影の女帝

シエル

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カスティエール公爵

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「ダリウスとアーサンがそんなことを?」



ヴァレンシュタイン子爵邸の応接室にはセリーナとセドリック、そして今日はレイルも集まっていた。

セリーナは紅茶を一口飲み、一息つくとレイルを真っ直ぐ見た。



「あの二人はもうダメよ。カスティエール公爵家には確かスペアがいたわよね?」


「あぁ、二つ下だったな」


「なら、そっちを早急に後継者教育させましょう。アーサンは…まぁ、平民だし父親の商会長は商売人らしく切り捨てるでしょうから忠告だけして、ほっときましょうか」



そう言いながら、目を細めると瞳の紫の色が深くなった。



「ついでに今まで、あの愚か者たちに追従していた者たちの当主にも警告するわ。平民に関しては…学院からして貰いましょうか。下位貴族が高位貴族であるマルガレーテを侮辱するなど身分制度の根底が崩れるわ」



いつも通りに冷たい瞳のはずなのに、どこか瞳の奥に怒りのようなものが見えた気がした。


セリーナは皇族貴族の義務や責任に関して、とても重く考えている。
 

皇族貴族の権利として身分階級による特権や教育など、どう頑張っても越えられない壁が平民との間にはある。

それこそ、貴族は平民を罰という名のもと殺害したとしても罪にはならないのだ。

そして、その身分の差は下位貴族と上位貴族でも、もちろん違う。


その権利を行使する為には義務を負い責任を持たねばならない。

逆を言うなら義務や責任を果たせないならば権利はないのだ。




⸺⸺⸺⸺





「ごきげんよう、カスティエール公爵」


「はい、セリーナ皇女殿下におかれましては、お元気そうで何よりでございます」



カスティエール公爵は胸に手をあて深く礼をした。

先触れなしでやって来たのは息子と同い年の隠された皇女であり、影の皇帝でもあるヴァレンシュタイン女子爵であるセリーナ。

宰相であるカスティエール公爵は、その存在を知る一部の人間である。



「ふふっ、どうぞ座って?」


「ありがとう存じます」



セリーナの向かい側にあるソファーに腰をかけると、カスティエール公爵家の執事が紅茶を出し、それに一口飲んでみせた。



「今日はね、カスティエール公爵にお話があってきたの」


セリーナもティーカップを持ち一口飲むと本題を話し始めた。


「どうやらね、カスティエール小公爵がローゼンベルク公爵令嬢と婚約破棄しようとしているようなの。しかも、ローゼンベルク公爵令嬢に冤罪をきせて」



そう言うとセリーナは鋭い視線で見てきた。

口元は上がっていて一見、微笑んでいるように見えるが、その瞳の紫色は深く冷たい。


宰相として様々な困難を乗り越えてきた自負があり、多少のことでは怯まないが、セリーナからの鋭い視線からは感情が見えず、それがまた恐ろしく全身の毛穴が開いたかのように鳥肌が立った。



「そ、それは…」


「あれは、もはや帝国貴族として失格よ。廃嫡と同時に廃籍なさい。カスティエール公爵家の為にもならないわ」



皇族に見放された貴族に未来はない。

幼い頃からレイルの側近候補として育ち、親の欲目かもしれないが優秀だった。


しかし、学院に入り親の目が届かなくなり、アメリアと出会ってからというもの、どんどん愚かな真似を重ね、いくら注意しても改善されることがなかった。


カスティエール公爵家は代々政治家を輩出し、帝国や皇帝陛下に忠誠を誓っている家門である。

ダリウス一人の為に家門の面目を潰すわけにはいかない。



「承知いたしました。下にもう一人息子がおりますので、そちらをしっかりと教育いたします」


「えぇ、お願いね?」



ダリウスを切り捨てる判断をしたことに満足したセリーナは先程の威圧を引っ込めて、にっこり笑った。



「殿下、他にも処分される者はいらっしゃるのですか?」


「そうね…まぁ、ブライトン伯爵令嬢は確定ね。あとはモンタギュー商会のアーサン・モンタギューもだけど…あれは平民ですからね、父親の商会長に任せようと思うの。商人ですもの、損切りの判断くらいできるでしょう」




セリーナは平然と紅茶を飲みながら答えたが、その後に少し眉を潜めた。



「ただ、問題なのはカスティエール小公爵やブライトン伯爵令嬢に影響された者たちなのよね。さすがに貴族とは何かを理解している者は問題ないのだけど、よくある恋愛小説に酔ってる下位貴族や平民たちはね…」



学院は帝国貴族として相応しいかを見定める場でもある為、カスティエール公爵も学院内でのダリウスの言動を把握しており愚かだと思っていたが、他人から聞かされると愚かさよりも情けなさが勝った。



「息子の言動のせいです。私が手を回しましょうか?」


「そうねぇ…お願いしたいところだけど、あまりにも度が過ぎてるのは処分してしまいたいの」


「でしたら、学院長の方から各家に忠告して貰いましょう。それでも、改善が見られないようでしたら処分しても構わないでしょう」


「そうね…そうしましょうか!では、そちらの手配は任せてよろしいかしら?」


「はい、お任せを…ちなみに息子たちは、いつ処分予定で?」




カスティエール公爵にそう問われると目を細めたが先程とは違い、どこか楽しいいたずらを思いついたかのような表情で答えた。





「それはね、小公爵たちがローゼンベルク公爵令嬢を断罪する時よ」




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