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四日目
泉の隣で・・・
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「さ、俺たちも急ごう。」
波一つなく、穏やかで満々と水をたたえる泉は、陽の光を浴びて表面がガラスのように美しく輝いていた。
「静かだな・・・」
「ああ・・・」
ついさっき、角を曲がる前までは乗り物と荷台のきしむ音と人の話し声でざわついていたのに、あの角を曲がったとたん、音という音を吸いこんでいくような静寂の中と、ピンと張ったような空気に包まれていた。
「やっぱり、本物はちがうな・・・」
「本物?」
「うん、本物の神様の居場所はちょっと違う感じがするな。」
「俺を偽物みたいに言うな。」
「違うのか。」
「偽物ではない。ただ、あんまり偉くないだけだ。」
「静かだし、なんかこのちょっとひんやりする感じ・・・きもちいいな・・・
いいな神様っていいとこに住めて。クレタも早く偉くなれよ。それでさ、たまに俺たちを招待しろよ。」
「そんなことできるか。俺はお前らを受付まで送っていたらそれでおしまい。
お別れだ。お前らもそのほうが清々するんだろ。俺はわがままだし、弱いから。」
「・・・ち・・・たく・・・」
三人はなかなかクレタとうまく付き合っていけず、それでもクレタについて行かなければいけないことで精神的に疲労していた。
クレタは意外にこれが普通だった。周りをイライラさせるが、別に自分はイライラしているわけはなかった。
社の傍へ行き、扉を開けようとすると開かなかった。
鍵がかかっているにもかかわらず、さらにガンガン引っ張った。当然、開かないので、またさらにガンガンと引っ張った。そして、その姿が太を苛つかせた。
「クレタ、一回やればわかるだろ。鍵が閉まっているんだ、そんなガキっぽいことやってないで開けてもらえるように頼んで来いよ。」
「ちょっとやってみただけだろ、なんでそんなにキレるんだよ。
第一、どこに行けば開けてもらえるんだ。お前が頼みに行ってこいよ。命令するな。」
「やだね。クレタの仕事だろ。俺はここで昼寝する。」
「じゃあ、俺も昼寝する。」
「クレタ・・・そんなことしていたら時間なんてあっという間に過ぎて行くよ。早くやることやらないと、次行くところも決まっているんだろ。」
理玖は毎回のクレタの子供っぽい行動に、呆れて頭を抱えた。クレタは太の隣でゴロンと大の字に転がっていたが、ぱちりと目を開けるとそのまま壁が持ち上がるように起き上がった。
「そうだな。次の予定がある。昼飯は少し遠出をしようと思っていた。
ヒロト、ちょっとそこら辺見て、開けてくれそうな人探してこい。」
「えー僕・・・」
「お前のためにここへ寄ったんだ。
俺達は巻き添えだ。お前のためだけにここへ来たんだから。いいか。お前の・・・」
「わかった。わかりました。見てきます。」
ヒロトは少し小走りでその場を離れた。もう面倒でやってられないと言うのが本音だった。
それに、ここへ来たのもここへ来てからも自分が原因であることは重々理解し深く反省していた。
理玖も太もそのことについて自分を責めたりはしないけれど、そのことを言われないことが逆にとてもつらかった。かといって、今のようにクレタに「お前が、お前が、」と言われるのもまた気持ちのいいものでもなかった。
勢いよく飛び出して泉のふちをぐるりとかなり回ったところで一息ついた。どこまで行ってもその場所は静かで、ヒロトの足跡すら飲み込むほどに静かだった。その場所にぽつんと立って空を見上げてただただ、何も考えず“ぼーっ”とした。
ここへ来てからずっと4人で一人になれる時間もなかったから、その時間はヒロトにとって至福のひと時だった。このまま旅を続けてなんになるのか。行きたい望みもなく、かといって死ぬのも怖い。生まれ変わって何をやればいいのかもわからず、理玖や太の迷惑になるくらいならここに生えている木の一本になってしまうのもいいかもとすら考えていた。
このままここから理玖達のところへ帰るのをよそうかと思った時、凛とした泉の空気が一瞬澱んだような気がした。静かだった水面が僅かな振動に揺れ、これは気のせいではないのだとあたりを見回した。
けれど、何も見えなかった。
「やっぱり、気のせいかな・・・」
そう思った時、ヒロトも立っていられないほどの揺れがその場所を襲った。
それはほんの一度だった。たった一度だったが、ただならぬ様子に、あたりをじっくりと見回した。泉はなんともないし、遥か向こうに見えるクレタ達も飛び出した時と何ら変わりなく寛いでいた。
ヒロトは泉とは反対側に目をやった。
目をやっただけでは何も見えなかったから、反対側の奥へとほんの少しだけ進んだ。
そこで見えたものは、ガリウスがサフル達“人の願いを運ぶ者”を襲っている光景だった。
ガリウスはいつもよりとても大きくて、そして“人の願いを運ぶ者”達をどんどん飲み込み、乗り物も壊し大暴れしている。
(早く助けに行かなければ、その場所にいる人もサフルもみんなやられてしまう・・・)
けれど、すぐ隣がそんなに荒れ狂った状況なのにも関わらず、ヒロトが今いる泉には、わずかな振動が伝わるくらいで、人の叫び声も逃げ惑う悲鳴も届かない。ヒロトが理玖達に言わなければ昼寝の時間を妨げることはないし、自分もこの一人の時間を有意義に過ごせる。
(それでいいのか・・・な・・・)
そう考えるより先にヒロトはカバンの中の剣を持って、叫びながら走りだした。
「理玖、太、クレタ!ガリウスだ。サフルが危ない!」
今まですべての音をしまい込んでいた泉の空気が、ヒロトの声を大きく反響させ、クレタ達に声を届けた。
そして理玖達も剣を持ち、ヒロトの後に続いた。
ヒロトを先頭に三人は地を力強く踏み切ると、透明な空気の厚い壁を一気に突き抜け泉の隣へと飛び出した。
「ガリウス、テメエェェェェェェェ!
俺らが昼寝している間になにやってるんだ!」
「あ、いたんだ、ちょっと昼飯。」
「なにぃ!まだ早いだろう!」
太は剣を握り締めガリウスに向かってダッシュした。
後に理玖も続き左右から剣を振り下ろした。
ガリウスは一度、バナナの皮を剥くようにベロンと広がりはしたが、バネで跳ね返るようにすぐ元に戻った。
「だから・・・もー何度も言わせるなって。剣はダメだって。
まったく覚えてないのかよ。」
「コレしかないんだから、コレでヤられろよ。」
太も理玖も、自分の体力が続く限り、何度も剣を振り上げ挑み続けた。
「なんかこいついつもよりデカくないか。」
「ああ・・・何人か飲み込んだからかなあ・・・」
何度切ってもやられないガリウスにとんでもなく手こずっていた。
ヒロトは勢いよく飛び込んできた割には、手がヌルヌルしてうまく剣が握れずに。ガリウスの足元でチクチク刺しているくらいしか出来なかった。
クレタがかなり遅れて到着した。
息が上がり自力で立つこともままならないほど、よれよれに疲労しきっていた。
「おいクレタ。ランチャー出せ。剣では限界だ。」
太はクレタに駆け寄った。
「だ・・・出せと・・・は・・・なんだ・・・よ・・・
出して・・・ください・・・って・・・い、言えよ・・・」
「出してください。今すぐに。早くしないと俺達も危ないんです!!」
ヨレヨレになったクレタは、必死に身振り手振りで状況を示す太の指す先をやっと見あげた。
ガリウスはいつもの2.5倍程の大きさに膨れ上がり、色もいつもより濃くどう見てもいつもより強そうに思えた。
「なんだよ・・・今日のガリウス・・・怖いじゃないか・・・」
「だから早く出せって。」
その山のように膨れ上がったガリウスを勇敢にも理玖が一人、剣で立ち向かっていたが、
切っても、切っても、すぐに再生してまったく歯が立たない。
ヒロトは剣すらうまく握れていない。
「なんだよ。やばいじゃんか・・・」
クレタは慌ててポケットの中からいろいろ、使えるものも使えないものもみんな出した。
その中から太はランチャーを掴み、玉を込めて構えた。
「理玖、ヒロト、どけー!」
太は大声を上げ、照準を合わせて引き金に指をかけた時、
「ダメー!!」
とクレタが太の前に手を広げて立ちはだかった。
「あっぶねえな・・・死ぬぞ!どけ!」
「だ、ダメだ。よく見てみろ。サフルが・・・」
太が照準でガリウスをもう一度覗くと、手にサフルを握っていた。
「早く打たないと喰われる。どけ!」
「ダメ!サフルに当たる。」
「腹を狙うから大丈夫。どけ!」
「ダメ!当たるかもしれない。」
「じゃあ腹の下の方を狙う。」
「ダメ!」
「じゃあどうするんだ。喰われるのを見ているのか!」
「どうしよう・・・」
クレタは泣き出しそうな顔でサフルを見上げた。
「あーもうチクショウ!」
太はランチャーを置いてさっき置いた剣を拾い上げガリウスに向かって走った。
理玖もまた同じように剣を振り上げ走って行った。
「僕の使える、僕にピッタリの武器ないの?コレでは使えない。
第一、剣では倒せないじゃん。」
「探せよ。この中にあるだろう・・・
でも投げるのは絶対ダメだ。サフルに当たる・・・」
「もーめんどくさいなー」
武器は山のように積み上げられてはいたが、何せ今まで使ったこともなくてどれがどうなんだか、使えるのか合ってるのかなんてわかるはずもなかった。
「あーもー!急いでいるのにー!この中で僕に会う武器出て来い!僕にピッタリでガリウスがやっつけられるヤツ!」
ヒロトはイラっとして叫ぶと、その山の中から、はさみのような持つところがわっかになって、先にスプーンのついた・・・(サラダをサーブするヤツ?)と思うようなものの結構デカいのがコロンと足元に落ちて来た。
ヒロトは深くは考えず、それを手に取ると思い切りガリウスに向かって走った。そして飛び上がった。踏み切った先はちょうどあの、ぽよぽよの荷台で思いもかけぬ高くジャンプした。そして、サフルを食べようとしていたガリウスの口にすっぽりと入ってしまった。
「あ、あ・・・ヒロト!!」
二人の動きは完全に止まった。血が通わないような一瞬のあと、太と理玖は驚きのあまり絶叫した。その叫びとともに二人はガリウスめがけて駆けだし、どうせだめだと知りながらもめちゃくちゃに剣を振り回した。
その後、ガリウスの体は“パン”と風船が割れるようにはじけて細かな紙吹雪のようになって散った。何が起きたかわからない理玖と太だったが、ガリウスが立っていたその場所でヒロトが、(サラダをサーブするヤツ?)と思うようなものの結構デカいのを持って、キョトンと立っていた。
飲み込まれた人たちも、皆、無事だった。
「ヒロト、大丈夫だったか?」
「何が起きた。」
「多分・・・多分だけど、ガリウスの内側を、このスプーンでえぐり取った。」
「え?」
ヒロトがそっとそのスプーンを開き、理玖と太もその中を覗き込んだが、「おぇ」となってすぐスプーンを閉じた。
そして、泉の中にガリウスの内側を挟んだままスプーンを捨てた。
「サフル・・・・よかった・・・どこもケガしてないか・・・よかった・・・・」
クレタはサフルにしがみついて号泣した。
「な、いいやつだろ。」
サフルは理玖達に言った。
「うん。そうだな。」
クレタは、いつまでもサフルにしがみついて離れなかった。
「これからどこへ行くんだ。」
「せっかくだから、ベジービーのところへ寄ろうと思うんだ。」
「そうか、それはいい。あそこのビッグバーグは最高だ。そこで昼飯なんだな。」
「うん。サフルも一緒に行くか?」
