2 / 39
出会い
しおりを挟む⸺⸺リヒテンシュタイン帝国
賢帝であられると評判の皇帝陛下の元、今年も社交シーズンが始まった。
今夜はとある伯爵邸での夜会に出席しているセドリックはシャンパンを一口飲み、誰にも気付かれないように少し溜め息を吐く。
セドリック・フォン・ドラッケンベルグ
侯爵家の嫡男であり、父親は近衛騎士団長。
本人も騎士を目指す実力派なのにも関わらず17歳の現在、婚約者の席は空席と独身の令嬢にはよだれものの好物件である。
それ故、こういった夜会に出席すると次期侯爵夫人の座を狙う令嬢やその親達が群がってくるのがいつものパターンになっている。
顔立ちも高位貴族らしく整っている為、幼い頃から令嬢に付きまとわれ、成長したらしたで騎士らしいしっかりとした体つきに今度は未婚・既婚問わずに夫人もこっそりお誘いをかけてくることも増えてきた。
どんなに冷たくあしらおうとも懲りずに寄ってくる事に正直、いや、かなりうんざりしている。
最近ではその冷たい対応と、シルバーブロンドの髪にダークグレーの瞳から連想したのか「銀氷の騎士」などと呼ばれているらしい。
(何だ、その恥ずかしい二つ名は)
何だか、急激に疲れを感じ気分転換にフラッと庭園に出た。
特に宛もなくフラフラ歩いていると酔い覚ましの為か、逢引の為か、ポツポツと人の気配がするので、それを避けるように更に歩くと明らかにプライベート区域に入ってしまったらしい。
マナー違反な為、戻ろうと方向転換をしようとした時、視界の端で何かがよぎった気がした。
すぐにそちらの方向を見たが特別異変はない。
念の為にそちらの方向へ行くと古びた別邸が一つあった。
(気のせいだったか…)
今度こそ、戻ろうと思ったところで何か違和感を覚え、パッと振り返り別邸を見るとほんの少し2階の窓が開いている事に気付いた。
足音を立てないように別邸に近寄り見れば、柱などの塗装は剥げ、明らかに長い事放置されている建物である。
(長い間、放置されているであろうが窓が開けっ放しと言うのはおかしい…)
いくら古くても貴族の別邸だ。放置されていても施錠などはちゃんと管理されているはずだ。
慎重にドアノブをひねると鍵はかかっておらず、扉が開いた。
良くない事と思いつつ扉をゆっくり開けば、キィーーと古びた音を鳴らす。
中に入れば、かなり埃っぽい臭いがし、やはり長い間手入れがされていない事が窺えた。
時折軋む階段を登り目的の部屋の前に近付くとドアが少し開いている。
微かに音がしたのを確認し、思い切って扉を開いた。
部屋の中はちょうど月が雲に隠れて真っ暗であるが、窓の前に誰かが立っている事だけは分かった。
「何者だ?」
屋敷の人間なら逆に「お前こそ誰だ」と言われる側であるが恐らく部屋の中の人物は屋敷の人間ではない。
何故なら、何も感じないからだ。
(いきなり、ドアを開けられ問いかけられたにも関わらず返事もない、驚きや焦りなどの動揺も感じない…只者じゃない)
雲から月が出てきたのか月明かりがその人物と部屋の中を照らす。
(女?)
こちらに背を向けているが黒髪をシニヨンにまとめ、上下共に黒のパンツとノースリーブ。
惜しげなく晒されている腕は白く細長い…セドリックが思いっきり握れば折れてしまいそうだ。
月に照らされた事で諦めたのか首だけをこちらに向けた瞬間
⸺⸺⸺息が止まった。
目から下は黒いマスクで隠れていて分からないが、温度を感じさせない深いロイヤルブルーの瞳…その色に一瞬で囚われた。
(体が…動かない…な、何か言わないと…)
声を出そうと口を開いた瞬間、「彼女」は窓から出て行ってしまった。
一瞬、またしても固まってしまったが、すぐに窓に駆け寄れば、そこには人影見当たらなかった。
まさか、この出会いが自分のすべてを変えるなんて
この時は知る由もなかった。
165
あなたにおすすめの小説
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜
nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。
「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。
だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。
冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。
そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。
「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる