精霊術師の交響曲(シンフォニア)

みるくてぃー

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桜花爛漫

第9話 過去への払拭(1)

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 私の元に突如入った妖魔退治の依頼。その依頼内容は私の実家でもある北条家が、討伐目標である妖魔を取り逃がしてしまい、結城家が管轄するこの東京都内に潜伏してしまったという事だった。

「ったく。簡単に妖魔を逃がすとか、現場はどんな指揮をとっているだ?」
「悪かったわね、結城家とちがって北条家には優秀な術者が少ないのよ」
 紫乃さんからの依頼を受け急ぎ現場へと向かう途中、隣の座席に座る蓮也が愚痴を言ってくる。
「いや、お前が悪いわけじゃないだろ?」
「それはそうなんだけど、あれでも一応実家の不始末だから」
 本来妖魔退治は予め被害や逃走を想定し、後方術者が二重三重に結界やら防壁やらを展開し、前衛の術者が直接妖魔と対峙するのが基本スタイルとされている。
 その為余程間抜けな指揮をとるか、無能な術者がヘマでもしない限り、妖魔を取り逃がすなんて失態はまず起こらないのだが、なぜかその失態が今回現実に起こってしまった。
 誰しも一度は聞いた事はないだろうか? 獣の類は手負いの時が一番危険でやっかいなのだと。それは私たちが対峙する妖魔にも当てはまる。
 下級の妖魔ほどその知性は獣に近く、攻撃を受ければ反撃するし、危険と察すると逃亡を図る。そして本当に追い詰められたと感じた妖魔が次に起こす行動は予測不可能。例えD級妖魔であったとしても、周りを巻き込んで暴れるだけ暴れたり、無関係の一般人を巻き込んでの自爆や、時には未熟な術者に取り憑いての殺人危害を起こした、なんて話もあるぐらいだ。
 しかもその厄介ごとが自分たちの管轄下に紛れ込んだとなれば、蓮也でなくとも愚痴の一つぐらいは漏れてしまうだろう。

「それより蓮也、私急いで出てきちゃったから詳しい内容を聞いてないんだけど、一体どうやって北条家の術者は妖魔を逃がしてしまったの?」
「あぁ、その事か」
 現場まで用意された車で移動しているのだが、到着まではまだもう少し時間がかかる為、今のうちに出来るだけの情報を得ようと試みる。
「俺も詳しくは知らないんだが、現場の指揮を取っていたヤツがどうも強引な作戦をとったらしくてな、ある程度傷を負わす事には成功したらしんだが、もう一歩って所で逃がしたらしく、そのまま行方をくらまされたまま東京都心に逃げ込まれたんだとさ」
 ん? 蓮也の話を聞いていてふと私の頭に疑問が浮かぶ。
「ねぇ、強引な作戦って、確か相手はD級妖魔なんだよね? だったら最初に妖魔が逃げないように拘束してから攻撃するもんじゃないの? それに逃亡防止用の結界だって展開していたはずでしょ。幾ら人手不足といっても、そのぐらいの術者はいるはずなんだけれど」
 C級クラス以下の妖魔は、生まれてから1年未満のものが多い為、生半可な攻撃を受けるとすぐに逃走してしまうという可能性が非常に高い。その為まずは逃げられないよう後方支援の術者が周囲に結界を展開し、さらに前衛の術者もまずは妖魔の動きを術で封じ、そこから攻撃に転じるのが一般的なセオリーなのだ。
 一週間ほど前、私が初めて依頼を受けた時がそうだったように、自分もしくは他の術者と協力し、妖魔を捕まえてから攻撃に転ずるは、実戦経験が皆無の私でも知っている事。それをなぜ同じ北条家の術者がそれを実行していないのかが、まるで理解できない。

「さぁな。余程自分の実力に自信があったか、うぬぼれ者の大バカ野郎のどっちかじゃねぇか?」
「いや、まぁ、現実に逃がしちゃってるだからその通りなんだろうけどさ」
 そんな身も蓋もない事を……。
 でも蓮也の気持ちもわからないではないのよね。手負いの妖魔が危険な事は十分承知しているし、もともとあちら側の依頼だった為、勝手に結城家側で祓っちゃうと後々どんな文句を受けるかわかったもんじゃない。
 今回北条家側では妖魔を逃がした失態を隠しているらしく、結城家側にはなんの報告も上がっていないという話だ。
 結城家側としてその実情がわかったのは今日の明朝で、そこから情報収集をしていたところ、この事実がわかったということらしい。
 紫乃さんもホント大変よね。でも結城家が管轄する東京都内に潜伏されたとなれば、こちらとしても動かないわけにはいかず、D級クラスとはいえ手負いともなれば、早急に……しかも手慣れた術者を派遣しなければいけない。
 だから急遽手の空いていた私と蓮也の二人に声が掛かったというわけ。
 全く事前に北条家から情報が入っていれば、こちらも術者の手配に警察との連携、私もコンディションを整えてから出動出来たのだ。せっかく今日は胡桃がご馳走を用意してくれるって言ってたのに、これじゃ食事にありつけるのは日付をまたぐ頃になるのではないだろうか。

