25 / 119
第一章 スチュワート編(一年)
第25話 お城の女子会
しおりを挟む
「えへへ、いらっしゃい皆んな」
ココリナちゃん達の着替えが完了し、いつもの庭園に設けられたテーブルでルテアちゃんとリコちゃんを迎え入れる。
何時もの四人だと屋根付きの東屋でお茶をするのだけれど、今日は総勢8名のお茶会なので、少し開けた場所に臨時で設けられた大きめのテーブルを全員で囲む。
因みにルテアちゃんとミリィの要望で、ルテアちゃんの左右にはカトレアさんと私が席に着き、ミリィの左右にはココリナちゃんとパフィオさんを配置し、リコちゃんの左右にはパフィオさんとリリアナさんが来るよう案内した。
どうもルテアちゃんはカトレアさんともっと仲良くなりたいらしく、ミリィはココリナちゃんとゆっくり話がしたいとの事。
少々王女様と侯爵令嬢に挟まれてしまったパフィオさん表情が、引きつっている気がしないでもないが、ここは唯一の貴族出身者として諦めてもらおう。
「そういえば二学期の最初に、ヴィクトリアとスチュワートで合同のお茶会があると聞きましたが、どうせならこのメンバーで申請いたしませんか?」
お茶会が始まり、ココリナちゃんたちの緊張がようやくほぐれてきた時、リコちゃんがこんな事を言いだしてきた。
「合同のお茶会? そんなのがあるの?」
隣のリリアナさんに尋ねてみるも、本人も聞いた事がないのかただ首をかしげるだけ。情報通のリリアナさんが知らないとなるとスチュワートではまだ告知されていないのだろう。
「聞いてないアリスちゃん? ヴィクトリアの生徒をスチュワートの生徒が接待するんだけれど、事前に私たちが指名しておけばそのまま当日同じグループになれるんだよ」
ルテアちゃんの話だと、学園社交界であった支度役を指名するように、今回もヴィクトリア側から指名する事で、ある程度望み通りの生徒を接待役に選べるんだとか。
ただ今回違うのは一人のご令嬢に対して接待役が一人、というわけではなく、ヴィクトリア側では事前に4~5人のグループを作っておき、最大8名までの指名が出来るという点。接待役の方が人数的に多くなってしまうのは、スチュワートの生徒数がヴィクトリアの生徒数を上回っているからなんだけれど、結果として私たちスチュワート組にはあと2・3人加わる事になる。
「あと2・3人かぁ、ねぇココリナちゃん、誰がいい?」
一瞬イリアさんの顔が浮かぶも、どうやら学園社交界以来避けられてる(怯えられてる?)気がして、未だに話せる機会がない。
「私に振られても……アリスちゃんの事だからどうせイリアさんの事を考えてるんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけれど……」
皆んなにはデイジーさんの名前は伏せ、イリアさんが昔の知り合いから嫌がらせを受けていた事だけ伝えてある。その上で全員から「イリアさんの最大の不運はアリスさんに気に入られたことですわね」と言われれば、まるで私が悪役のようで抗議の一つぐらいは上げたい気持ちだ。
「アリスさんのお気持ちも分かりますが、しばらくそっとしておいた方がよろしいのでは? それに人数が足りなければ先生方が調整してくださるでしょうし」
リリアナさんのいう通りイリアさんを誘ったとしても人数としてはまだ足りない。それにミリィからもしばらく時間をおいた方がいいとも言われているので、今はそっとしておいた方がいいのかもしれない。
「そ、そうですね、無理に誘わなても先生方にお任せした方が……一般の生徒を私たちの中に無理やり巻き込ませるのは余りにも可哀想……」
「カトレアさん酷いです。それじゃまるで私たちが皆んなを巻き込んだみたいじゃないですか」プン。
カトレアさんの言葉を聞いたルテアちゃんが、可愛らしく頬を膨らませながら顔を背ける。
「うん、今のはカトレアさんが悪いね」
「えっ、えーー!?」
本人は恐らく自分に照らし合わせて言ったのだろうが、ルテアちゃんにとっては最近ずっとカトレアさんの事を気にしてたからね。本当に仲良くなりたいんだと私は思っている。
「巻き込む、って点はある意味間違ってないでしょ。元々元凶はアリスなんだし、公爵令嬢が口を尖らせて拗ねたら免疫力がないカトレアは怯えるだけでしょ」
「えっ? ごめんなさいカトレアさん。私、怯えさせるつもりは……」
ミリィの言葉を聞いたルテアちゃんがすぐにカトレアさんに向かって謝るが、私が元凶ってってどういう意味よ。
「それより問題は私たちの方よ、今回は一・二年の女性生徒のみだからアストリア達は誘えない。そうなれば人数的に最低でももう一人誰かを誘わなければいけないんだけど、思い当たる子がいないのよねぇ」
ミリィが言うには三人に近づくご令嬢達はいるが、明らかに別の目的が見え見えなので表面上の付き合いしかしていないらしい。
何も知らない私からすれば誰でもいいじゃないと思うのだけれど、そこには目に見えない駆け引きという言葉が付き纏い、誰か一人を選べば当人は大いに勘違いをし、周りからは抜け駆けをされたと爪弾きにされてしまう。
言われてみれば王女様に上級貴族である公爵家と侯爵家のご令嬢だ。お近づきになれれば今後の未来は明るいだろう。
「他に上級貴族の方っておられないんですか?」
リリアナさんがミリィに尋ねるも、同年代の女性となると誰もいない事は私も知っている。
貴族といっても大半は本家より離れた遠縁出身がほとんどだし、侯爵家以上の上級貴族ともなると、その数は一気に減ってしまう。
「年下ならいるのよ、でも同じ年か一つ上となるとね」
「いっそのこと、このままアリスちゃんが来てくれればいいんだけれど」
「今回ばかりは無理ね。それに下手にアリスを巻き込むのは後々面倒な事になるわよ」
如何に私がミリィ達の友達だからといって、スチュワートの生徒がヴィクトリの生徒に紛れ込むのは些か問題だろう。この間のデイジーさんとの件の様に、私の事をよく思わない生徒も出てくるはずだ。
「まぁ、今から考えたって仕方がないわ。どうせ新学期の事なんだから、それまでに何とかなるでしょ」
ミリィのいう通り、ヴィクトリアの先生方もこんな経験は何度もあるだろうから、最悪の時は何とかしてくれるだろう。
それにスチュワート私が何を言ったところで、この件に関しては力にもなれる気がしない。
ここはミリィ達に頑張ってもらおう、そう他人任せな考えをしていたら
「貴族って大変なんですねー」
偶然静まり返った空間に、どこか間の抜けた声が聞こえてくる。
一瞬私の心の声が漏れたかと思ったが、どうやら放ったのはミリィの隣で優雅っぽくお茶を楽しむココリナちゃん。
って、いつの間にかすっかりこの場に馴染んでない!?
「へぇー、他人事のように言うのはこの口かしら?」
「えっ? え、えぇーー!?」
ちょっとミリィ、怖いって。目が全然笑ってないよ!
「ひ、ひらいれす、みぃひらりはさま(い、痛いです、ミリアリアさま)」
ミリィが隣に座るココリナちゃんのほっぺをつまみ、上へ下へとうにうにし、一頻り涙目姿を堪能して解放する。
ミリィのお仕置きスペシャルその1、『泣き顔に満足するまでうにうにする(命名:アリス)』私も何度か経験があるが、ミリィの満足度次第で時間延長もある恐ろしい技!
まさか私以外に被害者がでるなんて……やるわねココリナちゃん。
「全く、何他人事みたいにいってるのよ」
「で、ですが、私に出来る事なんて……」
ココリナちゃんが薄っすら赤くなった頬を両手で摩りながらミリィに抗議する。
長年付き合いのある私やルテアちゃん達なら分かるだろうが、こういったミリィの行動はある意味信頼しきっている証。恐らくリリアナさんやパフィオさん、それにカトレアさんに対してはやらないだろう。
今日のこの席順だってワザワザ自分の隣にココリナちゃんを指名してきたんだ。ルテアちゃんじゃないが、もっと彼女の事が知りたかったんじゃないだろうか。
「別に何かをしてもらおうなんて期待はしていないわよ。ただ親身になって考える事ぐらいはしなさい。ココリナとはこれからもずっと付き合う事になるんだから」
「ブフッ、ちょっ、な、なんですかそのこれからずっとって!?」
ミリィの言葉を聞いたココリナちゃんが明らかに動揺し始める。
「もう、それはまだ言っちゃダメだよ。正式に決まっていないんだから」
「ア、ア、アリスちゃん!? 何その意味深な言葉は!」
ん~、言っちゃってもいいんだろうか。
実はココリナちゃんをお城のメイドとして迎えようかという話が持ち挙がっている。とは言え、正式採用はスチュワート学園を卒業してからになるのだが、今のところ有力候補として名前が挙がっているんだ。
「おめでとうございます、ココリナさん。まだ入学して間もないと言うのにもうご指名をお受けになられるなんて」
「リリアナさん、まだ決まった訳じゃないよ。お義母様がそんな事を言ってたってだけだから」
喜んでくださるのは嬉しいけれど、正式にオファーが行くのは二年生になってかららしいので、それまでにココリナちゃんより優秀な生徒がいれば変更になる可能性もまだあるらしい。
「まぁ、でもほぼ決まりでしょ。そもそもここ数年、王族付きのメイド自体候補に挙がった者はいないわよ」
「え、えぇーーーーー!!」
あぁーあ、言っちゃったよ。
私たちが暮らすプライベートエリアには、限られた人間しか踏み入る事が許されていない為、今まで知っているだけでもエレノアさんを含む数人しか増えていない。
何と言っても国の最重要なエリアだからね、技量はもちろんの事それ以上に信頼できる人でないと選ばれないんだ。
「誰にも言っちゃダメだからね。メイド長のノエルさんが言ってたけど、学生からいきなりロイヤルメイドになった人はいないんだから」
国がスチュワート学園を運営している関係、毎年お城でも何人かは採用しているらしいが、誰もが最初は本城周りの各施設で経験を積み、その中でも本城で働けるようになるのはほんの僅か。その上、さらに王族付きのロイヤルメイドになれるのは、見習い騎士が経験と武勲を得て部隊長になるほど難しいと言われている。
「喜びなさい、私がキッチリ遊んで……コホン、鍛えてあげるわ」
「ミリィ、今サラッとココリナちゃんで遊ぶとか言いかけなかった?」
「気のせいでしょ、アリスもうれしいでしょ? ココリナが近くにいれば」
「ん~、まぁそれは嬉しいけど。私の目標はミリィの専属メイドだよ、忘れてないよね?」
ココリナちゃんが近くに居るのは嬉しいが、こればかりは幾ら親友でも譲れないからね。
「あぁー、そんな事も言ってたわね」
「ひどーい、もしかして忘れちゃてたの!?」
「でもアリスだって結婚するでしょ? そうなれば自然と嫁いで行っちゃうじゃない」
「うっ、それはそうなんだけれど……」
確かにミリィの言う通り結婚しちゃったらお城を出て行かなきゃいけないんだけどさ。
ミリィに抗議するも逆に切り返されて言葉に詰まってしまう。
「もしかしてアリスちゃんって好きな人がいるの!?」
「ちょっ、ココリナちゃん声が大きいよ」
いきなり大声を出されて思わず聞かれていないかと辺りを見渡してしまう。
「聞こえる訳ないでしょ、ここから訓練所まではかなり離れているわよ」
うぅ、ミリィに諭され小さくなる。
「訓練所? お二人は今騎士団におられるので?」
「そうよ、この夏休みを利用して騎士団の訓練に参加してるんだって」
「だったらいつでも会いに行けるね、アリスちゃん」
