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終 章 ヴィクトリア編
第109話 策略と誤算の仮面舞踏会
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ガヤガヤ、ガヤガヤ
「ねぇ、あのお姿はジーク様じゃない?」
「さぁ、どうかしら? 仮面越しじゃわからないわね」
「あの方は絶対アストリア様よ」
「ホントね、私気づかないふりをして近づこうかしら」
「もしかしてあれってデイジー様? 相変わらず悪趣味で派手なドレスね。いい加減ご自身の感性をご理解されればよろしいのに」
「ちょうどいい機会ですから、ヒールでデイジー様の足でも踏んできますわ」
ロベリア達が主催する仮面舞踏会当日。彼方此方で生徒達が楽しそうに談笑する姿が見られる。
いつもなら身分の違いから近寄れない男子生徒や女子生徒にお近づきになろうとする者、自分の正体が誰だかわからないのを利用して普段の恨みを晴らそうとする者。
レガリアではほとんど聞いたことがない仮面をつけてのパーティー。噂話などでは聞いたことはあったが、まさか自分がその出席者なる日が来ようとは思ってなかったことに、参加している生徒達からの評判は至って良好。私やアリスもそれなりにパーティーを楽しんでいる。
「それにしてもロベリアは自分を隠す気があるのかしら?」
遠目から見てもハッキリと分かるロベリアの姿。確かにマスクはつけているが特徴とも言える銀髪に、レガリアではすっかり過去の産物となった両肩パフ付きの派手なドレス。その上男性陣の視線でも浴びたいのかスカートには何故かスリットまでもが入っている。
余りにもミスマッチなデザインにその貧相な思考を疑いたくもなるが、少なくともスリットから見え隠れする生足を、チラチラと覗き見している男性もいるので、あながちロベリアの狙いも間違っていないのかもしれない。あくまでも男性視点だけではるのだが。
「さぁ、どうなんでしょうか。デイジーと同様、バカの考えることはサッパリわかりませんわね」
私の問いかけにバッサリと切り裂くリコの答え。私たちの中じゃ生足を見せるなんてまず有りえないからね。礼儀と作法に厳しいリコにすれば理解したいとも思わないのだろう。
デイジーもロベリア程ではないがドレスに無意味なリボンや花の装飾を施し、さらに胸元を強調するかの如く『これでもか!』と言うほど盛りに盛った姿。思わず『あんたの胸はそこまで大きくないでしょ!』とツッコミの入れたいのは私だけではないだろう。それでも生足を見せていないだけロベリアよりかはマシかもしれないが、一人完全に浮いているのは間違いない。
それにしてもデイジーってあそこまでドレスの趣味が悪かったかしら? 胸もわざわざパッとを入れるほど小さくもなかった筈なんだけれど。
「そんな事より二人とも上手く化けましたわね」
「えへへ、どうかなぁ?」
「えぇ、よくお似合いですわ」
リコの言葉に気分を良くしたのか、アリスが私たちの前でクルッと回ってみせる。
現在アリスの姿はレガリア王家特有のブロンドの髪(ウィッグ着用)に、淡いブルーを基調としたAライン型のドレス。一方私の髪型はというと、銀に輝くロングヘア(同じくウィッグ着用)にピンクを基調としたプリンセスラインのドレス。もちろん二人とも顔がわからないよう、眼の周りだけを覆うマスクを着用している。
つまり何も知らない者からすればアリスは私に見えて、私はアリスに見える。
今回のこのパーティー。ロベリアが何かを企んでいるのじゃないかと考えた私たちは、ロベリアが最も警戒するであろう私をアリスに変装させ、ライナスから守らなければならないアリスを私が演じる。
これならば少なくともライナスからは確実にアリスを守れるだろう。
ロベリアが保有していた例の笛は、試合のどさくさみ紛れて二つとも破壊しておいた。もし三つ目が存在しているのであれば脅威だが、あれ以来私へ近づこうともしていないので、当面警戒するのはライナスのみ。
そう考えた私たちは私とアリスの入れ替えを閃いたのだ。
これならばライナスが離れてしまったタイミングでアリスへと絡んできても、私一人で対処できるし、アリスの方はリコとルテアでガッチリとかためているので問題ない。
まぁ、マスクをつけているといってもリコ&ルテアの存在で見分けがつくだろうから、リスクを背負ってまでは王女である私(アリス)に気安く近づいてくる者はまずいないだろう。
ロベリアのことだからどうせマスクをつけていても見分けがつくだろう思っているのだろうが、ウィッグとドレスで変装しておけばよほど親しい者でない限り見分けはつかない筈だ。
「ねぇミリィ……じゃなかった、アリス。この靴、踵が高すぎて歩きにくいよ……わね」
「我慢してよぉ、私だってこんなフリフリのドレスを着るのは恥ずかしいんだからぁ」
ゾゾゾっ。仕方がないとはいえ、自分で放った口調に思わず背筋に虫酸が走るような悪寒を感じる。
「ねぇリコちゃん。全然アリスちゃん(偽)が可愛くないんだけれど」
「奇遇ですわね。私も丁度同じ事を考えてましたの」
思わずギラリと二人を睨めるけるが、リコにアリスはそんな顔をしませんわと言われ、急いで笑顔を取り繕う。
おにょれ、気持ち悪いことは私が一番わかているわよ! 二人とも、後で覚えておきなさいよ!!
「イタタ、あの女、後で覚えておきなさいよ」
仮面舞踏会当日、練りに練ったミリアリア誘拐計画。あの女を油断させるためにパーティーまではわざと近寄らず、ジーク様へのアプローチも控えていたがそれも今日まで。
この計画が成功し聖剣を手にした私ならば、国民からも讃え愛される女王の未来がが約束されるというもの。その後で先ほど私の足を踏みつけた女や気に入らない女達を全て排除し、ジーク様とのラブラブ生活が……。
「どうしたロベリア? 足でも怪我したのか?」
「お兄ぃ……コホン、使用人その一。間違ってもらってはこまりますわ、私の名前はデイジーですわよ。おほほほほ」
「おぉ、そうだったそうだった」
私の注意にまったく悪びれた様子をみせない使用人に扮したお兄様。
幸い近くに人の気配はないし、聞き耳を立てられるような場所でもないので、ワザワザ入れ替わっっているデージーを演じる必要もないのだけれど、ここは気分的にも最後まで演じきった方がいいだろう。
今回私たちが立てた計画。それは私のドレスを着せた偽物を用意し、ミリアリア達の視点を偽物へと移している間に、一人にミリアリアを人知れず誘拐するといったもの。
今頃会場では私に扮したデージーがわざとミリアリアを挑発しているところだろう。ダンスにトークに、私(偽)の魅力に引き付けられたバカな男達が近寄り、ミリアリアの悪名をここぞとばかりに言いふらす。
仮面をつけていることで、普段ならば言えないことも気兼ねなく話すこともできた上に、正体も隠すことができる一石二鳥。
デイジーには私に似せるように変身させたし、私のとっておきのドレスも貸し与えた。これで落ちない男はいないだろう。
そして止めはあの女がもっとも大切にしているアストリアをダンスで魅了し、嫉妬にくるったミリアリアが突っかかって来たところで、デイジーに扮した私があの女に近寄り、ジュースが入ったグラスをドレスにむかって傾きかける。『嫉妬にくるった女性ほど醜いものはありませんよ』と呟けば、流石にあの女も悔し涙を溜めながら一人会場から逃げ出すだろう。そこを警備兵に扮したお兄様達が確保し、薬で眠らせた後に箱に冷たミリアリアを馬車で運びだす手筈になっている。
うふ、うふふふ、我ながら完璧な計画よ!
ヒソヒソヒソ
パーティーも中盤に差し掛かった頃、会場内に広まる妙な話が私たちの元へと届いてくる。
「おい、聞いたか? ミリアリア様の胸」
「あぁ、パット5枚入りって話だろう? あの大きさでパット5枚も入れたら元の大きさはぺたんこなんじゃねぇか?」
「おい、何処に本人がいるかわからねぇんだ。迂闊なことを言うんじゃねぇ」
本人達は周りを気遣っているつもりなのだろうが、マスクを付けていることで安心しているのか、後ろにいる私たちの元に話し声が聞こえて来る。
「妙ですわね。ミリィがペチャパイだなんて別段珍しくもないでしょうに」
「そうだよね、あの大きさでパット5枚だなんて普通考えなくても分かるはずなだよ」
会場内に流れる話に、リコとルテアが確認し合うよう話している。
コラコラ、普段は気にしていないように振舞ってはいるが、私にも乙女心というのが存在しているのよ。
ここで二人に対して文句の一つも言ってやりたいが、生憎今の私はアリスの姿。極力バレないよう声出しを控えているために、反論らしい反論が言えずにいる。
「出処は多分ロベリアでしょうね。この前の仕返しとばかりに自分をミリィを置き換えて嘘を吹き込んでるんでしょ」
マスクを付けているからといっても、ペチャパイ情報を流している時点でロベリア本人が言っているといっているようなもの。
今すぐ詰め寄って締め上げたい気持ちもあるが、アリスに変装している私は行くわけにもいかず、私に変装しているアリスを向かわせるわけにもいかない。
まぁ、この件は後日仕返しをするという事でやり過ごすのが一番だろう。だけどロベリアはそんな私をみて更なる挑発を見せつけてきた。
「あら、マスク姿でどちら様か分かりませんが、よろしければ私と一曲ダンスを踊ってくださりませんか? うふふ」
むむむ。
そう言ってロベリアが声を掛けたのはマスク姿でも一目で分かるジーク。その隣にアストリアがいるのだから間違いないだろう。
隣にいるアリスが発する黒いオーラが見えなくもないが、ここは気にしないよう言い聞かせる。
仮面舞踏会本来の醍醐味は一種の無礼講だからね。それに女性からのダンスの誘いを断るのは、相手側に恥をかかせるようなもの。これといった理由もなく断るのは、ジークのような紳士には出来ない行為だろう。
でも変ね。私を挑発したいならジークではなくアストリアの方をダンスに誘うんじゃない? 二人の見分けがつかなかったという事はないだろし、単純に自分が踊りたい相手を強引に誘ったという事かしら?
「むむむ」
この様子を見ていたアリスの機嫌がますますと悪くなっていく。
「落ち着きなさいって、ジークが自分以外の女性とダンスを踊るなんて珍しくもないでしょ。そんなことで腹を立てていたらこの先やっていけないわよ」
「ふん」
はぁ、まったくもう。相変わらず中身は子供なんだから。
ダンスは言わば社交の挨拶的なようなもの。まぁ、ジークはそれほどダンスを好むタイプではないが、それでもパーティーとなれば公爵家の一人としておいそれとダンスの誘いは断れない。そのぐらい淑女教育をしてきたアリスなら理解しているだろうに……。やはり相手がロベリアと言うのが気に入らないのかしら。
「それにしてもロベリアってあんなに背が高かったかしら?」
「えっ?」
リコの何気ない発言に、思わず私の口から疑問の言葉が飛び出す。
そういえば確かに背が少し伸びたような気もする。
今までは気付かなかったけれど、ジークと並んで踊る姿を見るといつもより背が高く見えなくもない。だけど
「どうせ見栄を張って高いヒールを履いてるんだよ。ふん」
アリスにして非常に珍しく他人を誹謗する言葉が飛び出す。
「どうしたんですの? アリスらしくありませんわよ」
私が思った感情を、リコが代弁するよう小さな声でアリスへと問いかける。
「なによ! 私らしくないってどういうことよ」
「えっ? いえ、私はただいつものアリスならそのような事は……」
リコにしてみればまさかアリスから反論されるとは思ってもみなかったのだろう。いつものように自信あふれるリコが明らかに動揺し、思わず言葉を詰まらせてしまう。
「いつもの私ってなに? 少し非難しただけでなんで怒られるの!」
「い、いえ、別に非難だなんて……私はただアリスにしては珍しいと……」
「私だって人間だよ、好きな人もいれば嫌いな人もいるよ。それがダメなの!」
徐々にヒートアップしていくアリスに対しますますタジタジになっていくリコの姿。
リコの、いや私たちの最大の弱点は恐らくアリスであろう。この三人は全員が全員、幼少時代になんらかの負の感情をアリスに救われている。それが分かっているから大切に、時には厳しく共に成長してきた。
そのアリスが初めて負の感情を大きく表に出して反論してきたのだ。
ある意味アリスが見せる感情は間違ってはいないのだろう。だけどこの先未来の聖女となるアリスにとって、感情を抑える状況はますます増えていく。リコもそれが分かっているだけに厳しくしているのだ。たとえ自分が悪役に徹したとしても。
「落ち着いてアリスちゃん。アリスちゃんの気持ちもわかるけれど、ここはリコちゃんの言う方が正しいと思うよ。ジークとダンスを踊りたいならこの後踊ればいいじゃない」
「なんで、なんでルテアちゃんまでそういうの? なんで私の気持ちを誰もわかってくれないの?」
仲裁に入ったつもりなのだろうが、ルテアの言葉にアリスはうっすら涙を浮かべで反論する。
「落ち着きなさいって。二人に当たってもしかたがないでしょ?」
アリスがここまで感情を逆なでする事は珍しい。いや、初めてと言ってもいいかもしれない。
以前何かの本で読んだことがあるが、自分に近しい存在とは水と油のように交わる事はないんだとか。
ロベリアは確かにアリスに似ている。特徴的な顔の部分が似ているのは仕方がないにしろ、根本的に性格の根のような部分はほぼ同じといってもよい。
だからついつい自分の鏡のようなロベリアに対し、ここまで反抗的になってしまうのではないだろうか。
「ミリィまでもがそんな事を言うんだ……」
「私は私よ。アリスの味方でもあり、リコやルテアの味方でもあるの。そんな大切な友達が言い争っていたら止めに入るのは当然でしょ」
アリス自信も二人の方が正しいとは理解できているのだろう。それでも初めて湧き上がる嫉妬の感情がうまくコントロールできないのだ。
「取りあえず全員少し時間を置いた方がいいわね。控室にココリナとエレノアがいるから少し休んできなさい」
「うん、そうだね、ごめん」
そう言い残すとアリスは一人会場を後にしようとする。
「あっ、私も一緒に」
「ごめんルテアちゃん、今は一人で行くね」
「でも……」
アリスを一人で行かすのを心配したのだろう。ルテアが慌てて後を追おうとするが、アリスはその行動をも拒んでしまう。
「大丈夫よルテア。ここは学園内だし、控室にはココリナとエレノアもいるわ。それにアリスにも一人になる時間があった方がいいでしょ」
「う、うん。そうだね」
「その代わり、ちゃんとココリナ達のところへいくのよ。それで心が落ち着いたらここに戻っていらっしゃい」
心が幼いといってもアリスはもう子供ではないのだ。リコやルテアからすればアリスはいつまでたっても幼いアリスのままだが、私の知るアリスはすでに大人への、真の聖女への階段を登り始めている。そうでなければあんな物を……
「ありがとうミリィ。それじゃ行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい。ちゃんと戻ってくるのよ」
最後に私を心配させないよう精一杯の作り笑いをみせて、アリスは会場を後にした。
「ねぇ、あのお姿はジーク様じゃない?」
「さぁ、どうかしら? 仮面越しじゃわからないわね」
「あの方は絶対アストリア様よ」
「ホントね、私気づかないふりをして近づこうかしら」
「もしかしてあれってデイジー様? 相変わらず悪趣味で派手なドレスね。いい加減ご自身の感性をご理解されればよろしいのに」
「ちょうどいい機会ですから、ヒールでデイジー様の足でも踏んできますわ」
ロベリア達が主催する仮面舞踏会当日。彼方此方で生徒達が楽しそうに談笑する姿が見られる。
いつもなら身分の違いから近寄れない男子生徒や女子生徒にお近づきになろうとする者、自分の正体が誰だかわからないのを利用して普段の恨みを晴らそうとする者。
レガリアではほとんど聞いたことがない仮面をつけてのパーティー。噂話などでは聞いたことはあったが、まさか自分がその出席者なる日が来ようとは思ってなかったことに、参加している生徒達からの評判は至って良好。私やアリスもそれなりにパーティーを楽しんでいる。
「それにしてもロベリアは自分を隠す気があるのかしら?」
遠目から見てもハッキリと分かるロベリアの姿。確かにマスクはつけているが特徴とも言える銀髪に、レガリアではすっかり過去の産物となった両肩パフ付きの派手なドレス。その上男性陣の視線でも浴びたいのかスカートには何故かスリットまでもが入っている。
余りにもミスマッチなデザインにその貧相な思考を疑いたくもなるが、少なくともスリットから見え隠れする生足を、チラチラと覗き見している男性もいるので、あながちロベリアの狙いも間違っていないのかもしれない。あくまでも男性視点だけではるのだが。
「さぁ、どうなんでしょうか。デイジーと同様、バカの考えることはサッパリわかりませんわね」
私の問いかけにバッサリと切り裂くリコの答え。私たちの中じゃ生足を見せるなんてまず有りえないからね。礼儀と作法に厳しいリコにすれば理解したいとも思わないのだろう。
デイジーもロベリア程ではないがドレスに無意味なリボンや花の装飾を施し、さらに胸元を強調するかの如く『これでもか!』と言うほど盛りに盛った姿。思わず『あんたの胸はそこまで大きくないでしょ!』とツッコミの入れたいのは私だけではないだろう。それでも生足を見せていないだけロベリアよりかはマシかもしれないが、一人完全に浮いているのは間違いない。
それにしてもデイジーってあそこまでドレスの趣味が悪かったかしら? 胸もわざわざパッとを入れるほど小さくもなかった筈なんだけれど。
「そんな事より二人とも上手く化けましたわね」
「えへへ、どうかなぁ?」
「えぇ、よくお似合いですわ」
リコの言葉に気分を良くしたのか、アリスが私たちの前でクルッと回ってみせる。
現在アリスの姿はレガリア王家特有のブロンドの髪(ウィッグ着用)に、淡いブルーを基調としたAライン型のドレス。一方私の髪型はというと、銀に輝くロングヘア(同じくウィッグ着用)にピンクを基調としたプリンセスラインのドレス。もちろん二人とも顔がわからないよう、眼の周りだけを覆うマスクを着用している。
つまり何も知らない者からすればアリスは私に見えて、私はアリスに見える。
今回のこのパーティー。ロベリアが何かを企んでいるのじゃないかと考えた私たちは、ロベリアが最も警戒するであろう私をアリスに変装させ、ライナスから守らなければならないアリスを私が演じる。
これならば少なくともライナスからは確実にアリスを守れるだろう。
ロベリアが保有していた例の笛は、試合のどさくさみ紛れて二つとも破壊しておいた。もし三つ目が存在しているのであれば脅威だが、あれ以来私へ近づこうともしていないので、当面警戒するのはライナスのみ。
そう考えた私たちは私とアリスの入れ替えを閃いたのだ。
これならばライナスが離れてしまったタイミングでアリスへと絡んできても、私一人で対処できるし、アリスの方はリコとルテアでガッチリとかためているので問題ない。
まぁ、マスクをつけているといってもリコ&ルテアの存在で見分けがつくだろうから、リスクを背負ってまでは王女である私(アリス)に気安く近づいてくる者はまずいないだろう。
ロベリアのことだからどうせマスクをつけていても見分けがつくだろう思っているのだろうが、ウィッグとドレスで変装しておけばよほど親しい者でない限り見分けはつかない筈だ。
「ねぇミリィ……じゃなかった、アリス。この靴、踵が高すぎて歩きにくいよ……わね」
「我慢してよぉ、私だってこんなフリフリのドレスを着るのは恥ずかしいんだからぁ」
ゾゾゾっ。仕方がないとはいえ、自分で放った口調に思わず背筋に虫酸が走るような悪寒を感じる。
「ねぇリコちゃん。全然アリスちゃん(偽)が可愛くないんだけれど」
「奇遇ですわね。私も丁度同じ事を考えてましたの」
思わずギラリと二人を睨めるけるが、リコにアリスはそんな顔をしませんわと言われ、急いで笑顔を取り繕う。
おにょれ、気持ち悪いことは私が一番わかているわよ! 二人とも、後で覚えておきなさいよ!!
「イタタ、あの女、後で覚えておきなさいよ」
仮面舞踏会当日、練りに練ったミリアリア誘拐計画。あの女を油断させるためにパーティーまではわざと近寄らず、ジーク様へのアプローチも控えていたがそれも今日まで。
この計画が成功し聖剣を手にした私ならば、国民からも讃え愛される女王の未来がが約束されるというもの。その後で先ほど私の足を踏みつけた女や気に入らない女達を全て排除し、ジーク様とのラブラブ生活が……。
「どうしたロベリア? 足でも怪我したのか?」
「お兄ぃ……コホン、使用人その一。間違ってもらってはこまりますわ、私の名前はデイジーですわよ。おほほほほ」
「おぉ、そうだったそうだった」
私の注意にまったく悪びれた様子をみせない使用人に扮したお兄様。
幸い近くに人の気配はないし、聞き耳を立てられるような場所でもないので、ワザワザ入れ替わっっているデージーを演じる必要もないのだけれど、ここは気分的にも最後まで演じきった方がいいだろう。
今回私たちが立てた計画。それは私のドレスを着せた偽物を用意し、ミリアリア達の視点を偽物へと移している間に、一人にミリアリアを人知れず誘拐するといったもの。
今頃会場では私に扮したデージーがわざとミリアリアを挑発しているところだろう。ダンスにトークに、私(偽)の魅力に引き付けられたバカな男達が近寄り、ミリアリアの悪名をここぞとばかりに言いふらす。
仮面をつけていることで、普段ならば言えないことも気兼ねなく話すこともできた上に、正体も隠すことができる一石二鳥。
デイジーには私に似せるように変身させたし、私のとっておきのドレスも貸し与えた。これで落ちない男はいないだろう。
そして止めはあの女がもっとも大切にしているアストリアをダンスで魅了し、嫉妬にくるったミリアリアが突っかかって来たところで、デイジーに扮した私があの女に近寄り、ジュースが入ったグラスをドレスにむかって傾きかける。『嫉妬にくるった女性ほど醜いものはありませんよ』と呟けば、流石にあの女も悔し涙を溜めながら一人会場から逃げ出すだろう。そこを警備兵に扮したお兄様達が確保し、薬で眠らせた後に箱に冷たミリアリアを馬車で運びだす手筈になっている。
うふ、うふふふ、我ながら完璧な計画よ!
ヒソヒソヒソ
パーティーも中盤に差し掛かった頃、会場内に広まる妙な話が私たちの元へと届いてくる。
「おい、聞いたか? ミリアリア様の胸」
「あぁ、パット5枚入りって話だろう? あの大きさでパット5枚も入れたら元の大きさはぺたんこなんじゃねぇか?」
「おい、何処に本人がいるかわからねぇんだ。迂闊なことを言うんじゃねぇ」
本人達は周りを気遣っているつもりなのだろうが、マスクを付けていることで安心しているのか、後ろにいる私たちの元に話し声が聞こえて来る。
「妙ですわね。ミリィがペチャパイだなんて別段珍しくもないでしょうに」
「そうだよね、あの大きさでパット5枚だなんて普通考えなくても分かるはずなだよ」
会場内に流れる話に、リコとルテアが確認し合うよう話している。
コラコラ、普段は気にしていないように振舞ってはいるが、私にも乙女心というのが存在しているのよ。
ここで二人に対して文句の一つも言ってやりたいが、生憎今の私はアリスの姿。極力バレないよう声出しを控えているために、反論らしい反論が言えずにいる。
「出処は多分ロベリアでしょうね。この前の仕返しとばかりに自分をミリィを置き換えて嘘を吹き込んでるんでしょ」
マスクを付けているからといっても、ペチャパイ情報を流している時点でロベリア本人が言っているといっているようなもの。
今すぐ詰め寄って締め上げたい気持ちもあるが、アリスに変装している私は行くわけにもいかず、私に変装しているアリスを向かわせるわけにもいかない。
まぁ、この件は後日仕返しをするという事でやり過ごすのが一番だろう。だけどロベリアはそんな私をみて更なる挑発を見せつけてきた。
「あら、マスク姿でどちら様か分かりませんが、よろしければ私と一曲ダンスを踊ってくださりませんか? うふふ」
むむむ。
そう言ってロベリアが声を掛けたのはマスク姿でも一目で分かるジーク。その隣にアストリアがいるのだから間違いないだろう。
隣にいるアリスが発する黒いオーラが見えなくもないが、ここは気にしないよう言い聞かせる。
仮面舞踏会本来の醍醐味は一種の無礼講だからね。それに女性からのダンスの誘いを断るのは、相手側に恥をかかせるようなもの。これといった理由もなく断るのは、ジークのような紳士には出来ない行為だろう。
でも変ね。私を挑発したいならジークではなくアストリアの方をダンスに誘うんじゃない? 二人の見分けがつかなかったという事はないだろし、単純に自分が踊りたい相手を強引に誘ったという事かしら?
「むむむ」
この様子を見ていたアリスの機嫌がますますと悪くなっていく。
「落ち着きなさいって、ジークが自分以外の女性とダンスを踊るなんて珍しくもないでしょ。そんなことで腹を立てていたらこの先やっていけないわよ」
「ふん」
はぁ、まったくもう。相変わらず中身は子供なんだから。
ダンスは言わば社交の挨拶的なようなもの。まぁ、ジークはそれほどダンスを好むタイプではないが、それでもパーティーとなれば公爵家の一人としておいそれとダンスの誘いは断れない。そのぐらい淑女教育をしてきたアリスなら理解しているだろうに……。やはり相手がロベリアと言うのが気に入らないのかしら。
「それにしてもロベリアってあんなに背が高かったかしら?」
「えっ?」
リコの何気ない発言に、思わず私の口から疑問の言葉が飛び出す。
そういえば確かに背が少し伸びたような気もする。
今までは気付かなかったけれど、ジークと並んで踊る姿を見るといつもより背が高く見えなくもない。だけど
「どうせ見栄を張って高いヒールを履いてるんだよ。ふん」
アリスにして非常に珍しく他人を誹謗する言葉が飛び出す。
「どうしたんですの? アリスらしくありませんわよ」
私が思った感情を、リコが代弁するよう小さな声でアリスへと問いかける。
「なによ! 私らしくないってどういうことよ」
「えっ? いえ、私はただいつものアリスならそのような事は……」
リコにしてみればまさかアリスから反論されるとは思ってもみなかったのだろう。いつものように自信あふれるリコが明らかに動揺し、思わず言葉を詰まらせてしまう。
「いつもの私ってなに? 少し非難しただけでなんで怒られるの!」
「い、いえ、別に非難だなんて……私はただアリスにしては珍しいと……」
「私だって人間だよ、好きな人もいれば嫌いな人もいるよ。それがダメなの!」
徐々にヒートアップしていくアリスに対しますますタジタジになっていくリコの姿。
リコの、いや私たちの最大の弱点は恐らくアリスであろう。この三人は全員が全員、幼少時代になんらかの負の感情をアリスに救われている。それが分かっているから大切に、時には厳しく共に成長してきた。
そのアリスが初めて負の感情を大きく表に出して反論してきたのだ。
ある意味アリスが見せる感情は間違ってはいないのだろう。だけどこの先未来の聖女となるアリスにとって、感情を抑える状況はますます増えていく。リコもそれが分かっているだけに厳しくしているのだ。たとえ自分が悪役に徹したとしても。
「落ち着いてアリスちゃん。アリスちゃんの気持ちもわかるけれど、ここはリコちゃんの言う方が正しいと思うよ。ジークとダンスを踊りたいならこの後踊ればいいじゃない」
「なんで、なんでルテアちゃんまでそういうの? なんで私の気持ちを誰もわかってくれないの?」
仲裁に入ったつもりなのだろうが、ルテアの言葉にアリスはうっすら涙を浮かべで反論する。
「落ち着きなさいって。二人に当たってもしかたがないでしょ?」
アリスがここまで感情を逆なでする事は珍しい。いや、初めてと言ってもいいかもしれない。
以前何かの本で読んだことがあるが、自分に近しい存在とは水と油のように交わる事はないんだとか。
ロベリアは確かにアリスに似ている。特徴的な顔の部分が似ているのは仕方がないにしろ、根本的に性格の根のような部分はほぼ同じといってもよい。
だからついつい自分の鏡のようなロベリアに対し、ここまで反抗的になってしまうのではないだろうか。
「ミリィまでもがそんな事を言うんだ……」
「私は私よ。アリスの味方でもあり、リコやルテアの味方でもあるの。そんな大切な友達が言い争っていたら止めに入るのは当然でしょ」
アリス自信も二人の方が正しいとは理解できているのだろう。それでも初めて湧き上がる嫉妬の感情がうまくコントロールできないのだ。
「取りあえず全員少し時間を置いた方がいいわね。控室にココリナとエレノアがいるから少し休んできなさい」
「うん、そうだね、ごめん」
そう言い残すとアリスは一人会場を後にしようとする。
「あっ、私も一緒に」
「ごめんルテアちゃん、今は一人で行くね」
「でも……」
アリスを一人で行かすのを心配したのだろう。ルテアが慌てて後を追おうとするが、アリスはその行動をも拒んでしまう。
「大丈夫よルテア。ここは学園内だし、控室にはココリナとエレノアもいるわ。それにアリスにも一人になる時間があった方がいいでしょ」
「う、うん。そうだね」
「その代わり、ちゃんとココリナ達のところへいくのよ。それで心が落ち着いたらここに戻っていらっしゃい」
心が幼いといってもアリスはもう子供ではないのだ。リコやルテアからすればアリスはいつまでたっても幼いアリスのままだが、私の知るアリスはすでに大人への、真の聖女への階段を登り始めている。そうでなければあんな物を……
「ありがとうミリィ。それじゃ行ってくるね」
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子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
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女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
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ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
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さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
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出来損ないの聖女・アガタ。
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※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
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