「いや、俺はまだ仕事があるから、けど、お礼に近くまで乗っけて行ってやるよ。」
荷物も下ろして、荷台ががら空きなのに、クレタはサフルの背中に掴まって乗った。
「よかったな、なんかクレタ嬉しそうだ。」
「ほんと。なんだかクレタが嬉しそうだと、俺達も楽しいな。」
「ムカつくけど。そうだな・・・」
「ねえ、僕が飲み込まれちゃったとき、理玖と太、泣いてなかった?」
「泣いてねえよ。ただ・・・・ちょっと困ったな、って思った。」
「生まれた時からずっと一緒で、三人で大きくなってきた。三人で歩いてきた。
ヒロトがいなくなったからじゃあ、明日から二人ねなんて、単純に考えられないんだよ。
三人は三人なんだ。三人そろっていないと、朝起きても、飯を食っても、眠っていても、何も面白くない。」
「ヒロトがいないと俺たちの喧嘩はだれも止めてくれない。
だとしたら、喧嘩するものつまんねぇ。
俺達にヒロトは、大事という言葉以上に大事なんだ。」
「ああ・・・ヒロトがいないと、俺たちは困るんだ。」
「太・・・理玖・・・・」
ヒロトは太と理玖にとびかかり、三人は荷台の上に転がった。そして抱き合って泣いた。
なぜ涙が出たのかはわからない・・・けど・・・泣いていることは恥ずかしくなんてなかった。なんだか、すっきりとした晴れやかな気分だった。
「なあ・・・ヒロト・・・手。」
「あ、手。」
三人は荷台に寝転がっていたが、ハッと起き上がった。とても大切な事、今日しなければいけなかった大切な事に気づいた。
「クレタ・・・僕の手・・・まだカエルだよ。」
クレタは首だけぐいーんと後ろを向いて。
「お前が勝手に願い事を変えたんだ。叶うのは1個って言っただろ。」
「え?僕、何か他にしてもらった??何??」
「何って、なんかへんなスプーンもらってただろ。
よこせーって大声で叫んで。今日はヒロトの日だったから、お願い聞いてもらえて・・・よかったね。」
「え・・・・あれ・・・・」
「そう、あれでおしまい。太も、理玖も、ちゃんと面倒見てやれよ。俺は嫌だからな。臭いし。」
「・・・・」
波一つなく、穏やかで満々と水をたたえる泉は、陽の光を浴びて表面がガラスのように美しく輝いていた。
「静かだな・・・」
「ああ・・・」
ついさっき、角を曲がる前までは乗り物と荷台のきしむ音と人の話し声でざわついていたのに、あの角を曲がったとたん、音という音を吸いこんでいくような静寂の中と、ピンと張ったような空気に包まれていた。
「やっぱり、本物はちがうな・・・」
「本物?」
「うん、本物の神様の居場所はちょっと違う感じがするな。」
「俺を偽物みたいに言うな。」
「違うのか。」
「偽物ではない。ただ、あんまり偉くないだけだ。」
「静かだし、なんかこのちょっとひんやりする感じ・・・きもちいいな・・・
いいな神様っていいとこに住めて。クレタも早く偉くなれよ。それでさ、たまに俺たちを招待しろよ。」
「そんなことできるか。俺はお前らを受付まで送っていたらそれでおしまい。
お別れだ。お前らもそのほうが清々するんだろ。俺はわがままだし、弱いから。」
「・・・ち・・・たく・・・」
三人はなかなかクレタとうまく付き合っていけず、それでもクレタについて行かなければいけないことで精神的に疲労していた。
クレタは意外にこれが普通だった。周りをイライラさせるが、別に自分はイライラしているわけはなかった。
社の傍へ行き、扉を開けようとすると開かなかった。
鍵がかかっているにもかかわらず、さらにガンガン引っ張った。当然、開かないので、またさらにガンガンと引っ張った。そして、その姿が太を苛つかせた。
「クレタ、一回やればわかるだろ。鍵が閉まっているんだ、そんなガキっぽいことやってないで開けてもらえるように頼んで来いよ。」
「ちょっとやってみただけだろ、なんでそんなにキレるんだよ。
第一、どこに行けば開けてもらえるんだ。お前が頼みに行ってこいよ。命令するな。」
「やだね。クレタの仕事だろ。俺はここで昼寝する。」
「じゃあ、俺も昼寝する。」
「クレタ・・・そんなことしていたら時間なんてあっという間に過ぎて行くよ。早くやることやらないと、次行くところも決まっているんだろ。」
理玖は毎回のクレタの子供っぽい行動に、呆れて頭を抱えた。クレタは太の隣でゴロンと大の字に転がっていたが、ぱちりと目を開けるとそのまま壁が持ち上がるように起き上がった。
「そうだな。次の予定がある。昼飯は少し遠出をしようと思っていた。
ヒロト、ちょっとそこら辺見て、開けてくれそうな人探してこい。」
「えー僕・・・」
「お前のためにここへ寄ったんだ。
俺達は巻き添えだ。お前のためだけにここへ来たんだから。いいか。お前の・・・」
「わかった。わかりました。見てきます。」
ヒロトは少し小走りでその場を離れた。もう面倒でやってられないと言うのが本音だった。
それに、ここへ来たのもここへ来てからも自分が原因であることは重々理解し深く反省していた。
理玖も太もそのことについて自分を責めたりはしないけれど、そのことを言われないことが逆にとてもつらかった。かといって、今のようにクレタに「お前が、お前が、」と言われるのもまた気持ちのいいものでもなかった。
勢いよく飛び出して泉のふちをぐるりとかなり回ったところで一息ついた。どこまで行ってもその場所は静かで、ヒロトの足跡すら飲み込むほどに静かだった。その場所にぽつんと立って空を見上げてただただ、何も考えず“ぼーっ”とした。
ここへ来てからずっと4人で一人になれる時間もなかったから、その時間はヒロトにとって至福のひと時だった。このまま旅を続けてなんになるのか。行きたい望みもなく、かといって死ぬのも怖い。生まれ変わって何をやればいいのかもわからず、理玖や太の迷惑になるくらいならここに生えている木の一本になってしまうのもいいかもとすら考えていた。
このままここから理玖達のところへ帰るのをよそうかと思った時、凛とした泉の空気が一瞬澱んだような気がした。静かだった水面が僅かな振動に揺れ、これは気のせいではないのだとあたりを見回した。
けれど、何も見えなかった。
「やっぱり、気のせいかな・・・」
そう思った時、ヒロトも立っていられないほどの揺れがその場所を襲った。
それはほんの一度だった。たった一度だったが、ただならぬ様子に、あたりをじっくりと見回した。泉はなんともないし、遥か向こうに見えるクレタ達も飛び出した時と何ら変わりなく寛いでいた。
ヒロトは泉とは反対側に目をやった。
目をやっただけでは何も見えなかったから、反対側の奥へとほんの少しだけ進んだ。
そこで見えたものは、ガリウスがサフル達“人の願いを運ぶ者”を襲っている光景だった。
ガリウスはいつもよりとても大きくて、そして“人の願いを運ぶ者”達をどんどん飲み込み、乗り物も壊し大暴れしている。
(早く助けに行かなければ、その場所にいる人もサフルもみんなやられてしまう・・・)
けれど、すぐ隣がそんなに荒れ狂った状況なのにも関わらず、ヒロトが今いる泉には、わずかな振動が伝わるくらいで、人の叫び声も逃げ惑う悲鳴も届かない。ヒロトが理玖達に言わなければ昼寝の時間を妨げることはないし、自分もこの一人の時間を有意義に過ごせる。
(それでいいのか・・・な・・・)
そう考えるより先にヒロトはカバンの中の剣を持って、叫びながら走りだした。
「理玖、太、クレタ!ガリウスだ。サフルが危ない!」
今まですべての音をしまい込んでいた泉の空気が、ヒロトの声を大きく反響させ、クレタ達に声を届けた。
そして理玖達も剣を持ち、ヒロトの後に続いた。
ヒロトを先頭に三人は地を力強く踏み切ると、透明な空気の厚い壁を一気に突き抜け泉の隣へと飛び出した。
「ガリウス、テメエェェェェェェェ!