「もう、リコちゃんもルテアちゃんもからかわないでよ」
別に声を出して好きだと言った訳ではないが、なぜだがこの三人には私がジークの事を好きだという事がバレてしまっている。
昔、まだ私の両親が生きていた頃、一度だけミリィに連れられお城を抜け出した事があった。最初は見るもの聞くものに胸がワクワクしていたが、幼い子供に帰り道を覚えられはずもなく、当然のごとく迷子になった。
見上げればお城が見えているのに、入り口がわからずただ泣き出しそうなのを必死に我慢し、ミリィと一緒にひたすら彷徨ったが、結局帰り道がわからず挫けそうになった頃、偶然出会ったのが近くで遊んでいたジークとアストリア。
当時はまだ知り合ってすらいなかったのに、二人は私たちがお城まで帰りたいと伝えれば、何故か王女であるミリィも知らない道から連れ帰ってくれ、無事にお城へと帰る事が出来たのだが、待っていたのは二人の両親によるお説教の嵐。
後日ジークとアストリアに再会する事になるのだが、その時には既に淡い恋心を抱いてしまっていたというわけ。
因みにミリィはアストリアに惹かれちゃったらしいのだけど、本人は未だに否定している。
「もしかしてアリスちゃんの好きな人ってこの間学園社交界で一緒にいた人?」
「そうよ、アストリアと違って無口の男性がいたでしょ? そっちがアリスの好きなジークよ」
「参考までにミリィちゃんはアストリアの方が好きなんだよ」
「ブフッ、ちょっ、ルテア! 私はアストリアの事なんて何とも思っていないってるでしょ!」
「隠さなくてもよろしいですわよ、私たちの間ではバレバレですわ」
「コラ、リコ! ここにはココリナ達もいるのよ、って、そうじゃなくて、もう、私をからかうなぁーー!」
この日、お城の庭園から楽しそうな女性達の話し声が続いていたという。
ココリナちゃん達の着替えが完了し、いつもの庭園に設けられたテーブルでルテアちゃんとリコちゃんを迎え入れる。
何時もの四人だと屋根付きの東屋でお茶をするのだけれど、今日は総勢8名のお茶会なので、少し開けた場所に臨時で設けられた大きめのテーブルを全員で囲む。
因みにルテアちゃんとミリィの要望で、ルテアちゃんの左右にはカトレアさんと私が席に着き、ミリィの左右にはココリナちゃんとパフィオさんを配置し、リコちゃんの左右にはパフィオさんとリリアナさんが来るよう案内した。
どうもルテアちゃんはカトレアさんともっと仲良くなりたいらしく、ミリィはココリナちゃんとゆっくり話がしたいとの事。
少々王女様と侯爵令嬢に挟まれてしまったパフィオさん表情が、引きつっている気がしないでもないが、ここは唯一の貴族出身者として諦めてもらおう。
「そういえば二学期の最初に、ヴィクトリアとスチュワートで合同のお茶会があると聞きましたが、どうせならこのメンバーで申請いたしませんか?」
お茶会が始まり、ココリナちゃんたちの緊張がようやくほぐれてきた時、リコちゃんがこんな事を言いだしてきた。
「合同のお茶会? そんなのがあるの?」
隣のリリアナさんに尋ねてみるも、本人も聞いた事がないのかただ首をかしげるだけ。情報通のリリアナさんが知らないとなるとスチュワートではまだ告知されていないのだろう。
「聞いてないアリスちゃん? ヴィクトリアの生徒をスチュワートの生徒が接待するんだけれど、事前に私たちが指名しておけばそのまま当日同じグループになれるんだよ」
ルテアちゃんの話だと、学園社交界であった支度役を指名するように、今回もヴィクトリア側から指名する事で、ある程度望み通りの生徒を接待役に選べるんだとか。
ただ今回違うのは一人のご令嬢に対して接待役が一人、というわけではなく、ヴィクトリア側では事前に4~5人のグループを作っておき、最大8名までの指名が出来るという点。接待役の方が人数的に多くなってしまうのは、スチュワートの生徒数がヴィクトリアの生徒数を上回っているからなんだけれど、結果として私たちスチュワート組にはあと2・3人加わる事になる。
「あと2・3人かぁ、ねぇココリナちゃん、誰がいい?」
