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終わりと始まり
太の家族
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「理玖君?」
そんなことを繰り返していたある日、理玖を呼び止める声が聞こえた。
聞き覚えはあったが、誰の声だったか、思い出せずにいた。
「理玖君、どうしたんだ。こんな場所で。」
仕事帰りの太の父親だった。気づけば理玖は2駅離れた町まで歩いてきていた。
「あ、いえ・・・ちょっと考え事をしていて・・・」
「送るよ。今日は車で来ているんだ。」
太の父親は、パジャマ姿の理玖に自分の上着を着せて駐車場へと連れて行った。
「よかったよ、今日、君に会えて。君と話がしたいな、と思っていたんだ。」
理玖は何も言えなかった。どうせ、攻められるに決まっている。幼いころから一緒に居たくせに、喧嘩ばかりしてきたのに、あの時も三人一緒に落っこちたのに、自分一人が生きている。なんであんただけ・・・そう言った太の母親の声をまだ今でも忘れてはいなかった。
「理玖君、体はもう大丈夫なの?」
「はい・・・もう、痛むところはありません。」
「そう・・・よかった。もう半年以上も経つんだね。時がたつのは早いよ。」
理玖の予想とは裏腹に、太の父親の声は優しく、心に染み入ってくるような気がしていた。
けれど、自分だけ生きているという負い目が重くのしかかり、太の父親がどんな顔で話をしているのかすら、見ることができなかった。
「太が逝ってしまったばかりの頃は、家内が可哀そうで、太の話をしてはいけないのだと思って、太の部屋に鍵をかけて、写真も片づけて、無理に忘れようとしてきたんだ。
けれど、最近では、理玖君を見かけたと、家内のほうから太の幼いころの思い出話を、するようになって、少しづつだが我が家にも普通の暮らしが戻りつつあるよ。
君に太の面影を重ねるのは迷惑かもしれないが、どうかそうすることを許してほしい。」
「いえ・・・俺・・・・、俺なんか何もできなくて・・・・」
「何もできなくてもいいさ、君が普通でいることが、私達夫婦の最高なんだよ。
ありがとう、君が生きていてくれて、本当にうれしいよ。
あのとき、病院で家内が君に言ったこと・・・許してやってほしい。」
そう言われて、初めて項垂れた顔を持ち上げた。
あの日から今日まで、人の顔を正面から見るなどと言うことはほぼなかった。いつも【自分だけ】という後ろめたさから、人を避け,隠れるように、生きているのに、生きていることを拒むように暮らしてきた自分をその一言が、一瞬にして解放したのだ。
「あの・・・俺・・・・俺・・・」
「何も言わなくてもいいよ。君の気持ちは・・・・わかっているつもりだよ。
君が家内を許してくれる日が来たら、たまには家に遊びに来てくれないか、夕食を一緒にどうだろう。たまには、太が生きていたときのように一杯作りたいって、私と二人だと、ほんのちょっとしか料理が作れなくて張り合いがないといつも愚痴をこぼしているんだ。
うちのは、君のお母さんみたいに料理が得意ではないのだけれど、家内の思いを叶えてやってくれないか。」
「わかりました・・・行きます・・・」
理玖は泣いていた。これは紛れもない、うれし涙だ。今までになく、熱く感じられるものが、頬から顎へ、顎から胸へと落ちると、太の言葉をもう一度はっきりと思い出していた。
「理玖なら太とヒロトを必ず見つける」というあの言葉を。
(何やってたんだ・・・俺・・・)
理玖は翌日、部屋の掃除をした。あの保育園の時撮った、奇跡の一枚の写真を探すため。
それと中学の時、理玖が引越しする前に撮った写真と並べて飾った。
そして床屋へ行き、身なりを整え、学校へ復学する用意もした。
いつものように勉強を始め、今度は、生活を元通りに戻すための努力を始めた。
そして、太の家にも向かった。もちろん、太の両親は理玖を歓迎した。
山ほどの料理で理玖をもてなし、理玖はクレタと出会い太とヒロトの三人で旅に出た、あの時の出来事を二人に話した。けれど、最後、あの境目を太が飛び越えて行ったことだけは言えなかった。
