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1 真野くんは間が悪い。
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1 真野くんは間が悪い
高校二年生になって最初の定期テストが終わり、季節は夏の湿気を帯びてきた。
もうすぐ梅雨が来る。
私──久保は、何の気なしに黒板から目を外す。
と、偶然にも、前から二列目、右から四番目の席で視線が止まった。
真野くんの、席だ。
偶然だ。こんな偶然があるのかと思うかも知れないけど、誰が何と言おうと偶然なのだ。
だから、このまま私が真野くんの背中を見つめ続けても、たまたま偶然が続いているだけ。
真野くんは、しきりに顔を上下させて黒板を写している。
今日も頑張ってるなぁ。
正直あんまり目立たない人だけれど、私には分かるの。
真野くんはすごく優しくて、いい人なの。ちょっと間が悪いけれど、そんな事で彼の魅力は霞まない。
あ。
真野くんの消しゴムが、コロコロコロと……え、私の机の前まで転がってきた!?
慌てて消しゴムを追いかける真野くん。あ、顔が見えた。授業中にも真野くんの顔を見られるなんて、今日は良い日だ。天赦日かな。
「──となるわけだ。じゃあ次の問題、解いてみろ、真野」
しかし、真野くんの間の悪さは超一流。こういう時に先生に指されるなんて。
「おい真野! 何やってんだ!」
先生が叫んだ瞬間、真野くんの頭が私の机を跳ね上げた。
私の机の上から、ノートやら教科書やらが落ちる。
「真野ォ、いくら久保が可愛いからって、何やってんだよ」
クラスで一番騒がしい男子が騒ぎ始めた。それにつられて、周りも声を飛ばし始める。
「真野、おまえ久保さんのスカートの中を見ようとしてたのかよ」
え。真野くんが、私のスカートの中を!?
だ、だめ。今日はお気に入りの下着じゃないから今度また……じゃなくって!
みんな見てなかったの?
真野くんは、転がった消しゴムを追いかけて来ただけなのに。
もう。もう我慢の限界。
私は席を立つ。
しゃがんで椅子の下に転がってきた消しゴムを拾って、真野くんに渡し──ち、近い。
こんなに近くで真野くんの顔を見られるなんて。
まさか今日で地球滅亡!?
「あ、ありがとう、久保さん」
真野くんのまろやかな声が、私を呼んだ……!
ダメ。幸運メーターが振り切れちゃった。
地球滅亡確定だわ。
ドキドキする。
もう真野くんの顔なんてまともに見られない。
神さま、私はこの幸運の代償に何を差し出せば良いのでしょうか。
すっとしなやかな手が目の前に伸びてきた。
そ、そうよね。今差し出すべきは、真野くんの消しゴムよね。
「は、はい……真野くん」
「あ、ありがとう」
またお礼言ってもらっちゃった。
滅亡したはずの地球が再生を始めてしまうに値する幸運だわ。
天地創造だわ!
ああ、真野くん──
「あ、あの、久保さん?」
気がつけば、私は真野くんの手を握り締めていた。
「あー、真野のヤツ、久保の手を握ってるぞ!」
──今騒いだ下郎は誰?
せっかくいい気分なのに。
絶対に許さないんだから。
具体的な方法は無いけれど。
「大丈夫、僕に任せて」
え?
聞き返す前に、真野くんは立ち上がっ──あ。
どぐわしゃーん。
私の机の下にいた真野くんの頭から轟音がした。
真野くんの後頭部ヘッドバットでふわりと浮いた机が、がたたと着地する。
同時に、頭を抱えてうずくまる真野くん。
その瞬間、割れんばかりの大爆笑。
当の真野くんは、恥ずかしそうに頭をポリポリ。
そのまま自分の席に戻って行った。
でも。真野くんと、三回も話しちゃった。それに、助けられちゃった。
きっと私の顔面は、みっともなく赤面肥大していることだろう。
もうダメ、立っていられない。しゃがんでるんだけどね。
こうして私は午前中を夢見心地で過ごし、授業なんて一切頭に入らなかった。
高校二年生になって最初の定期テストが終わり、季節は夏の湿気を帯びてきた。
もうすぐ梅雨が来る。
私──久保は、何の気なしに黒板から目を外す。
と、偶然にも、前から二列目、右から四番目の席で視線が止まった。
真野くんの、席だ。
偶然だ。こんな偶然があるのかと思うかも知れないけど、誰が何と言おうと偶然なのだ。
だから、このまま私が真野くんの背中を見つめ続けても、たまたま偶然が続いているだけ。
真野くんは、しきりに顔を上下させて黒板を写している。
今日も頑張ってるなぁ。
正直あんまり目立たない人だけれど、私には分かるの。
真野くんはすごく優しくて、いい人なの。ちょっと間が悪いけれど、そんな事で彼の魅力は霞まない。
あ。
真野くんの消しゴムが、コロコロコロと……え、私の机の前まで転がってきた!?
慌てて消しゴムを追いかける真野くん。あ、顔が見えた。授業中にも真野くんの顔を見られるなんて、今日は良い日だ。天赦日かな。
「──となるわけだ。じゃあ次の問題、解いてみろ、真野」
しかし、真野くんの間の悪さは超一流。こういう時に先生に指されるなんて。
「おい真野! 何やってんだ!」
先生が叫んだ瞬間、真野くんの頭が私の机を跳ね上げた。
私の机の上から、ノートやら教科書やらが落ちる。
「真野ォ、いくら久保が可愛いからって、何やってんだよ」
クラスで一番騒がしい男子が騒ぎ始めた。それにつられて、周りも声を飛ばし始める。
「真野、おまえ久保さんのスカートの中を見ようとしてたのかよ」
え。真野くんが、私のスカートの中を!?
だ、だめ。今日はお気に入りの下着じゃないから今度また……じゃなくって!
みんな見てなかったの?
真野くんは、転がった消しゴムを追いかけて来ただけなのに。
もう。もう我慢の限界。
私は席を立つ。
しゃがんで椅子の下に転がってきた消しゴムを拾って、真野くんに渡し──ち、近い。
こんなに近くで真野くんの顔を見られるなんて。
まさか今日で地球滅亡!?
「あ、ありがとう、久保さん」
真野くんのまろやかな声が、私を呼んだ……!
ダメ。幸運メーターが振り切れちゃった。
地球滅亡確定だわ。
ドキドキする。
もう真野くんの顔なんてまともに見られない。
神さま、私はこの幸運の代償に何を差し出せば良いのでしょうか。
すっとしなやかな手が目の前に伸びてきた。
そ、そうよね。今差し出すべきは、真野くんの消しゴムよね。
「は、はい……真野くん」
「あ、ありがとう」
またお礼言ってもらっちゃった。
滅亡したはずの地球が再生を始めてしまうに値する幸運だわ。
天地創造だわ!
ああ、真野くん──
「あ、あの、久保さん?」
気がつけば、私は真野くんの手を握り締めていた。
「あー、真野のヤツ、久保の手を握ってるぞ!」
──今騒いだ下郎は誰?
せっかくいい気分なのに。
絶対に許さないんだから。
具体的な方法は無いけれど。
「大丈夫、僕に任せて」
え?
聞き返す前に、真野くんは立ち上がっ──あ。
どぐわしゃーん。
私の机の下にいた真野くんの頭から轟音がした。
真野くんの後頭部ヘッドバットでふわりと浮いた机が、がたたと着地する。
同時に、頭を抱えてうずくまる真野くん。
その瞬間、割れんばかりの大爆笑。
当の真野くんは、恥ずかしそうに頭をポリポリ。
そのまま自分の席に戻って行った。
でも。真野くんと、三回も話しちゃった。それに、助けられちゃった。
きっと私の顔面は、みっともなく赤面肥大していることだろう。
もうダメ、立っていられない。しゃがんでるんだけどね。
こうして私は午前中を夢見心地で過ごし、授業なんて一切頭に入らなかった。
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