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桜花爛漫
第11話 過去への払拭(3)
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「で、名無しさんよ。一応確認するが、引き下がるつもりはあるのか?」
散々茂の失敗を煽りまくった後、今度は真面目な口調で蓮也が尋ねる。
「なぜ俺たちが引き下がらなければいけない。これは北条家が直接受けた依頼だ、引っ込むのは寧ろそちら側だろう」
まぁそうなるわね。
蓮也も最初からそう簡単に引き下がるとは思っていないだろうし、茂にしてもここは何としてでも汚名を返上しなければいけない。
北条家の父も兄も無能な人間に対して非常に厳しい。既に結城家側には自分の失敗が筒抜けの上、もしここで仕事を横取りでもされた日には、謹慎程度では済まされないのではないだろうか。茂の年齢からしてよくて役職落ち、悪くて見習いまで落とされるのではないだろうか。
それが分かっているからこそ、正木茂は絶対に引き下がれないのだ。
「言っただろ? こっちは誰かさんの尻拭いで来ているんだ。その上こちら側の管轄内で再び同じ事をされると困るんだよ」
「なっ、なんだと!」
両者の言い分はよく分かる。だが蓮也の肩を持つつもりははないが、結城家としては一度失敗した相手の言葉を鵜呑みに出来ないし、その事実は未だに隠している人間なんて信用するにも値しない。
それに恐らく蓮也も私と同じ感情を抱いているのではないだろうか? この正木茂の実力は、本人が思っている以上の上っ面だけのものではないのかと。
確かに彼から感じる霊力は並の術者以上のものを感じる。契約している精霊も恐らくそこそこの力を有しているのだろう。だけど私や蓮也から言えば、自分や契約している精霊の霊力すら、隠しきれていない未熟者だ。しかも蓮也の見え透いた挑発にすら、いちいち反応してしまっているのだ。
指揮官がこんな性格をしているのだから、あちら側の術者達もさぞ苦労している事だろう。
「だからそう怒るなって。さっきから誰もお前が逃がしただなんて言っていないだろ?」
蓮也もよく言う。
その口調からしても完全に茂が取り逃がしたと決めつけているのに、寸前のところでわざと否定するような言葉で衝突を回避させている。茂としては馬鹿にされている事は理解出来ても、これ以上の言い訳は墓穴を掘るだけだけなので、無理やり自分を押し殺しているようだ。
うんうん、蓮也にしてはいい感じね。
流れは完全にこちら側。相手を罵ると言う手法はあまり関心はしないが、相手はあの正木茂なのでこの際大目に見ても問題なし。残る問題はどうやって北条家を追い返すかだが、ここは蓮也の交渉術を信じてもう少し見守っても差し支えはないだろう。
「チッ、お前の方こそ後から出て来ておいて引き下がるつもりは無いんだな」
「あぁ。悪いがこちらにもこちらの事情っていうもんがあるんでね。其方さんが引き下がらないと言うのなら、実力でねじ伏せる事になるが構わないよな?」
「フン、いいだろう。大口を叩いた事を後悔するんだな」
蓮也を信じ、二人の交渉を結城家の皆さんと暖かく見守っていると、初手からいきなり物騒な内容が飛び出してくる。
って、コラコラ。いきなり交渉を諦めてはダメでしょ!
