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四日目
クレタの友達に会う
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「おお、クレタ、久しぶり!」
変な乗り物に乗った男がクレタに近づいてきた。
フロントに大きなリンゴのライトをつけたバイクのような格好だけれども、ボディの部分は人骨。サイかカバのような太短い足がくるりとついたタイヤの妙な乗り物で大きな荷台を引っ張っていた。
「あ・・・ああ・・・あーっと。」
「サフルだよ。サフル・マーケム。まったく、いつも名前を忘れやがる。」
「忘れてるんじゃない、覚えられないんだ。お前の名前、なんかめんどくさい。」
「なんだよ、めんどくさいって・・・お、かわいい子連れているじゃないか。」
「こんにちは。クレタの友達。」
「こんにちは。友達って言うか・・・同級生。俺、休憩するから、クレタも休憩しろよ。」
「やだ、昼までに行くところある。」
「どこ?」
「願いの泉。午前中につきたいから休憩はムリ。行くぞ。」
クレタは先を急ごうとヒロトの腕を強く引っ張った。
すると、ぬるっとしてタオルが取れ、カエルの手がズルっとむき出しになった。
「ゲー、気持ち悪いな、俺の前にその手を出すなって、何回言えばわかるんだ。臭い!臭い!」
クレタは両手でヒロトを叩き出し、それを見た太と理玖は慌てて駆け寄った。
けれど、ヒロトを叩こうとしたクレタの手を止めてくれたのはサフルだった。
「おい、ガキみたいなことするなよ。相変わらずだな。
こんなかわいい子殴るなんて・・・ちょっと手がカエルなだけだろ。それが何だよ。」
サフルは足元に落ちたタオルを拾い上げ、パンパンと二、三度払ってからヒロトの手に巻き付けた。
「ありがとうございます。」
「いいよ。クレタはわがままだから、ついて行くのも大変だろ。」
「でも・・・楽しいです。」
「楽しいね・・・」
クレタはむすっと膨れてヒロトの手をもう一度引っ張った。
「本当に、行くぞ。」
「俺も願いの泉に行くんだ。乗せてってやるから休んで行けよ。この子の手もカサカサじゃないか。」
「どうせ泉に行くんだ。行けば水なんかいやっちゅう程あるから、頭からぶっかけてやるよ。」
「後の二人も疲れただろ。歩きっぱなしで、ハイ。」
サフルはキャラメルを4個手のひらに乗せて差し出した。
太がそれを取ろうとすると、クレタは4個ともキャラメルを取った。
「なんだよ・・・ケチ。4個あったんだから1個づつだろ。」
「まだおやつには早い。糖分の取りすぎは体に良くない。もうちょっと後で俺がいいと思ったら渡す。」
「いいと思ったらって・・・それサフルにもらったやつじゃん。」
「う・る・さ・い。とにかく、俺がいいと思わなければだめ。急ぐぞ。」
「乗ってけよ。どうせ行くところは同じだし、急いでも渋滞でいつ中に入れるかわからないしゆっくりいこうよ。」
「優先的にはいれるように話はついている。俺たちにかまうな。さっさと行けよ。
俺のグループだ。」
「そうだったな。ごめん・・・・・、じゃ、行くよ。」
サフルはゴーグルをつけると、ブルンとふかしたあと、スピードを上げバタバタと走って行った。
「サフルも女神?」
「違う。あいつは天使。人は運ばない。人の願いを運ぶ天使だ。
おせっかいなやつさ。」
「でも、いいやつそうじゃん。キャラメルもウマそうだった。もらえなかったけど・・・」
「いいか、どんな奴が現れても、俺の言うことしかきいたらだめだからな。
あいつは確かに見た目は温厚でいいやつには見えるけど、本当は、俺のほうがいい奴なんだ。」
「あ、そ。そうは見えないけど・・・」
クレタはプイっと膨れてとっとと先を歩いて行き、三人はいつも通りその背中を追いかけた。
「ねえ、質問していいかな?」
「なんだよ。サフルは、人間が願ったことをどこへ運んでいくの?」
「願いの泉。」
「これから行くところ?」
「そうだよ。」
「そこに運んで行ってどうするの?」
「泉の中に持って来た願いをぶち込む。」
「それから?」
「一日、一個、選ばれた人の願いが叶う。」
「一日、一個だけかよ。ひょっとして、あの引っ張っていた荷台が、全部願いなんてことはないよな・・・」
「そうだよ。しかも、サフルだけじゃないからね。もっと大勢いるよ・・・百人くらいかな・・・願い事はいーっぱい。山ほど届くよ。
これから行くからわかるけど、びっくりするほど届くんだ。」
「ふうん・・・じゃあ、ほとんどの人の願いが叶わないんだね。」
「そうだよ。だって、お前ら三人だって、いろいろ神様にお願いごとしたことあるだろ。」
「まあね・・・」
「叶った?」
「・・・・・」
クレタは太を指さして、
「サッカーが上手になりますように・・・とかお祈りしたとしても、それは自分が一生懸命練習したからであって、ある朝起きたら突然うまくなっていたわけじゃないだろ?」
「まあな・・・」
今度は理玖を指さして、
「勉強ができますように・・・とかお祈りだけして遊び惚けていたわけじゃないだろ?」
「まあね・・・」
次はヒロトを指さして、
「お前は・・・いったい、何をお祈りしたの?」
と聞いた。ヒロトだけが夢も特徴も得意な物も何もない。
「僕は・・・」
「お祈りしたことないの?」
「あるよ。あるけど・・・言いたくない。」
「そ、叶った?」
「叶ってない。」
「だろうね。だいたいの人は叶わない。それでいいんだ。叶わないから努力する。太も理玖も努力した。だからそれに結果が伴った。そうやって生きていくことを覚えさせるのか神様の仕事だからな。」
「だったら・・・だったらなんで、1個だけ叶えるの。
1個もかなえなくていいじゃん。第一、努力してもかなえられない願いだってあるでしょ。」
「まあな。」
「その人たちはどうしたらいいんだよ。なんて残酷なんだ。」
「だって、そういう決まりだし、人間には人間の言い分があるけど、神様には神様の言い分があるだろ。」
「言い分ってなんだよ。今言えよ。」
ヒロトはクレタの胸を押し、詰め寄った。
太も理玖もそんなヒロトを見るのは初めてだった。
いつもぼやーっとして、教室でも、いるのかいないのかわからないほどに自分の存在感を消して、なるべく誰ともかかわらないようにして、自分の感情を人前で表すようなタイプではなかった。
「それは・・・俺に聞かれても困る。俺は受付まで案内するだけの下っ端だからな。受付いったら聞いてみろよ。」
クレタはヒロトの肩をグイっと握って自分との距離を少し開けた。
「そうだね。クレタに怒っても仕方なかった・・・アハハ・・僕、どうかしてた・・・
夕べ寝不足だったからかな・・・アハハ・・・」
ヒロトはその場を一生懸命に取り繕った。何とか、いつもの自分を取り戻そうと胸に手を当てて、中でうずうずするものを追い出そうとしていた。
「大丈夫かヒロト。」
「うん。大丈夫。なんでもないよ。ストレス。こんなところにずっといたからだと思う。
本当に大丈夫だから・・・。」
「そ、じゃいこっか。」
また歩き出した。ヒロトは列からドンドン遅れ出して、三人が振り返った時は遥か先、指先ほどにしか見えないくらいになっていた。
「おーい!ヒロトー大丈夫かー」
あまりにも離れすぎて、理玖の声も届かないほど遠くで、走ってヒロトを迎えに行き、幼い時のように手を繋いで引っ張り気味で歩いた。
「手が痛むのか?」
「ううん。」
「お腹空いたのか?」
「ううん・・・なんでもない。
なんでもないけど・・・・」
「けど?どうした?」
ヒロトは俯いたままなかなか顔をあげなかった。
「なあ、覚えてる。小学校のとき。俺と太、喧嘩ばかりしてたのに、なぜか一緒に夏のお祭り行ったよね。もちろんヒロトも一緒に。
祭りに行ってもずっと喧嘩ばかりで、ヒロトはその度に止めに入って。
で、帰り際に、ヒロトが靴を片方無くしてどっちがおんぶするかでまた喧嘩した。」
「覚えてるよ。
あの日・・・靴、無くしてなんかない。僕が隠した。」
「・・・」
「理玖たちとさよならしたくなくて・・・隠した。」
「知ってた。たぶん太も。だから、遠回りして帰った。」
「ごめんなさい。」
「謝るな。怒ってなんかない。
ヒロトが神社で一生懸命お祈りしていたの、今ちょっとわかった気がする。」
「ありがとう・・・僕は二人にとても大切にしてもらったのに・・・いっぱい意地悪して・・・挙句カエルでまた迷惑かけて・・・」
「迷惑だなんて思ってない。心配するなって。もうカエルも終わる。」
ヒロトの肩をトントン、と2度叩くととても大きな声で
「太、太!」
と呼んで手招きをした。
「あー!!」
理玖の呼ぶ声にイラっとしたように振り返ったが、ヒロトのそぶりを見て、小走りに駆け寄り、ヒロトもう一方の手を繋いだ。
「どうした、ヒロト。疲れたか?オブってやろうか?」
「大丈夫歩ける。それに手がカエルだから・・・」
「もう少しでカエルともお別れだ。頑張れ!」
太はヒロトのほっぺを両手でぐっと抑えると手を握った三人は子供の頃の様に並んで手を振りながら歩いた。
クレタは自分から遅れた三人を一度振り返るとフンと鼻で笑い、いつもよりゆっくり歩いた。40~50分ほど歩くとサフルが乗っていた様なへんな荷車が列をなして、ゆっくりと、歩くよりゆっくりと進んで行くのが見えた。
そういえば渋滞すると言っていたのを思い出しながら列を横目で見ながら通りすぎていった。
「おいクレタ!」
サフルが声をかけてきた。
「お疲れさん。」
ニコニコ笑って手の平にキャラメルを4個乗せてそばへ寄って来た。
「いただきます。」
クレタが手をだすより早く太が取り、理玖とヒロトに渡すと自分の口にも入れた。
「うまい!!」
「ホントだ。」
「甘ーい。イチゴの味だ。」
「よかったらチョコもあるよ。いっぱいお食べ。」
「ありがとう!」
「おい、何やっているんだ。休憩はまだだ、行くぞ。」
クレタが三人を引っ張って連れて行こうとしたが、サフルは三人を自分の荷台の脇に座らせた。
「名前書いて呼ばれた順番に中に入るんだ。クレタがまず名前書いてこいよ。」
「だから行くぞって。」
「全員で行かなくても、名前書くだけだからクレタだけで充分だ。休ませてやれよ。」
「ダメだ全員で行かないと。」
「なんで?名前書くだけだって。」
「ダメ。初めて行くところは怖い。」
プイっと横を向いたクレタに、ウンウンと二度うなづいて
「じゃあ、俺がついて行ってやるよ。俺は慣れているから。お前らはここで座って休憩してな。チョコも食べていいからな。」
そう言ってサフルはクレタを願いの泉の入り口に案内した。
「いいやつだな。」
「サフルのほうが女神っぽいよな。」
「親切だし、気が付く。」
「優しい。」
三人は風船のように膨らんだ荷台にもたれ、チョコを食べながら話をした。
「クレタと一緒だとこっちが気を遣うもんな。」
「弱いし。」
「武器いっぱい持ってるくせに貸さないし。」
「めんどくさい」
「弱い。」
「わがまま。」
「大人げない。」
「人間として器が小さい。」
「人間じゃないぞ。」
「女神ならなおさらだろ。器が小さすぎ。」
「弱いし。」
「誰が弱いって!」
クレタはいつの間にか戻って来ていた。そして聞き耳をたて三人の話を聞いていた。
「いいか、お前ら、今回のヒロトの件だって、俺が一生懸命頼んでやったんだぞ。それでやっと、本当は絶対にダメなところをやっと聞き入れてもらったのに。なんだよ小さいって。弱いったって、俺は王子様だからこれが普通なの。お前らがたまたま強かっただけ。
みんな俺と同じくらいなの。お前らもそれでもいいって言っただろ。なのにグチグチ・・・お前らのほうがよっぽど小さい。」
「ハイハイ、わかったから、もうおしまい。仲良く。」
サフルはクレタと理玖達三人の間に入って喧嘩を止めた。
「クレタもたべろよ。甘いものを食べると戦意喪失にきく。」
「おれはいい。どうせ弱いからな。最初っから戦意はないんだ。」
「そういうところがめんどくさいんだ。」
「なんだよそれ!」
クレタが太の髪を引っ張ろうとしたのをまたもやサフルが手を握って止めた。
「まだ子供じゃないか、お前がむきになってどうする。そんなことで最後の日までちゃんと案内できるのか。」
「できる。あと半分だ。」
「もう半分も来れたのか、偉かったな。」
サフルはクレタの頭を撫でようとしたが、その手を思い切りはねのけた
「バカにするな!!俺だってやるときはやるんだ。」
「そうか、やっとやる気になったんだな。」
「ああ、そうだ。いきなり初日からガリウスが出て来て、困ったぜ。」
「ガリウスがか。大変だったな。」
「まあ、なんてことなかったけど・・・」
サフルは三人にウインクすると、また、別の味のチョコを出した。
「子供はいろいろ大変だ。喧嘩はするし、わがままは言うし。けど何とかここまでこれた。」
「頑張ったな。」
「まあな。」
「偉かったな。」
サフルは理玖達三人の頭を撫でた。
「おい、サフル。頑張ったのは俺だぞ。」
「さっき頭を撫でようとしたら嫌がっただろ。」
「もう嫌がらない。」
クレタはサフルの膝に転がり頭を撫でてもらった。こういう子供っぽいところが非常にめんどくさいと思っているのだが、それは改めて理玖達が言うまでもなくサフルは理解しているようだった。
「クレタ・ヴェローチェ・ブブリンカー
クレタ・ヴェローチェ・ブブリンカー
サフル・マーケム。
サフル・マーケム。」
クレタがゴロゴロとサフルの膝で甘え始めた時、スピーカーから名前を呼ぶ声が聞こえた。
「俺たちの順番だ。行こうか。そのまま乗って行けよ。」
「クレタって変な名前だな。サフルの名前がめんどくさいって・・・自分のほうがよほどめんどくさい名前じゃん。」
「長い・・・」
サフルは三人の話に笑いながら、ゴーグルをはめて、へんてこな乗り物にエンジンをかけると、バタバタと動き出した。クレタと理玖達三人は荷台の淵に並び、揺られながら奥へと通された。奥では山の縁を回転しながら下る、ながーい道への入り口。そこから覗き込むと、ずっと一番下に泉が小さく見えた。その泉まで、そのへんてこな乗り物の渋滞は続いていた。
「えー、あそこにつくのに一体何時間かかるんだ。」
「大丈夫、ここまでこれば後はそんなにかからないよ。チョコでも食べて待ってなよ。」
「もうチョコはいいや。しょっぱいものが食いたいな。」
「しょっぱいものか・・・それは持ってないな・・・」
「お前ら、言えば何でもかなえてもらえると思ったら大間違いだ。
おやつの時間以外食うなと言ったのに、そんなにしょっぱいものが欲しければ汗でも舐めていろ。」
四人の乗った乗り物の前にも、後ろにも長い行列がだったが、下り坂に入ると、意外に渋滞もなく進んだ。柔らかな荷物にもたれ、揺られながら進むと少しウトウトと眠くなってきてしまった。
「寝るなよ。クレタ、落っこちるぞ。」
サフルは、一度車をとめ、荷台からかなりはみ出ているクレタをちゃんと座らせてからもう一度走り出した。
「サフルって優しいね。よく気が付く。クレタとは大違い。」
「バックミラーからはみ出ていたから気づいただけだよ。こんなところで落ちたら大けがでは済まないからね。
クレタもいいやつだよ。君たちは知り合ってまだ短いからわからないけれど、僕はもうながく友達だからね。」
「大変だったね・・・」
「あと何日クレタと過ごすのか知らないけど、ちゃんと最後まで面倒見てやってね。
子供っぽいからイライラするところもあると思うけど、本当は気の小さい、友達思いの優しい奴なんだ。学校の時の成績は最低だったけどね。」
サフルは笑いながら、ゆっくりと車を走らせ、三人はクレタを抑えながら荷台の揺れに合わせて体を左右に揺らした。
太は荷台の隅を器用にわたってサフルの後ろの席に座った。
「やっぱ、乗り物があるといいな。」
「そうだね。運転していると結構楽しいよ。クレタは持って行ってないの?」
「クレタポケットは武器でいっぱいなんだ。ガリウスが現れた時用らしいけど、実際戦う時は危ないからって武器を出さないんだ。」
「クレタは昔から臆病だからな。」
「サフルはガリウスに会ったことある?」
「写真で見たり話は聞いたりはしたけれど、実際にはあったことも襲われたりしたことも一度もないよ。
俺達を襲っても仕方ないからね。」
「そうなの?」
「だって、人の願いではお腹いっぱいにはならないでしょ。人間が好物らしいよ。」
「そうなんだ・・・俺達餌だったんだな。」
「え、何で襲われているか知らなかったんだ。」
「ああ、ただ、鬼が出ます。って言われただけ。」
「クレタは女神としては新人だから、仕方ない我慢してやってくれ。」
「ねえ、サフル、この柔らかいぽよぽよしたものが人の願いなの。」
「そうだよ。」
「この荷台一個でどのくらい入っているの?」
「さあ?。僕らは正確に数えながら積まないからね。お願い事も絶対に見ない。ただただ、毎日思うことは、今日こそは僕が運んだお願い事が叶えばいいなって・・・それだけ。」
「ふうん・・・やっぱ、サフルっていいやつだな。クレタとは大違いだ。」
「突き落とすぞ!」
クレタは突然目を覚まし、勢いよく荷台に立ち上がった。
「クレタ、やめな。きみがおちるよ。」
「お、おう・・・そうだな・・・」
「この願いをあの泉に入れるの?」
サフルは言葉を濁し咳ばらいをした。
「入れに行く、じゃねえな。捨てに行く。が正しいんじゃねえか。」
「クレタ・・・」
「ほんとのことだろう。今さら嘘ついても始まらない。
人間には人間の思いがあるだろうけど、コッチもコッチでルールがあるんだ。
そんなことくらいわかる年頃だろ。」
「一日一個か。」
「そして、今日は一個も叶わない。
なぜなら、ヒロト君のカエルを直す日だから。」
ヒロトは言葉を失い自分の手をもう一方の手で掴んで震えた。
様子がおかしいヒロトを気遣って、理玖は手を強く握り締めた。
「大丈夫。今まで何度も一生懸命お祈りしてきたじゃないか。一度くらいは思い通り叶ってもいいはずだよ。」
「でも・・・」
「なになにヒロトちゃん、もしかして、僕の夢が叶って他の人のが叶わないなんて申し訳ないとか思っちゃってる。
それとも、どうだ、今日は俺様の夢が叶う日だぜウシッシって思っているのかな。」
「クレタ!ヒロトをいじめるな!」
太とクレタの距離は少しあって、すぐには胸倉をつかまれる距離じゃないのをいいことにあかんべーをして挑発した。
「・・・神さまってもっと優しいと思っていたから。」
「夢見るな。おまえらの想像以上に世の中は厳しい。」
「それなのに僕でいいの?」
「いい。今日はおまえだ。俺が話しをつけた。胸張って行け。」
「ホント?」
「ホントだ。この泉の奥に社がある。そこだ。」
三人は荷車から少し身を乗り出してその場所を確認した。そこはまだ遠くて、ちょこんと点の様に見えるだけだった。
「あそこにカエルを直してくれる神様がいるのか。」
「そうだよ。」
ズンズン坂を下り、泉がかなり大きく見えてきた時、
「さあ、そろそろさよならだ。」
と、サフルが言った。
「サフルはどこへ行くの?」
「俺は泉の裏側。君らは表だから、この辺でさよならしよう。」
「ありがとう。キャラメル美味しかった。」
「元気でな。クレタもきおつけていけよ。」
サフルと抱き合い、握手し、手を振って分かれ道を右と左に別れた。
変な乗り物に乗った男がクレタに近づいてきた。
フロントに大きなリンゴのライトをつけたバイクのような格好だけれども、ボディの部分は人骨。サイかカバのような太短い足がくるりとついたタイヤの妙な乗り物で大きな荷台を引っ張っていた。
「あ・・・ああ・・・あーっと。」
「サフルだよ。サフル・マーケム。まったく、いつも名前を忘れやがる。」
「忘れてるんじゃない、覚えられないんだ。お前の名前、なんかめんどくさい。」
「なんだよ、めんどくさいって・・・お、かわいい子連れているじゃないか。」
「こんにちは。クレタの友達。」
「こんにちは。友達って言うか・・・同級生。俺、休憩するから、クレタも休憩しろよ。」
「やだ、昼までに行くところある。」
「どこ?」
「願いの泉。午前中につきたいから休憩はムリ。行くぞ。」
クレタは先を急ごうとヒロトの腕を強く引っ張った。
すると、ぬるっとしてタオルが取れ、カエルの手がズルっとむき出しになった。
「ゲー、気持ち悪いな、俺の前にその手を出すなって、何回言えばわかるんだ。臭い!臭い!」
クレタは両手でヒロトを叩き出し、それを見た太と理玖は慌てて駆け寄った。
けれど、ヒロトを叩こうとしたクレタの手を止めてくれたのはサフルだった。
「おい、ガキみたいなことするなよ。相変わらずだな。
こんなかわいい子殴るなんて・・・ちょっと手がカエルなだけだろ。それが何だよ。」
サフルは足元に落ちたタオルを拾い上げ、パンパンと二、三度払ってからヒロトの手に巻き付けた。
「ありがとうございます。」
「いいよ。クレタはわがままだから、ついて行くのも大変だろ。」
「でも・・・楽しいです。」
「楽しいね・・・」
クレタはむすっと膨れてヒロトの手をもう一度引っ張った。
「本当に、行くぞ。」
「俺も願いの泉に行くんだ。乗せてってやるから休んで行けよ。この子の手もカサカサじゃないか。」
「どうせ泉に行くんだ。行けば水なんかいやっちゅう程あるから、頭からぶっかけてやるよ。」
「後の二人も疲れただろ。歩きっぱなしで、ハイ。」
サフルはキャラメルを4個手のひらに乗せて差し出した。
太がそれを取ろうとすると、クレタは4個ともキャラメルを取った。
「なんだよ・・・ケチ。4個あったんだから1個づつだろ。」
「まだおやつには早い。糖分の取りすぎは体に良くない。もうちょっと後で俺がいいと思ったら渡す。」
「いいと思ったらって・・・それサフルにもらったやつじゃん。」
「う・る・さ・い。とにかく、俺がいいと思わなければだめ。急ぐぞ。」
「乗ってけよ。どうせ行くところは同じだし、急いでも渋滞でいつ中に入れるかわからないしゆっくりいこうよ。」
「優先的にはいれるように話はついている。俺たちにかまうな。さっさと行けよ。
俺のグループだ。」
「そうだったな。ごめん・・・・・、じゃ、行くよ。」
サフルはゴーグルをつけると、ブルンとふかしたあと、スピードを上げバタバタと走って行った。
「サフルも女神?」
「違う。あいつは天使。人は運ばない。人の願いを運ぶ天使だ。
おせっかいなやつさ。」
「でも、いいやつそうじゃん。キャラメルもウマそうだった。もらえなかったけど・・・」
「いいか、どんな奴が現れても、俺の言うことしかきいたらだめだからな。
あいつは確かに見た目は温厚でいいやつには見えるけど、本当は、俺のほうがいい奴なんだ。」
「あ、そ。そうは見えないけど・・・」
クレタはプイっと膨れてとっとと先を歩いて行き、三人はいつも通りその背中を追いかけた。
「ねえ、質問していいかな?」
「なんだよ。サフルは、人間が願ったことをどこへ運んでいくの?」
「願いの泉。」
「これから行くところ?」
「そうだよ。」
「そこに運んで行ってどうするの?」
「泉の中に持って来た願いをぶち込む。」
「それから?」
「一日、一個、選ばれた人の願いが叶う。」
「一日、一個だけかよ。ひょっとして、あの引っ張っていた荷台が、全部願いなんてことはないよな・・・」
「そうだよ。しかも、サフルだけじゃないからね。もっと大勢いるよ・・・百人くらいかな・・・願い事はいーっぱい。山ほど届くよ。
これから行くからわかるけど、びっくりするほど届くんだ。」
「ふうん・・・じゃあ、ほとんどの人の願いが叶わないんだね。」
「そうだよ。だって、お前ら三人だって、いろいろ神様にお願いごとしたことあるだろ。」
「まあね・・・」
「叶った?」
「・・・・・」
クレタは太を指さして、
「サッカーが上手になりますように・・・とかお祈りしたとしても、それは自分が一生懸命練習したからであって、ある朝起きたら突然うまくなっていたわけじゃないだろ?」
「まあな・・・」
今度は理玖を指さして、
