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そしてやはり事件です

始まりはここへつながります

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そしてそれから三日たったある日の事、いつものように大学にいずらくなった葉一はカツ子のところへと向かった。

いつもはとても静かで人通りもほぼないような商店街だったが、今日に限ってはなぜがとても騒がしく(祭りでもやっているのか)などと思いながら店の前に着くと、アーケードの中だというのに、あふれんばかりのパトカーが店の前を埋め尽くしていた。

まるで、昭和の刑事ドラマの様だった。

「カツ子!何があった!」

「あ、葉ちゃん。ドロボーが入った!」

「店にか?」
「うん。」

「は・・・取るものなんてないだろ。こんなきったない店。」
「それがこの時に限ってあったんだよね・・・」

「なに?」
「お金。」
「いくら?」
「一千万」

「い・・・なんで?まさか!お前、強盗してきたんじゃないだろうな。」

「ちげーよ。着手金だよ。この仕事は受けないつもりだったのに・・・
やらなきゃならなくなったじゃねえか・・・あ、ったく!ついてねえ。」

カツ子は商店街のど真ん中で大の字になって寝転んだ。そりゃあ一千万もの金を盗まれたらカツ子のような相当に肝の座った女でも狼狽えて当然。話ができるだけいいほうだ。

「女だろ。もっときれいな言葉使えよ。」
「四十超えたら女は何しても許されるんだよ。ほっといてくれ。」

「そういえばお前、小奇麗な格好してるじゃないかどうしたんだ。ひょっとしてお前、出かけてたのか?」
「俺と一緒だった。」

大和八太郎 55歳が葉一に言った。体が大きく年の割には逞しく張った筋肉。セーターに薄手のジャンパーと言う格好だったが、その眼光の鋭さで警察関係者だと言うことはすぐにわかった。

「カツ子・・・おまえ、とうとう警察に捕まったのか。」
「とうとうって・・・捕まるようなことはしてないよ。」
 
「ちょっと、行方不明の女の子のことを聞いていただけだよ。」
「それって・・・例のあれか?」
「葉ちゃんが例の・・・なんていうと、ちょっとぞくっとしちゃうね・・・」
カツ子が勢いよく起きて葉一に体を擦り付けると葉一は、アもスもなく思い切りカツ子を殴り飛ばした。カツ子は少しよろめいたが、平然と前髪をなおし葉一をみて薄笑いをうかべた。

「はあ?行方不明って・・・ひょっとして、あの女子高のか?一千万って、みかんちゃんに返しただろ。」

「うん、一回はね。あの後、理事長・・・みかんちゃんの息子さんが店に来てさ、あんまりにもいい男だったから受け取っちゃったの。」

「ばかか。」

「だって、返す口実でもう一回会えるじゃん。」

「ほんとーーーに、バカだな。」

カツ子はまた道にうつぶせになり、大声をあげながらジタバタと地面に暴れた。

「大丈夫だって、犯人は多分すぐ掴まる。・・・金は帰って来るかどうかはわからないがな・・・」

「えーハチはすごいね。敏腕デカだね。」
「いやいや、お前のことを少し知っていたら、おおよその検討はつく。」

その後の少しの沈黙を裂くように葉一がパチンと手を叩き、
「タカシか?」と言った。

「誰?」

八太郎はカツ子を跨ぎ葉一の正面に立った。

「葉ちゃん。うちのバイト。」

「ちげーバイトじゃねえ!」

葉一も八太郎を見つめながら、カツ子を蹴った。今度は少し強めに。

「高嶺葉一です。今、カツ子さんの研究しています。」
葉一は名刺を差し出した。

「あ、ご丁寧に。」
八太郎も慌てて内ポケットから名刺を出し葉一に差し出した。
「刑事さん・・・ですか?」

「はい、カツ子の同級生で、たまに仕事の相談に乗ってもらっています。空き巣は担当ではないのですが・・・さっきまで一緒に居たので・・・ついでに参加しました。」

「そうですか・・・で犯人はやっぱり。」

「でしょうね。カツ子は違うと言っていますが、指紋も出ましたし、今までのことを考えたら・・・それ以外は考えられないですよね。」

「ですよね・・・俺も初めて聞いた時から、おかしいと思っていたんです。」
「捕まるのも簡単でしょうけど・・・お金は帰っては来ないと思いますよ。」

「いいんじゃないですか。俺は仕事をしてもらって、論文書いて、さっさとお別れしたいし。」

「俺も、忙しいからこの事件終らせたいし。」

葉一と八太郎が店の外で立ち話をしていると、担当警察官に呼ばれたカツ子が大きな声で泣きわめき散らし始めた。
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