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黒水晶のバラ
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翌日からネスは踏み台を使って洗濯物を取り込んだり、洗い物を手伝ったりした。
30センチの踏み台はネスに今まで出来なかったいろいろな事を出来たり、今まで見えなかったいろいろな物を見せた。
30センチ高くなってもまだまだミッチェの身長には程遠く足りなかったが、それでも大人になったような得意な気持ちでいた。
ミッチェは二人ともお手伝いなんかせずに暗くなるまで外で走り回って遊び、やんちゃを言ったり、喧嘩をしたりと、子供の時にしかできないことを思う存分させてやりたいと思っていた。
けれど、ミッチェのために一生懸な子供たちの気持ちが愛おしくて、お手伝いを断ることなんてできなかった。
だから、何も言わず、子供たちのやりたいようにやる姿をずっと見つめていた。
その日は、ネスが幼稚園から帰って来た時、店には誰もいなかった。客もミッチェもハピも・・・
ネスは踏み台を持ってきて店の窓ふきを始めた。
その後は棚の上、暖炉の上を掃除した。暖炉は使わなくなってからミッチェもあまり傍には寄らなくなっていた。
だから忘れられた分の埃がそこに積もっていた。そこに置いてある昔の恋人にもらった黒水晶の薔薇の置物にも同じように埃が積もっていた。ネスはミッチェがいつも使っていた羽箒でパンパンと埃を叩いた。
そうしたら、黒水晶の薔薇の置物はぐらっと倒れてパキッと折れてしまった。
ネスは慌ててそれを持ち、フィッシュのところへ走った。
「フィッシュ、どうしよう・・・僕が落っことして折れてしまったんだ・・・」
フィッシュはつばをつけてみたり、テープを巻いてみたり、絆創膏や軟膏をつけてみたがどれもだめだった。
「ごめんよネス。わしではこれを直すことはできん。」
「どうすれば治る?」
「さあ?・・・これが布でできていたら、直せるのじゃが・・・ミッチェの昔の恋人にでも聞くかな・・・」
「その人はどこにいるの。」
「月じゃ。ハーフムーンの女神でベルアミィという月みたいなまん丸いおっぱいをした女じゃ。そいつなら直せると思う。
気の良い女でな、困ったことはなんでも解決してくれる、少し不器用で雑なところもあってな、前にミッチェのカーディガンを編んで送って来たが、袖がふさがっておって、手が出ないからわしが直してやったんじゃ。
けどあの時は、袖を切ったら糸が次から次へとほどけて来てしまって、結局最後は1本の糸になってしまって・・・ミッチェが火を噴いて怒っておった・・・そうじゃ、そんなこともあったな。
で、なんだったっけ?」
「その人はどこに行けば会えるの?」
「その人とは誰じゃ?」
「ミッチェの昔の恋人、ベルアミィ。」
「ああ、月じゃ。月と言っても、ちょうどハーフムーンの時じゃないと彼女には会えん。
それがもとでミッチェも別れたんじゃ。しかもその日が雨とくれば、また次のハーフムーンまで待たねばならないだろ。気の短いミッチェと付き合うなんてのは、土台無理な話だったんじゃ。
だが、10年くらいは付き合っておったかな?20年じゃったかな?」
「だから、その人のところへ行く方法を教えてよ。」
「その人って?はて?誰のことじゃったかな?」
「ベルアミィ!」
「ああ、行くのは簡単じゃ。へびいちごのビルの23階から午後の6時59分から30分だけでる階段がある。それを登って行けは月まではすぐじゃ。月の暦は・・・今日はちょうど半月じゃネスは運がいい!!」
ネスはそこまで話を聞いて向かいのへびいちごに飛び出した。
だが、フィッシュの話はそこでは終わらなかった。
「だが、まだうかつに会いに行ってはいかんぞ。半月と言っても、上弦の月と下弦の月がある。ミッチェの彼女は上弦の月じゃ。ムチムチした卵色の肌に土色の髪をした女じゃ。この女は正解なのじゃが、同じ半月でも下弦の月の女はいつも黒いマントを着て真っ赤な爪のイジワルな女で、名前をマーガラと言ってな、階段を登って来たものにクイズを与えて、自分の気に入らない答えを返したものは階段から蹴り落してしまうんじゃ・・・・
嫌な女じゃろ。わしも2度ほど落とされてな。1度は運よく走っていたトラックの荷台に落ちてそのまま中国観光を楽しめたが、2度目はごく普通の家に落っこちてな、しかも運の悪いことにクリスマスの夜で、サンタさんだーって子供にまとわりつかれて一苦労した。
まあ、この女もそこそこのまあるいおっぱいはしておるのじゃが・・・何の話だったかな・・・
あ、そうそう、今日の月の話じゃったな。
今日は・・・残念、下弦の月じゃ・・・ベルアミィに会えるのはまた1か月先じゃな。」
と話し終わった時にはネスの姿はなかった。
「はて?・・・・」
そこへハピがネスを探しにやって来た。
「こんにちはフィッシュさん。ネスを見ませんでしたか?」
「ああ、ネスならさっきまでここにおった。そしてミッチェの昔の恋人の話を一緒にしておった。話がこれから面白くなるぞ!というところで、なぜかネスは消えてしまったんじゃ・・・」
「え?どこへ行くか言ってませんでしたか?」
「さあな・・・ネスは何も言ってはおらんが、わしが、ミッチェの昔の恋人に会いたいならへびいちごのビルの23階から午後の6時59分から30分だけでる階段を登れば会いに行けるぞとは言った。」
「他には?」
「さあ?いろいろ話をしたような気はするが・・・あ、そうそう、ミッチェの昔の恋人はベルアミィと言ってな、ハーフムーンの女神、つまり半分の月の時にだけ会える。
今日は半月なんじゃが、ベルアミィには会えん。なぜなら、彼女は上弦の月の女神で、今日の月の暦は下弦の月じゃからな。
下弦の月の女神は、マーガラというとっても意地悪な魔女でな、クイズを出されて、うまく答えられなかったら蹴飛ばされてどっか遠くへ飛んで行ってしまうんじゃ。恐ろしいじゃろ。しかも、この話にはまだまだ続きがある。下弦の月にうまく入り込めたとしても階段は閉ざされてそれから9日間、つまり、新月をこえるまでは降りてこれなくなるんじゃ。」
「ええ・・・!」
ハピも向かいのへびいちごに飛び込んでいった。
「二人とも、何をそんなに慌てているんじゃ?
はじまりは何じゃったかな・・・」
フィッシュは店の窓からへびいちごに飛び込んでゆくハピの後ろ姿を見ながら、事の真相を思い返していた。
そして、そこへミッチェが来た。
「フィッシュ、うちのハピとネスを知らないか?」
フィッシュは話し好きだが、同じ話を何度もするのは苦手だった。
だから
「アニューの店に行ったぞ。」
と、テキトーに答えた。
「そうか・・・」
ミッチェはアニューの店に行った。
「アニュー、ハピとネスを知らないか?帰ってきたら二人ともいないんだ。何かとても慌てて出て行ったような気配がするんだが・・・」
「ああ、来たぞ。スゲー慌てて階段を駆け上がって行ったけど、何かあったのか?」
アニューは店の中にある階段につながる小さなドアを指さした。
「は?登っていったのか?」
「ああ・・・最初にネスが来て、その後、ハピが来た。階段はどこだっていうから教えてやったんだ。」
「教えてやったって・・・ネスは何時ごろ来たんだ?」
「7時10分くらいだったかな?」
そこへフィッシュがやって来た。ミッチェに適当に答えてしまったが、よくよく考えたら何かとても大変なことを言ったような気がしてきたからだ。
「何かあったのかな?」
「なにかじゃねぇ。お前、ハピとネスに何教えた!」
ミッチェはフィッシュの胸倉をつかんでグワングワン揺さぶった。
「ミッチェの昔の彼女に会いに行きたいって言うから・・・・」
「ベルアミィに?なんで!」
「ミッチェの大事にしていた黒水晶の薔薇の置物を壊したとかで・・・治らないかって言ったから、わしには直せないが、ベルアミィなら直せるかもなと言ったんじゃ。
そしたら、ベルアミィのところへ行く方法を教えてくれと言ったから、へびいちごの23階から出る階段を上がれば行けると言ったんだ。嘘は言ってない。」
「なんで今日に限って本当のことを言うんだ!」
「喧嘩してる場合か!さっさと助けに行かねぇと階段が消えるぞ!」
三人の男は小さなドアをくぐって、細くて長くて暗い階段を23階まで駆け上がった。
23階に着くと、窓のところにハピが立っているのが見えた。
「ハピ、どうした。」
「ネスが・・・ネスが昇って行ったんだ。僕も追いかけようとしたんだけど、階段がどんどんと消えてしまって・・・」
23階からの月へ向かう階段は6時59分から1段ずつ現れ、30分経った7時29分きっかりに1段ずつ消えて行く。月の方角を見ると少しずつ消えゆく階段の先を進むネスの姿があった。
「ネス!ネス!」
何度も呼んだが、もう聞こえるほどの場所にはいない。
「あーどうしよう、落っこちてくるのをうまく受け止められるだろうか・・・それとも網を貼ろうか・・・あーどうしたらいい。」
いつもの冷静なミッチェからは想像もできないほどに落ち着きなく狼狽えた。
「しっかりしろ!ミッチェ。俺が飛ぶ。」
アニューは23階の窓から身を乗り出し、長く大きく、真っ黒な翼を出して大きく羽ばたいた。
「アニュー・・・頼む。連れて帰ってきてくれ・・・」
「あたりまえだ。」
アニューは振り返ることもなく真っすぐに月へ向かって飛んだ。
ネスもまた、月への階段を登り続けた。
果てしなく遠く長い階段だったが怖いなんて決して思わなかった。
今のネスにとって、ミッチェの悲しい顔を見ることは、鞭で血が出るほど叩かれるよりもつらい事だった。
そして、ミッチェの笑顔を見ることはどんなおいしいものを出されるよりもうれしい事だった。ミッチェと出会って初めて思った。この生活を失いたくないと。
「このバラを元通りにしなければ、ミッチェが悲しむ・・・」
その気持ちしかなかった。
「おい、チビ!」
アニューは大きく翼を大きくはためかせ、出せるだけのスピードでネスに追いついた。
「おい、チビ。行くな。今日行ってもベルアミィには会えねぇぜ。」
「嘘だ。今日は半月の日だろ。フィッシュがそう言った。」
「確かに半月だけど、今日行っても会えねぇんだ。今日は留守してる。だから帰ろう。俺に掴まれ。」
アニューはネスに右手を出してネスを捕まえようとした。けれどネスの手には、黒水晶の薔薇が握られてアニューの手は握ることはできなかった。
「ダメなんだ。僕はミッチェの大事なバラを壊してしまったからこのままでは帰れない。ちゃんと直してからでないとミッチェが悲しむだろ。だからベルアミィに頼むんだ。
あとちょっとでつくから、僕一人で行けるから大丈夫。心配しないで。」
「心配?俺は心配なんかしてねぇよ。行きたきゃ行けばいい。
でも何度も言うがベルアミィはいねえぜ。いるのはマーガラって言う意地悪な魔女だ。
このまま月へたどり着いたとしても、お前はそいつに掴まって食われちまう。」
「そんなの嘘だ。」
「嘘だと思うなら行けばいい。俺はお前が食われるところをちゃんと見届けてやる。そしてミッチェに、ネスは頭からがぶがぶ食われましたって報告してやるよ。さあ、いけ。」
ネスは階段を登るのをやめた。
「おいおい、そんなとこで止まってると階段から落っこちるぞ。下を見てみろ。
お前の登って来た階段がぜーんぶ消えてるぞ。」
ネスは今まで全く振り返らず、一心不乱に登って来たが、初めてそこで自分の後ろを振り返った。すると、へびいちごのビルはとんでもなく下のほうで、キャラメルの箱よりも小さくなっていた。
そこから続いていた階段は、砂時計から落ちるの砂のようにさらさらと流れ落ちていた。
「さあ、登れ、登れ!!落っこちるぞ!」
ネスは又階段を登り始めた。月まではあと少しだ。ベルアミィはきっといる!そう自分を奮い立たせて登り始めたが、月からネスを見下ろしたのは、黒いマントに真っ赤な爪の女だった。
「騒がしいと思ったら、なんだアニューか。何やってんだ。」
「このチビがベルアミィに会いたいんだと。今日は留守でいねぇから帰ろうって言ってんのに帰らねぇってほざくから、それなら自分の目で確かめろって、教育中だ。」
「ほう・・・チッコイね・・・でもおやつ代わりにはなるか・・・さあ、坊や登っておいで。
早く!早く!ワインの用意でもしようかね。アニューも一杯飲んでいくかい。餌を運んできてくれたお礼に一杯奢るよ。」
「ああ、じゃあ、お言葉に甘えて一杯だけご馳走になるか。
さ、チビ、登れ。あとちょっとだ。」
「ベルアミィは・・・ベルアミィはどこ?」
「今日は会えねぇって言ってるだろ。」
「だって、フィッシュが・・・」
「フィッシュがじゃねぇ。直すとか直さねえとかの前に、壊したことをミッチェに謝ったのか?」
ネスは首を横に振ると、涙が左右に飛んだ。
「まず、それが先だろ。ベルアミィに会いたきゃ又出直せばいい。今日じゃなくちゃならない事なんて何もない。あるとするなら、今は、いや、今すぐにミッチェに会いに戻ることだな。」
「けど・・・」
「けどなんだ。」
「ミッチェがアニューの手を掴んではダメだって言ったんだ。ミッチェのところへ戻れなくなるって・・・」
「そうか、なら仕方ねぇな・・・食われるか、落っこちるかしろよ。ここで見ててやるよ。」
アニューは不敵な笑みを浮かべてネスを見下ろした。
月のほうを見上げるとマーガラが真っ赤な長い爪で手招きをしていた。足元から階段はさわさわと消えはじめ、上へも、下へも行けず、ネスは階段の隅で震えて泣くことしかできなかった。
「オイオイ、泣いてたら落っこちるぞ、ホラ・・・消えかかってるぞ・・・」
アニューは甲高い笑い声をあげながら、怯えるネスの恐怖心を煽った。
「ホラ、ホラ、どうするどうする・・・・ハハハハハ・・・・・」
「うぁー・・・・助けてー・・・・」
ネスは消えて行く階段とともに落っこちて行った。
さらさらとどこまでも、どこまでも落っこちて・・・ミッチェと初めて会った時、お風呂に入れてもらった時、爪を切ってもらった時、ご飯の食べ方を教えてもらった時・・・そんなたわいもないごく普通の毎日が、ネスにとっては大切な宝物の日々が・・・くるくると頭の中から一緒に落っこちて行くように感じていた。
落っこちて行く先は、深い深い悲しみの底。大きな口を開けてネスを呑み込もうとしているようで、恐ろしくて思わず目を瞑り、胸に抱いた黒水晶のクロバラを強く両手で握り占め胸の奥で(ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・何もできない僕でごめんなさい・・・)と何度も謝った。
その時間はとてもとても長く感じた。そして体が落ちるのをやめて、ふんわりと上がり始めたことを感じると、(もう地獄へ着いたのかな)と思い目を開けた。
ネスは空を飛んでいた。見上げると、そこにはアニューがいた。アニューに抱えられて、行き先はミッチェの居る街、へびいちごのビルだ。
街は息をひそめたように静かで、家から漏れる少しの明かりと信号機の光くらいしか見えないような暗い夜だった。時折吹く冷たい風が髪をかき上げるように通り過ぎるだけで、音という音もなく、ただ耳を澄ますと、黒い翼が風を切る音だけがした。
「ネスー!」
遠くからミッチェとハピがネスを呼ぶ声がした。
「返事してやれよ。」
アニューが言った。
「僕、声が出ない・・・なんて言っていいかわからないんだ。」
「別に、言いたいことを言えばいいんじゃない。」
「薔薇も直せなかった。お手伝いだってうまくできない。一生懸命食べてもいつまでもやせっぽちのままで・・・ミッチェを喜ばせることなんて何もできない。」
「そうだな。お前はチビだ。やろうと思ってできることはすくねぇな。けど、あいつはお前を探していた。必死で探し回っていた。
お手伝いもできねぇ、物は壊す、ムチムチにもならねぇお前をだ。それがどういうことか・・・まだわからねぇだろうな。お前はチビだからな。」
「チビって言うな・・・今、一生懸命大きくなろうとしてるんだ。大きくなってミッチェをもっともっと喜ばせるんだ。」
「あっそ・・・」
「ハピと二人でへびいちごより大きなビルを建ててやる。」
「へぇ・・・」
「そして・・・ミッチェをいっぱい笑わせるんだ。」
「ふぅーん・・・」
「僕はハピと二人で頑張るんだ。」
「頑張るねぇ・・・そんな頑張らなくても、二つはもう、今日できることだ。」
アニューはへびいちごのビルに向かって大きく旋回すると、近くの広場に降りた。
降りたというより、派手に土煙を上げて転がった。アニューは離陸はそこそこだが、着地が下手だった。
「ネス!!」
ミッチェやハピ、フィッシュがアニューが転がり落ちた場所へ駆け寄って来た。
「痛ってぇ・・・だから飛ぶのは嫌いなんだ。」
ネスはアニューの腕の中からひょっこりと顔を出した。涙と鼻水でべたべたなところに、土埃がついて真っ黒だった。
「ミッチェ・・・ハピ・・・・」
ミッチェはネスに駆け寄り思い切り抱きしめた。何か言葉をかけたいと思ってはいるけど、何も浮かばす、ただ抱きしめた。なぜそうしようと思ったのかはわからない。
けれど、衝動的にネスを強く、強く抱きしめた。
ミッチェには初めて感じた気持ちだった。
「ごめんなさい・・・僕、ミッチェの大切な黒水晶の薔薇を折ってしまったんです・・・直してから渡そうと思ったんだけど・・・治らなかった・・・」
ミッチェの胸の中で、ネスが小さな声で泣きながら言った。
「いいさ、それは古かったから壊れたんだ。あのとき壊れるのがこの薔薇の宿命だったんだ。」
「でも、一番大切なものでしょ。」
「ああ・・・けど、一番じゃねぇ。」
「一番は指輪?鍵?」
「あれも仕事では大事なもんだ、失くしたら怒られる。でも俺の一番じゃねぇ。」
「一番は?」
「一番は・・・今は教えない。ハピもネスも大きくなったらわかる日が来る。それまでの宿題だ。」
ミッチェはもう一度ネスを抱きしめた。その上からハピが抱き着いた。
「おい、俺も抱きしめろよ。ケガしてんだぜ。」
「お前はつばでもつけとけば治るだろ。」
「治るけどさ・・・」
「じゃあ、わしが抱きしめてやろう。偉かったな・・・アニュー。」
「フィッシュか・・・まあ、いいけどな。」
アニューもフィッシュに抱かれ、頭を撫でてもらった。
大人もたまには、こんな風に誰かに優しく褒められたいと思う事があるんだな・・・そんなことをアニューが知った日だった。
抱きしめて頭を撫でられるのは、どんなにおいしいものを食べるより、高価なおもちゃを買ってもらうより、何より幸せになれることなのだな・・・そんなことをハピとネスが知った日で宿題の答えがほんのちょっとだけわかったような気がしていた。
30センチの踏み台はネスに今まで出来なかったいろいろな事を出来たり、今まで見えなかったいろいろな物を見せた。
30センチ高くなってもまだまだミッチェの身長には程遠く足りなかったが、それでも大人になったような得意な気持ちでいた。
ミッチェは二人ともお手伝いなんかせずに暗くなるまで外で走り回って遊び、やんちゃを言ったり、喧嘩をしたりと、子供の時にしかできないことを思う存分させてやりたいと思っていた。
けれど、ミッチェのために一生懸な子供たちの気持ちが愛おしくて、お手伝いを断ることなんてできなかった。
だから、何も言わず、子供たちのやりたいようにやる姿をずっと見つめていた。
その日は、ネスが幼稚園から帰って来た時、店には誰もいなかった。客もミッチェもハピも・・・
ネスは踏み台を持ってきて店の窓ふきを始めた。
その後は棚の上、暖炉の上を掃除した。暖炉は使わなくなってからミッチェもあまり傍には寄らなくなっていた。
だから忘れられた分の埃がそこに積もっていた。そこに置いてある昔の恋人にもらった黒水晶の薔薇の置物にも同じように埃が積もっていた。ネスはミッチェがいつも使っていた羽箒でパンパンと埃を叩いた。
そうしたら、黒水晶の薔薇の置物はぐらっと倒れてパキッと折れてしまった。
ネスは慌ててそれを持ち、フィッシュのところへ走った。
「フィッシュ、どうしよう・・・僕が落っことして折れてしまったんだ・・・」
フィッシュはつばをつけてみたり、テープを巻いてみたり、絆創膏や軟膏をつけてみたがどれもだめだった。
「ごめんよネス。わしではこれを直すことはできん。」
「どうすれば治る?」
「さあ?・・・これが布でできていたら、直せるのじゃが・・・ミッチェの昔の恋人にでも聞くかな・・・」
「その人はどこにいるの。」
「月じゃ。ハーフムーンの女神でベルアミィという月みたいなまん丸いおっぱいをした女じゃ。そいつなら直せると思う。
気の良い女でな、困ったことはなんでも解決してくれる、少し不器用で雑なところもあってな、前にミッチェのカーディガンを編んで送って来たが、袖がふさがっておって、手が出ないからわしが直してやったんじゃ。
けどあの時は、袖を切ったら糸が次から次へとほどけて来てしまって、結局最後は1本の糸になってしまって・・・ミッチェが火を噴いて怒っておった・・・そうじゃ、そんなこともあったな。
で、なんだったっけ?」
「その人はどこに行けば会えるの?」
「その人とは誰じゃ?」
「ミッチェの昔の恋人、ベルアミィ。」
「ああ、月じゃ。月と言っても、ちょうどハーフムーンの時じゃないと彼女には会えん。
それがもとでミッチェも別れたんじゃ。しかもその日が雨とくれば、また次のハーフムーンまで待たねばならないだろ。気の短いミッチェと付き合うなんてのは、土台無理な話だったんじゃ。
だが、10年くらいは付き合っておったかな?20年じゃったかな?」
「だから、その人のところへ行く方法を教えてよ。」
「その人って?はて?誰のことじゃったかな?」
「ベルアミィ!」
「ああ、行くのは簡単じゃ。へびいちごのビルの23階から午後の6時59分から30分だけでる階段がある。それを登って行けは月まではすぐじゃ。月の暦は・・・今日はちょうど半月じゃネスは運がいい!!」
ネスはそこまで話を聞いて向かいのへびいちごに飛び出した。
だが、フィッシュの話はそこでは終わらなかった。
「だが、まだうかつに会いに行ってはいかんぞ。半月と言っても、上弦の月と下弦の月がある。ミッチェの彼女は上弦の月じゃ。ムチムチした卵色の肌に土色の髪をした女じゃ。この女は正解なのじゃが、同じ半月でも下弦の月の女はいつも黒いマントを着て真っ赤な爪のイジワルな女で、名前をマーガラと言ってな、階段を登って来たものにクイズを与えて、自分の気に入らない答えを返したものは階段から蹴り落してしまうんじゃ・・・・
嫌な女じゃろ。わしも2度ほど落とされてな。1度は運よく走っていたトラックの荷台に落ちてそのまま中国観光を楽しめたが、2度目はごく普通の家に落っこちてな、しかも運の悪いことにクリスマスの夜で、サンタさんだーって子供にまとわりつかれて一苦労した。
まあ、この女もそこそこのまあるいおっぱいはしておるのじゃが・・・何の話だったかな・・・
あ、そうそう、今日の月の話じゃったな。
今日は・・・残念、下弦の月じゃ・・・ベルアミィに会えるのはまた1か月先じゃな。」
と話し終わった時にはネスの姿はなかった。
「はて?・・・・」
そこへハピがネスを探しにやって来た。
「こんにちはフィッシュさん。ネスを見ませんでしたか?」
「ああ、ネスならさっきまでここにおった。そしてミッチェの昔の恋人の話を一緒にしておった。話がこれから面白くなるぞ!というところで、なぜかネスは消えてしまったんじゃ・・・」
「え?どこへ行くか言ってませんでしたか?」
「さあな・・・ネスは何も言ってはおらんが、わしが、ミッチェの昔の恋人に会いたいならへびいちごのビルの23階から午後の6時59分から30分だけでる階段を登れば会いに行けるぞとは言った。」
「他には?」
「さあ?いろいろ話をしたような気はするが・・・あ、そうそう、ミッチェの昔の恋人はベルアミィと言ってな、ハーフムーンの女神、つまり半分の月の時にだけ会える。
今日は半月なんじゃが、ベルアミィには会えん。なぜなら、彼女は上弦の月の女神で、今日の月の暦は下弦の月じゃからな。
下弦の月の女神は、マーガラというとっても意地悪な魔女でな、クイズを出されて、うまく答えられなかったら蹴飛ばされてどっか遠くへ飛んで行ってしまうんじゃ。恐ろしいじゃろ。しかも、この話にはまだまだ続きがある。下弦の月にうまく入り込めたとしても階段は閉ざされてそれから9日間、つまり、新月をこえるまでは降りてこれなくなるんじゃ。」
「ええ・・・!」
ハピも向かいのへびいちごに飛び込んでいった。
「二人とも、何をそんなに慌てているんじゃ?
はじまりは何じゃったかな・・・」
フィッシュは店の窓からへびいちごに飛び込んでゆくハピの後ろ姿を見ながら、事の真相を思い返していた。
そして、そこへミッチェが来た。
「フィッシュ、うちのハピとネスを知らないか?」
フィッシュは話し好きだが、同じ話を何度もするのは苦手だった。
だから
「アニューの店に行ったぞ。」
と、テキトーに答えた。
「そうか・・・」
ミッチェはアニューの店に行った。
「アニュー、ハピとネスを知らないか?帰ってきたら二人ともいないんだ。何かとても慌てて出て行ったような気配がするんだが・・・」
「ああ、来たぞ。スゲー慌てて階段を駆け上がって行ったけど、何かあったのか?」
アニューは店の中にある階段につながる小さなドアを指さした。
「は?登っていったのか?」
「ああ・・・最初にネスが来て、その後、ハピが来た。階段はどこだっていうから教えてやったんだ。」
「教えてやったって・・・ネスは何時ごろ来たんだ?」
「7時10分くらいだったかな?」
そこへフィッシュがやって来た。ミッチェに適当に答えてしまったが、よくよく考えたら何かとても大変なことを言ったような気がしてきたからだ。
「何かあったのかな?」
「なにかじゃねぇ。お前、ハピとネスに何教えた!」
ミッチェはフィッシュの胸倉をつかんでグワングワン揺さぶった。
「ミッチェの昔の彼女に会いに行きたいって言うから・・・・」
「ベルアミィに?なんで!」
「ミッチェの大事にしていた黒水晶の薔薇の置物を壊したとかで・・・治らないかって言ったから、わしには直せないが、ベルアミィなら直せるかもなと言ったんじゃ。
そしたら、ベルアミィのところへ行く方法を教えてくれと言ったから、へびいちごの23階から出る階段を上がれば行けると言ったんだ。嘘は言ってない。」
「なんで今日に限って本当のことを言うんだ!」
「喧嘩してる場合か!さっさと助けに行かねぇと階段が消えるぞ!」
三人の男は小さなドアをくぐって、細くて長くて暗い階段を23階まで駆け上がった。
23階に着くと、窓のところにハピが立っているのが見えた。
「ハピ、どうした。」
「ネスが・・・ネスが昇って行ったんだ。僕も追いかけようとしたんだけど、階段がどんどんと消えてしまって・・・」
23階からの月へ向かう階段は6時59分から1段ずつ現れ、30分経った7時29分きっかりに1段ずつ消えて行く。月の方角を見ると少しずつ消えゆく階段の先を進むネスの姿があった。
「ネス!ネス!」
何度も呼んだが、もう聞こえるほどの場所にはいない。
「あーどうしよう、落っこちてくるのをうまく受け止められるだろうか・・・それとも網を貼ろうか・・・あーどうしたらいい。」
いつもの冷静なミッチェからは想像もできないほどに落ち着きなく狼狽えた。
「しっかりしろ!ミッチェ。俺が飛ぶ。」
アニューは23階の窓から身を乗り出し、長く大きく、真っ黒な翼を出して大きく羽ばたいた。
「アニュー・・・頼む。連れて帰ってきてくれ・・・」
「あたりまえだ。」
アニューは振り返ることもなく真っすぐに月へ向かって飛んだ。
ネスもまた、月への階段を登り続けた。
果てしなく遠く長い階段だったが怖いなんて決して思わなかった。
今のネスにとって、ミッチェの悲しい顔を見ることは、鞭で血が出るほど叩かれるよりもつらい事だった。
そして、ミッチェの笑顔を見ることはどんなおいしいものを出されるよりもうれしい事だった。ミッチェと出会って初めて思った。この生活を失いたくないと。
「このバラを元通りにしなければ、ミッチェが悲しむ・・・」
その気持ちしかなかった。
「おい、チビ!」
アニューは大きく翼を大きくはためかせ、出せるだけのスピードでネスに追いついた。
「おい、チビ。行くな。今日行ってもベルアミィには会えねぇぜ。」
「嘘だ。今日は半月の日だろ。フィッシュがそう言った。」
「確かに半月だけど、今日行っても会えねぇんだ。今日は留守してる。だから帰ろう。俺に掴まれ。」
アニューはネスに右手を出してネスを捕まえようとした。けれどネスの手には、黒水晶の薔薇が握られてアニューの手は握ることはできなかった。
「ダメなんだ。僕はミッチェの大事なバラを壊してしまったからこのままでは帰れない。ちゃんと直してからでないとミッチェが悲しむだろ。だからベルアミィに頼むんだ。
あとちょっとでつくから、僕一人で行けるから大丈夫。心配しないで。」
「心配?俺は心配なんかしてねぇよ。行きたきゃ行けばいい。
でも何度も言うがベルアミィはいねえぜ。いるのはマーガラって言う意地悪な魔女だ。
このまま月へたどり着いたとしても、お前はそいつに掴まって食われちまう。」
「そんなの嘘だ。」
「嘘だと思うなら行けばいい。俺はお前が食われるところをちゃんと見届けてやる。そしてミッチェに、ネスは頭からがぶがぶ食われましたって報告してやるよ。さあ、いけ。」
ネスは階段を登るのをやめた。
「おいおい、そんなとこで止まってると階段から落っこちるぞ。下を見てみろ。
お前の登って来た階段がぜーんぶ消えてるぞ。」
ネスは今まで全く振り返らず、一心不乱に登って来たが、初めてそこで自分の後ろを振り返った。すると、へびいちごのビルはとんでもなく下のほうで、キャラメルの箱よりも小さくなっていた。
そこから続いていた階段は、砂時計から落ちるの砂のようにさらさらと流れ落ちていた。
「さあ、登れ、登れ!!落っこちるぞ!」
ネスは又階段を登り始めた。月まではあと少しだ。ベルアミィはきっといる!そう自分を奮い立たせて登り始めたが、月からネスを見下ろしたのは、黒いマントに真っ赤な爪の女だった。
「騒がしいと思ったら、なんだアニューか。何やってんだ。」
「このチビがベルアミィに会いたいんだと。今日は留守でいねぇから帰ろうって言ってんのに帰らねぇってほざくから、それなら自分の目で確かめろって、教育中だ。」
「ほう・・・チッコイね・・・でもおやつ代わりにはなるか・・・さあ、坊や登っておいで。
早く!早く!ワインの用意でもしようかね。アニューも一杯飲んでいくかい。餌を運んできてくれたお礼に一杯奢るよ。」
「ああ、じゃあ、お言葉に甘えて一杯だけご馳走になるか。
さ、チビ、登れ。あとちょっとだ。」
「ベルアミィは・・・ベルアミィはどこ?」
「今日は会えねぇって言ってるだろ。」
「だって、フィッシュが・・・」
「フィッシュがじゃねぇ。直すとか直さねえとかの前に、壊したことをミッチェに謝ったのか?」
ネスは首を横に振ると、涙が左右に飛んだ。
「まず、それが先だろ。ベルアミィに会いたきゃ又出直せばいい。今日じゃなくちゃならない事なんて何もない。あるとするなら、今は、いや、今すぐにミッチェに会いに戻ることだな。」
「けど・・・」
「けどなんだ。」
「ミッチェがアニューの手を掴んではダメだって言ったんだ。ミッチェのところへ戻れなくなるって・・・」
「そうか、なら仕方ねぇな・・・食われるか、落っこちるかしろよ。ここで見ててやるよ。」
アニューは不敵な笑みを浮かべてネスを見下ろした。
月のほうを見上げるとマーガラが真っ赤な長い爪で手招きをしていた。足元から階段はさわさわと消えはじめ、上へも、下へも行けず、ネスは階段の隅で震えて泣くことしかできなかった。
「オイオイ、泣いてたら落っこちるぞ、ホラ・・・消えかかってるぞ・・・」
アニューは甲高い笑い声をあげながら、怯えるネスの恐怖心を煽った。
「ホラ、ホラ、どうするどうする・・・・ハハハハハ・・・・・」
「うぁー・・・・助けてー・・・・」
ネスは消えて行く階段とともに落っこちて行った。
さらさらとどこまでも、どこまでも落っこちて・・・ミッチェと初めて会った時、お風呂に入れてもらった時、爪を切ってもらった時、ご飯の食べ方を教えてもらった時・・・そんなたわいもないごく普通の毎日が、ネスにとっては大切な宝物の日々が・・・くるくると頭の中から一緒に落っこちて行くように感じていた。
落っこちて行く先は、深い深い悲しみの底。大きな口を開けてネスを呑み込もうとしているようで、恐ろしくて思わず目を瞑り、胸に抱いた黒水晶のクロバラを強く両手で握り占め胸の奥で(ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・何もできない僕でごめんなさい・・・)と何度も謝った。
その時間はとてもとても長く感じた。そして体が落ちるのをやめて、ふんわりと上がり始めたことを感じると、(もう地獄へ着いたのかな)と思い目を開けた。
ネスは空を飛んでいた。見上げると、そこにはアニューがいた。アニューに抱えられて、行き先はミッチェの居る街、へびいちごのビルだ。
街は息をひそめたように静かで、家から漏れる少しの明かりと信号機の光くらいしか見えないような暗い夜だった。時折吹く冷たい風が髪をかき上げるように通り過ぎるだけで、音という音もなく、ただ耳を澄ますと、黒い翼が風を切る音だけがした。
「ネスー!」
遠くからミッチェとハピがネスを呼ぶ声がした。
「返事してやれよ。」
アニューが言った。
「僕、声が出ない・・・なんて言っていいかわからないんだ。」
「別に、言いたいことを言えばいいんじゃない。」
「薔薇も直せなかった。お手伝いだってうまくできない。一生懸命食べてもいつまでもやせっぽちのままで・・・ミッチェを喜ばせることなんて何もできない。」
「そうだな。お前はチビだ。やろうと思ってできることはすくねぇな。けど、あいつはお前を探していた。必死で探し回っていた。
お手伝いもできねぇ、物は壊す、ムチムチにもならねぇお前をだ。それがどういうことか・・・まだわからねぇだろうな。お前はチビだからな。」
「チビって言うな・・・今、一生懸命大きくなろうとしてるんだ。大きくなってミッチェをもっともっと喜ばせるんだ。」
「あっそ・・・」
「ハピと二人でへびいちごより大きなビルを建ててやる。」
「へぇ・・・」
「そして・・・ミッチェをいっぱい笑わせるんだ。」
「ふぅーん・・・」
「僕はハピと二人で頑張るんだ。」
「頑張るねぇ・・・そんな頑張らなくても、二つはもう、今日できることだ。」
アニューはへびいちごのビルに向かって大きく旋回すると、近くの広場に降りた。
降りたというより、派手に土煙を上げて転がった。アニューは離陸はそこそこだが、着地が下手だった。
「ネス!!」
ミッチェやハピ、フィッシュがアニューが転がり落ちた場所へ駆け寄って来た。
「痛ってぇ・・・だから飛ぶのは嫌いなんだ。」
ネスはアニューの腕の中からひょっこりと顔を出した。涙と鼻水でべたべたなところに、土埃がついて真っ黒だった。
「ミッチェ・・・ハピ・・・・」
ミッチェはネスに駆け寄り思い切り抱きしめた。何か言葉をかけたいと思ってはいるけど、何も浮かばす、ただ抱きしめた。なぜそうしようと思ったのかはわからない。
けれど、衝動的にネスを強く、強く抱きしめた。
ミッチェには初めて感じた気持ちだった。
「ごめんなさい・・・僕、ミッチェの大切な黒水晶の薔薇を折ってしまったんです・・・直してから渡そうと思ったんだけど・・・治らなかった・・・」
ミッチェの胸の中で、ネスが小さな声で泣きながら言った。
「いいさ、それは古かったから壊れたんだ。あのとき壊れるのがこの薔薇の宿命だったんだ。」
「でも、一番大切なものでしょ。」
「ああ・・・けど、一番じゃねぇ。」
「一番は指輪?鍵?」
「あれも仕事では大事なもんだ、失くしたら怒られる。でも俺の一番じゃねぇ。」
「一番は?」
「一番は・・・今は教えない。ハピもネスも大きくなったらわかる日が来る。それまでの宿題だ。」
ミッチェはもう一度ネスを抱きしめた。その上からハピが抱き着いた。
「おい、俺も抱きしめろよ。ケガしてんだぜ。」
「お前はつばでもつけとけば治るだろ。」
「治るけどさ・・・」
「じゃあ、わしが抱きしめてやろう。偉かったな・・・アニュー。」
「フィッシュか・・・まあ、いいけどな。」
アニューもフィッシュに抱かれ、頭を撫でてもらった。
大人もたまには、こんな風に誰かに優しく褒められたいと思う事があるんだな・・・そんなことをアニューが知った日だった。
抱きしめて頭を撫でられるのは、どんなにおいしいものを食べるより、高価なおもちゃを買ってもらうより、何より幸せになれることなのだな・・・そんなことをハピとネスが知った日で宿題の答えがほんのちょっとだけわかったような気がしていた。
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