「そうだ、言い忘れていたんだけど現場では私の事はシスティーナって呼んでよね」
「なんだそれ? もしかしてその姿も変装しているつもりなのか?」
「うぐっ」
 話を聞き、隣で蓮也が上から下、下から上へと私の姿を確認する。
「し、仕方ないでしょ。私がここにいるって北条家の人間には知られたくないのよ」
 勘当された身とはいえ、実家とは関わり合いたくもないし、私の霊力や白銀の存在を隠していたという事も知られたくはない。しかも今回は北条家絡みの仕事なので、偶然現場でバッタリ、なんて事すら考えられるのだ。

「理由はわかったが、なんで金髪なんだ?」
「く、胡桃がたまたま持っていたウィッグがこれしかなかったのよ」
 胡桃がなぜ金髪のウィッグを持っていたのかはしらないが、あの時の私はすっかり変わり果てた自分の姿をみて、『これよ!』と同調してしまったのだから仕方がない。
 それに外国人に扮装していれば、いざツッコまれたときに『ワタシ、ニホンゴワカリマセーン』の秘奥義が使えるのだ。この恥ずかしい服装だって、逆に言い換えれば、日本の正当な術者が着る服装ではないので、私という存在を誤魔化すにはまさに打ってつけの変装と言えるだろう!
 少々胡桃の悪意と凪咲ちゃんの趣味が入り混じっているような感じはするが、そこは深く考えないようしておく。

「で、その名前はどっから来たんだ?」
「そ、それはその……私の名前の沙の部分が『うすぎぬ』って意味があって、英語読みで絹はシルクだから、少しモジってシスティーナって……」
 あの時の私は少々ハイテンションだったため、胡桃たちと一緒にノリノリで偽名なんてものを考えたのだが、改めて第三者から真顔で尋ねられると、やはり多少……いや、かなり恥ずかしい感情が溢れ出してしまう。

「べ、別に名前の由来なんでどうでもいいでしょ。それよりほら、最後にマスクを付ければ私だってわからないでしょ?」
 半ば既にヤケクソ気味だが、金髪ウィッグだけではバレバレだし、ここまで変装しておいて顔だけ隠さないのも意味がないので、蓮也の前で思い切って目元を隠すよう布製の怪しいマスクを付け、『どうよコレ』という感じに見せつける。
「いや、まぁいいけどさ。その服、動くとパンツはみえるぜ」
「///////」
 なるべく自分でも意識しないよう心がけていたが、改めて異性の人間から下着の話をされると、なんとも恥ずかしい気持ちが際立ってしまう。
 私は赤面している顔を必死に誤魔化そうと更なる言い訳を重ねてしまう。
「み、見られてもいいパンツを履いているからいいのよ!」
 一応前回の反省を踏まえ、今回はショーツの上にアンダースコートなる見られてもいいパンツを履いている。
 だったらこんなミニスカみたいな着物を着るなと言われそうだが、胡桃と凪咲ちゃんがそれを許してくれなかったのだ。
 私は蓮也に恥ずかしいという感情を隠し通すと。

「ふーん」ペラッ
「っ!!! //////////」
 あろう事か、蓮也は無造作に私の着物の裾をめくると、下着を確かめるべくマジマジと下腹部全般を眺めてくるのだ。流石にこの行動には私の羞恥心がメーターを振り切り
「風華、『纏《まとい》!』」
 精霊転化最強の術と言われる『纏』。その名の通り精霊を全身に着込む事で、攻撃面、防御面が数倍に膨れ上がるという、精霊術師の秘術中の秘術。
 七柱と言われる人たちですら、扱える人が限られているという大変難しい技を、私は顔を真っ赤にさせながら発動させる。
「ま、まて! それはシャレにならねぇ、俺が悪かった!! っていうか車の中で『纏』はよせ!」
「えぇい、問答無用っ! 乙女の柔肌を気安く覗いた罪を悔いながら、潔く死になさい!」
 私の行動に珍しく本気で焦りだす蓮也。彼は一度私の『纏』を目にしていから、その威力の凄さを知っているのだ。
「死ぬ、それマジ死ぬから!」

 私の怒りが頂点に達し、いま正に凶悪な風の術が飛び出そうとしたその時。
「あ、あのぉー。着きましたが」
 なんとも申し訳なさそうに、ドライバーさんが現場到着の報告をしてくださるのだった。
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