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出会い
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⸺⸺リヒテンシュタイン帝国
賢帝であられると評判の皇帝陛下の元、今年も社交シーズンが始まった。
今夜はとある伯爵邸での夜会に出席しているセドリックはシャンパンを一口飲み、誰にも気付かれないように少し溜め息を吐く。
セドリック・フォン・ドラッケンベルグ
侯爵家の嫡男であり、父親は近衛騎士団長。
本人も騎士を目指す実力派なのにも関わらず17歳の現在、婚約者の席は空席と独身の令嬢にはよだれものの好物件である。
それ故、こういった夜会に出席すると次期侯爵夫人の座を狙う令嬢やその親達が群がってくるのがいつものパターンになっている。
顔立ちも高位貴族らしく整っている為、幼い頃から令嬢に付きまとわれ、成長したらしたで騎士らしいしっかりとした体つきに今度は未婚・既婚問わずに夫人もこっそりお誘いをかけてくることも増えてきた。
どんなに冷たくあしらおうとも懲りずに寄ってくる事に正直、いや、かなりうんざりしている。
最近ではその冷たい対応と、シルバーブロンドの髪にダークグレーの瞳から連想したのか「銀氷の騎士」などと呼ばれているらしい。
(何だ、その恥ずかしい二つ名は)
何だか、急激に疲れを感じ気分転換にフラッと庭園に出た。
特に宛もなくフラフラ歩いていると酔い覚ましの為か、逢引の為か、ポツポツと人の気配がするので、それを避けるように更に歩くと明らかにプライベート区域に入ってしまったらしい。
マナー違反な為、戻ろうと方向転換をしようとした時、視界の端で何かがよぎった気がした。
すぐにそちらの方向を見たが特別異変はない。
念の為にそちらの方向へ行くと古びた別邸が一つあった。
(気のせいだったか…)
今度こそ、戻ろうと思ったところで何か違和感を覚え、パッと振り返り別邸を見るとほんの少し2階の窓が開いている事に気付いた。
足音を立てないように別邸に近寄り見れば、柱などの塗装は剥げ、明らかに長い事放置されている建物である。
(長い間、放置されているであろうが窓が開けっ放しと言うのはおかしい…)
いくら古くても貴族の別邸だ。放置されていても施錠などはちゃんと管理されているはずだ。
慎重にドアノブをひねると鍵はかかっておらず、扉が開いた。
良くない事と思いつつ扉をゆっくり開けば、キィーーと古びた音を鳴らす。
中に入れば、かなり埃っぽい臭いがし、やはり長い間手入れがされていない事が窺えた。
時折軋む階段を登り目的の部屋の前に近付くとドアが少し開いている。微かに音がしたのを確認し、思い切って扉を開いた。
部屋の中はちょうど月が雲に隠れて真っ暗であるが、窓の前に誰かが立っている事だけは分かった。
「何者だ?」
屋敷の人間なら逆に「お前こそ誰だ」と言われる側であるが恐らく部屋の中の人物は屋敷の人間ではない。
何故なら、何も感じないからだ。
(いきなり、ドアを開けられ問いかけられたにも関わらず返事もない、驚きや焦りなどの動揺も感じない…只者じゃない)
雲から月が出てきたのか月明かりがその人物と部屋の中を照らす。
(女?)
