20 / 39
カスティエール公爵
しおりを挟む「ダリウスとアーサンがそんなことを?」
ヴァレンシュタイン子爵邸の応接室にはセリーナとセドリック、そして今日はレイルも集まっていた。
セリーナは紅茶を一口飲み、一息つくとレイルを真っ直ぐ見た。
「あの二人はもうダメよ。カスティエール公爵家には確かスペアがいたわよね?」
「あぁ、二つ下だったな」
「なら、そっちを早急に後継者教育させましょう。アーサンは…まぁ、平民だし父親の商会長は商売人らしく切り捨てるでしょうから忠告だけして、ほっときましょうか」
そう言いながら、目を細めると瞳の紫の色が深くなった。
「ついでに今まで、あの愚か者たちに追従していた者たちの当主にも警告するわ。平民に関しては…学院からして貰いましょうか。下位貴族が高位貴族であるマルガレーテを侮辱するなど身分制度の根底が崩れるわ」
いつも通りに冷たい瞳のはずなのに、どこか瞳の奥に怒りのようなものが見えた気がした。
セリーナは皇族貴族の義務や責任に関して、とても重く考えている。
皇族貴族の権利として身分階級による特権や教育など、どう頑張っても越えられない壁が平民との間にはある。
それこそ、貴族は平民を罰という名のもと殺害したとしても罪にはならないのだ。
そして、その身分の差は下位貴族と上位貴族でも、もちろん違う。
その権利を行使する為には義務を負い責任を持たねばならない。
逆を言うなら義務や責任を果たせないならば権利はないのだ。
⸺⸺⸺⸺
「ごきげんよう、カスティエール公爵」
「はい、セリーナ皇女殿下におかれましては、お元気そうで何よりでございます」
カスティエール公爵は胸に手をあて深く礼をした。
先触れなしでやって来たのは息子と同い年の隠された皇女であり、影の皇帝でもあるヴァレンシュタイン女子爵であるセリーナ。
宰相であるカスティエール公爵は、その存在を知る一部の人間である。
「ふふっ、どうぞ座って?」
「ありがとう存じます」
セリーナの向かい側にあるソファーに腰をかけると、カスティエール公爵家の執事が紅茶を出し、それに一口飲んでみせた。
「今日はね、カスティエール公爵にお話があってきたの」
セリーナもティーカップを持ち一口飲むと本題を話し始めた。
「どうやらね、カスティエール小公爵がローゼンベルク公爵令嬢と婚約破棄しようとしているようなの。しかも、ローゼンベルク公爵令嬢に冤罪をきせて」
そう言うとセリーナは鋭い視線で見てきた。
口元は上がっていて一見、微笑んでいるように見えるが、その瞳の紫色は深く冷たい。
宰相として様々な困難を乗り越えてきた自負があり、多少のことでは怯まないが、セリーナからの鋭い視線からは感情が見えず、それがまた恐ろしく全身の毛穴が開いたかのように鳥肌が立った。
「そ、それは…」
「あれは、もはや帝国貴族として失格よ。廃嫡と同時に廃籍なさい。カスティエール公爵家の為にもならないわ」
皇族に見放された貴族に未来はない。
幼い頃からレイルの側近候補として育ち、親の欲目かもしれないが優秀だった。
しかし、学院に入り親の目が届かなくなり、アメリアと出会ってからというもの、どんどん愚かな真似を重ね、いくら注意しても改善されることがなかった。
カスティエール公爵家は代々政治家を輩出し、帝国や皇帝陛下に忠誠を誓っている家門である。
ダリウス一人の為に家門の面目を潰すわけにはいかない。
「承知いたしました。下にもう一人息子がおりますので、そちらをしっかりと教育いたします」
「えぇ、お願いね?」
ダリウスを切り捨てる判断をしたことに満足したセリーナは先程の威圧を引っ込めて、にっこり笑った。
「殿下、他にも処分される者はいらっしゃるのですか?」
「そうね…まぁ、ブライトン伯爵令嬢は確定ね。あとはモンタギュー商会のアーサン・モンタギューもだけど…あれは平民ですからね、父親の商会長に任せようと思うの。商人ですもの、損切りの判断くらいできるでしょう」
セリーナは平然と紅茶を飲みながら答えたが、その後に少し眉を潜めた。
「ただ、問題なのはカスティエール小公爵やブライトン伯爵令嬢に影響された者たちなのよね。さすがに貴族とは何かを理解している者は問題ないのだけど、よくある恋愛小説に酔ってる下位貴族や平民たちはね…」
学院は帝国貴族として相応しいかを見定める場でもある為、カスティエール公爵も学院内でのダリウスの言動を把握しており愚かだと思っていたが、他人から聞かされると愚かさよりも情けなさが勝った。
「息子の言動のせいです。私が手を回しましょうか?」
「そうねぇ…お願いしたいところだけど、あまりにも度が過ぎてるのは処分してしまいたいの」
「でしたら、学院長の方から各家に忠告して貰いましょう。それでも、改善が見られないようでしたら処分しても構わないでしょう」
「そうね…そうしましょうか!では、そちらの手配は任せてよろしいかしら?」
「はい、お任せを…ちなみに息子たちは、いつ処分予定で?」
カスティエール公爵にそう問われると目を細めたが先程とは違い、どこか楽しいいたずらを思いついたかのような表情で答えた。
「それはね、小公爵たちがローゼンベルク公爵令嬢を断罪する時よ」
250
あなたにおすすめの小説
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
愛を騙るな
篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」
「………」
「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」
王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。
「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」
「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」
「い、いや、それはできぬ」
「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」
「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」
途端、王妃の嘲る笑い声が響く。
「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」
【完結】お父様の再婚相手は美人様
すみ 小桜(sumitan)
恋愛
シャルルの父親が子連れと再婚した!
二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。
でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
『お前を愛する事はない』なんて言ってないでしょうね?
あんど もあ
ファンタジー
政略結婚で妻を娶った息子に、母親は穏やかに、だが厳しく訊ねる。
「『お前を愛する事は無い』なんて言ってないでしょうね?」
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる