学園のアイドルが突然「猫の後ろ宙返り、見ない?」って聞いてきた!?

赤青

文字の大きさ
1 / 30

騒がしい夜と、衝撃の新隣人

しおりを挟む
「んぅ——……あぁ——……」
「ドンッ!ドンッ!ドドンッ!」

隣の部屋から聞こえてくる、あの喘ぎ声と激しい揺れの音。

ベッドに横たわっていた葉洲(ヨウ・シュウ)は、ついに我慢の限界を迎え、バッと起き上がった。

彼の体に、ある変化が起きていた…

拳が、ギュッと固くなっていた。

三時間だ。この最悪な環境音に、さんざん弄ばれてから、もう三時間も経っている!

葉洲は耳を押さえ、壁に向かって怒鳴った。

「ちょっと!そこのラブラブさんたち!音量下げてくれよ!こっちイライラMAXなんだぞ!?」

「ドン!ドドン!ドンッ!!」

「………」

葉洲の怒声は、むしろ逆効果だったらしい。隣の戦いは、さらにヒートアップしていく。

その反応に、葉洲の目尻がピクピクと痙攣した。

「チッ…まさか俺を『道具』扱いかよ…?」

ブツブツ文句を言いながら、彼はスマホを取り出した。隣に住む張大哥(チャン・アニ)へのメッセージを打つ。

「張哥、彼女と一緒の時、声とか音とか控えめにしてもらえない?明日授業あるんだ。夜8時からずっと続いてるんだけど」

返信は、すぐに届いた。

「??? 聞き間違いじゃないか?オレ、6時から夜勤だぞ…え?ちょっと待て、マジかよ!!!?」

【WeChat 送金:666元】

「阿洲(アシュウ)、金受け取れ!ドアを塞いでくれ!今すぐ戻る!」

チャット画面に表示された張大哥のメッセージと送金通知。葉洲は一瞬、呆気にとられたが、すぐに状況を理解した。

そして、強烈な使命感がこみ上げてくる。
彼は素早く返信した。

「了解!プロ級ブロッカー、出動します!」

それから30分後──
葉洲のドア封鎖作戦は見事成功し、張大哥は彼女と浮気相手を連れて、警察署へと向かった。

一方の葉洲は、スリッパを履き、張大哥から貰った「ドア封鎖料」を握りしめ、マンション入口のコンビニへ夜食を買いに向かった。

「お会計65元になります」
「WeChatで」

コンビニ袋を提げて店を出ると、葉洲はパッと袋を破り、アイスバーを口に放り込んだ。

「はあ…明日の朝一は『大学受験50日前誓師大会』だ。スピーチ原稿もまだ準備してないし…夜食食べながらやるか…」

そう考えながら顔を上げると、マンションの入口に一台の黒いマイバッハが停まっているのが目に入った。

葉洲は車を一瞥しただけですぐに視線を戻し、自宅の棟へと歩を進め、エレベーターで10階のボタンを押した。

「ピンッ!」

10階に到着し、エレベーターの開く音と同時に──

パサッ!

葉洲の口からアイスバーが床に落下した。彼は口をぽかんと開け、目の前の光景に凍りついた。

なんと、彼の家のドアの前に、一人の少女が立っていたのだ。

少女の横には大きなスーツケースが置かれていた。色は…まったく見えなかった。

なぜなら、葉洲の視線は、完全に少女の透き通るほど白く、スラッと伸びた脚に釘付けになっていたからだ。

「白っ…マジで白い…」

葉洲が呆然と見つめていると、エレベーターの音とアイスバーの落下音に気づいた少女が、ふと振り返った。

艶やかな黒髪の下に見えたのは、完璧としか言いようのない整った顔立ち。しかし、その目元はどこか清らかで深く、俗世を超越したような気品を漂わせていた。

彼女は葉洲の姿を認めると、桜色の唇をわずかに開き、それまで無表情だった顔に変化が現れた。

「葉洲(ヨウ・シュウ)」

その瞬間、葉洲もまた、彼女の顔をはっきりと見定めた。

思わず、声が漏れた。

「リ、リン・センゲツ…!?」

リン・センゲツ。北安第一高校で公認の学園の女神。上海でビジネスを営む超富裕層の令嬢だという噂だが、他人には非常にクールで近寄りがたく、学校で彼女とまともに話せる者はごくわずかだ。

しかし、奇遇にも彼女と葉洲は、同じ北安第一高校の3年5組のクラスメイトだった。

だからこそ、葉洲は彼女と「時々話すことができる」数少ない男子生徒の一人だったのだ。

それにしても、真夜中に、自分の家のドアの前でリン・センゲツに遭遇するとは!

これを何と言う?

縁(えにし)って、ホント不思議だ…!

一瞬の驚きを払い、葉洲はエレベーターから出ると同時に、彼女への失礼な視線を引っ込めた。

リン・センゲツを見つめ、尋ねた。

「リン先輩…こんな夜遅くに、俺の家の前で…何してるんだ?」

「…あなたの家?」

リン・センゲツは細い眉をひそめ、自分が立っているドアを一瞥してから、葉洲に問い返した。

「ここ、1003号室じゃないの?」

「ゴホン。向かいが1003だ。ここは俺んち、1001だよ」

葉洲が、すぐ向かいのドアを指さした。
彼が住むマンションはワンルームタイプの単身者向けで、1フロアに3部屋。葉洲は一番端の1001号室、張大哥は真ん中の1002号室に住んでいた。

葉洲の説明に、リン・センゲツは軽くうなずいた。

「あら、間違えたわ」

『[ふふっ、わざと間違えたんだからね!だってそうしないと話しかけられないでしょ?部屋番号なんて一目瞭然なのに、向かいが1003だなんて知らないわけないのに、あーん!]』

葉洲は固まった。怪訝そうな目でリン・センゲツを見つめた。

しかし、彼女の表情は相変わらずクールそのもの。さっきのあの甘えたような言葉は、まるで彼女の口から出たものとは思えなかった。

(まさか…課題のやりすぎで幻聴…?)

首を振って頭の中をリセットすると、葉洲は口を開いた。

「あー…ま、いいけど。リン先輩、1003号室には知り合いが住んでるの?でも、ずっと空き部屋だったはずだけど」

「今までは空室だったわ。でも、今日から1003号室は私の新しい家よ」

リン・センゲツは、淡々と、しかしはっきりと告げた。

新しい家?

葉洲は再び口をぽかんと開け、目を見開いた。

(どういうこと?リン・センゲツが、俺の隣に引っ越してくるってこと…?)

葉洲が言葉を続ける間もなく、リン・センゲツの「声」が、再び彼の頭の中に響いた。

『[へへへ、へへへっ…葉洲くん、私たちお隣同士になるんだよ!]』
『[でもね、こんな夜遅くにちゃんと家にいないで出歩くなんて!男の子が一人で夜道を歩くのは、とっても危ないって知らないの?]』

((゜Д゜) !?)

葉洲の胸が高鳴り、瞳孔が一瞬縮んだ。

信じられないという眼差しで、リン・センゲツを見つめた。

(間違いない…今の声、あの二つ…あの時に彼女の唇は、絶対に動いてなかった!)

しかし、その声は紛れもなくリン・センゲツのものだった。

何より、クールの代名詞である彼女が、あんな甘えた、ちょっとべたべたした口調で話すはずがない!

(このギャップ…ありえなくない…?)

(一体…何が起こってるんだ…?)

数秒間、頭の中が混乱したが、葉洲は結局答えを見つけられなかった。

考えても仕方ないと割り切ると、彼は無理に笑顔を作り、リン・センゲツに話しかけた。

「じゃあ、リン先輩。今日から君は俺の新しいお隣さんってわけだな。明日、機会があったら、1002号室の張大哥を紹介するよ。今夜は…ちょっと用事で出かけちゃってるみたいだけど」

自分からこうしてフレンドリーに話しかければ、リン・センゲツもあの「殺人級クール」な表情を少しは和らげてくれるかと思った葉洲。

しかし、彼女はただ軽くうなずいただけで、スーツケースを引きずり、向かいの1003号室へと歩き出した。

明らかに相手にする気がない態度に、葉洲は肩をすくめ、仕方なくドアを開け、家に入ろうとした。

ちょうど片足を家の中に入れたその瞬間──

背後から、再びリン・センゲツの声が聞こえた。

「葉洲(ヨウ・シュウ)くん」

「ん?どうした?」

振り返ると、彼女はもう1003号室の中に立ち、廊下を挟んで葉洲と目が合った。

リン・センゲツは、桜色の唇を開いた。

「葉洲くん。私たち…お隣同士になったわね」

『[わーい、葉洲くん!ついに君の隣に引っ越せたよ!]』
『[次のステップは…君のベッドの中に、ね!]』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

え、恩返しが結婚!?エルフの掟では普通なんですか!?

小野
恋愛
うっかり怪我をしたエルフを助けたら恩返しとしてエルフに誘拐されてめちゃくちゃ大事(意味深)されちゃう女の話。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

処理中です...