お気に入りの悪魔

富井

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出会う

一、

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鮮やかなスカイブルーに目の覚めるような赤のイチゴ柄のスーツに黄色のつば広ハットを被った男がいた。

その男は、さびれた商店街の端っこにある、つぶれかけの文房具店の屋根に、斜めに取り付けられた看板の上に足を組んで座っていた。

そんな不思議な場所に座っていることよりも、その派手なスーツに心を奪われ、思わずその男に声をかけた。

「あのー、そのスーツどこで買いましたか?」

男はあたりをキョロキョロ見回したあと、自分を指差して首を傾けた。

2,3回それに頷いて返すと、男はそこからひらりと目の前に降り立った。

「君、勇気があるね。俺に声をかけるなんて。」

スーツの男は、帽子を少し上げてまじまじと僕の顔を見た。

つられてその顔を見返すと、長い前髪の間からきらきらと紫色に光るガラス玉のような瞳が見えた。

それは、あまりにも綺麗に光るので、もっと近くで見たくなり2歩前に出ると、うっかり男の足を踏んでしまった。

「君、名前は。」

「僕ですか?小田山英五です。」 

「エイゴくんか……俺のこと見えるんだ。」

「ええ、見えますよ。はっきり。そんな派手なスーツでとっても目立つのに、見えないなんてコトあります?」

「……まあいいや。コーヒーでも飲んでゆっくり話そう。ついてこいよ。」

 そう言われて、派手なスーツの男をの後ろをなんとなくついて行った。

長い足ですたすたと、裏通りの細い路地をはいって、曲がって、曲がって、曲がった先の喫茶店に入っていった。

「こんなところに喫茶店があったんだ。」

「あったんだよ。ついて来ることができたのは君が初めてだけどね。」 

喫茶店の扉は重そうな厚い木製で、男が体重をかけて両手で思い切り押すと"んがー"といやな音がなった。

「ココはコーヒーもいいがココアも美味しいよ。なににする?」

「僕は……コーラかな。」

「なぜだ?美味しいものがいっぱいあるのに瓶から出すだけのモノにするんだ?」

「飲んだコトないんすよ。コーヒー。ココアも。だからコーラで。」

「ふうん……飲んでみたら?美味しいよ。」

「んーじゃあ、コーヒーを。」

「コーヒー2つ。」

派手なスーツの男は長い指を二本立ててコーヒーを頼んだ。

店の奥で、店主らしき男は少し頷き、カップを2つお湯の中につけて、ゆっくりと豆をひきだした。

「あのーそのスーツ、どこで買いましたか?」

「コレ?」
「カッコいいなって」
「コレ・・・母が作った。」
「え?」
「って、言ったらビックリするかい?」

「しますよ~~どこで買ったか教えてくださいよ~~」

「コレ、制服なんだ。だから、買うとかじゃないんだ。」

「え~~そんなカッコいい制服とかどんな仕事ですか~ぁ?」

「教えない。今日は一緒にお茶するだけでいいじゃないか。」

「ひょっとして・・・ホストとか・・・ですか~ぁ?」

「違う。」

「じゃ~~役者?芸能人??」

「違う。」

「ん~~じゃあ、スポーツ選手!」

「なぜ?」
「行進するときとか同じスーツ着るじゃないですか。」
「こんなスーツで行進するか?違う!」

「ん~~じゃあ~ぁ・・・」

「もう、いいじゃないか。また今度、君が俺を見かけたら声をかけてくれ。その時は気持ち良く教えよう。」

「いつもどの辺にいるんスカ?」

「それはいろいろ・・・わからないな。場所に決まりはないんだ。」

「だったら、どうやって、見つけたらいいんスカ?」

「ん~縁があったらみつけられる。とでも言っておこうかな。」

僕はどうしてもその派手なスーツが欲しかった。
誰も着ていない、かっこいい!もう、そのスーツに一目惚れだった。


「かっこいいっスネ~~・・・」

前のめりに生地を確かめるようにそのスーツを見た。

「だろ。」

男も前のめりになり、スーツを見せつけた。

「コーヒーお待たせしました。」

二人は椅子に座り直し、テーブルをあけた。

「美味しいよ。どうぞ。」

その男はコーヒーに角砂糖を5つも入れ、スプーンでくるくるとコーヒーカップの中に渦巻きができるほどかきまぜた。

「そういえば名前聞いていませんでした。教えてください。」
「こんどね。」

「それもですか・・・。」

「君、いくつ?」

今度は男が質問してきた。

「それこんど教えます。」

「なかなか賢いじゃないか。面白いね。」

「そのスーツ、絶対欲しいんで・・・色違いもありますか?」

「ああ。他には紫と緑を持っているよ。ほかにも青と黄色の水玉模様や、チェックも・・・中でも一番のお気に入りは黒にカラフルなマルチのドットのスーツなんだ。それに黒と青のギンガムチェックのシャツを合わせて着るのが最高にテンションが上がる。だからそれは特別な時用にしているんだ。」

「素敵です!」

「だろう。おまえとは気が合うな。エイゴってたか。」
「そうです。」

「今度も絶対、俺を見つけろよ。俺はもう行くけど、ゆっくりコーヒーを楽しんでいけよ。じゃあな。」

男は腕時計を見ながらそういうと、ポケットに手を入れ、振り返りもせずさっさと店を出た。
少し猫背で今度は路地をまっすぐ歩いて行った。

テーブルの上には、絶賛していたコーヒーがほとんど手つかずで残っていた。

それが僕とこの男との最初の出会い。

別れた後は、一人でコーヒーをゆっくり飲んだ。生まれて初めて飲むコーヒーが、うまいのかまずいのかはわからなかったが、全部飲み終えてその店をでた。
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