せっかく蓮也もカッコいいところがあるのね、と感心したばかりだというのに、完全に自分の役目を忘れて、茂と共に臨戦態勢へと入っている。
これにはさすがに結城家の術者さん達も慌てだし、泣きつくように私の耳元に囁いてくる。
(シ、システィーナ様。なんとか蓮也様をお止め下さい)
(このままでは私達がご当主様に叱られてしまいます)
いや、私に止めろと言われてもなぁ。
私こと、怪しい仮面のシスティーナは、事前に紫乃さんの方から術者の皆さんへ話が通っている。
なんでも若い女性の身でありながら強力な精霊を二体も従え、実力は七柱の庄吾様のお墨付き。少々怪しさ100倍の仮面なんて付けてるけど、根はとってもいい子なのよと、説明が入っているんだとか。
すでに紫乃さんが怪しさ100倍とかいっている時点でどうなのよと、ツッコミを入れたいところではあるのだが、同時期に転がり込んだ私の事は其れなりに知れ渡っており、結城家の術者の中では『アレって沙姫様だろ?』と、速バレしているという噂も耳にしている。
まぁ幾ら変装しているとは言え、凪咲ちゃんや漣也との掛け合いはそのまんまだし、私も結城家の皆さんには隠すつもりはないので、口調も声色も全く変えてはいない。流石に結城家の術者さん達から漏れてしまえばどうしようもないが、元々一族同士は昔から術の秘匿事項などで内部漏洩は徹底されている関係、他家に情報が漏れるという事は殆どない。
そして厄介なことに、私がご当主である紫乃さんから信頼を得ていることと、蓮也や凪咲ちゃんと非常に仲がいい事が知れ渡っており、二人が無茶をすれば沙姫様に頼めばなんとかなる、という風潮が既に出来てしまっているのだ。
あの二人って意外とトラブルを引き起こしちゃうのよね。とくに凪咲ちゃんなんて、厄介ごとの神様にでも愛されているんじゃないかというレベルで、トラブルを持ち込んでくる。今までは目が見えない事もあり、それほど目立ってはいなかったのだが、自分自身の目で見て動き回れるようになってからの発生率は、紫乃さんが軽く頭をかかえるほど増えているんだという話だ。その度に私や胡桃が巻き込まれるんだから困ったものだ。
恐らく耳打ちをされてきた術者さんも、そういった経緯を知っているからこそ、この場を収められるのは私しかいないと判断されてたのだろう。
(はぁ、仕方ないわね)
私たち術者の中では、術者同士が戦うことは固く禁止されている。それでも見えないところでは多少のいざこざは否めないのだが、こうもあからさまに、しかも近くには交通規制をされている警官隊の皆さんもいる中で、禁止事項に抵触するのは、結城家にお世話になっている身としてはやはり止めなければいけないだろう。
相手は私の実家になるわけなのだし。
出来ればあの男の前で目立つような行動はしたくはなかったのだが、彼方は本性を隠していた頃の私しかしらないわけだし、今の姿は胡桃のコーディネイトで、どこぞの勘違いをした日本かぶれの外人そのもの。
おまけに怪しさ100倍の仮面付きともなれば、根暗で自己主張を全くしてこなかった私しか知らない茂なら、簡単に同一人物とは判断はしないだろう。
私は半ば諦め気味に、今まさに戦いの火蓋が降ろされる二人の間に割って入る。
「なんだこのコスプレ女は」
「なっ!?」
私が言葉を発する前に、いきなりコスプレ女呼ばわりをしてくる茂。
ほぉ、この私をコスプレ女呼ばわりするとはいい度胸ね。
「……蓮也、変わりなさい。私が殺るわ」
既に戦闘モードに入っている蓮也を差し置き、ややギレ気味に前に出ていく私。
なんだが後方から悲鳴に近い声が聞こえてくるが、多分気のせいなのだろう。
「待て待てお前のそのセリフ、完全に殺す気満々だろうが」
「当たり前でしょ、私をコスプレ女呼ばわりするような奴は即刻地獄行きよ」
完全に殺る気モードの私に対し、なぜか冷静に止めに入る蓮也。
「いや、その……、喧嘩を吹っかけた俺が言うのもなんだか、俺たちを止めに来たんじゃねぇのか? あと後ろの連中が可哀想なぐらい泣いているぞ」
「はっ! そうだったわ」
危ない危ない、危うく本来の目的を忘れるところだったわ。
よもや我をわすれて、蓮也本人に諭されるなんて思ってもいなかった。
背後に目をやれば、先ほど私に仲裁を求められた術者さんが目に涙を溜めながら、ホッと胸をなで降ろされている。
えっと、その……、なんかゴメンなさい。
「コホン。えー、話は全て聞かせてもらったわ!」ビシッ!
「いや、そんな自慢気に言われてもだな……」
ビシッ! と決めた手前、何やら呟いてくる蓮也を無視し、北条家側の茂に対し牙を向ける私。
「お互い引けない事情を持つ以上、話し合いだけで解決するのは最早時間の無駄。だけどそれを理由に術者同士が争うのは、其方側にも困ることがあるんじゃなくて?」
「……ちっ」
これは私の予想なのだが、茂はすでに妖魔を逃がすという失態を犯している。そのうえ術者が禁止とされている戦闘を行ってしまえば、今度こそ言い訳の付かない厳罰が下されるであろう。しかも蓮也に敗北するというオマケが付いて。
こう見えて蓮也は決してバカではないので、まずは挑発するだけ挑発して、相手側から仕掛けて来た事実を確認してから反撃に出ようと考えていたはず。
ここには結城家だけではなく、北条家の術者という証人までいるのだ。見た様子じゃ茂に対してよくない感情を抱いている者もいてそうなので、最悪両者側から茂の望まない報告が上がっていたのではないだろうか。
あの父が二度も失態を犯した者をそのままにはしておくまい。
「それで提案なのだけれど、ここはシンプルに早い者勝ちというのはどうかしら?」
「早い者勝ち?」
「この河川敷は非常に広いわ。妖魔の霊力も手負いのせいで感知が困難なうえ、時間もかなり経過してしまっている。だから先に見つけて、妖魔を祓った方が勝ちっていうこと。後はお互い恨みっこ無で円満解決はどうかしら?」
現状手負いの妖魔は、多摩川の北側に渡ったとい報告はあがっているものの、その潜伏先は未だ不明。まだ隠れているだけなら多少離れていても気配を探り当てられるのだが、生憎と手負いのせいか随分と霊力が弱っているようで、結構近場まで寄らないと妖気を感じ取れないのだ。
「なるほど面白い、悪くはない案だ。変な姿をしているが、よく見れば案外俺好みの女じゃないか」
ギャァーーー!! どういうつもりで今の言葉を吐いたのかは知らないが、一瞬もの凄い嫌悪感が私の全身を走り抜ける。
こ、こいつ。一体何様のつもりなのよ!
もう後でお叱りを受けてもいいから、本気で一発殴ろうと決意したとき。
「悪いな、こいつは俺の女だ。それでも手を出すって言うなら……」
「!?」
グゴォォォーーー!!
「ばばばば、バカな。なんだこの霊力は!?」
蓮也が私を引き寄せるように胸元にすっぽり収納すると、その内包していた霊力を一気に爆発させる。
「わわ、悪いことは言わないわ。蓮也の気が変わらないうちにサッサと立ち去りなさい」
茂が驚くのも無理はない。今まで格下だと思っていた蓮也が、実は霊力を隠し抑えていたのだ。それも北条家が期待を寄せている北条 将樹とほぼ同じくぐらいの霊力をだ。
若干蓮也の言葉と今の状況に動揺してしまい、多少声が裏返ってしまった事は是非とも見逃してほしい。
(わ、わかっているわよ。今のはあの男の非常識な言葉に蓮也が怒ってくれただけ。べ、別に本気で私の事を自分の物だと言ったわけじゃないんだから。だ、だから早く治まりなさい、私のこの鼓動!)
まるで逃げるように立ち去る正木茂を見送りながら、ようやく蓮也の腕から解放される私。
「ふぅ、少し大人気なかったか?」
「い、いいんじゃない? これに懲りたら無駄に刃向かおうとは思わないでしょ」
若干まだ心臓の鼓動が治まりきってはいないが、お互い肩をすくめあいながら二度と再会しないことを祈ると同時に、自然と笑みがこぼれだす。
「プッ、見た? 今の逃げ方」
「案外妖魔を逃がしたって言うのも、予想外の反撃をされて腰でも抜かしたんじゃねぇか?」
「ふふ、あり得るわね」
私ったらどうしてあんな男に怯えてたのかしら。今なら無能と蔑まされていた頃ですら、案外私の方が強かったんじゃないかとさえ思えてしまう。
ありがとう蓮也、私の為に怒ってくれて。
散々茂の失敗を煽りまくった後、今度は真面目な口調で蓮也が尋ねる。
「なぜ俺たちが引き下がらなければいけない。これは北条家が直接受けた依頼だ、引っ込むのは寧ろそちら側だろう」
まぁそうなるわね。
蓮也も最初からそう簡単に引き下がるとは思っていないだろうし、茂にしてもここは何としてでも汚名を返上しなければいけない。
北条家の父も兄も無能な人間に対して非常に厳しい。既に結城家側には自分の失敗が筒抜けの上、もしここで仕事を横取りでもされた日には、謹慎程度では済まされないのではないだろうか。茂の年齢からしてよくて役職落ち、悪くて見習いまで落とされるのではないだろうか。
それが分かっているからこそ、正木茂は絶対に引き下がれないのだ。
「言っただろ? こっちは誰かさんの尻拭いで来ているんだ。その上こちら側の管轄内で再び同じ事をされると困るんだよ」
「なっ、なんだと!」
両者の言い分はよく分かる。だが蓮也の肩を持つつもりははないが、結城家としては一度失敗した相手の言葉を鵜呑みに出来ないし、その事実は未だに隠している人間なんて信用するにも値しない。
それに恐らく蓮也も私と同じ感情を抱いているのではないだろうか? この正木茂の実力は、本人が思っている以上の上っ面だけのものではないのかと。
確かに彼から感じる霊力は並の術者以上のものを感じる。契約している精霊も恐らくそこそこの力を有しているのだろう。だけど私や蓮也から言えば、自分や契約している精霊の霊力すら、隠しきれていない未熟者だ。しかも蓮也の見え透いた挑発にすら、いちいち反応してしまっているのだ。
指揮官がこんな性格をしているのだから、あちら側の術者達もさぞ苦労している事だろう。
「だからそう怒るなって。さっきから誰もお前が逃がしただなんて言っていないだろ?」
蓮也もよく言う。
その口調からしても完全に茂が取り逃がしたと決めつけているのに、寸前のところでわざと否定するような言葉で衝突を回避させている。茂としては馬鹿にされている事は理解出来ても、これ以上の言い訳は墓穴を掘るだけだけなので、無理やり自分を押し殺しているようだ。
うんうん、蓮也にしてはいい感じね。
流れは完全にこちら側。相手を罵ると言う手法はあまり関心はしないが、相手はあの正木茂なのでこの際大目に見ても問題なし。残る問題はどうやって北条家を追い返すかだが、ここは蓮也の交渉術を信じてもう少し見守っても差し支えはないだろう。
「チッ、お前の方こそ後から出て来ておいて引き下がるつもりは無いんだな」
「あぁ。悪いがこちらにもこちらの事情っていうもんがあるんでね。其方さんが引き下がらないと言うのなら、実力でねじ伏せる事になるが構わないよな?」
「フン、いいだろう。大口を叩いた事を後悔するんだな」
蓮也を信じ、二人の交渉を結城家の皆さんと暖かく見守っていると、初手からいきなり物騒な内容が飛び出してくる。
って、コラコラ。いきなり交渉を諦めてはダメでしょ!
