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モンタギュー商会長
しおりを挟むモンタギュー商会はアーサンの祖父が立ち上げ、父親が大きくした商会だった。
今では皇族にも献上品を納めるまでになり高位貴族との繋がりもある。
その中でもアーサンの父はヴァレンシュタイン子爵家を特別視していた。
下位貴族であり息子と同い年でありながら、すでに爵位を継承し、なおかつ財政状況は以前より右肩上がり。
ただの令嬢では無理な話だった。
何度かセリーナとも会い取引をしたこともあるが、その交渉力や存在感は普通の令嬢とは違い、明らかに支配することに慣れている者そのものだった。
それ故、決してヴァレンシュタイン子爵家だけは敵に回してはならない…
ただの勘かもしれないが、ここまで商会を大きくできたのは、その勘が正しかったからに他ならない為に同じ学院に通う息子には、ちゃんと忠告していたのだ。
それが、どうしてだろう…
ヴァレンシュタイン子爵家に突然呼ばれ、目の前には宰相であるカスティエール公爵とセリーナが座っている。
「カスティエール公爵閣下ならびヴァレンシュタイン女子爵様にご挨拶申し上げます…あの、本日はどういったご用件でしょうか?」
宰相であるカスティエール公爵の威厳もさることながら、それ以上にヴァレンシュタイン女子爵であるセリーナの威圧感の方がある。
口元は笑っているはずなのに、その紫色の瞳は冷めており感情が見えない。
「突然呼び出して悪いな。今日は貴殿のご子息について話があったのだ」
「む、息子でございますか?何かありましたでしょうか?」
カスティエール公爵が先に口を開き、呼ばれた原因がアーサンのことだと言われ背中に冷や汗が流れる。
「ふふっ、実はね、こちらにいらっしゃるカスティエール公爵のご子息ととあるご令嬢が不適切なご関係なの。小公爵にはローゼンベルク公爵令嬢という婚約者がいらっしゃるのだけど学院内では、まるで愛し合う恋人たちを引き裂く悪女のように噂されておりましてね…」
ヴァレンシュタイン子爵家の執事が準備した紅茶を飲みながら、おもしろそうにセリーナが続きを語り始めた。
「小公爵とご令嬢の関係は学院内では周知の事実で、そのご令嬢に傾倒している方も多くてね…その中にあなたのご子息であるアーサンさんもいらっしゃるのよ」
そう言うと同時にセリーナは目を細め、感情のない瞳で見た。
「なっ!!」
学院内での小公爵と令嬢の噂は聞いていたが貴族とは違い、そこまで詳細な情報が入ってくるわけではなく、まさか息子が関わっているとは思わなかった。
「どうやら、小公爵はローゼンベルク公爵令嬢に冤罪をきせ婚約破棄をしようとしていらっしゃるようなのだけど、そこにアーサンさんが手を貸しているみたいなのよ…」
そう言いながら困ったような表情を作り、頬に手をあてると小首を傾げた。
「ほ、本当に息子がですか?何かの間違えじゃ…」
「あら、我がヴァレンシュタイン子爵家が情報を誤るとでも?」
信じられない気持ちで、つい疑うかのようなことを口走ってしまった瞬間、一気にセリーナの表情が抜け落ち、射抜くような鋭い瞳で見られ、今まで以上の威圧感を感じた。
その威圧感に耐えきれず、息が上手く吸えなくなり顔は真っ青になった。
「…子爵、抑えてください。気絶させては話ができなくなりますよ」
カスティエール公爵のその言葉に不承不承ではあるが威圧感は消えた。
しかし、まだ恐怖が残っており浅くなった息を必死に整えた。
「ご子息がうちの息子に手を貸しているのは間違いない。今までもローゼンベルク公爵令嬢を蔑ろにしている際にも加勢していたようだ」
ただの平民が、まさか公爵令嬢に無礼を働いてるなどありえない。
本来であれば、無礼打ちされても文句は言えないことだ。
貴族は横繋がりが多く複雑なことも多い。
それなのに公爵令嬢に対して無礼を働くなど、大勢の貴族に対して喧嘩を売っているのと同じで、商会を潰されてもおかしくないことである。
「大変、申し訳ございません!!!ローゼンベルク公爵家にもお詫びに参ります!「いえ、それは後にして欲しいの」え?」
「実は、今回のことはあまりにも影響が大きくてな。下位貴族や平民が格上の公爵令嬢を貶めるなどあってはならないことだ。その為、息子やその令嬢の貴族籍を剥奪することになったのだ」
まさか、そこまでのことになるとは思わず、驚きすぎて言葉が出なかった。
「一応ね、加担しているお家には学院の方から警告して貰う予定なのだけど…でも、愚か者はそれを逆恨みして改めない者も出てくると思うの、そうなれば、その者たちも廃籍や放逐しないといけないでしょ?腐ったりんごがあると他のりんごも腐ってしまうもの」
セリーナは笑顔で話しているが、逆にその笑顔が怖い。
「でね、モンタギュー商会は帝国にとっても必要な歯車の一つと私たちは認識しているの。アーサンさんのことはあなたにお任せするわ…でも、一商会をここまで大きくされたんですもの、お分かりね?」
言外ではあるがアーサンを切り捨てよ、と言っていることは分かった。
いくら大商会になったとは言え、高位貴族や皇族とも繋がりがあり、商会が傾くと従業員だけではなく顧客にも影響が出ることは明らかであった。
アーサンの父親てある商会長は顔を引き締め、姿勢を正した。
「もちろんでございます。私は商人です。不良債権は切り捨てることに異論はごさまいません。ただ、商会の名誉に関わりますので、ローゼンベルク公爵様にお詫びさせて頂きく…」
「そうね…では、私たちが代わりに伝えましょう。もし、お詫びの品を準備するのであれば、それもお渡ししておくわ」
商会長はセリーナからの申し出を有難く受けることにした。
ヴァレンシュタイン子爵邸をあとにし、すぐにローゼンベルク公爵家への謝罪の手紙と品を用意し、アーサンの母とアーサンの弟妹に状況を話した。
アーサンが公爵令嬢に無礼を働いていることに驚き、顔色は真っ青になった。
今までは次期商会長はアーサンと決まっていたのだが、放逐することを伝え、アーサンの弟妹のどちらかを次期商会長に据えることになった。
ダリウスと違い、婚約者がいないアーサンは自分がアメリアの傍にいる事は問題ないと思っているうえ、自分では上手く立ち回っていると考えており、商会長になるという将来が潰えたことなど知る由もなかった。
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