クレタとカエルと騎士

富井

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川をわたる

待っていたガリウス

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その向こうには天使の街の入り口のネオンサインが見えた。あと少しで天使の街の入り口なのに、こいつも間が悪いな・・・と、理玖たち三人は考えていた。
「お前ら遅い!道間違えただろう。」
ガリウスは相当怒っていた。体は黒くて、暗闇に紛れてよくは見えなかったが、目から真っ赤な火柱が上がり、体から水蒸気が出ていた。
「なんでこう絶妙に間が悪く登場するんだよ。」

「悪役は往々にしてこういう登場の仕方なんだよ。」


「ごめん。クレタが地図を汚してさ・・・」

「いや、汚したことに気づく前に気絶していて・・・」

「結局、理玖が運転して何とかここまでたどり着いたんだ。」

「じゃあ、案内女神のクレタは案内してこなかったってわけか。」

「まあ、ほぼ。」

クレタはガリウスの姿を見てすぐに太の後ろに隠れていたが、悪口を言われていたのに気づくと太を突き飛ばして前に出てきた。


「俺が案内しようと思っていたのに、お前らが勝手に好きな方向に勝手に進んだんだろ。
道だって、間違っているんじゃないかなと思ったんだよ。俺は、川なんて渡る予定はなかったんだ。」
「知るか。じゃあ、寝てんなよ。」
「寝たんじゃない、びっくりしてぶっ倒れたんだ。」
「どっちでもいい!やるのかやらないのかどっちだ!」
ガリウスに怒鳴られてクレタは又、太の後ろに隠れた。ガリウスの体からは、あたりが霧のように真っ白になるほど水蒸気がものすごく出はじめた。
「お前、ヒロトに嫌味を言った罰として一人で戦ってこい。」
「なんだ、太。俺に命令するなって言ってるだろ。」
「じゃあ、王子さまは今回何の役にも立っていませんからどうぞおひとりで戦ってきてください。」
「やだ。怖い。怒ってる。ものすっごく怒ってる。」
ガリウスは蒸気機関車のようにシュワシュワ音を立てて、規則正しく水蒸気を出し始めた。
「クレタだって、一番初めは勇敢に戦っていただろ。行けよ。」
「あれは、お前らが何も出来ない普通の高校生だと思ったからだろ。
俺より強いんだからおまえらが戦ったほうがいいって。」
「俺たちは今すっごく疲れているんだ。だから今回はクレタだ。今回クレタは板に転がってただけだし、クレタだって新技覚えただろ?くるくるぷす!で行ってこいよ。」
「俺だって板にただ寝転がっていたわけじゃない。くるくるされて頑張った。
俺がくるくるされなかったら、お前ら三人そろってここにはいないんだぞ。」
「そりゃあ・・・まあ・・・」
「わかったなら太、行ってこい!」
ガリウスは相変わらず水蒸気を上げて怒りはピークと言ったところだろうか、もうイライラした様子で腕を組んで地団太を踏んでいた。

「あのさ、ガリウス。俺たちは川で泳いできたばっかでめっちゃ疲れてるんだ。
だから。明日にしない?」

「はぁ?」


「ガリウスもさ、チョーイライラしてるじゃん。そんな時に戦ってもいいことないって。
怒りに任せて戦ってもいい結果は絶対に出ないって。それより今晩はがっつり寝て英気を養って明日戦おうぜ。」

「なんだよそれ・・・俺今まで待ったんだぜ、何で諭されなきゃいけないんだよ。」

「だから、待たせたのは悪かったって。でも、お互いに万全の態勢で戦ったほうがやりがいがあるだろ。今の俺達に勝ってもうれしくないだろ?」
「いや、俺は悪者だから勝てばどんな時でもうれしいよ。」
「そんなことはないって。俺達が弱ってたから勝てたんだって言われたら悔しいだろ。」
「うっ・・まあな・・・」
「だったらフェアにやろうぜ。今度こそ、絶対約束だ。明日、ここで戦おう。時間は12時。」
「もう待たねえ。遅刻する奴は嫌いだ。」
「今度こそ絶対だって。そうだ!俺のすげー大事な物預けておくよ。明日ここへ絶対に来るという証だ。」
そう言うと太はカバンの中から数学の教科書を取り出しガリウスに両手で渡した。
「これは俺がすっごく大事にしているピタゴラス様とお友達になれる書物だ。
これは俺の命と同じくらい大事なものだからな、大切に扱えよ。」
「こんなの預かるとかめんどくせえな・・・今戦えばいいだろ。」

「だから、もう暗いし、いい子はお家に帰る時間なんだよ。じゃあな。」

太は理玖とヒロトのカバンを担ぐと二人の手を引いて天使の街のほうへとっとと歩いて行った。


「おーぅい!!」

ガリウスは太から預かった数学の教科書を眺め、少しあっけに取られていたがハッと気づいて去ってゆく三人とクレタの後ろ姿にこえを掛けた。

「じゃあなー。明日12時だからな!忘れるなよ。」

太と理玖とヒロトは一回振り返り、大きく手を振った。そして、ガリウスが三十センチくらいの大きさになるくらいまで離れると。
「走るぞ!」
そう声をかけ、三人は一斉に走り出した!
「やだ!おいて行かないで!」
クレタは足がとっても遅く、あっという間に30メートル以上置いて行かれた。
「しゃあねえねな・・・・」

太はクレタを背負うと一気に天使の街へ向かって走った。
「ねえ、大丈夫なの。追いかけてこない?」
「知るか。今日はもう絶対戦えない。腹が減った。」
「俺も腹ペコだ。天使の街で死ぬほど食うぞ!」
「なあ太、一つ聞きたいんだけど・・・天使の街の入り口はここだけど、出口は別だぞ。
明日の待ち合わせどうするんだ。」
「え?」
「あーあ・・・太も嘘ついちゃったね・・・明日はカエルさんかな?」
「勘弁してくれよ・・・」

ガリウスはあっという間に走り去った四人の足の速さにうっかり気を取られて、ちゃっかり逃げられたことに気づいた時にはすっかり姿はなく、仕方なく、数学の教科書を手に家に戻って行った。
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