せっかく蓮也もカッコいいところがあるのね、と感心したばかりだというのに、完全に自分の役目を忘れて、茂と共に臨戦態勢へと入っている。
これにはさすがに結城家の術者さん達も慌てだし、泣きつくように私の耳元に囁いてくる。
(シ、システィーナ様。なんとか蓮也様をお止め下さい)
(このままでは私達がご当主様に叱られてしまいます)
いや、私に止めろと言われてもなぁ。
私こと、怪しい仮面のシスティーナは、事前に紫乃さんの方から術者の皆さんへ話が通っている。
なんでも若い女性の身でありながら強力な精霊を二体も従え、実力は七柱の庄吾様のお墨付き。少々怪しさ100倍の仮面なんて付けてるけど、根はとってもいい子なのよと、説明が入っているんだとか。
すでに紫乃さんが怪しさ100倍とかいっている時点でどうなのよと、ツッコミを入れたいところではあるのだが、同時期に転がり込んだ私の事は其れなりに知れ渡っており、結城家の術者の中では『アレって沙姫様だろ?』と、速バレしているという噂も耳にしている。
まぁ幾ら変装しているとは言え、凪咲ちゃんや漣也との掛け合いはそのまんまだし、私も結城家の皆さんには隠すつもりはないので、口調も声色も全く変えてはいない。流石に結城家の術者さん達から漏れてしまえばどうしようもないが、元々一族同士は昔から術の秘匿事項などで内部漏洩は徹底されている関係、他家に情報が漏れるという事は殆どない。
そして厄介なことに、私がご当主である紫乃さんから信頼を得ていることと、蓮也や凪咲ちゃんと非常に仲がいい事が知れ渡っており、二人が無茶をすれば沙姫様に頼めばなんとかなる、という風潮が既に出来てしまっているのだ。
あの二人って意外とトラブルを引き起こしちゃうのよね。とくに凪咲ちゃんなんて、厄介ごとの神様にでも愛されているんじゃないかというレベルで、トラブルを持ち込んでくる。今までは目が見えない事もあり、それほど目立ってはいなかったのだが、自分自身の目で見て動き回れるようになってからの発生率は、紫乃さんが軽く頭をかかえるほど増えているんだという話だ。その度に私や胡桃が巻き込まれるんだから困ったものだ。
恐らく耳打ちをされてきた術者さんも、そういった経緯を知っているからこそ、この場を収められるのは私しかいないと判断されてたのだろう。
(はぁ、仕方ないわね)
私たち術者の中では、術者同士が戦うことは固く禁止されている。それでも見えないところでは多少のいざこざは否めないのだが、こうもあからさまに、しかも近くには交通規制をされている警官隊の皆さんもいる中で、禁止事項に抵触するのは、結城家にお世話になっている身としてはやはり止めなければいけないだろう。
相手は私の実家になるわけなのだし。
出来ればあの男の前で目立つような行動はしたくはなかったのだが、彼方は本性を隠していた頃の私しかしらないわけだし、今の姿は胡桃のコーディネイトで、どこぞの勘違いをした日本かぶれの外人そのもの。
おまけに怪しさ100倍の仮面付きともなれば、根暗で自己主張を全くしてこなかった私しか知らない茂なら、簡単に同一人物とは判断はしないだろう。
私は半ば諦め気味に、今まさに戦いの火蓋が降ろされる二人の間に割って入る。
「なんだこのコスプレ女は」
「なっ!?」
私が言葉を発する前に、いきなりコスプレ女呼ばわりをしてくる茂。
ほぉ、この私をコスプレ女呼ばわりするとはいい度胸ね。
「……蓮也、変わりなさい。私が殺るわ」
既に戦闘モードに入っている蓮也を差し置き、ややギレ気味に前に出ていく私。
なんだが後方から悲鳴に近い声が聞こえてくるが、多分気のせいなのだろう。
「待て待てお前のそのセリフ、完全に殺す気満々だろうが」
「当たり前でしょ、私をコスプレ女呼ばわりするような奴は即刻地獄行きよ」
完全に殺る気モードの私に対し、なぜか冷静に止めに入る蓮也。
「いや、その……、喧嘩を吹っかけた俺が言うのもなんだか、俺たちを止めに来たんじゃねぇのか? あと後ろの連中が可哀想なぐらい泣いているぞ」
「はっ! そうだったわ」
危ない危ない、危うく本来の目的を忘れるところだったわ。
よもや我をわすれて、蓮也本人に諭されるなんて思ってもいなかった。
背後に目をやれば、先ほど私に仲裁を求められた術者さんが目に涙を溜めながら、ホッと胸をなで降ろされている。
えっと、その……、なんかゴメンなさい。
「コホン。えー、話は全て聞かせてもらったわ!」ビシッ!