そんなことを繰り返していたある日、理玖を呼び止める声が聞こえた。
聞き覚えはあったが、誰の声だったか、思い出せずにいた。
「理玖君、どうしたんだ。こんな場所で。」
仕事帰りの太の父親だった。気づけば理玖は2駅離れた町まで歩いてきていた。
「あ、いえ・・・ちょっと考え事をしていて・・・」
「送るよ。今日は車で来ているんだ。」
太の父親は、パジャマ姿の理玖に自分の上着を着せて駐車場へと連れて行った。
「よかったよ、今日、君に会えて。君と話がしたいな、と思っていたんだ。」
理玖は何も言えなかった。どうせ、攻められるに決まっている。幼いころから一緒に居たくせに、喧嘩ばかりしてきたのに、あの時も三人一緒に落っこちたのに、自分一人が生きている。なんであんただけ・・・そう言った太の母親の声をまだ今でも忘れてはいなかった。
「理玖君、体はもう大丈夫なの?」
「はい・・・もう、痛むところはありません。」
「そう・・・よかった。もう半年以上も経つんだね。時がたつのは早いよ。」
理玖の予想とは裏腹に、太の父親の声は優しく、心に染み入ってくるような気がしていた。
けれど、自分だけ生きているという負い目が重くのしかかり、太の父親がどんな顔で話をしているのかすら、見ることができなかった。
「太が逝ってしまったばかりの頃は、家内が可哀そうで、太の話をしてはいけないのだと思って、太の部屋に鍵をかけて、写真も片づけて、無理に忘れようとしてきたんだ。
けれど、最近では、理玖君を見かけたと、家内のほうから太の幼いころの思い出話を、するようになって、少しづつだが我が家にも普通の暮らしが戻りつつあるよ。
君に太の面影を重ねるのは迷惑かもしれないが、どうかそうすることを許してほしい。」
「いえ・・・俺・・・・、俺なんか何もできなくて・・・・」
「何もできなくてもいいさ、君が普通でいることが、私達夫婦の最高なんだよ。
ありがとう、君が生きていてくれて、本当にうれしいよ。
あのとき、病院で家内が君に言ったこと・・・許してやってほしい。」
そう言われて、初めて項垂れた顔を持ち上げた。
あの日から今日まで、人の顔を正面から見るなどと言うことはほぼなかった。いつも【自分だけ】という後ろめたさから、人を避け,隠れるように、生きているのに、生きていることを拒むように暮らしてきた自分をその一言が、一瞬にして解放したのだ。
「あの・・・俺・・・・俺・・・」
「何も言わなくてもいいよ。君の気持ちは・・・・わかっているつもりだよ。
君が家内を許してくれる日が来たら、たまには家に遊びに来てくれないか、夕食を一緒にどうだろう。たまには、太が生きていたときのように一杯作りたいって、私と二人だと、ほんのちょっとしか料理が作れなくて張り合いがないといつも愚痴をこぼしているんだ。
うちのは、君のお母さんみたいに料理が得意ではないのだけれど、家内の思いを叶えてやってくれないか。」
「わかりました・・・行きます・・・」
理玖は泣いていた。これは紛れもない、うれし涙だ。今までになく、熱く感じられるものが、頬から顎へ、顎から胸へと落ちると、太の言葉をもう一度はっきりと思い出していた。
「理玖なら太とヒロトを必ず見つける」というあの言葉を。
(何やってたんだ・・・俺・・・)
理玖は翌日、部屋の掃除をした。あの保育園の時撮った、奇跡の一枚の写真を探すため。
それと中学の時、理玖が引越しする前に撮った写真と並べて飾った。
そして床屋へ行き、身なりを整え、学校へ復学する用意もした。
いつものように勉強を始め、今度は、生活を元通りに戻すための努力を始めた。
そして、太の家にも向かった。もちろん、太の両親は理玖を歓迎した。
山ほどの料理で理玖をもてなし、理玖はクレタと出会い太とヒロトの三人で旅に出た、あの時の出来事を二人に話した。けれど、最後、あの境目を太が飛び越えて行ったことだけは言えなかった。
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