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迷った!
繭
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理玖は乗り物を降り、見失った何かを探すために必死で周囲を見渡した。
取り乱したその姿に太もヒロトも動揺した。
「大丈夫だって。今度は俺が運転するから。きっと疲れたんだ。少し休め。」
「もうダメだよ。俺たちはたどり着けない。もう時間もないのに・・・」
「落ち着けって!大丈夫だ。道はある。真っすぐだ。」
太は出口を指さした。まだまだ陽は高い、木も草も映えてはいるが、あたりも見渡せるほど解放された穏やかな場所だった。ヒロトの眼にもその時はそう映っていた。
「どこだよ!どこにあるんだ!」
だが、理玖には何も見えてはいなかった。
理玖に見えていたのは鬱蒼と草木が生い茂った薄暗い藪の中。出口は愚か、道も見当たらない。
その草木はどんどんと成長し自分達の背丈を追い越そうとしている。
「ダメだ!だめだ!時間もないのに・・・俺たちは担がれたんだ。さっきやっぱり谷の道に進むべきだったんだ。こんなことになってしまって、俺達はこの先どうなるんだ・・・」
「ちょっと落ち着けって。」
「これが落ち着いていられるか!俺たちは期日までに受付に行かないとどうなるかだってわかってないんだぞ。何も知らない、何もわからない。どの道をどうやって進むのかも、この先何があるのかも、何もわからないんだぞ。どうして落ち着けなんて言えるんだ。お前はいつも俺について来るばかりだから、自分で考えないからそんな気楽にいられるんだ。」
「理玖、言い過ぎだよ・・・」
「いいよ。言えよ。気が済むまで言えよ。
お前の言いたいこと、ここで全部吐き出せよ。
俺だって不安だよ。先が見えないって、明日が判らないって、不安でしかないよ。
頼みの王子さまはつかえねえし。でも、理玖がそんな気持ちでいることのほうが、もっと、もっと不安だよ。だから言いたいこと全部俺にぶつけろ。そしてもう一度周りをちゃんと見てみろよ。あのおばさんが言ったとおり、間違っても自信を持って進めば道が見えてくるって。」
「そんなことできるかよ。もう何もない。ここで終わりだ・・・・あ・・・」
理玖がガクンと膝から落ちるのをヒロトが抱きとめた。
「理玖・・・ごめん。僕、ずっと理玖に面倒ばかりかけて。いつも理玖に頼りきりで・・・一人で辛い思いをさせてしまってごめんね。」
ヒロトは理玖の不安な気持ちに寄り添った。自信を失った理玖を抱きしめ、同調することこそが、今自分に出来る励ましであり、仲間への思いであると信じていた。
けれど、そうしたヒロトに理玖の不安が伝染して、ヒロトにも見えていた道が草木で閉ざされ、思考は鬱蒼とした藪の中へと引きずり込まれて出られなくなっていた。
そして気づくとどこからかシュウシュウ飛んでくる細い糸にどんどん体を巻かれ、理玖とヒロトは抱き合ったまま繭の中に閉じ込められていった。
「ちょっと!やめろ。これどこから来るんだ!理玖!ヒロト!起きろ。ダメだ!」
太は二人に巻き付く糸を手で引きちぎろうとしたが、それよりも早く、どんどんと巻き付き、あっという間に二人の入った大きな繭玉は近くの木にぶら下がった。
太はカバンから剣を出し咥えて、木にのぼり、切り離さそうと剣を伸ばした。
「ダメですよ。今そこから切り離せば二人は永遠に目覚めません。」
さっき道を教えてくれた人が、大きな荷物を持って立っていた。やっと太たちのいるところに追いついたのだった。
「じゃあ、どうしたらいいんだ。この中の友達をだす方法を教えてくれよ。」
「それは、その繭玉の糸を紡ぐしかありません。すぐに道具を持ってここへ戻ってきますから、私を信じて待っていてください。いいですか。私は必ず戻ってきます。だから、必ず私を信じていてくださいね。」
その人は、その大きな荷物をもう一度ぐいっと背中に乗せるとのろのろと一歩ずつあるきだした。
「ねえ、この乗り物で送ろうか。そのほうが早いだろう。」
「ええ、確かに。でも、私は乗り物には乗れません。とにかく、あなたは私を信じるのです。信じて待ってください。」
そうはいっても・・・いつまでも、いつまでも後姿は小さくならないし、やっぱり力のある自分があの荷物を持って行ったほうがよかったんじゃないかぁと考えていたが、繭の中にいる二人をここで置き去りにすることもできず、ただ、無事を天に祈りながらあの人のことをひたすら待った。
「お待たせしました・・・・」
それから案外と早くその人は帰って来た。今度は大きな荷物ではなく、脚立と糸車、あと四人の仲間を引き連れてやって来た。
「大きな繭玉だから糸がいっぱい取れそうですね。」
「よほどの大きな不安だったのね・・・太くていい糸だわ。」
「不安・・・って。この糸が不安なのか?」
「そうです。ここは迷い森です。この子たちの不安や苦しみや悲しみが進むべき道を隠し心をふさぎ繭に閉じ込めるのです。
私は、そうした心の玉を人から集めてこの森で繭を作り、糸を紡ぐ仕事をしています。
だから、どうすればこの子たちがここから出てくることができるのかはわかっています。
けれど、私たちの仲間は、糸をつむぐものばかりではなく、繭の中心に住む迷いの虫を食べる鬼もいるのです。この糸を紡ぎ終わる頃、きっとその鬼が現れます。その鬼からこのお友達を助け出すのはあなたのお仕事です。私たちは糸を紡ぐ以外に何もできません。
とにかく信じて戦いなさい。この子たちが目覚めれば鬼は食べませんから、それまでの間です。そこで寝ている仲間も起こしたほうがいいですよ。鬼は意外に強いですよ。」
クレタは荷台でまだのびていた。
太はすごく迷った。
足手まといになるくらいなら寝ていてくれたほうがどれほどましか・・・
でも、この人は起こしたほうがいいと言った。
いままでずっとこの人の言う通りになっているし・・・やっぱり起こしたほうがいいのだろうか・・・
でも、この間抜けな顔を見ているとやっぱり・・・
取り乱したその姿に太もヒロトも動揺した。
「大丈夫だって。今度は俺が運転するから。きっと疲れたんだ。少し休め。」
「もうダメだよ。俺たちはたどり着けない。もう時間もないのに・・・」
「落ち着けって!大丈夫だ。道はある。真っすぐだ。」
太は出口を指さした。まだまだ陽は高い、木も草も映えてはいるが、あたりも見渡せるほど解放された穏やかな場所だった。ヒロトの眼にもその時はそう映っていた。
「どこだよ!どこにあるんだ!」
だが、理玖には何も見えてはいなかった。
理玖に見えていたのは鬱蒼と草木が生い茂った薄暗い藪の中。出口は愚か、道も見当たらない。
その草木はどんどんと成長し自分達の背丈を追い越そうとしている。
「ダメだ!だめだ!時間もないのに・・・俺たちは担がれたんだ。さっきやっぱり谷の道に進むべきだったんだ。こんなことになってしまって、俺達はこの先どうなるんだ・・・」
「ちょっと落ち着けって。」
「これが落ち着いていられるか!俺たちは期日までに受付に行かないとどうなるかだってわかってないんだぞ。何も知らない、何もわからない。どの道をどうやって進むのかも、この先何があるのかも、何もわからないんだぞ。どうして落ち着けなんて言えるんだ。お前はいつも俺について来るばかりだから、自分で考えないからそんな気楽にいられるんだ。」
「理玖、言い過ぎだよ・・・」
「いいよ。言えよ。気が済むまで言えよ。
お前の言いたいこと、ここで全部吐き出せよ。
俺だって不安だよ。先が見えないって、明日が判らないって、不安でしかないよ。
頼みの王子さまはつかえねえし。でも、理玖がそんな気持ちでいることのほうが、もっと、もっと不安だよ。だから言いたいこと全部俺にぶつけろ。そしてもう一度周りをちゃんと見てみろよ。あのおばさんが言ったとおり、間違っても自信を持って進めば道が見えてくるって。」
「そんなことできるかよ。もう何もない。ここで終わりだ・・・・あ・・・」
理玖がガクンと膝から落ちるのをヒロトが抱きとめた。
「理玖・・・ごめん。僕、ずっと理玖に面倒ばかりかけて。いつも理玖に頼りきりで・・・一人で辛い思いをさせてしまってごめんね。」
ヒロトは理玖の不安な気持ちに寄り添った。自信を失った理玖を抱きしめ、同調することこそが、今自分に出来る励ましであり、仲間への思いであると信じていた。
けれど、そうしたヒロトに理玖の不安が伝染して、ヒロトにも見えていた道が草木で閉ざされ、思考は鬱蒼とした藪の中へと引きずり込まれて出られなくなっていた。
そして気づくとどこからかシュウシュウ飛んでくる細い糸にどんどん体を巻かれ、理玖とヒロトは抱き合ったまま繭の中に閉じ込められていった。
「ちょっと!やめろ。これどこから来るんだ!理玖!ヒロト!起きろ。ダメだ!」
太は二人に巻き付く糸を手で引きちぎろうとしたが、それよりも早く、どんどんと巻き付き、あっという間に二人の入った大きな繭玉は近くの木にぶら下がった。
太はカバンから剣を出し咥えて、木にのぼり、切り離さそうと剣を伸ばした。
「ダメですよ。今そこから切り離せば二人は永遠に目覚めません。」
さっき道を教えてくれた人が、大きな荷物を持って立っていた。やっと太たちのいるところに追いついたのだった。
「じゃあ、どうしたらいいんだ。この中の友達をだす方法を教えてくれよ。」
「それは、その繭玉の糸を紡ぐしかありません。すぐに道具を持ってここへ戻ってきますから、私を信じて待っていてください。いいですか。私は必ず戻ってきます。だから、必ず私を信じていてくださいね。」
その人は、その大きな荷物をもう一度ぐいっと背中に乗せるとのろのろと一歩ずつあるきだした。
「ねえ、この乗り物で送ろうか。そのほうが早いだろう。」
「ええ、確かに。でも、私は乗り物には乗れません。とにかく、あなたは私を信じるのです。信じて待ってください。」
そうはいっても・・・いつまでも、いつまでも後姿は小さくならないし、やっぱり力のある自分があの荷物を持って行ったほうがよかったんじゃないかぁと考えていたが、繭の中にいる二人をここで置き去りにすることもできず、ただ、無事を天に祈りながらあの人のことをひたすら待った。
「お待たせしました・・・・」
それから案外と早くその人は帰って来た。今度は大きな荷物ではなく、脚立と糸車、あと四人の仲間を引き連れてやって来た。
「大きな繭玉だから糸がいっぱい取れそうですね。」
「よほどの大きな不安だったのね・・・太くていい糸だわ。」
「不安・・・って。この糸が不安なのか?」
「そうです。ここは迷い森です。この子たちの不安や苦しみや悲しみが進むべき道を隠し心をふさぎ繭に閉じ込めるのです。
私は、そうした心の玉を人から集めてこの森で繭を作り、糸を紡ぐ仕事をしています。
だから、どうすればこの子たちがここから出てくることができるのかはわかっています。
けれど、私たちの仲間は、糸をつむぐものばかりではなく、繭の中心に住む迷いの虫を食べる鬼もいるのです。この糸を紡ぎ終わる頃、きっとその鬼が現れます。その鬼からこのお友達を助け出すのはあなたのお仕事です。私たちは糸を紡ぐ以外に何もできません。
とにかく信じて戦いなさい。この子たちが目覚めれば鬼は食べませんから、それまでの間です。そこで寝ている仲間も起こしたほうがいいですよ。鬼は意外に強いですよ。」
クレタは荷台でまだのびていた。
太はすごく迷った。
足手まといになるくらいなら寝ていてくれたほうがどれほどましか・・・
でも、この人は起こしたほうがいいと言った。
いままでずっとこの人の言う通りになっているし・・・やっぱり起こしたほうがいいのだろうか・・・
でも、この間抜けな顔を見ているとやっぱり・・・
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