「いや、そんな自慢気に言われてもだな……」
ビシッ! と決めた手前、何やら呟いてくる蓮也を無視し、北条家側の茂に対し牙を向ける私。
「お互い引けない事情を持つ以上、話し合いだけで解決するのは最早時間の無駄。だけどそれを理由に術者同士が争うのは、其方側にも困ることがあるんじゃなくて?」
「……ちっ」
これは私の予想なのだが、茂はすでに妖魔を逃がすという失態を犯している。そのうえ術者が禁止とされている戦闘を行ってしまえば、今度こそ言い訳の付かない厳罰が下されるであろう。しかも蓮也に敗北するというオマケが付いて。
こう見えて蓮也は決してバカではないので、まずは挑発するだけ挑発して、相手側から仕掛けて来た事実を確認してから反撃に出ようと考えていたはず。
ここには結城家だけではなく、北条家の術者という証人までいるのだ。見た様子じゃ茂に対してよくない感情を抱いている者もいてそうなので、最悪両者側から茂の望まない報告が上がっていたのではないだろうか。
あの父が二度も失態を犯した者をそのままにはしておくまい。
「それで提案なのだけれど、ここはシンプルに早い者勝ちというのはどうかしら?」
「早い者勝ち?」
「この河川敷は非常に広いわ。妖魔の霊力も手負いのせいで感知が困難なうえ、時間もかなり経過してしまっている。だから先に見つけて、妖魔を祓った方が勝ちっていうこと。後はお互い恨みっこ無で円満解決はどうかしら?」
現状手負いの妖魔は、多摩川の北側に渡ったとい報告はあがっているものの、その潜伏先は未だ不明。まだ隠れているだけなら多少離れていても気配を探り当てられるのだが、生憎と手負いのせいか随分と霊力が弱っているようで、結構近場まで寄らないと妖気を感じ取れないのだ。
「なるほど面白い、悪くはない案だ。変な姿をしているが、よく見れば案外俺好みの女じゃないか」
ギャァーーー!! どういうつもりで今の言葉を吐いたのかは知らないが、一瞬もの凄い嫌悪感が私の全身を走り抜ける。
こ、こいつ。一体何様のつもりなのよ!
もう後でお叱りを受けてもいいから、本気で一発殴ろうと決意したとき。
「悪いな、こいつは俺の女だ。それでも手を出すって言うなら……」
「!?」
グゴォォォーーー!!
「ばばばば、バカな。なんだこの霊力は!?」
蓮也が私を引き寄せるように胸元にすっぽり収納すると、その内包していた霊力を一気に爆発させる。
「わわ、悪いことは言わないわ。蓮也の気が変わらないうちにサッサと立ち去りなさい」
茂が驚くのも無理はない。今まで格下だと思っていた蓮也が、実は霊力を隠し抑えていたのだ。それも北条家が期待を寄せている北条 将樹とほぼ同じくぐらいの霊力をだ。
若干蓮也の言葉と今の状況に動揺してしまい、多少声が裏返ってしまった事は是非とも見逃してほしい。
(わ、わかっているわよ。今のはあの男の非常識な言葉に蓮也が怒ってくれただけ。べ、別に本気で私の事を自分の物だと言ったわけじゃないんだから。だ、だから早く治まりなさい、私のこの鼓動!)
まるで逃げるように立ち去る正木茂を見送りながら、ようやく蓮也の腕から解放される私。
「ふぅ、少し大人気なかったか?」
「い、いいんじゃない? これに懲りたら無駄に刃向かおうとは思わないでしょ」
若干まだ心臓の鼓動が治まりきってはいないが、お互い肩をすくめあいながら二度と再会しないことを祈ると同時に、自然と笑みがこぼれだす。
「プッ、見た? 今の逃げ方」
「案外妖魔を逃がしたって言うのも、予想外の反撃をされて腰でも抜かしたんじゃねぇか?」
「ふふ、あり得るわね」
私ったらどうしてあんな男に怯えてたのかしら。今なら無能と蔑まされていた頃ですら、案外私の方が強かったんじゃないかとさえ思えてしまう。
ありがとう蓮也、私の為に怒ってくれて。
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