3 / 39
貴族学院
しおりを挟むリヒテンシュタイン帝国の皇族・貴族子女は15~18歳まで必ず帝都にある貴族学院に通わなければならない。
それはこの世界には魔法が存在している事も理由の一因である。
また、「学びの身分の貴賤は問わず」という学院理念により割合は少ないが一部、魔力がある者や優秀な平民も特待生として通っている。
現在、三年生のセドリックも例外なく学院に通っており、学院では第一皇子が会長を務める生徒会で二人いる副会長の一人として活動している。
生徒会長であるレイル・オブ・リヒテンシュタイン第一皇子
同じく副会長であるカスティエール公爵家嫡男のダリウス・フォン・カスティエール
そして、会計のモンタギュー商会長嫡男のアーサン・モンタギュー
書記は令嬢の為、学院内では大体はこの三人と行動する事が多かった。
「きゃっ!」
昼食を食べる為にいつもの四人でダイニング・ホールへ向かおうとしている時だった。
声が聞こえた方へ振り返ると、廊下のど真ん中で一人の令嬢が座り込んでいるのが見えた。
そして、その令嬢の前に立っているのは生徒会書記であるローゼンベルク公爵令嬢のマルガレーテ・フォン・ローゼンベルク嬢⸺同じく副会長をしているダリウスの婚約者でもある。
「す、すみません…」
「アメリア・フォン・ブライトン伯爵令嬢…一体、何に謝罪されているのでしょう?」
そう言うとマルガレーテ嬢はパッと扇子を開き口元を隠し、それを見たアメリアと呼ばれた令嬢はビクッと体を震わせ小さく縮こまった。
栗色の少しウェーブがかった長い髪、こちらからは後ろ姿しか見えない為、分からないが恐らくピンクブラウンの瞳には涙が浮かび、さぞかし庇護欲がそそられるであろう。
(はぁ、またか…)
アメリアとマルガレーテはここ数ヵ月このようなトラブルが絶えないのである。
「わ、わざとじゃないんです…ちょっと急いでいたのですが…その、マルガレーテ様の足に引っかかってしまって…」
「それは、わたくしがわざとあなたを転ばせたとおっしゃりたいのでしょうか?」
アメリアの言葉が不快であると言わんばかりにマルガレーテは目を少し細めた。
鮮やかな赤い巻き髪や少し釣り上がった金色の瞳がキツく見えやすいうえ、身長も少し高めなマルガレーテは公爵令嬢としてのプライドも高く威圧感を与えやすい。
それ故、誤解をされやすいタイプでもある。
「マルガレーテ!そこまでだ!」
さっきまで隣にいたはずのダリウスが突然、大声をあげたかと思えば、いつの間にかアメリアの側に駆け寄っていた。
「ダリウス様…」
ピンクブラウンのうるうるした瞳を見ると鋭い目でダリウスはマルガレーテを睨みつけた。
「事実は分からないが同じ学院生なんだ、謝罪されたなら受け取ればいい話じゃないのか?それに転んだのに手を貸す事もしないなど…」
「ごきげんよう、ダリウス様。いつからご覧になっていたのかは存じませんが、わたくし別に怒っているわけじゃありませんのよ?」
ダリウスが出てきたのを見て扇子をパチンと閉じると貴族令嬢らしく挨拶をし、マルガレーテは淡々と話し始めた。
「そもそも、友人達と歩いておりましたら、いきなり後ろから走ってきて目の前で転ばれたんですもの…何事かと驚きましたわ。かと思えば、いきなり涙目で謝罪をされましたので、一体、何に対して、謝罪されているのか?とお聞きしたまででしてよ?何かわたくしに非がありますでしょうか?」
理路整然とした話を聞き、ダリウスは更に目を細めマルガレーテを睨みつけた…その瞬間、パン!と大きく手を叩く音がし、すべての視線がセドリックの隣に集中した。
「とりあえず、ここまでにしようか?貴重な昼休みの時間が減って昼食が食べられなくなってしまうし、いつまでも廊下を塞ぐわけにはいかないからね」
レイル皇子がにこにことその場にいた生徒達やマルガレーテ達を解散させ、足を痛めたというアメリアをダリウスが保健室まで付き添う事で場を収めた。
「…何か、嫌な予感がするなー」
レイルが小さく吐き出しながら改めてダイニング・ホールへ歩き出した。
(はぁ、まったくだ…)
その後をついて行こうとした時、何かが引っかかった。
パッと後ろを振り向き、よく見たが特に気になる事はなかった。
(気の、せいか…)
セドリックがついてきていない事に気付いたレイルたちが呼ぶ声に返事をしつつ、その場を後にした。
139
あなたにおすすめの小説
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜
nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。
「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。
だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。
冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。
そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。
「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる