真野くんは間が悪い。

若葉エコ

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3 真野くんの休日。

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 ある日私は、ふと気がついた。
 私は、学校以外の真野くんを知らない。
 いつも見てはいるけれど、頭の中で愛でているだけだし。
 まあ、間が悪いというか、運が無いのは知っている。
 そのおかげで助かったりもしてるんだけど。

 さて、今日は日曜日。
 私は、黒のTシャツにスキニーデニム、上にサマーコートを羽織って、とある駅前にいる。
 なぜ女子高生が休日の昼間に、こんなスパイみたいな格好をしているのか。
 それは、スパイするため。

 とある情報筋(友人)から有力情報を入手した私は、駅前の噴水広場で「対象者」を待つ。

 お、早速現れた。
 よかった、たった一時間の待機で済んだ。
 対象者の真野くんは、日曜日は駅前のコンビニでバイトをしているという。
 それを知らなかったのは、同じ沿線に住む者として、不覚としか言い様がない。
 たとえそれが私の最寄り駅から三つも向こうの駅だとしてもだ。

 さて、対象者に目を固定しよう。
 白いシャツに、グレーのチノパン。なんというか、飾らない爽やかさと清潔感が溢れ出している。眼福。

 ちょっと癖のついた髪を六月の湿った風に遊ばせて、彼はコンビニの方へ歩いていく。
 さあ、尾行開始だ。
 あらかじめ言っておこう。
 これはストーキングではない。断じて違う。
 調査だ。あくまで調査の一環なのだ。
 薄っぺらい理論武装を終えた私は、真野くんがコンビニに入るのを確認した。
 ならば私も定位置に急ごう。
 コンビニの向かい側のコーヒーショップに駆け込んで、必死に覚えた長ったらしいメニューをまくし立て、ドリンクを受け取り窓際の席へ。

 うん。思った通りだ。ここからならコンビニの店内がよく見える。
 レジカウンターの奥から、コンビニのユニフォームに着替えた真野くんが出て来た。
 主役登場だ。店内も盛り上がっていることだろう。

 真野くんの働きぶりは、それはもう凄かった。
 学校での間の悪さなんて微塵も感じない。テキパキと仕事をし、お客さんがレジに向かえば、小走りでカウンターに戻る。

 やっぱりそうだ。
 真野くんが間が悪いのは、周囲より大人だからだ。
 言い換えれば、他の男子がガキなんだけど。

 手元のドリンクは、三杯目に突入した。
 その間、真野くんはずっと働いている。
 他のバイトたちがカウンターの中で喋っている時でも、彼だけは外のゴミ袋の交換をしていた。

 それからしばらく真野くんを見ていたが、ひとつ忘れていた事に気づく。
 ──真野くんのシフトって、何時までなんだろ。

 真野くんがバイト先のコンビニから出て来たのは、もう外が暗くなった頃だ。

 お疲れ様、真野くん。
 いっぱい頑張ったね。

 決して届かない労いの言葉を呟いた私は、家に帰ろうと駅へ向かう。
 今日は良い日だった。
 お休みなのに、真野くんをたくさん眺められた。
 これは、月一回の自分へのご褒美にしよう。

 来月まで訪れることの無い駅へ、足を踏み入れる。

「あれ、久保さん?」

 背後から聞こえたのは、何度も聞き、その何倍も脳内で反芻した、声。
 振り返ると、そこに真野くんはいた。

「あ、あれぇ、ぐぐ偶然だね~」

 我ながらわざとらしい。
 けれど、緊急時にココまで演じた自分を褒めてやりたい。

「久保さんって、この近くなの?」
「う、ううん、違う、けど。今日は買い物に」
「そうなんだ」

 わ。わ。わ。
 会話、してる。
 日曜日なのに、真野くんと、お話、してる。
 どうしよう。どうしよう。
 困る私に、真野くんは言う。

「じゃあ、気をつけてね」

 え。なんで。
 せっかく逢えたのに。
 もう帰っちゃうの?

 がんばれ。がんばれよ私。

 息を吸う。吐く。また吸う。
 そして。

「お、お腹、空いてませんかっ!?」

 決死の叫びは、何故か敬語だった。
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