俺らが昼寝している間になにやってるんだ!」
「あ、いたんだ、ちょっと昼飯。」
「なにぃ!まだ早いだろう!」
太は剣を握り締めガリウスに向かってダッシュした。
後に理玖も続き左右から剣を振り下ろした。
ガリウスは一度、バナナの皮を剥くようにベロンと広がりはしたが、バネで跳ね返るようにすぐ元に戻った。
「だから・・・もー何度も言わせるなって。剣はダメだって。
まったく覚えてないのかよ。」
「コレしかないんだから、コレでヤられろよ。」
太も理玖も、自分の体力が続く限り、何度も剣を振り上げ挑み続けた。
「なんかこいついつもよりデカくないか。」
「ああ・・・何人か飲み込んだからかなあ・・・」
何度切ってもやられないガリウスにとんでもなく手こずっていた。
ヒロトは勢いよく飛び込んできた割には、手がヌルヌルしてうまく剣が握れずに。ガリウスの足元でチクチク刺しているくらいしか出来なかった。
クレタがかなり遅れて到着した。
息が上がり自力で立つこともままならないほど、よれよれに疲労しきっていた。
「おいクレタ。ランチャー出せ。剣では限界だ。」
太はクレタに駆け寄った。
「だ・・・出せと・・・は・・・なんだ・・・よ・・・
出して・・・ください・・・って・・・い、言えよ・・・」
「出してください。今すぐに。早くしないと俺達も危ないんです!!」
ヨレヨレになったクレタは、必死に身振り手振りで状況を示す太の指す先をやっと見あげた。
ガリウスはいつもの2.5倍程の大きさに膨れ上がり、色もいつもより濃くどう見てもいつもより強そうに思えた。
「なんだよ・・・今日のガリウス・・・怖いじゃないか・・・」
「だから早く出せって。」
その山のように膨れ上がったガリウスを勇敢にも理玖が一人、剣で立ち向かっていたが、
切っても、切っても、すぐに再生してまったく歯が立たない。
ヒロトは剣すらうまく握れていない。
「なんだよ。やばいじゃんか・・・」
クレタは慌ててポケットの中からいろいろ、使えるものも使えないものもみんな出した。
その中から太はランチャーを掴み、玉を込めて構えた。
「理玖、ヒロト、どけー!」
太は大声を上げ、照準を合わせて引き金に指をかけた時、
「ダメー!!」
とクレタが太の前に手を広げて立ちはだかった。
「あっぶねえな・・・死ぬぞ!どけ!」
「だ、ダメだ。よく見てみろ。サフルが・・・」
太が照準でガリウスをもう一度覗くと、手にサフルを握っていた。
「早く打たないと喰われる。どけ!」
「ダメ!サフルに当たる。」
「腹を狙うから大丈夫。どけ!」
「ダメ!当たるかもしれない。」
「じゃあ腹の下の方を狙う。」
「ダメ!」
「じゃあどうするんだ。喰われるのを見ているのか!」
「どうしよう・・・」
クレタは泣き出しそうな顔でサフルを見上げた。
「あーもうチクショウ!」
太はランチャーを置いてさっき置いた剣を拾い上げガリウスに向かって走った。
理玖もまた同じように剣を振り上げ走って行った。
「僕の使える、僕にピッタリの武器ないの?コレでは使えない。
第一、剣では倒せないじゃん。」
「探せよ。この中にあるだろう・・・
でも投げるのは絶対ダメだ。サフルに当たる・・・」
「もーめんどくさいなー」
武器は山のように積み上げられてはいたが、何せ今まで使ったこともなくてどれがどうなんだか、使えるのか合ってるのかなんてわかるはずもなかった。
「あーもー!急いでいるのにー!この中で僕に会う武器出て来い!僕にピッタリでガリウスがやっつけられるヤツ!」
ヒロトはイラっとして叫ぶと、その山の中から、はさみのような持つところがわっかになって、先にスプーンのついた・・・(サラダをサーブするヤツ?)と思うようなものの結構デカいのがコロンと足元に落ちて来た。
ヒロトは深くは考えず、それを手に取ると思い切りガリウスに向かって走った。そして飛び上がった。踏み切った先はちょうどあの、ぽよぽよの荷台で思いもかけぬ高くジャンプした。そして、サフルを食べようとしていたガリウスの口にすっぽりと入ってしまった。
「あ、あ・・・ヒロト!!」
二人の動きは完全に止まった。血が通わないような一瞬のあと、太と理玖は驚きのあまり絶叫した。その叫びとともに二人はガリウスめがけて駆けだし、どうせだめだと知りながらもめちゃくちゃに剣を振り回した。
その後、ガリウスの体は“パン”と風船が割れるようにはじけて細かな紙吹雪のようになって散った。何が起きたかわからない理玖と太だったが、ガリウスが立っていたその場所でヒロトが、(サラダをサーブするヤツ?)と思うようなものの結構デカいのを持って、キョトンと立っていた。
飲み込まれた人たちも、皆、無事だった。
「ヒロト、大丈夫だったか?」
「何が起きた。」
「多分・・・多分だけど、ガリウスの内側を、このスプーンでえぐり取った。」
「え?」
ヒロトがそっとそのスプーンを開き、理玖と太もその中を覗き込んだが、「おぇ」となってすぐスプーンを閉じた。
そして、泉の中にガリウスの内側を挟んだままスプーンを捨てた。
「サフル・・・・よかった・・・どこもケガしてないか・・・よかった・・・・」
クレタはサフルにしがみついて号泣した。
「な、いいやつだろ。」
サフルは理玖達に言った。
「うん。そうだな。」
クレタは、いつまでもサフルにしがみついて離れなかった。
「これからどこへ行くんだ。」
「せっかくだから、ベジービーのところへ寄ろうと思うんだ。」
「そうか、それはいい。あそこのビッグバーグは最高だ。そこで昼飯なんだな。」
「うん。サフルも一緒に行くか?」
「いや、俺はまだ仕事があるから、けど、お礼に近くまで乗っけて行ってやるよ。」
荷物も下ろして、荷台ががら空きなのに、クレタはサフルの背中に掴まって乗った。
「よかったな、なんかクレタ嬉しそうだ。」
「ほんと。なんだかクレタが嬉しそうだと、俺達も楽しいな。」
「ムカつくけど。そうだな・・・」
「ねえ、僕が飲み込まれちゃったとき、理玖と太、泣いてなかった?」
「泣いてねえよ。ただ・・・・ちょっと困ったな、って思った。」
「生まれた時からずっと一緒で、三人で大きくなってきた。三人で歩いてきた。
ヒロトがいなくなったからじゃあ、明日から二人ねなんて、単純に考えられないんだよ。
三人は三人なんだ。三人そろっていないと、朝起きても、飯を食っても、眠っていても、何も面白くない。」
「ヒロトがいないと俺たちの喧嘩はだれも止めてくれない。
だとしたら、喧嘩するものつまんねぇ。
俺達にヒロトは、大事という言葉以上に大事なんだ。」
「ああ・・・ヒロトがいないと、俺たちは困るんだ。」
「太・・・理玖・・・・」
ヒロトは太と理玖にとびかかり、三人は荷台の上に転がった。そして抱き合って泣いた。
なぜ涙が出たのかはわからない・・・けど・・・泣いていることは恥ずかしくなんてなかった。なんだか、すっきりとした晴れやかな気分だった。
「なあ・・・ヒロト・・・手。」
「あ、手。」
三人は荷台に寝転がっていたが、ハッと起き上がった。とても大切な事、今日しなければいけなかった大切な事に気づいた。
「クレタ・・・僕の手・・・まだカエルだよ。」
クレタは首だけぐいーんと後ろを向いて。
「お前が勝手に願い事を変えたんだ。叶うのは1個って言っただろ。」
「え?僕、何か他にしてもらった??何??」
「何って、なんかへんなスプーンもらってただろ。
よこせーって大声で叫んで。今日はヒロトの日だったから、お願い聞いてもらえて・・・よかったね。」
「え・・・・あれ・・・・」
「そう、あれでおしまい。太も、理玖も、ちゃんと面倒見てやれよ。俺は嫌だからな。臭いし。」
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地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
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