか・・・へえ・・・すごいな・・・・」
「ばっかじゃないかも。」
「え?ファンじゃないかも・・・ってことですか?」
「女子じゃないかも、ってことです。」
「あー・・・」
「でも、まあ、チョコに違いはないよ。
すごいよね、ヘビメタって。ヘヴィメタルって言うんだよ。
だから優ちゃんの持ってるフギアは金属のものが多いんだよね。
これ踏んづけると痛いんだ!」
「山さん。フギアではなく、フィギア。です。」
「あ・・・そうだった。ごめん・ごめん。」
ある程度の年齢を超えると、いきなり小さいカタカナに弱くなる。
けどフィギアのばあい、言わないほうが言いずらい。
なのに平気で言い切るこの人はすごいかも・・・とは思わない。
「山さん。新しい商品思いついちゃいました。」
突如、松家は立ち上がったが、すぐさまコタツに入り直した。
「え、何、言って、言って。」
「コタツの真ん中にチョコレートフォンデュをつけるってどうでしょう。」
「いいね!面白いよ。すごい、すごい!」
「バレンタインにはチョコレートと抱き合わせで大々的にアピール!彼氏と一緒にチョコフォンデュ。
コタツでコクろう!とか!クリスマスにはチーズフォンデュとしても使えます。飽きたらおでんの鍋としても、熱燗をつけるのにもおすすめです。」
「いいね!それ!」
「ダメですよ。なぜそこでクリスマスを出したのですか?
だいたい、女の子が恥ずかしそうに帰り道にチョコを差し出すから楽しいんでしょ。
男の家にコタツ担いでやってくる女なんて怖いでしょ。」
「なぜだ!君はコタツを何だと心得ている。
まあ、75×75は二人で入るには少々小さいかもしれないが、愛をはぐくむのにちょうどいいサイズじゃないか。
そもそも、チョコだって、クリスマスだって、ハロウィンだって恵方巻だって企業が利益のために仕掛けたことだろう。うちがコタツを仕掛けて何が悪い。」
「悪いなんて言ってませんよ・・・想像してくださいよ。2月14日にリボンをかけたコタツを担いで歩く女子たちを・・・かわいいですか?」
「だから私はあのカバン式のどこでもコタツを開発しようとしていたんだ。」
「またぶり返しますか・・・あれに鍋付けたら、さらに大きくなりますよ。」
「だったらスーツケース型にしてコロコロすれば・・・」
「まっちゃん。もういいじゃないか。チョコが熔けちゃうよ。せっかくのいいチョコなんだから、喧嘩せずにおいしくいただこうよ。」
「いえ、私はもう結構!チョコには少し嫌な思い出があって・・・」
「え、どんな、どんな、聞かせてよ。」
「やまさん、聞いたら悪いですよ。嫌な思い出って言っているのに・・・」
「子供の頃に・・・・」
「言うんだ・・・」
「子供の頃に、叔父が海外へ行くと必ず白雪姫のラベルのチョコをお土産に買ってくるのですが、そのチョコが激マズで・・・・激アマで口の中がなんていうかぐっちゃぐちゃのがったがたで、べろべろの激ベッタベタになるんですよ。」
激アマまでは何とか理解できたが、それ以降の話は聞くだけ無駄にも感じてしまった。しかも、擬音だけの力技で理解させようとする松家にも、理解不能だった。
「なんかわかる。伝わるよ。まっちゃん。そういう時はこれを食べな。おいしいよ。おいしいものを食べると人ってだいたいのことは許せるんだよ。ものすごく怒ってても、まあいっかって思えるんだって。」
「へーそうなんですね。」
「うん。僕はそう思うんだ。」
「あれ・・・なんか偉い人の話とか学者の話かと思ったら、山さん的にはってことですか?」
「え?ダメなの?僕も案外偉い人なんだけど。この会社のこの部では!」
そこでそれ言うか・・・と思う青木だった。
松家も仕方なく、苦手なチョコをバクバクと3個ほど口に入れた。
なんやかんや、一見なれ合いのように見せかけて上下関係は崩せない、サラリーマンの縮図は存在していた。
「ちーっス。宅急便でーす。」
「あ・お兄さん・・・こっちまで来て。」
相変わらず誰も立ち上がらない。コタツに入るとなかなか出るのに勇気がいる。
「相良優次郎様にお荷物です。」
「優さんって、相良さんって言うんですね。」
「え、それも今知ったの。」
「教えてくれてないじゃないですか・・・・」
「あ、そうだった?また優ちゃんにチョコだ。すごいね。あけていい?」
「いいっす。俺、チョコ食わないんで。」
「じゃあ、開けちゃうよ。いい。ピリッといっちゃうよ。本当にいい?
いいやつだよ。デパートでしか買えない。」
めんどくせえな、どうせ開けるんだろ。早く開けろよ。って言いたいけど言えない部下たち三人。
そして
「どうせあけるんだろ、早く開けろよ・・・って言いたいんでしょ。」
と、妙にこんなところだけカンの良いところを見せて、ピリつかせる上司・・・
「ナーんちゃって。そんなこと思ってないよね。僕達、仲良しだもんねー。コンプ・・・何とかで怒られちゃうからねー。じゃあ、開けるよ。ピリピリピリ・・・あ。これもいいやつだ。いただきまーす。
やっぱりチョコはいいね。幸せの味だ・・・ヘロッとするよ・・・・」
コタツに両手の肘まで入れてほんわかと緩やかに日々過ごしているように見えるコタツ部コタツ課。
その実、まるで水鳥が水面下で足をばたつかせているように、布団の下では男たちの戦いが繰り広げられている。
株式会社NN コタツ部コタツ課、青木志貴だんだんとこの課の雰囲気にのまれ、
(このままで俺、大丈夫かな・・・バレンタインのお題にずれてないのかなぁ)・・・と、自問自答の日々は続くのであった。
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