「勉強ができますように・・・とかお祈りだけして遊び惚けていたわけじゃないだろ?」
「まあね・・・」
次はヒロトを指さして、
「お前は・・・いったい、何をお祈りしたの?」
と聞いた。ヒロトだけが夢も特徴も得意な物も何もない。
「僕は・・・」
「お祈りしたことないの?」
「あるよ。あるけど・・・言いたくない。」
「そ、叶った?」
「叶ってない。」
「だろうね。だいたいの人は叶わない。それでいいんだ。叶わないから努力する。太も理玖も努力した。だからそれに結果が伴った。そうやって生きていくことを覚えさせるのか神様の仕事だからな。」
「だったら・・・だったらなんで、1個だけ叶えるの。
1個もかなえなくていいじゃん。第一、努力してもかなえられない願いだってあるでしょ。」
「まあな。」
「その人たちはどうしたらいいんだよ。なんて残酷なんだ。」
「だって、そういう決まりだし、人間には人間の言い分があるけど、神様には神様の言い分があるだろ。」
「言い分ってなんだよ。今言えよ。」
ヒロトはクレタの胸を押し、詰め寄った。
太も理玖もそんなヒロトを見るのは初めてだった。
いつもぼやーっとして、教室でも、いるのかいないのかわからないほどに自分の存在感を消して、なるべく誰ともかかわらないようにして、自分の感情を人前で表すようなタイプではなかった。
「それは・・・俺に聞かれても困る。俺は受付まで案内するだけの下っ端だからな。受付いったら聞いてみろよ。」
クレタはヒロトの肩をグイっと握って自分との距離を少し開けた。
「そうだね。クレタに怒っても仕方なかった・・・アハハ・・僕、どうかしてた・・・
夕べ寝不足だったからかな・・・アハハ・・・」
ヒロトはその場を一生懸命に取り繕った。何とか、いつもの自分を取り戻そうと胸に手を当てて、中でうずうずするものを追い出そうとしていた。
「大丈夫かヒロト。」
「うん。大丈夫。なんでもないよ。ストレス。こんなところにずっといたからだと思う。
本当に大丈夫だから・・・。」
「そ、じゃいこっか。」
また歩き出した。ヒロトは列からドンドン遅れ出して、三人が振り返った時は遥か先、指先ほどにしか見えないくらいになっていた。
「おーい!ヒロトー大丈夫かー」
あまりにも離れすぎて、理玖の声も届かないほど遠くで、走ってヒロトを迎えに行き、幼い時のように手を繋いで引っ張り気味で歩いた。
「手が痛むのか?」
「ううん。」
「お腹空いたのか?」
「ううん・・・なんでもない。
なんでもないけど・・・・」
「けど?どうした?」
ヒロトは俯いたままなかなか顔をあげなかった。
「なあ、覚えてる。小学校のとき。俺と太、喧嘩ばかりしてたのに、なぜか一緒に夏のお祭り行ったよね。もちろんヒロトも一緒に。
祭りに行ってもずっと喧嘩ばかりで、ヒロトはその度に止めに入って。
で、帰り際に、ヒロトが靴を片方無くしてどっちがおんぶするかでまた喧嘩した。」
「覚えてるよ。
あの日・・・靴、無くしてなんかない。僕が隠した。」
「・・・」
「理玖たちとさよならしたくなくて・・・隠した。」
「知ってた。たぶん太も。だから、遠回りして帰った。」
「ごめんなさい。」
「謝るな。怒ってなんかない。
ヒロトが神社で一生懸命お祈りしていたの、今ちょっとわかった気がする。」
「ありがとう・・・僕は二人にとても大切にしてもらったのに・・・いっぱい意地悪して・・・挙句カエルでまた迷惑かけて・・・」
「迷惑だなんて思ってない。心配するなって。もうカエルも終わる。」
ヒロトの肩をトントン、と2度叩くととても大きな声で
「太、太!」
と呼んで手招きをした。
「あー!!」
理玖の呼ぶ声にイラっとしたように振り返ったが、ヒロトのそぶりを見て、小走りに駆け寄り、ヒロトもう一方の手を繋いだ。
「どうした、ヒロト。疲れたか?オブってやろうか?」
「大丈夫歩ける。それに手がカエルだから・・・」
「もう少しでカエルともお別れだ。頑張れ!」
太はヒロトのほっぺを両手でぐっと抑えると手を握った三人は子供の頃の様に並んで手を振りながら歩いた。
クレタは自分から遅れた三人を一度振り返るとフンと鼻で笑い、いつもよりゆっくり歩いた。40~50分ほど歩くとサフルが乗っていた様なへんな荷車が列をなして、ゆっくりと、歩くよりゆっくりと進んで行くのが見えた。
そういえば渋滞すると言っていたのを思い出しながら列を横目で見ながら通りすぎていった。
「おいクレタ!」
サフルが声をかけてきた。
「お疲れさん。」
ニコニコ笑って手の平にキャラメルを4個乗せてそばへ寄って来た。
「いただきます。」
クレタが手をだすより早く太が取り、理玖とヒロトに渡すと自分の口にも入れた。
「うまい!!」
「ホントだ。」
「甘ーい。イチゴの味だ。」
「よかったらチョコもあるよ。いっぱいお食べ。」