一瞬イリアさんの顔が浮かぶも、どうやら学園社交界以来避けられてる(怯えられてる?)気がして、未だに話せる機会がない。
「私に振られても……アリスちゃんの事だからどうせイリアさんの事を考えてるんでしょ?」
「まぁ、そうなんだけれど……」
皆んなにはデイジーさんの名前は伏せ、イリアさんが昔の知り合いから嫌がらせを受けていた事だけ伝えてある。その上で全員から「イリアさんの最大の不運はアリスさんに気に入られたことですわね」と言われれば、まるで私が悪役のようで抗議の一つぐらいは上げたい気持ちだ。
「アリスさんのお気持ちも分かりますが、しばらくそっとしておいた方がよろしいのでは? それに人数が足りなければ先生方が調整してくださるでしょうし」
リリアナさんのいう通りイリアさんを誘ったとしても人数としてはまだ足りない。それにミリィからもしばらく時間をおいた方がいいとも言われているので、今はそっとしておいた方がいいのかもしれない。
「そ、そうですね、無理に誘わなても先生方にお任せした方が……一般の生徒を私たちの中に無理やり巻き込ませるのは余りにも可哀想……」
「カトレアさん酷いです。それじゃまるで私たちが皆んなを巻き込んだみたいじゃないですか」プン。
カトレアさんの言葉を聞いたルテアちゃんが、可愛らしく頬を膨らませながら顔を背ける。
「うん、今のはカトレアさんが悪いね」
「えっ、えーー!?」
本人は恐らく自分に照らし合わせて言ったのだろうが、ルテアちゃんにとっては最近ずっとカトレアさんの事を気にしてたからね。本当に仲良くなりたいんだと私は思っている。
「巻き込む、って点はある意味間違ってないでしょ。元々元凶はアリスなんだし、公爵令嬢が口を尖らせて拗ねたら免疫力がないカトレアは怯えるだけでしょ」
「えっ? ごめんなさいカトレアさん。私、怯えさせるつもりは……」
ミリィの言葉を聞いたルテアちゃんがすぐにカトレアさんに向かって謝るが、私が元凶ってってどういう意味よ。
「それより問題は私たちの方よ、今回は一・二年の女性生徒のみだからアストリア達は誘えない。そうなれば人数的に最低でももう一人誰かを誘わなければいけないんだけど、思い当たる子がいないのよねぇ」
ミリィが言うには三人に近づくご令嬢達はいるが、明らかに別の目的が見え見えなので表面上の付き合いしかしていないらしい。
何も知らない私からすれば誰でもいいじゃないと思うのだけれど、そこには目に見えない駆け引きという言葉が付き纏い、誰か一人を選べば当人は大いに勘違いをし、周りからは抜け駆けをされたと爪弾きにされてしまう。
言われてみれば王女様に上級貴族である公爵家と侯爵家のご令嬢だ。お近づきになれれば今後の未来は明るいだろう。
「他に上級貴族の方っておられないんですか?」
リリアナさんがミリィに尋ねるも、同年代の女性となると誰もいない事は私も知っている。
貴族といっても大半は本家より離れた遠縁出身がほとんどだし、侯爵家以上の上級貴族ともなると、その数は一気に減ってしまう。
「年下ならいるのよ、でも同じ年か一つ上となるとね」
「いっそのこと、このままアリスちゃんが来てくれればいいんだけれど」
「今回ばかりは無理ね。それに下手にアリスを巻き込むのは後々面倒な事になるわよ」
如何に私がミリィ達の友達だからといって、スチュワートの生徒がヴィクトリの生徒に紛れ込むのは些か問題だろう。この間のデイジーさんとの件の様に、私の事をよく思わない生徒も出てくるはずだ。
「まぁ、今から考えたって仕方がないわ。どうせ新学期の事なんだから、それまでに何とかなるでしょ」
ミリィのいう通り、ヴィクトリアの先生方もこんな経験は何度もあるだろうから、最悪の時は何とかしてくれるだろう。
それにスチュワート私が何を言ったところで、この件に関しては力にもなれる気がしない。
ここはミリィ達に頑張ってもらおう、そう他人任せな考えをしていたら
「貴族って大変なんですねー」
偶然静まり返った空間に、どこか間の抜けた声が聞こえてくる。
一瞬私の心の声が漏れたかと思ったが、どうやら放ったのはミリィの隣で優雅っぽくお茶を楽しむココリナちゃん。
って、いつの間にかすっかりこの場に馴染んでない!?
「へぇー、他人事のように言うのはこの口かしら?」
「えっ? え、えぇーー!?」
ちょっとミリィ、怖いって。目が全然笑ってないよ!
「ひ、ひらいれす、みぃひらりはさま(い、痛いです、ミリアリアさま)」
ミリィが隣に座るココリナちゃんのほっぺをつまみ、上へ下へとうにうにし、一頻り涙目姿を堪能して解放する。
ミリィのお仕置きスペシャルその1、『泣き顔に満足するまでうにうにする(命名:アリス)』私も何度か経験があるが、ミリィの満足度次第で時間延長もある恐ろしい技!
まさか私以外に被害者がでるなんて……やるわねココリナちゃん。
「全く、何他人事みたいにいってるのよ」
「で、ですが、私に出来る事なんて……」
ココリナちゃんが薄っすら赤くなった頬を両手で摩りながらミリィに抗議する。
長年付き合いのある私やルテアちゃん達なら分かるだろうが、こういったミリィの行動はある意味信頼しきっている証。恐らくリリアナさんやパフィオさん、それにカトレアさんに対してはやらないだろう。
今日のこの席順だってワザワザ自分の隣にココリナちゃんを指名してきたんだ。ルテアちゃんじゃないが、もっと彼女の事が知りたかったんじゃないだろうか。
「別に何かをしてもらおうなんて期待はしていないわよ。ただ親身になって考える事ぐらいはしなさい。ココリナとはこれからもずっと付き合う事になるんだから」
「ブフッ、ちょっ、な、なんですかそのこれからずっとって!?」
ミリィの言葉を聞いたココリナちゃんが明らかに動揺し始める。
「もう、それはまだ言っちゃダメだよ。正式に決まっていないんだから」
「ア、ア、アリスちゃん!? 何その意味深な言葉は!」
ん~、言っちゃってもいいんだろうか。
実はココリナちゃんをお城のメイドとして迎えようかという話が持ち挙がっている。とは言え、正式採用はスチュワート学園を卒業してからになるのだが、今のところ有力候補として名前が挙がっているんだ。
「おめでとうございます、ココリナさん。まだ入学して間もないと言うのにもうご指名をお受けになられるなんて」
「リリアナさん、まだ決まった訳じゃないよ。お義母様がそんな事を言ってたってだけだから」
喜んでくださるのは嬉しいけれど、正式にオファーが行くのは二年生になってかららしいので、それまでにココリナちゃんより優秀な生徒がいれば変更になる可能性もまだあるらしい。
「まぁ、でもほぼ決まりでしょ。そもそもここ数年、王族付きのメイド自体候補に挙がった者はいないわよ」
「え、えぇーーーーー!!」
あぁーあ、言っちゃったよ。
私たちが暮らすプライベートエリアには、限られた人間しか踏み入る事が許されていない為、今まで知っているだけでもエレノアさんを含む数人しか増えていない。
何と言っても国の最重要なエリアだからね、技量はもちろんの事それ以上に信頼できる人でないと選ばれないんだ。
「誰にも言っちゃダメだからね。メイド長のノエルさんが言ってたけど、学生からいきなりロイヤルメイドになった人はいないんだから」
国がスチュワート学園を運営している関係、毎年お城でも何人かは採用しているらしいが、誰もが最初は本城周りの各施設で経験を積み、その中でも本城で働けるようになるのはほんの僅か。その上、さらに王族付きのロイヤルメイドになれるのは、見習い騎士が経験と武勲を得て部隊長になるほど難しいと言われている。
「喜びなさい、私がキッチリ遊んで……コホン、鍛えてあげるわ」
「ミリィ、今サラッとココリナちゃんで遊ぶとか言いかけなかった?」
「気のせいでしょ、アリスもうれしいでしょ? ココリナが近くにいれば」
「ん~、まぁそれは嬉しいけど。私の目標はミリィの専属メイドだよ、忘れてないよね?」
ココリナちゃんが近くに居るのは嬉しいが、こればかりは幾ら親友でも譲れないからね。
「あぁー、そんな事も言ってたわね」
「ひどーい、もしかして忘れちゃてたの!?」
「でもアリスだって結婚するでしょ? そうなれば自然と嫁いで行っちゃうじゃない」