こちらに背を向けているが黒髪をシニヨンにまとめ、上下共に黒のパンツとノースリーブ。
惜しげなく晒されている腕は白く細長い…セドリックが思いっきり握れば折れてしまいそうだ。
月に照らされた事で諦めたのか首だけをこちらに向けた瞬間⸺⸺⸺息が止まった。
目から下は黒いマスクで隠れていて分からないが、温度を感じさせない深いロイヤルブルーの瞳…その色に一瞬で囚われた。
(体が…動かない…な、何か言わないと…)
声を出そうと口を開いた瞬間、「彼女」は窓から出て行ってしまった。
一瞬、またしても固まってしまったが、すぐに窓に駆け寄れば、そこには人影見当たらなかった。
まさか、この出会いが自分のすべてを変えるとなんて
この時は知る由もなかった。
賢帝であられると評判の皇帝陛下の元、今年も社交シーズンが始まった。
今夜はとある伯爵邸での夜会に出席しているセドリックはシャンパンを一口飲み、誰にも気付かれないように少し溜め息を吐く。
セドリック・フォン・ドラッケンベルグ
侯爵家の嫡男であり、父親は近衛騎士団長。
本人も騎士を目指す実力派なのにも関わらず17歳の現在、婚約者の席は空席と独身の令嬢にはよだれものの好物件である。
それ故、こういった夜会に出席すると次期侯爵夫人の座を狙う令嬢やその親達が群がってくるのがいつものパターンになっている。
顔立ちも高位貴族らしく整っている為、幼い頃から令嬢に付きまとわれ、成長したらしたで騎士らしいしっかりとした体つきに今度は未婚・既婚問わずに夫人もこっそりお誘いをかけてくることも増えてきた。
どんなに冷たくあしらおうとも懲りずに寄ってくる事に正直、いや、かなりうんざりしている。
最近ではその冷たい対応と、シルバーブロンドの髪にダークグレーの瞳から連想したのか「銀氷の騎士」などと呼ばれているらしい。
(何だ、その恥ずかしい二つ名は)
何だか、急激に疲れを感じ気分転換にフラッと庭園に出た。
特に宛もなくフラフラ歩いていると酔い覚ましの為か、逢引の為か、ポツポツと人の気配がするので、それを避けるように更に歩くと明らかにプライベート区域に入ってしまったらしい。
マナー違反な為、戻ろうと方向転換をしようとした時、視界の端で何かがよぎった気がした。
すぐにそちらの方向を見たが特別異変はない。
念の為にそちらの方向へ行くと古びた別邸が一つあった。
(気のせいだったか…)
今度こそ、戻ろうと思ったところで何か違和感を覚え、パッと振り返り別邸を見るとほんの少し2階の窓が開いている事に気付いた。
足音を立てないように別邸に近寄り見れば、柱などの塗装は剥げ、明らかに長い事放置されている建物である。
(長い間、放置されているであろうが窓が開けっ放しと言うのはおかしい…)
いくら古くても貴族の別邸だ。放置されていても施錠などはちゃんと管理されているはずだ。
慎重にドアノブをひねると鍵はかかっておらず、扉が開いた。
良くない事と思いつつ扉をゆっくり開けば、キィーーと古びた音を鳴らす。
中に入れば、かなり埃っぽい臭いがし、やはり長い間手入れがされていない事が窺えた。
時折軋む階段を登り目的の部屋の前に近付くとドアが少し開いている。微かに音がしたのを確認し、思い切って扉を開いた。
部屋の中はちょうど月が雲に隠れて真っ暗であるが、窓の前に誰かが立っている事だけは分かった。
「何者だ?」
屋敷の人間なら逆に「お前こそ誰だ」と言われる側であるが恐らく部屋の中の人物は屋敷の人間ではない。
何故なら、何も感じないからだ。
(いきなり、ドアを開けられ問いかけられたにも関わらず返事もない、驚きや焦りなどの動揺も感じない…只者じゃない)
雲から月が出てきたのか月明かりがその人物と部屋の中を照らす。
(女?)
こちらに背を向けているが黒髪をシニヨンにまとめ、上下共に黒のパンツとノースリーブ。
惜しげなく晒されている腕は白く細長い…セドリックが思いっきり握れば折れてしまいそうだ。
月に照らされた事で諦めたのか首だけをこちらに向けた瞬間⸺⸺⸺息が止まった。
目から下は黒いマスクで隠れていて分からないが、温度を感じさせない深いロイヤルブルーの瞳…その色に一瞬で囚われた。
(体が…動かない…な、何か言わないと…)
声を出そうと口を開いた瞬間、「彼女」は窓から出て行ってしまった。
一瞬、またしても固まってしまったが、すぐに窓に駆け寄れば、そこには人影見当たらなかった。
まさか、この出会いが自分のすべてを変えるとなんて
この時は知る由もなかった。
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