「ありがとう!」
「おい、何やっているんだ。休憩はまだだ、行くぞ。」
クレタが三人を引っ張って連れて行こうとしたが、サフルは三人を自分の荷台の脇に座らせた。
「名前書いて呼ばれた順番に中に入るんだ。クレタがまず名前書いてこいよ。」
「だから行くぞって。」
「全員で行かなくても、名前書くだけだからクレタだけで充分だ。休ませてやれよ。」
「ダメだ全員で行かないと。」
「なんで?名前書くだけだって。」
「ダメ。初めて行くところは怖い。」
プイっと横を向いたクレタに、ウンウンと二度うなづいて
「じゃあ、俺がついて行ってやるよ。俺は慣れているから。お前らはここで座って休憩してな。チョコも食べていいからな。」
そう言ってサフルはクレタを願いの泉の入り口に案内した。
「いいやつだな。」
「サフルのほうが女神っぽいよな。」
「親切だし、気が付く。」
「優しい。」
三人は風船のように膨らんだ荷台にもたれ、チョコを食べながら話をした。
「クレタと一緒だとこっちが気を遣うもんな。」
「弱いし。」
「武器いっぱい持ってるくせに貸さないし。」
「めんどくさい」
「弱い。」
「わがまま。」
「大人げない。」
「人間として器が小さい。」
「人間じゃないぞ。」
「女神ならなおさらだろ。器が小さすぎ。」
「弱いし。」
「誰が弱いって!」
クレタはいつの間にか戻って来ていた。そして聞き耳をたて三人の話を聞いていた。
「いいか、お前ら、今回のヒロトの件だって、俺が一生懸命頼んでやったんだぞ。それでやっと、本当は絶対にダメなところをやっと聞き入れてもらったのに。なんだよ小さいって。弱いったって、俺は王子様だからこれが普通なの。お前らがたまたま強かっただけ。
みんな俺と同じくらいなの。お前らもそれでもいいって言っただろ。なのにグチグチ・・・お前らのほうがよっぽど小さい。」
「ハイハイ、わかったから、もうおしまい。仲良く。」
サフルはクレタと理玖達三人の間に入って喧嘩を止めた。
「クレタもたべろよ。甘いものを食べると戦意喪失にきく。」
「おれはいい。どうせ弱いからな。最初っから戦意はないんだ。」
「そういうところがめんどくさいんだ。」
「なんだよそれ!」
クレタが太の髪を引っ張ろうとしたのをまたもやサフルが手を握って止めた。
「まだ子供じゃないか、お前がむきになってどうする。そんなことで最後の日までちゃんと案内できるのか。」
「できる。あと半分だ。」
「もう半分も来れたのか、偉かったな。」
サフルはクレタの頭を撫でようとしたが、その手を思い切りはねのけた
「バカにするな!!俺だってやるときはやるんだ。」
「そうか、やっとやる気になったんだな。」
「ああ、そうだ。いきなり初日からガリウスが出て来て、困ったぜ。」
「ガリウスがか。大変だったな。」
「まあ、なんてことなかったけど・・・」
サフルは三人にウインクすると、また、別の味のチョコを出した。
「子供はいろいろ大変だ。喧嘩はするし、わがままは言うし。けど何とかここまでこれた。」
「頑張ったな。」
「まあな。」
「偉かったな。」
サフルは理玖達三人の頭を撫でた。
「おい、サフル。頑張ったのは俺だぞ。」
「さっき頭を撫でようとしたら嫌がっただろ。」
「もう嫌がらない。」
クレタはサフルの膝に転がり頭を撫でてもらった。こういう子供っぽいところが非常にめんどくさいと思っているのだが、それは改めて理玖達が言うまでもなくサフルは理解しているようだった。
「クレタ・ヴェローチェ・ブブリンカー
クレタ・ヴェローチェ・ブブリンカー
サフル・マーケム。
サフル・マーケム。」
クレタがゴロゴロとサフルの膝で甘え始めた時、スピーカーから名前を呼ぶ声が聞こえた。
「俺たちの順番だ。行こうか。そのまま乗って行けよ。」
「クレタって変な名前だな。サフルの名前がめんどくさいって・・・自分のほうがよほどめんどくさい名前じゃん。」
「長い・・・」
サフルは三人の話に笑いながら、ゴーグルをはめて、へんてこな乗り物にエンジンをかけると、バタバタと動き出した。クレタと理玖達三人は荷台の淵に並び、揺られながら奥へと通された。奥では山の縁を回転しながら下る、ながーい道への入り口。そこから覗き込むと、ずっと一番下に泉が小さく見えた。その泉まで、そのへんてこな乗り物の渋滞は続いていた。
「えー、あそこにつくのに一体何時間かかるんだ。」
「大丈夫、ここまでこれば後はそんなにかからないよ。チョコでも食べて待ってなよ。」
「もうチョコはいいや。しょっぱいものが食いたいな。」
「しょっぱいものか・・・それは持ってないな・・・」
「お前ら、言えば何でもかなえてもらえると思ったら大間違いだ。
おやつの時間以外食うなと言ったのに、そんなにしょっぱいものが欲しければ汗でも舐めていろ。」
四人の乗った乗り物の前にも、後ろにも長い行列がだったが、下り坂に入ると、意外に渋滞もなく進んだ。柔らかな荷物にもたれ、揺られながら進むと少しウトウトと眠くなってきてしまった。
「寝るなよ。クレタ、落っこちるぞ。」
サフルは、一度車をとめ、荷台からかなりはみ出ているクレタをちゃんと座らせてからもう一度走り出した。
「サフルって優しいね。よく気が付く。クレタとは大違い。」
「バックミラーからはみ出ていたから気づいただけだよ。こんなところで落ちたら大けがでは済まないからね。
クレタもいいやつだよ。君たちは知り合ってまだ短いからわからないけれど、僕はもうながく友達だからね。」
「大変だったね・・・」
「あと何日クレタと過ごすのか知らないけど、ちゃんと最後まで面倒見てやってね。
子供っぽいからイライラするところもあると思うけど、本当は気の小さい、友達思いの優しい奴なんだ。学校の時の成績は最低だったけどね。」
サフルは笑いながら、ゆっくりと車を走らせ、三人はクレタを抑えながら荷台の揺れに合わせて体を左右に揺らした。
太は荷台の隅を器用にわたってサフルの後ろの席に座った。
「やっぱ、乗り物があるといいな。」
「そうだね。運転していると結構楽しいよ。クレタは持って行ってないの?」
「クレタポケットは武器でいっぱいなんだ。ガリウスが現れた時用らしいけど、実際戦う時は危ないからって武器を出さないんだ。」
「クレタは昔から臆病だからな。」
「サフルはガリウスに会ったことある?」
「写真で見たり話は聞いたりはしたけれど、実際にはあったことも襲われたりしたことも一度もないよ。
俺達を襲っても仕方ないからね。」
「そうなの?」
「だって、人の願いではお腹いっぱいにはならないでしょ。人間が好物らしいよ。」
「そうなんだ・・・俺達餌だったんだな。」
「え、何で襲われているか知らなかったんだ。」
「ああ、ただ、鬼が出ます。って言われただけ。」
「クレタは女神としては新人だから、仕方ない我慢してやってくれ。」
「ねえ、サフル、この柔らかいぽよぽよしたものが人の願いなの。」
「そうだよ。」
「この荷台一個でどのくらい入っているの?」
「さあ?。僕らは正確に数えながら積まないからね。お願い事も絶対に見ない。ただただ、毎日思うことは、今日こそは僕が運んだお願い事が叶えばいいなって・・・それだけ。」
「ふうん・・・やっぱ、サフルっていいやつだな。クレタとは大違いだ。」
「突き落とすぞ!」
クレタは突然目を覚まし、勢いよく荷台に立ち上がった。
「クレタ、やめな。きみがおちるよ。」
「お、おう・・・そうだな・・・」
「この願いをあの泉に入れるの?」
サフルは言葉を濁し咳ばらいをした。
「入れに行く、じゃねえな。捨てに行く。が正しいんじゃねえか。」
「クレタ・・・」
「ほんとのことだろう。今さら嘘ついても始まらない。
人間には人間の思いがあるだろうけど、コッチもコッチでルールがあるんだ。
そんなことくらいわかる年頃だろ。」
「一日一個か。」
「そして、今日は一個も叶わない。
なぜなら、ヒロト君のカエルを直す日だから。」
ヒロトは言葉を失い自分の手をもう一方の手で掴んで震えた。
様子がおかしいヒロトを気遣って、理玖は手を強く握り締めた。
「大丈夫。今まで何度も一生懸命お祈りしてきたじゃないか。一度くらいは思い通り叶ってもいいはずだよ。」
「でも・・・」
「なになにヒロトちゃん、もしかして、僕の夢が叶って他の人のが叶わないなんて申し訳ないとか思っちゃってる。
それとも、どうだ、今日は俺様の夢が叶う日だぜウシッシって思っているのかな。」
「クレタ!ヒロトをいじめるな!」
太とクレタの距離は少しあって、すぐには胸倉をつかまれる距離じゃないのをいいことにあかんべーをして挑発した。
「・・・神さまってもっと優しいと思っていたから。」
「夢見るな。おまえらの想像以上に世の中は厳しい。」
「それなのに僕でいいの?」
「いい。今日はおまえだ。俺が話しをつけた。胸張って行け。」
「ホント?」
「ホントだ。この泉の奥に社がある。そこだ。」
三人は荷車から少し身を乗り出してその場所を確認した。そこはまだ遠くて、ちょこんと点の様に見えるだけだった。
「あそこにカエルを直してくれる神様がいるのか。」
「そうだよ。」
ズンズン坂を下り、泉がかなり大きく見えてきた時、
「さあ、そろそろさよならだ。」
と、サフルが言った。
「サフルはどこへ行くの?」
「俺は泉の裏側。君らは表だから、この辺でさよならしよう。」
「ありがとう。キャラメル美味しかった。」
「元気でな。クレタもきおつけていけよ。」
サフルと抱き合い、握手し、手を振って分かれ道を右と左に別れた。
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