「うっ、それはそうなんだけれど……」
確かにミリィの言う通り結婚しちゃったらお城を出て行かなきゃいけないんだけどさ。
ミリィに抗議するも逆に切り返されて言葉に詰まってしまう。
「もしかしてアリスちゃんって好きな人がいるの!?」
「ちょっ、ココリナちゃん声が大きいよ」
いきなり大声を出されて思わず聞かれていないかと辺りを見渡してしまう。
「聞こえる訳ないでしょ、ここから訓練所まではかなり離れているわよ」
うぅ、ミリィに諭され小さくなる。
「訓練所? お二人は今騎士団におられるので?」
「そうよ、この夏休みを利用して騎士団の訓練に参加してるんだって」
「だったらいつでも会いに行けるね、アリスちゃん」
「もう、リコちゃんもルテアちゃんもからかわないでよ」
別に声を出して好きだと言った訳ではないが、なぜだがこの三人には私がジークの事を好きだという事がバレてしまっている。
昔、まだ私の両親が生きていた頃、一度だけミリィに連れられお城を抜け出した事があった。最初は見るもの聞くものに胸がワクワクしていたが、幼い子供に帰り道を覚えられはずもなく、当然のごとく迷子になった。
見上げればお城が見えているのに、入り口がわからずただ泣き出しそうなのを必死に我慢し、ミリィと一緒にひたすら彷徨ったが、結局帰り道がわからず挫けそうになった頃、偶然出会ったのが近くで遊んでいたジークとアストリア。
当時はまだ知り合ってすらいなかったのに、二人は私たちがお城まで帰りたいと伝えれば、何故か王女であるミリィも知らない道から連れ帰ってくれ、無事にお城へと帰る事が出来たのだが、待っていたのは二人の両親によるお説教の嵐。
後日ジークとアストリアに再会する事になるのだが、その時には既に淡い恋心を抱いてしまっていたというわけ。
因みにミリィはアストリアに惹かれちゃったらしいのだけど、本人は未だに否定している。
「もしかしてアリスちゃんの好きな人ってこの間学園社交界で一緒にいた人?」
「そうよ、アストリアと違って無口の男性がいたでしょ? そっちがアリスの好きなジークよ」
「参考までにミリィちゃんはアストリアの方が好きなんだよ」
「ブフッ、ちょっ、ルテア! 私はアストリアの事なんて何とも思っていないってるでしょ!」
「隠さなくてもよろしいですわよ、私たちの間ではバレバレですわ」
「コラ、リコ! ここにはココリナ達もいるのよ、って、そうじゃなくて、もう、私をからかうなぁーー!」
この日、お城の庭園から楽しそうな女性達の話し声が続いていたという。
0
あなたにおすすめの小説
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~
オレンジ方解石
ファンタジー
恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。
世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。
アウラは二年後に処刑されるキャラ。
桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー
聖女やめます……タダ働きは嫌!友達作ります!冒険者なります!お金稼ぎます!ちゃっかり世界も救います!
さくしゃ
ファンタジー
職業「聖女」としてお勤めに忙殺されるクミ
祈りに始まり、一日中治療、時にはドラゴン討伐……しかし、全てタダ働き!
も……もう嫌だぁ!
半狂乱の最強聖女は冒険者となり、軟禁生活では味わえなかった生活を知りはっちゃける!
時には、不労所得、冒険者業、アルバイトで稼ぐ!
大金持ちにもなっていき、世界も救いまーす。
色んなキャラ出しまくりぃ!
カクヨムでも掲載チュッ
⚠︎この物語は全てフィクションです。
⚠︎現実では絶対にマネはしないでください!
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる